『社内にも家庭内にも“応援団”ができていた』
三陽工業株式会社 情報システム課 課長 下野正子さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。管理職として活躍する女性はいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。キャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、三陽工業株式会社で課長を務める下野正子さんにお話を伺いました。
下野 正子(しもの まさこ)さん
三陽工業株式会社 情報システム課 課長
上場企業の経営企画部にて、情報システム業務に約14年間従事。M&A後のITシステム統制やIPOに向けた監査対応、証券会社対応など、IPO準備業務を一通り経験。2019年に三陽工業に入社し、情報システム部門立ち上げの1人目の社員としてIT改革を推進。入社わずか3か月で約1億7000万円の予算承認を得て、IT改革を実現。現在まで、情報セキュリティの重要性を社内に浸透させる取り組みやIT基盤整備、DX推進を着実に進めている。プライベートでは2児の母。
研究で培った探究心を、情報システムの力に
- 「日本の製造現場を元気にする」をビジョンに、製造業と製造派遣事業を展開する三陽工業株式会社。研磨・塗装・レーザー加工・組立・梱包・物流と、ものづくりの範囲は多岐にわたり、「やったことがないことをやってみよう」を合言葉に挑戦を続けています。
- 情報システム課の課長を務める下野正子さんは、社内インフラの整備およびIT改革の担当として、2019年に中途入社しました。3か月後には、約1億7000万円の予算承認を得て、IT改革を推進。その後も、情報セキュリティの重要性を社内に浸透させる取り組みを続けるなど、ハード面・ソフト面の両輪でDXを牽引してきました。
- 「情報システム課は、『あたりまえに』『あんぜんに』『よりよく』の3本柱(※1)を掲げるITのスペシャリスト集団です。社員がITツールを当たり前に使える環境の整備・維持、会社や社員、顧客、取引先の情報を守るための安全管理、AIやデジタル技術を活用した業務改善と事業成長の支援の3つを軸にDX推進に取り組んでいます。
私も課長として、6人のメンバー一人ひとりが力を発揮し、気持ちよく働ける環境づくりに力を入れています」
(※1)
・あたりまえに…社員がITを水や空気のように当たり前に使える環境を整える
・あんぜんに…情報セキュリティの強化とリスク管理
・よりよく…業務改善や効率化を目指したAI活用など
- 情報システム領域でのキャリアが社会人人生のほとんどを占めている下野さんですが、実は、大学での専攻も初めて就職した会社もまったく違う分野でした。
- 「大学では生活環境学を専攻し、研究に没頭していました。研究テーマは、繊維や革、レザー生地の耐久性や色の堅牢度を測定するという非常に地道なものでした。しかし、掘り下げれば掘り下げるほど新たな専門知識が必要になり、自分の知らなかった世界が広がっていくことに面白さを感じていました。その探究心から学びを深め、在学中には繊維製品品質管理士、一級衣料管理士の資格に加え、中学校・高等学校教諭一種免許状(家庭)も取得しました。
ただ、振り返ってみると、私が強く惹かれていたのは研究テーマそのものよりも、「研究し、探究していく過程」だったように思います。新しいことを学び、理解し、それを誰かに分かりやすく伝えることにやりがいを感じる性格で、おそらく別の分野を専攻していたとしても、その領域の研究に夢中になっていたのではないでしょうか」
- 下野さんの大学卒業時は、いわゆる“就職氷河期”でした。就職活動を経て、大手クリーニング会社に入社し、営業職を約3年務めました。その後、大手不動産会社の経営企画部へ転職。複数のグループ企業間のIT統制やIPO準備に携わり、会社の成長に必要な仕組みづくりに向き合う日々を送りました。
IPO準備では、上場企業として求められる業務基盤の整備に向け、多くのシステム導入やSaaSの設定・運用、社内ルールの整備、業務プロセスの標準化などを担当しました。新しい課題が次々と発生する環境でしたが、一つひとつ調べ、関係者を巻き込みながら形にしていく経験を重ねることで、情報システム分野の知識と実践力を身につけていきました。 - 「大学時代の研究で培った探究心や、分かるまで調べるという粘り強さが、情報システムの仕事で発揮されたのだと思います。取引先のシステムベンダーや監査法人に教えていただいたり、自分で調べたりしながら、目の前の業務をひたすら深掘りしていたら、自然とできることが増えていきました。
前職では、社員からITに関する相談が日常的に寄せられていました。その都度、原因を調べて対策を講じ、問題を解決していきました。目の前で困っている社員の期待に応えたい。その一心で走り続け、『ありがとう』『助かりました』という言葉をいただけることが何よりの励みでした。感謝の言葉こそが、当時の仕事の原動力でした」
- 経営企画部でのIPO準備やIT統制の経験を通じて培った「仕組みを整える力」と、社員からの相談対応を通じて培った「人に寄り添う姿勢」。その両方が、現在の情報システム担当としての下野さんの原点となっています。
子育てとの両立に悩み転職を決意。培った経験が自分の強みだと知った
- 結婚、妊娠、出産というライフイベントを経験し、子ども2人を育てながら仕事を続けていた下野さんに、2019年に転機が訪れます。
- 「当時、『子育てのために休暇を取得したい』と会社に事情を説明しても、なかなか理解が得られないケースが重なりました。文字どおり“仕事と家庭との両立”に難しさを感じていましたが、仕事を持つことは、自分のためにも家族のためにも大切だと感じていて。
だから、『働くことを辞めるのではなく、働き続けられる環境を探したい』と考え、転職を決意しました。
入社からの約14年間で、M&A後のIT統制やIPO準備に伴う監査対応、ITインフラの導入などを担当していて、『もしかしたらこの知見を武器に転職できるかもしれない』と思えたことも後押しとなりました」
- 思い切って転職活動を始めると、M&AやIPO準備、ITインフラの導入経験はどの会社からも高く評価され、短期間で複数の企業から採用の打診を受けたそうです。
- 「その中でも三陽工業を選んだのは、情報システム課という専門部署を立ち上げたばかりのフェーズで、私の力が求められていると思えたからです。何より、最終面接で社長が会社の未来を語る姿に、強く心を動かされました。『会社をこう変えていくんだ』という熱量に圧倒され、こういうトップのもとで働きたいと思いました」
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取材・執筆:田中 瑠子





