『誰かの背中を押す “パーツ”モデルでありたい』
PwC Japan有限責任監査法人 吉岡美佳さん【後編】
誰しも迷うキャリアの決断。管理職として活躍する女性はいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。キャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は前回に引き続き、PwC Japan有限責任監査法人(以下、PwC Japan監査法人)でガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部 シニアマネージャーを務める吉岡美佳さんにお話を伺いました。

吉岡 美佳(よしおか みか)さん
PwC Japan有限責任監査法人
ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部
シニアマネージャー
大学院を修了後、国内大手インフラ事業会社にて勤務。2019年にPwC Japan有限責任監査法人にシニアアソシエイトとして入所し、マネージャー、シニアマネージャーへとスピード昇進。グローバルコンプライアンスを中心に国内外の企業に対するガバナンス・リスク管理・コンプライアンス体制の高度化を支援している。入所後、副業として絵本作家の活動をスタート。神奈川の海辺に小さなアトリエを借り、週末は絵本製作を行っている。
Act with integrityの行動指針に強く共感した

- 多様な企業課題に向き合うPwC Japanのプロジェクトワークとオープンなカルチャーに魅力を感じ転職を決めた吉岡さん。「別部署や別法人の方とも、チャット一つでコミュニケーションがとれる」という風通しの良さは、入社の決め手の一つになりました。
- 「何より響いたのは、PwCが掲げるパーパスと行動指針でした。“社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する”をパーパスに定め、行動指針の一つに“Act with integrity”があります。Integrityという言葉は、誠実、高潔といった意味があり、つまり、自分の中の高潔な精神や価値観に従って、自分が信じる形で仕事に誇りを持って行こう、ということ。コンプライアンスに携わってきた、自分自身のキャリアとの連続性を感じ、この言葉を第一の行動指針に掲げていることに強く共感しました。
また、入社時には、今の組織がそこまで大きくなかったので、裁量を持って自分なりの仕事やポジションを作っていけるのではないかという期待もありました」
- 2019年にシニアアソシエイトとしてPwC Japan監査法人に入所してから、5年の間にマネージャー、シニアマネージャーへと昇進しました。
- 「謙遜などではまったくなく、チームメンバーとお客様に恵まれたということに尽きます。入所して8カ月でマネージャーに昇格したのですが、そのときも、たまたま、とある大きな企業のプロジェクトをマネージャーに近い役割で、お客さまやサポートしてくれるメンバーや上司に恵まれてやりきる経験をさせてもらったんです。
マネージャーになると、入ってくる情報量が圧倒的に増え、会社の看板を背負ってお客様に向き合っているという意識が強くなっていきました。肩書をつけてもらったことで、襟を正す気持ちになり、マネージャーとしてのあるべき姿を探っていくようになった。成長の機会をもらった感覚でしたね」
- マネージャーとして求められる仕事の一つに“決断すること”があります。いかにスピーディに、決められたタイムラインに沿って、メンバーもお客様も納得のいく決断ができるか。迷ったときの指針になるのは「Integrity」だと話します。
- 「大事にしているのは、『将来の自分が、この決断を恥じることがないかどうか』です。メンバーやお客様に迷惑をかけず、事業がしっかりと拡大していく決断をしていきたい。コンプライアンスを扱っている身として、『なぜあんな決断をしてしまったのだろうと後に恥じることはないか』、いつも胸に手を当てて考えています」
- 学生時代から今に至るまで、一貫して法律に携わってきた吉岡さん。自分の専門領域として探究を続けてこれた“法律の面白さ”とはどこにあるのでしょう。
- 「社会に役立っているという感覚をストレートに感じやすい仕事なんです。法律に準拠してコンプライアンスを守りましょう、というのは、他の事業からの制約を受けることなくクリーンハンドで、“正しさ”を青臭く追求できる領域です。しかも、その理想を求めて動いていくと、3つの素晴らしいリターンを享受できます。
一つは、ルールに従って社内のオペレーションが洗練されることで内部統制につながり効率化を図れること。2つ目は、ルール違反が起こらなくなり、企業として制裁金や違約金といったキャッシュアウトするリスクを防ぐことができること。3つ目は、『自分の会社って、いい会社だな』と思えることが働く社員のモチベーションにつながり、取引先も消費者も企業に対してポジティブな印象を持てること。それは中長期的に企業のブランド価値を高めていきます。
すぐに目の前の利益を上げる仕事ではないかもしれませんが、自分の仕事がいい未来を創っていると感じられるところが、法律に携わる最大の魅力かもしれません」
- 複数のプロジェクトが並行しさまざまな企業の課題に向き合う中で、不正やコンプライアンス違反が起きる要因や背景を5つ以上のパターンに整理できていると話します。
- 「一つの会社にいたら、1~2つしか見えなかったかもしれませんが、PwCで経験を積めたからこそ、多様な視点から見えるようになりました。企業のお医者さんとして、処方箋の中身も増えていきました。研修メニュー一つとっても、ゲーム要素を取り入れたプログラムを用意するなど、企業のカルチャーに合った対策ができるようになっています」
休日は絵本作家として活動。どんな生き方でもいい、と伝えていきたい

- 多忙な業務の傍ら、休日には絵本作家という、まったく別の顔を持っている吉岡さん。これまで3冊の絵本を出版してきました。絵本作家になったきっかけは、コロナ禍。大好きな旅行に行けなくなってしまったことから、海沿いの小さな家を借りて2拠点生活を始めたことが転機になったと話します。
- 「海を眺めているうちに、ただ仕事をしているだけではもったいないな、と思ったんです。資格の勉強をするのもいいかなと思ったのですが、娯楽の少なかったコロナ禍で、せっかくなら楽しくて好きなことをやろう、と思い立ちました。朝活のコミュニティで絵本作家の方と出会ったことから、『私もやってみたい!』と絵本の学校のリモート授業を受けるようになりました」
- 土日は「絶対に絵本の時間を作る!」と決めることで、仕事のタイムマネジメントもうまくいくようになったと笑う吉岡さん。
- 「本業は論理の組み立てや言葉の定義について突き詰めて考えるルールや規則の“左脳の”世界。一方、絵本は何の制約もなく自分の好きなように描いていい“右脳の”世界で、私の中でお互いが補完し合うようにバランスが取れています。
絵本というと子ども向けのものをイメージされがちですが、私は、大人がほっと一息つけるような作品を作っていきたいと思っています」
- 大好きな副業を持ち、2拠点生活を続け、シニアマネージャーとしても活躍を続ける吉岡さん。なかなか真似できないライフスタイルのように思えますが、「あんな生き方もあるんだ、というメッセージになれたらいい」と話します。
- 「メンバーや後輩たちには、私を“パーツモデル”みたいな形で見てもらえたらうれしいです。ロールモデルというとおこがましいけれど、いろいろな選択肢がある中で『吉岡さんみたいな働き方もあるんだ』と“パーツ”で見てもらうことで、誰かにプラスの影響を与えられるかもしれません。
私はスーパーマンではなくて、ただ誠実に仕事に向き合ってきただけです。でもそうやって仕事を積み重ねていけば、シニアマネージャーやその先のポジションにもきちんと上がっていけるんだと、周りに伝えていけたらうれしいですね」
→「前編記事」
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写真:MIKAGE
取材・執筆:田中 瑠子