『偶然の出来事の積み重ねがキャリアをつくる』
トライズ・取締役CCSO 武隈 知世さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。今回は、トライズ株式会社取締役CCSO(Chief Corporate Sales Officer)の武隈知世さんにお話を伺いました。
武隈 知世(たけくま ともよ)さん
トライズ株式会社
取締役CCSO
急成長ベンチャーで経営会議に出ていたことが1つのターニングポイント
- 武隈さんのキャリアのスタートは、奈良県での求人広告営業でした。3年間勤めた後、「英語を使う仕事に挑戦したい」というかねてからの思いを叶えるため、転職を決意します。
- 「上司に転職の意向を伝えると、飲食系ベンチャー企業の株式会社鯖やを紹介してくださいました。上司が担当していた顧客で、ちょうどシンガポールなどアジア圏にレストランチェーンを展開しようとしていて、英語を話せる人材を探していたんです。
上司の紹介で入社し、実際にシンガポールに行って出店を実現させました。このシンガポールへの出店は、政府が進めるクールジャパン戦略のスキームに採択されていて。同じようにこのスキームに採択され、他の日本食が海外へ広がっていく様子を見て、純粋に『日本の生産者にとって非常に良いことだな』と感じていました。ただ同時に、飲食や食品製造の業界には、ハイブリッドに日本語も英語も使える人材は決して多くないということも実感して。英語を話せる日本人が増えれば、日本の良さがさらに海外に広がるきっかけになるのでは、と思うようになりました」
- 鯖やで経営企画や採用人事、広報を担当するかたわら、経営会議にも参加していた武隈さん。この経験がターニングポイントの1つになったと話します。
- 「私が入社した当初は社員数が10〜15人程度でしたが、1年あまりで一気に200〜250人に急増しました。そこで一度、経営が頭打ちになってしまったんです。次のステップに進むために苦悩し議論を重ねる経営陣を見て、経営の難しさ・面白さを感じるようになりました。
そこから、経営に興味を持つようになり、結果的に今につながっているので、鯖やでの経験は一つの大きなターニングポイントだったと思います」
28歳で営業部長という予想外の辞令に躊躇した
- 経営への関心から、「どうせなら英語でMBAをとりたい」と考えるようになった武隈さん。前職よりもさらに英語を使う環境に身を置くため、2017年に英語コーチングを展開するトライズ株式会社に入社し、大阪で、受講生の英語学習をサポートするコンサルタントとして勤務し始めました。翌2018年には、20代のうちにニューヨークでの学生生活を経験したいとの思いから、2カ月間休職。ニューヨークの市立大学で単位を取得しました。復帰後はコンサルタントとして東京配属になると予想していたものの、任命されたのは、まさかの営業部長でした。
- 「帰国のフライトの前日、当時の副社長から電話があり『そのまま東京へ来て』と言われたので、やはりと思っていたら、帰国すぐの人事面談で『君、営業部長ね』と辞令を言い渡されて——。言われるがまま、お客様センターと営業チームの総勢10人ほどを束ねる営業部長になることが決まりました」
- 躊躇はなかったのか尋ねると、「すごくありました」と当時の心境を率直に話します。
- 「マーケットの競争が激化していた時期だったのですが、当時のトライズには営業経験豊富な人材はほとんどいない状況でしたので、ものすごくしんどいだろうなと思いました。ただ一方で、20代の自分に話が来るということは、それだけ期待をしてくださり、身が引き締まる思いでした。」
- 28歳で営業部長に就任した武隈さん。当時のメンバーは40〜50代が多く、部下全員が年上だったそう。
- 「当初はやはり、やりにくさを感じていた部分はありました。でも今振り返ってみると、メンバーのみなさんが私よりも人生経験豊富だったからこそ、うまくアジャストしてくれた部分もあったと思います。
あと私自身は、なるべく謙遜しないようにしていました。というのも、営業部長に選んでいただいたのは、おそらくそれまでに社内で出してきた実績が評価されたからだと思っているので、自信を持って取り組んだほうがいいと思ったからです。私が入社した当時は、各スクール内で、業績をしっかり追っていく雰囲気がそれほどありませんでした。そのような中でも私自身は、コンサルタントのKPIとして想定される数字をすべて集計・分析し、業績向上のため工夫を続けていました。そういった仕事ぶりはもちろん本部には見えていたはずで、だからこその営業部長の辞令だと思いました。ですから、遠慮せず自分が引っ張っていくんだと思うようにしていましたね」
- 就任半年で、業績はV字回復。がむしゃらに頑張った結果、新たな気づきも得たそうです。
- 「就任から半年でやっと業績を回復させられたのですが、その半年間ほとんど休まなかったんです。メンバーはシフト制で働いていましたが、私自身が動かないとみんな動いてくれないのではないかと考え、営業の現場にも自ら出向いたりしていました。当時は他の方法がわからず、とにかく量でカバーすることしか頭になかったんです。
ですが、やはり無理があると気づきました。この方法では、自分はもちろんチームメンバーもいつかは疲弊してしまう。みんなが疲弊せずに実績を出し続けるにはどうしたらいいのかを考えるようになり、仕組みづくりで解決する方向に考えがシフトしていきました。
もともと、鯖やでの経験から、MBA取得は頭にありましたし、仕組みづくりの必要性も感じていたので、2020年の9月から1年かけて、オンラインでスタンフォード大学経営大学院の"Stanford LEAD Program"を受講しました。これはEMBAのダイジェスト版のようなプログラムで、MBAの指導陣が教壇に立っています。財務や意思決定の方法を学べたほか、世界各国の方と交流でき、今でもつながりのある方もいて。改めて世界に触れられたことは、非常に大きな収穫でした」
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写真:MIKAGE
取材・執筆:北森 悦