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マイキャリアストーリー

『家業を継ぐことは、自分にしかできない仕事』
東洋食品・専務取締役 荻久保 瑞穂さん【前編】

誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。今回は、株式会社東洋食品 専務取締役の荻久保瑞穂さんにお話を伺いました。

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荻久保 瑞穂(おぎくぼ みずほ)さん

株式会社東洋食品
専務取締役

金融の仕事は他の人でもできる。自分にしかできない仕事を選び家業へ

荻久保さんは2016年、祖父が創業した株式会社東洋食品に常務取締役として入社しました。それまでの8年間は外資系金融企業で経験を積んできたといいます。
「大学卒業後、最初はブルームバーグ・エル・ピー(以下「ブルームバーグ」)で3年間、クライアントサービスの仕事をしていました。その後の5年間は、投資運用会社のウエリントン・マネージメント・ジャパン・ピーティーイー・リミテッド(以下「ウエリントン」)で債券の運用を担当しました。

良い情報は自分で囲い込みがちな投資の世界ですが、ウエリントンには、みんなで投資アイデアを共有し、より良いアイデアにブラッシュアップしていこうという特徴的な文化がありました。この『共有する企業文化』の中で働けたことは、今の会社で組織マネジメントに携わるうえで、大いに役立っています」
東洋食品は1966年に荻久保さんの祖父が創業し、今は父親が2代目の社長を務めています。でも、荻久保さん自身は特に“後継ぎ”を意識させられることはなく「学校給食の会社の経営というキャリアの選択肢もあるけど、将来の道は自分で決めていい」と言われて育ちました。そんな荻久保さんが東洋食品に入社を決めたのは、35歳の時でした。
「30歳の頃くらいから、なんとなくいつかは父の会社を継ぐと考えており、『そのうち会社を継ぐよ』と父に話していました。そんな中、私がウエリントンで5年目を迎えたある日、父は70歳でしたが、営業活動で自ら全国を回って忙しくしており、『いつになったらうちの会社に来てくれるんだ』と言われたのです。

金融業界での仕事は順調でしたし、私としてはもうしばらく金融業界にいるつもりだったのですが――父もエンジニアとして別の会社で働いた後に35歳で東洋食品に入っており、私もちょうど35歳で、節目だと感じました。

また、「金融業界でこれからもキャリアを積むか」、「給食会社の後継ぎとして新たなキャリアをスタートさせるか」考えた時、金融業界には自分と同じような人はたくさんいる、一方で、東洋食品の後継ぎは自分にしかできない仕事。そして、祖父が創業し、父が大きくした会社を自分の代でも受け継ぎたいという思いもありました。

それに、よく社員にも伝えているのですが、給食は子どもたちの成長と健康に直結しています。子どもは日本の未来をつくっていきますから、学校給食の仕事は日本の未来をつくる仕事。その意義を感じて、東洋食品に入ることに決めました」

社員の話を聴き、ビジョンとメリットを伝え、納得してもらう

こうして35歳で、東洋食品の後継ぎとして常務取締役に就任した荻久保さん。入社後はまず、人事制度や社内のインフラ整備に力を入れました。
「入社当時、当社は事業部間の情報共有が不足していると感じました。ウエリントンでの『共有する文化』の良さを肌で感じていたので、横串を入れるため、事業部横断的な会議やワーキンググループを多数設定しました。これにより、事業部の壁を超えたコミュニケーションが活性化されていきました。

特に、社会的に働き方改革が進み始めた時期でしたし、人手不足に対する対策も考えていかなければいけない時期でした。賃上げ、働き方から人材育成まで総合的、部門横断的に考える人材会議を設定するなど、利益とコンプライアンスを両立させるような体制整備に、部門を超えて取り組んできましたね」
組織を変えていくことは、簡単なことではないはず。ですが、東洋食品ならではの強みを活かしてより一層社会に貢献していくため、社内の環境を整えていきました。その中で、社員と接する時に大切にしてきたことを、次のように話します。
「“自分の目指していること”を丁寧に伝えることを大切にしてきました。上から無理やり押し付けるのではなく、コミュニケーションを大切にし、社員一人ひとりと話をして納得してもらうようにしました。“自分の目指していること”を伝える際には、社員にとってのメリットを説明するようにしています。これには時間はかかりますが、理解と納得を得れば、その後の動きは速いです。」
時間がかかったとしても社員一人ひとりとの対話を大切にする荻久保さん。信頼関係を築く上でも、この姿勢の重要性は変わらないと言います。
「部下との信頼関係を築く上でも、まずは聞く姿勢を持つことを心がけています。相手の意見を尊重し、単に業務の指示だけでなく、何のためにやるのかというビジョンを明確に伝えるようにしています。その業務が会社の目標達成にどのように貢献するのか具体的に分かれば、社員のモチベーションも高まります」
社内環境整備の中で、女性が働きやすい環境づくりも進めてきました。これは荻久保さん自身が出産・復職を経験したからこその取り組みだそうです。
「私自身、育休から復帰するハードルがとても高いと感じたんです。育休中は一日中子どもの世話のことしか考えられず、化粧もしなければ新聞も読まないような生活になります。でも復職すると、初日から時間通りに出社しなければいけませんし、保育園の送り迎えや一日のルーティンをどうこなしていったらいいのか、やってみないと全く分かりません。そこで復職前に、悩みを先輩社員に相談できるメンター制度を導入しました。このメンター制度は、新卒社員にも適用していて、離職防止にも役立っています。

妊娠・出産する前も育児に対し理解をしていたつもりでしたが、実際に自分が経験してみると、やはり全然理解できていなかったと痛感しました。例えば育休中のスキルアップ。子どもが産まれるまでは『できるのでは?』と思っていましたが、実際にはそんな時間は全くありませんでした。経験して初めて育児の大変さが身に沁みました。

ですから、制度作りはもちろんのこと、育児をしながら働く女性を理解しようとする雰囲気づくりも大事にしています。当社の従業員の8割は女性ですから『育休復帰後のポジションをあけて待っているよ』『復職後もフォローするよ』ということを、制度と雰囲気・文化の両面からきちんと示していくことがとても大切だと思っています」

→「後編記事」につづく





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写真:MIKAGE
取材・執筆:北森 悦

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