優秀な社員の離職を防ぐリテンションマネジメントの重要性
昨今人材不足や離職率の上昇が問題となっており、企業ではどうすれば優秀な人材を企業内に定着させ、継続して活躍してもらえるかが課題とされています。
管理職やリーダーにとっても、部下のエンゲージメントを高めるのはとても重要なミッションです。この記事では、優秀な社員の離職を防ぐための取り組み「リテンションマネジメント」について紹介していきます。
離職要因の分析やポイントなどを詳しく見ていきましょう。
目次
リテンションマネジメントとは
リテンションマネジメントとは社員の離職を防ぎ、優れた従業員に活躍し続けてもらうための人事管理手法を指します。
語源は維持や引き留めを意味する「リテンション(retention)」と、管理の意味を持つ「マネジメント(management)」を組み合わせた造語です。リテンションマネジメントはしばしば「優秀な人材の定着に特化した方法」と定義されますが、この記事では「自社で働くメンバー全体が対象」としてご紹介します。
特定の手法を指すわけではなく、離職を防ぎ、定着率を上げるための手法全般を指しています。例えば「評価」「報酬」「福利厚生」「教育プログラム」「社内レクリエーション」など全般が関わってきます。
近年の日本では、業界を選ばず人材採用の難しさが議論されています。主な原因は「労働力人口の減少」や「キャリアの流動化による転職率の増加」にあるでしょう。
そんな中、自社で活躍する優秀な人材の定着率を上げることは、企業にとって非常に重要です。そのためにも、長く働き続けられる環境が整った組織作りが重要となるのです。
マネジメントの基本業務についての記事はこちら。
管理職に求められる役割と、マネジメントの基本業務とは
リテンションマネジメントのメリット
リテンションマネジメントに取り組む具体的なメリットはどういったものがあるでしょうか。主な5つを紹介します。
(1)採用コストの削減
企業で社員が一人退職すると、欠員を補充する必要があります。欠員を補充するには、採用コストや一人前になるまでの教育コストなどが必ず発生します。
リテンションマネジメントに取り組むことで離職率が下がれば、採用コストの抑制につながり、すでに定着している社員の教育にコストを割くこともできるでしょう。
(2)労働生産性の向上
長く定着する社員が増えれば、それだけ業務内容や業界の知識を持つ社員が増える事になります。例えば、新人であれば1時間かかる仕事が30分で終わる社員が増えれば、1時間あたりの労働生産性は向上します。
また、知識のある社員が多くいる事で、さらに顧客へ付加価値を返せるような大きな取組みに挑戦できるようになるでしょう。
反対に、従業員の離職率が高く新入社員が増えれば、業務の引き継ぎや新人の育成などの労力が発生するため労働生産性が下がり、既存の社員の精神的・物理的な負担も増えてしまいます。
もちろん新人の採用は重要ですが、現場に新人を受け入れられる余力がある事が社員の離職を防ぐ上で非常に重要なのです。
(3)社員のエンゲージメントを高める
ビジネス、とりわけ自社において、エンゲージメントという言葉は「職場と従業員の関係性」や「職場への愛着」を指します。
自社への定着率を高めるためには、社員の声に耳を傾け、社員の立場・状況を理解しようと努めることが大切です。これらを継続的に取り組むことで、社員は「この会社は自分の事を理解してくれている」というマインドが育ち、自社の職場に愛着を持つようになります。それが結果的に「この会社で働き続けたい」という気持ちにつながり、強いては仕事のパフォーマンス向上に繋がるのです。
(4)企業イメージの向上
離職率が高い企業というのはそれだけで求職者から敬遠されてしまい、マイナスイメージを与えます。特に現代の情報化社会では、転職サイトやSNSなどで個人が抱いたマイナスイメージが簡単に拡散されてしまいます。そういった負のイメージを定着させないためにも、リテンションマネジメントは重要です。
逆に言うと定着率の高い企業は、就活生だけでなく、転職を仲介する企業からも良い企業イメージを持ってもらえます。離職率の低い会社というのは社員の満足度が比較的高い傾向にあり、採用活動に協力してくれる社員が自社を快く思っている場合、自然と相手に良い印象を与える事につながります。
(5)顧客満足度の向上
顧客にとっても、取引をする窓口が頻繁に変わるよりも、継続して同じ社員が仕事相手である方が相互理解ができ、信頼関係が築けるでしょう。自社のことを知ってくれている相手が仕事相手であるということは、顧客の安心感にもつながり、顧客満足度の向上にもつながります。
リテンションマネジメントの考え方
リテンションマネジメント施策の考え方の例として挙げられるのが『ハーズバーグの二要因理論』です。
『ハーズバーグの二要因理論』とは、人間の仕事における満足度はある特定の要因によって満足度が上がったり下がったりするものではなく、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする考え方です。
「動機付け要因」は、社員のやりがいを引き出すための要素です。
例えば「達成感」「承認欲求」「成長機会」「成果と報酬」「昇進・昇給」などを指します。これらが欠けたとしても満足度が下がる訳ではありませんが、満たされるとモチベーションが上がったり、生産性が上がったりする社員を「プラスに動かす」要因です。
反対に「衛生要因」は、社員の不満足を引き出す要素です。
例えば「マネージメント」「組織体制」「職場環境」「給与」「対人関係」「労働条件」などを指します。これらは「満たされないと不満足になる」項目です。衛生要因が満たされてもやる気になるわけではなく、あくまでも不満足の解消であることに注意が必要です。
リテンションマネジメントを考える際には、「動機づけ要因」と「衛生要因」を分けて考える事が大切です。
リテンションマネジメントのポイントと事例
最後にリテンションマネジメントを考える際のポイントを、幾つか具体的な事例を交えて紹介します。
1.社員のモチベーションを把握する
組織への定着率を促すためには、まず『社員の立場や状況を理解する』ことが重要です。現在の業務量は適切か、業務の難易度をどう感じているか、評価は適切かなど、「組織サーベイ」や「従業員アンケート」を実施し、まずは率直な社員の声を拾う事が重要です。
一から自分たちで考えなくとも、設問からアフターケアまで、外部でサポートしてくれる企業もたくさんあるので相談してみるのはいかがでしょうか。
また上司と部下の「1on1ミーティング」などもモチベーションを把握できる取り組みの一つです。
フィードバックの手法についての記事はこちら。
人材育成のためのフィードバック。管理職がすべき正しい手法
2.社内コミュニケーションの仕組みづくり
また社内のコミュニケーションを活発化させるための仕組みづくりを行う事もポイントです。組織への定着率を上げる為に『一緒に働く人』というのは非常に重要な要因になります。社員同士のコミュニケーションの総量が増える事で、相互理解が進み、会社が社員にとって居心地のいい空間になるでしょう。
また、各チームのリーダー、各部署のマネージャーに任せるばかりではなく、組織を通じて仕組み化することで、上司が変わった時の仕組みの形骸化を防ぐ事ができますし、チームの枠を超えた斜めの関係性を作るのは会社が取り組まなければ難しい事でもあります。
大きなイベント「期初のキックオフ」や「懇親会」「社内レクリエーション(部活動や運動会)」などは会社が企画し、各チームや部署でも「期末の振り返りミーティング」や「定例ミーティングの中に近況を話すコンテンツを設ける」などの小さな取り組みを取り入れる事ができるでしょう。
3.明確な評価の実施
「評価」や「報酬」というのは、社員のモチベーションに直結する要素です。
ただ報酬を上げればいい、という話ではなく社員が納得するものだという事が大切です。自分の評価に納得がいかない事が続けば、当然モチベーションは下がり、離職に繋がるでしょう。
その為にも「適切な目標設定」や「評価基準の明確化」などを行い、社員にとって納得のいく評価制度を設ける事が大切です。リーダーや上司は、本人の評価が決まるより前の段階で、社員に期待することや目標を明確に伝えておく事が重要になるでしょう。
組織だけでなくメンバーの成長にも繋がる目標設定の方法の記事はこちら。
管理職の目標設定のコツ。組織やメンバーを成長させるための考え方
4.多様化を受け入れる
近年はダイバーシティが進み、一つの会社に様々な事情を持った社員が勤務しています。女性の出産・子育てや、両親の介護などの事情はもちろん、考え方も多様化が進んでいます。
会社の理念や利益はもちろん大切ですが、それらを社員に押し付けるのではなく、それぞれのやりたいことを理解した上で、会社の目標に繋げていくようなマネジメントを行っていく必要があります。
まとめ
今回は、優秀な人材を企業内に定着させ、継続して活躍してもらうための取り組み「リテンションマネジメント」について解説しました。
現場で一対一で社員と関わるのは、リーダーやマネージャーです。部下のコンディションの把握や評価に納得感をもたせるための目標設定など、ぜひ改めて意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。