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人材育成のためのフィードバック。管理職がすべき正しい手法

第3回で、個人のマネジメントは、アサインメント・目標設定と評価・判断・フィードバック・動機づけ・ヘルスケア・スキルアップやキャリアップ支援の7つが主要業務(主要スキル)だとお伝えしました。その中でも、管理職のスキル差が大きく出るのがフィードバックです。         

 

不確実性が高く、予測困難なVUCA(ブーカ)の時代 においては、人材と組織が成長し、変化に適応し続けることがより一層重要です。そして、良いフィードバックは人材育成の肝。あらゆるビジネスパーソンの成長を促し、生産性を高めるためには、良いフィードバックが欠かせません。この記事では、フィードバックのメリットや正しい手法を解説します。

 

フィードバックとは何か

フィードバックとは、「相手にポジティブな変化を与える教育的助言」のことです。「教育的」という言葉からやや高圧的な印象を受けるかもしれません。しかし、ここでの「教育的」の意味は「望ましい知識・技能・規範などの学習を促進する意図的な働きかけの諸活動(広辞苑より)」のことです。。
また、マネジメントの文脈で使うフィードバック対象は「人」になりますが、文脈によっては、特定の「企業」・「商品」・「サービス」がフィードバック対象になることもあります。例えば、Google社やマイクロソフト社が提供する各種商品やサービスを利用していると、「改善要望を集めるアンケート」や「システムのバグレポートの送信許諾」などを目にします。これらもフィードバックの一つです。このように私たちは日常においても、ユーザーとして、特定の企業・商品・サービスへフィードバックを行っているのです。

フィードバックのさまざまなメリットを理解する

このように、フィードバックの対象は多岐にわたりますが、本記事では「人へのフィードバック」のポイントを解説します。では、まずはフィードバックが組織にもたらすメリットを確認していきましょう。主なメリットは4つです。

1つ目は「成長実感を得られるため、メンバーの働きがいやモチベーションが高まること」です。
メンバーは、良いフィードバックを頻繁に受けとっていれば、常に自分が成長していることを実感できます。成長実感は多くのビジネスパーソンが求めているものであり、成長実感の有無は仕事の働きがいや定着率に大きな影響を与えます。もちろん、モチベーションを高める効果もあります。

2つ目は「メンバーの成長スピードや仕事の質が改善され、生産性が高まること」です。
フィードバックは具体的な言動・振る舞い・仕事の進め方を対象にする為、それらが改善されれば当然、個々のメンバーの業務が効率的・効果的になり、組織としての生産性が高まります。

3つ目は「組織の風通しが良くなり、心理的安全性が高まること」です。
例えば、「いまの会議、Aさんのファシリテーションのお陰で結論まで辿りついたね。特に、議論が紛糾しかける前のあの要約が絶妙だった!」のようにストレートに褒めること。逆に指摘がある場合は「先ほどの会議で投影していた資料、情報量が多かったから、要点を絞って半分くらいにすれば、参加者の理解がより深まったと思うよ」と素直に改善点を伝えること。これらが当たり前になれば、職場に適度な緊張感とともに開放感が生まれ、心理的安全性も高まります。

そして、最後の4つ目は「組織内のあらゆる信頼関係が強固になること」です。良いフィードバックをくれる上司がいる組織は、先に挙げた3つのポジティブな効果が表れるため、自ずと上司に対する感謝の心も芽生えて、組織の信頼関係が強固になります。

必ず守って欲しいフィードバックの大前提

良いフィードバックは簡単ではありません。ポイントを理解し、日々のコミュニケーションで磨き続ける必要があります。

大前提として、フィードバックは、「個人の性格や価値観ではなく、行動・言動・仕事の進め方に対して行うもの」ということを強く意識してください。

ダメなフィードバックとしてあえて極端な例を挙げると、

「Aさんは内向的だけど、もっと外向的になった方が良いと思うよ」
「家庭を大切にしたい気持ちもわかるけど、もっと仕事に情熱を持つべきだよ」

というようなものです。内向的か外交的かという性格、家庭と仕事の優先度の考え方(=価値観)には、違いがあるだけで良し悪しはありません。その違いは個性ですから、変化を促す対象にすべきではありません。仮にそれらの個性が、責任や役割を果たす上で足を引っ張っている(と管理職のあなたが感じた)場合は、

「さっきのお客様との懇親会、会話が苦手ならば、次からは注文や下膳(片づけ)を率先してやろう」

「このプロジェクトはAさんのキャリアに必ずプラスになるから、3ヶ月だけ、毎日残業を2時間ほど増やせるよう、家族と相談することは可能かな?」

といったように、相手の性格や価値観を尊重しつつ、行動や仕事の進め方にフォーカスした内容を伝えることが大切です。

効果的なフィードバックの方法

フィードバックを効果的に行うために、考えるべき視点は「タイミング」「場所」「内容」の3つです。

まずは「タイミング」ですが、これはフィードバック対象の行動が発生した「直後」が理想です。時間が経てば立つほど、当人も管理職も記憶が曖昧になるため、的確なフィードバックが難しくなります。

ただし、直後であればいつでも良いわけではなく、「相手の受け入れ態勢が整っている状態」である必要があります。トラブル発生時を例にすると、管理職としては、トラブルの重大さを認識してもらい、再発を防止するために、即座にフィードバックしたくなるものです。しかし、トラブルを起こした本人は対応に追われ心身に余裕がない、罪悪感で押しつぶされそうになっている場合も。このような時には、直後のフィードバックはむしろ避けるべきです。内容が頭に残りませんし、最悪の場合、相手に大きな精神的ダメージを与えてしまうからです。

続いて「場所」。ポジティブな内容であれば、オープンスペースでも個室でも構いませんが、相手の問題行動に対しての改善要望であれば、個室一択です。たとえささいな事であったとしても、自分のミスや至らない点を他人の前で指摘されるのは嫌なもの。きちんと配慮しましょう。個室だと重たくなり過ぎる場合は、ちょっと脇に移動して立ち話程度で済ますなど、伝え方を工夫しましょう。



そして、最後の「内容」です。こちらは「SBIS」というフレームワークを覚えてください。



Situation(状況): フィードバックの対象となる行動が起きた時の状況を明確にする

Behavior(行動):その行動の具体的内容を説明する

Impact(影響範囲):行動の結果が周囲に与えている影響を説明する

Suggestion(改善提案):望ましい行動・言動を具体的に伝える



誰しも一度や二度は直面する「遅刻」を例に「SBIS」を考えてみましょう。

Situation(状況): 先ほど実施した定例会は、Vision達成に向けた今期の施策優先度を議論する会議です。非常に重要度が高いので、遅刻厳禁、5分前集合をお願いしていました。

Behavior(行動):けれども、今週と先週の2週連続でAさんは10分の遅刻。事前連絡もありません。

Impact(影響範囲):この会議におけるAさんの意見は非常に重要なので、Aさんが来るまで会議を始められませんでした。5分前集合を守っている他のメンバーからすると、Aさんが来るまで15分以上も待っています。忙しいのはAさんだけではありませんよ。

Suggestion(改善提案):改めて伝えますが、この定例会は必ず5分前集合をして、もし遅れる場合は開始時間前までに、何分遅れるかの事前連絡を行ってください。よろしくお願いしますね。

この例では、2週連続遅刻という問題行動へのフィードバックなので、トーンとしては厳し目にするのが有効です。一度目であれば、もう少し柔らかく伝えるなど適宜調整していきましょう。

フィードバック文化を組織に定着させる方法

フィードバックの多くは上司→部下へ行われますが、組織にフィードバック文化を定着させるにはそれだけでは不十分です。

・フィードバックを重視することを全員の前で宣言する
・管理職自身が、部下や同僚からのフィードバックを積極的にもらう姿を見せる
・上司や同僚にフィードバックを行ったメンバーを、全員の前で褒める

これらに取り組むことで、部下から上司・メンバー同士など、あらゆる関係性で相互フィードバックが生まれていき、フィードバックが文化になっていきます。

まとめ

フィードバックが文化として定着している職場では、日々の業務で成長実感を得られるため、誰もが前向きに・能動的に仕事に取り組むことができます。目標達成や組織の永続的な成長のエンジンは、人の成長です。まずは管理職の皆さんが、効果的なフィードバックを与える・受け取るを積極的に行っていきましょう



同じ監修者の記事はこちら
「管理職に求められる役割と、マネジメントの基本業務とは」
「管理職の目標設定のコツ。組織やメンバーを成長させるための考え方」
「マネジメントスキルを高めるためにも! 管理職がすべき自己分析とは」

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監修者:中野 崇

Zoku Zoku Consulting 代表 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

早稲田大学教育学部卒。良品計画を経て2005年にマクロミルへ。上海支社の立ち上げ(事業部長)、韓国支社の経営再建(取締役)、SaaS型事業開発・統合マーケティング部門の立ち上げ・グローバルMission/Vision/Value策定(いずれも執行役員)、電通マクロミルインサイトのCEOなど、第2創業期の要職を歴任。課長・部長・執行役員・取締役・代表取締役を経験し、延べマネジメント人数は500名超。2018年よりZoku Zoku Consultingを開業。豊富なマネジメント経験と新規事業開発経験を活かし、新規事業開発×チームビルディングを同時に実現する伴走型・OJT型のコンサルティングを提供している。

https://zokuzoku-design.co.jp/



【著書】『管理職のための数値化技術(日経BP)』、『多彩なタレントを束ね、プロジェクトを成功に導く ビジネスプロデューサーの仕事(すばる舎)』など

【Udemy】『現状分析からはじめるマネジメントの超基本』、『リモートワーク時代のマネジメント術』など多数。

一連のコンテンツを通して、自分らしい生き方・キャリアを実現する、ビジネス基礎スキルの向上ノウハウを発信している。

 

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