管理職とメンバーの信頼関係構築のポイント
管理職の役割は、チームの目標達成やメンバーの人材育成をリードすることです。しかし、そもそも管理職とメンバーとの間に信頼関係がなければ、どんなマネジメントをしても効果を発揮しません。信頼関係がない状態で密なコミュニケーションをとってしまうと、かえってモチベーションを下げ、最悪の場合は退職リスクにさえつながります。
この記事では、メンバーとの信頼関係構築のポイントや方法を解説します。
信頼関係とは何か
信頼関係とは、「お互いに信じて頼ることができる関係性」のことです。「お互いに」ということは、管理職がメンバーを頼る・メンバーが管理職を頼るという一方向ではNG。双方向な関係性であることが重要です。
では「職場や私生活で信頼関係を構築できている人は誰か?」を、思い浮かべてみてください。特定の部下・親友・パートナー・親など、数名の顔は浮かんでも「思ったより少ない」と感じた方が多いのではないでしょうか。それくらい信頼関係の構築は難しいものです。
特に職場での信頼関係構築の難しさを示す一例として、退職する際に、退職者の半数以上が「本当の退職理由」を上司・人事に伝えていないとも言われています。つまり、会社との信頼関係を構築できないまま退職してしまう方が半数以上とも考えられるのです。
信頼関係を構築するメリット
このように構築が難しい信頼関係ですが、構築できると大きなメリットを得られます。主なメリットを4つ紹介します。
①心理的安全性が高まる
「心理的安全性」とは、「組織のなかで、個々人が恐れや不安を感じることなく、自分の能力や個性を安心して発揮できる状態のこと」です。お互いに信頼関係が構築されているからこそ、個々の能力や個性を尊重し、補完しあう。困ったときに助け合える環境になります。
②生産性が高まる
信頼関係が構築されていないと、常に責任やプレッシャーばかりを感じることになり、仕事のミスが増え、空回りが多くなります。一方で、信頼関係が構築されていれば、責任やプレッシャーは「自分への期待の表れ」と前向きに受け取ることができます。安心して前向きに仕事に取り組むことで、仕事の質やスピードも改善されやすくなるのです。
③働きがいが高まる
働きがいの構成要素は、“金銭報酬”“成長実感”“貢献実感”などさまざま。その中でも「信頼されている」「誰かの役に立てている」と感じる“貢献実感”は、多くの人の働きがいを高める重要な要因なのです。
④離職率が改善される
安心してのびのびと働くことができ、仕事の生産性も高く、働きがいがある職場になっていけば、組織の離職率も改善されていくことでしょう。
信頼関係構築の方法
では、どのように信頼構築を構築するのでしょうか。最も重要なのは、メンバーに時間を使い、効果的な支援を行うことです。
例えば、管理職が「いつでもあなたの味方です。信頼してください」と口で言っただけでは、誰も信頼してくれません。
・日頃からメンバーを観察し、気にかける。
・相談されたら丁寧に傾聴する。
・判断・助言が必要であれば、迅速に対処する。
・的確なフィードバックを行って、問題解決や成長支援を行う。
つまり、管理職としてやるべき基本業務を、メンバーに対して時間をかけてしっかり実践すること。その時間の積み重ねにより、メンバーとの間に信頼関係が築かれていくのです。
また、信頼関係が構築されて始めると、メンバーは仕事上の悩み・キャリア・プライベートに関する悩みや実現したいことなど、大切なことを本音で話してくれるようになります。メンバーが本音を話してくれるようになれば、課題の把握・支援がしやすくなり、課題解決の確率も高まります。そして、あなたに相談したから解決できた事例が増え、信頼関係が強固になってゆく好循環が生まれます。
管理職に求められる役割や基本業務についての記事はこちら
信頼関係構築の注意点
しかし、メンバーにきちんと時間を使い、目配り・気配り・心配りを絶やさず、問題解決や成長支援を行なっている管理職であっても、メンバーの突然の退職や不調が止まらない状況に陥ることもあります。
その原因の一つに、「管理職がストイック過ぎる」場合があります。
人間は誰しも、頑張らなければならないとわかっているけれども、頑張れないとき・頑張りたくないときはあるものです。そもそも、成長すること・目標達成することに価値を感じられないメンバーもいます。また、どんなにストイックなメンバーでも、さぼる気持ちや弱い気持ちを一切抱かない、ということもありません。
こういったメンバーは、上司が真面目で頑張り屋さんタイプの場合、気を遣って本音を隠そうとします。
そして上司は、そもそもメンバーがそんな事を考えていることを想像すらしません。すると、最初は強固だった信頼関係が(メンバーの疲弊とともに)気付かないうちに弱まっている、ということが起こり得ます。
管理職とメンバーの「価値観の違い」にこそ、こうしたリスクは潜んでいます。メンバーと関わる際は、「人それぞれ価値観は違う」ということを前提に置いてください。また、自分にストイックな気質があると感じた方は、メンバーには意識的に弱い部分を見せることも大切です。
メンバーの育成も、信頼関係構築につながる
また、信頼関係とは双方向の関係性です。管理職がメンバーに時間を使うだけでなく、メンバーが管理職のために時間を使ってくれることで、管理職もそのメンバーを信頼できるようになります。
しかし、管理職からの業務命令や指示にメンバーがいくら時間を使っていても、仕事の完成度が低い・目標水準に達してないと、管理職はそのメンバーを信頼することができません。いくら一生懸命でも成果が伴わなければ、感謝はしても信頼まではできないのが正直なところでしょう。
そんな問題も、管理職が適切なメンバー育成を行えば解決するのです。メンバーの強みを育てることで、管理職の仕事を任せられるようになる。または、メンバーの強みを活かした仕事をお願いすることで、仕事のクオリティが上がる。その結果、メンバーを信頼できるようになる、というように。
「メンバーのことが信頼できない」と感じたら、いま一度「自分の育成は間違っていないか」を振り返ってみてください。
上司と部下の相互理解を進める取り組み「アシミレーション」についてはこちら
まとめ
信頼関係は、一朝一夕では構築されません。さまざまな価値観に耳を傾け、メンバーに時間をつかって支援する。それを繰り返し、試行錯誤する。それでも上手くいかないことはありますが、続けていけば、着実に信頼関係でつながるメンバーは増えていきます。焦らず取り組んでいきましょう。
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「管理職の目標設定のコツ。組織やメンバーを成長させるための考え方」
「マネジメントスキルを高めるためにも! 管理職がすべき自己分析とは」
監修者:中野 崇
Zoku Zoku Consulting 代表 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー
早稲田大学教育学部卒。良品計画を経て2005年にマクロミルへ。上海支社の立ち上げ(事業部長)、韓国支社の経営再建(取締役)、SaaS型事業開発・統合マーケティング部門の立ち上げ・グローバルMission/Vision/Value策定(いずれも執行役員)、電通マクロミルインサイトのCEOなど、第2創業期の要職を歴任。課長・部長・執行役員・取締役・代表取締役を経験し、延べマネジメント人数は500名超。2018年よりZoku Zoku Consultingを開業。豊富なマネジメント経験と新規事業開発経験を活かし、新規事業開発×チームビルディングを同時に実現する伴走型・OJT型のコンサルティングを提供している。
https://zokuzoku-design.co.jp/
【著書】『管理職のための数値化技術(日経BP)』、『多彩なタレントを束ね、プロジェクトを成功に導く ビジネスプロデューサーの仕事(すばる舎)』など
【Udemy】『現状分析からはじめるマネジメントの超基本』、『リモートワーク時代のマネジメント術』など多数。
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