『一歩踏み出してしまえば、案外なんとかなる』
ヘルスケアテクノロジーズ 高畠 邦枝さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたの? 現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、ヘルスケアテクノロジーズ株式会社 ヘルスケアビジネス本部 本部長の高畠邦枝さんにお話を伺いました。
高畠 邦枝(たかばたけ くにえ)さん
ヘルスケアテクノロジーズ株式会社
ヘルスケアビジネス本部 本部長
総合職への転換理由は「男性同期が知っていることを自分が知らないのがイヤ」
- 2022年12月にソフトバンク株式会社から出向し、ヘルスケアテクノロジーズ株式会社が提供する健康医療相談チャットサービス「HELPO(ヘルポ)」の運営チームを束ねている高畠さん。「HELPO(ヘルポ)」は、ちょっとした体の不安を医師・看護師・薬剤師の医療専門チームに24時間365日気軽に相談できるサービスです。2024年6月1日時点で、医療専門チームには非常勤を含めて約60人が在籍しており、高畠さんはこのチームに加え、問い合わせ対応などのオペレーション全般を担っている非医療職10人が所属するチームの管理職を務めています。
現在、お客様に満足度の高いサービスを提供するため、生産性や応対品質の向上を目指しながら、メンバーが働きやすい環境づくりに取り組んでいる高畠さんですが、キャリアのスタートは携帯電話会社の一般職から始まりました。 - 「新卒で入社したのは、関東地方だけで展開している携帯電話会社でした。その会社の名前が何度か変わり、最終的にソフトバンクになりました。少し、就職氷河期の影響が残っている時期に就職したので、とりあえず入れてよかったという気持ちが強く、正直、当初はそこまで高い志を持って入社したわけではありませんでした。なにしろ、入社してから自分は一般職だと知ったくらいでしたから。
総合職の男性同期と一般職の女性の私たちでは、任される仕事に違いがあって、男性同期が知っていることを自分が知らないことなども多々ありました。それが嫌だったということもありますし、『あの人たちができるなら私にもできるでしょう』と、よく分からない自信もあり(笑)、様々なことに『私もやりたいです』と手をあげて挑戦させてもらった結果、総合職に転換できました」
- その後、高畠さんは1〜2年のペースで異動し、主に携帯電話ショップの営業に関わるさまざまな部署でキャリアを積み、入社13年目からは管理職を務めました。そして、ある時、福岡県のコールセンター長のポジションを打診されます。
- 「それまでずっと東京で仕事してきたので転勤自体が初めてでしたし、コールセンターも全くの未経験。センター長は部長相当の職とのことでしたし、この打診に最初は驚きました。でも『とりあえずやってみよう』と引き受けることにしました。ちょうどコールセンターと併せてチャットセンターを立ち上げる時期で、分からないことだらけでしたが、周囲に助けられながら運営していました。
そして1年ほどたった頃、今度は、中国の大連にあるセンターに行ってみないかと打診されたんです。この話を聞いた時は、さすがに一瞬固まりましたが、福岡に転勤できたのだから、大連に転勤できない理由はないだろうと思い直し、『行きます』と言ってしまって・・。でも、さすがに海外転勤は国内転勤と比べて、準備が段違いに大変でしたね(笑)。
大連のセンターはコールセンターというより、いわゆるオペレーションセンターとしての役割がメインで、そこに新たにチャットセンターも立ち上げて運営するのが私の役割でした。約2年間センター運営責任者を務め、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた時期に異動辞令が出て帰国しました」
まさかのヘルスケア企業へ出向。でも「周りに助けられながらできている」
- 帰国後は再び携帯電話ショップに関連する部署へ配属され、業務用システム構築などの仕事に携わっていましたが、心のどこかで「もう一度センター運営にチャレンジしてみたい」と思っていたそう。そんな高畠さんに、新たなセンター運営の話が舞い込みます。それがヘルスケアテクノロジーズの本部長職でした。
- 「ヘルスケア事業に関わると言われて、全くピンと来なかったのですが、チャットセンター運営ができる人を探しているというお話で。それならできるのではと思い、出向を決めました。でもまさか、チャットセンターのメンバーが看護師さんや薬剤師さん、時には医師もいる状況とは全く想像していなくて……。しかも、24時間365日体制はほぼ未経験に近い状態。大連に転勤した時のように全くの異文化に入ったつもりで、なんとか周囲に助けられながら運営しています」
- たびたび「周囲に助けられながら」という言葉を口にする高畠さん。助けてもらえる関係性をつくるための秘訣を伺うと、メンバーとのコミュニケーションの取り方に気を配っている様子が伺えました。
- 「飾らず正直にいること。分からないことは、『分からないので教えてください』と腰を低くして聞くようにしていました。福岡のコールセンターにはベテランスタッフが大勢いる中、私は超初心者。ですから格好つけず、素直に一から教えてもらいましたね。
一方で、逆に福岡で長年働いている方々は、本社がどういうことを考えているのかを把握するのに苦労していました。そこは私が分かる分野だったのでお伝えして、ギブ・アンド・テイクの状態をつくれたと思っています。
中国に転勤した時は、スタッフ全員が日本語を話せたので、言語面での苦労は、そこまでありませんでした。しかし、やはり表面的なやり取りでは真意が伝わらないところがあり、なるべくシンプルで短い言葉で伝えることを心がけていました。同時に、何度も分かったか直接確認したり、表情などあらゆる反応を見ながら私の意図を含めて全て伝わっているか注視したりしながら、コミュニケーションを取るようにしていました。
この中国での経験は、ヘルスケア業界に入ってからも大いに役立っています。病院など医療現場でキャリアを積んできた人と企業内でキャリアを積んできた人とでは、使う言葉も仕事観も違いますし、それは当然のことだと思います。しかし、運営上の会話を行う際にはそこをすり合わせなければ、話が噛み合わなくなってしまいます。そのため、一度平たい言葉に落とし、お互いの意図が正確に伝わるように気をつけて、思いをすり合わせるようにしています」
- ヘルスケア事業に携わり始めてから1年半。高畠さんは、現在のやりがいと課題を次のように語ります。
- 「ユーザーさんからの『問題が解決しました。ありがとうございました』というメッセージを読むと、役に立てたんだと達成感があります。また、メンバーが企画書をまとめられるようになった時などメンバーの成長が感じられた瞬間は、やはりやってきてよかったと思いますね。
一方、課題に目を移すと、看護師さんや薬剤師さんの採用には難しさを感じています。採用市場自体には一定数いらっしゃるようですが、企業で働きたい方はやはりなかなかいらっしゃいません。かつ、「HELPO(ヘルポ)」の目指す“未病にアプローチする”という目標に共感してくださる方を見つけるのに、なかなか苦労がありますね。
採用自体は諦めずにチャレンジしていくしかないと思っていますが、同時に今いるメンバーが働きがいを感じて、会社で働き続けてくれることが一番だと思っています。チャットセンターのメンバーは土日や夜間を含めたシフト制で働いています。そんな中でも、休みを取りやすくしたり、シフト作成のルールを柔軟に変えてみたり、工夫を重ねているところです。
ほかにも、女性に限らず男性も育休を取りやすい環境や、キャリアが中断されないようスムーズに復職できるような環境づくりにも取り組んでいます。子育て中などはどうしても時短勤務になったり、夜間シフトに入れなかったりしますが、その分営業の商談サポートなど、違うところに活躍の場を設け、復職後にも働きがいを持って仕事に取り組めるような環境にしていきたいと思っています。
ヘルスケアテクノロジーズは、2019年創業のスタートアップではありますが、実は外国籍のメンバーも多数いて、ダイバーシティを進める一環で制度は整って来ているのではないかと感じています。2024年4月からは、不妊治療を含めた通院・治療に使える休暇が拡大され、女性だけでなく会社全体として、誰でも活躍できるような職場づくりに努めています」
→後日公開の「後編記事」に続く
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写真:MIKAGE
取材・執筆:北森 悦