『強みの掛け算が、自分ならではのコアスキルを作る』<br>日立製作所・DEI推進 上田麻美さんのイメージ画像

マイキャリアストーリー

『強みの掛け算が、自分ならではのコアスキルを作る』
日立製作所・DEI推進 上田麻美さん

誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたの? 現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。

今回は、日立製作所の上田麻美さん(人財統括本部 デジタルシステム&サービス人事総務本部 部長代理)をインタビュー。日本を代表する大企業でダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進を務める中、大切にしている思いを聞きました。

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上田 麻美さん

株式会社日立製作所 人財統括本部 デジタルシステム&サービス人事総務本部 部長代理

大学卒業後、メディアに就職。女性向けフリーペーパーの広告営業、働く女性向けのイベント企画・運営などを行う。その後、外資系企業勤務を経て金融機関に転職。女性向けローン商品の販売戦略構築にはじまり、その後は人事部にてダイバーシティ推進などを行う。2021年11月より、日立製作所に入社。デジタルシステム&サービスセクターにて、DEI(Diversity, Equity & Inclusion:多様性・公正性・包括性)の推進を担う。

生き方の多様なサンプルに触れたことが、ダイバーシティを考える原点に

― グローバルを含め約37万人の従業員を抱える日立グループ。上田麻美さんが所属するのは、ITサービスの提供やサポートによりクライアントのDXを推進する「デジタルシステム&サービス(DSS)」です。 事業拠点50か国、従業員数約10万人のセクターで、DEI(Diversity, Equity & Inclusion:多様性・公正性・包括性)の推進を担う上田さん。2021年11月に日立製作所に入社後、「ダイバーシティを進めなければ、未来はない」と言い切る経営層のもと、さまざまな施策に取り組んできました。2022年10月には、CDEIO(Chief Diversity, Equity & Inclusion Officer)として新たに外部人材が着任するなど、セクター全体でDEIに力を入れる体制が整っています。 ダイバーシティ推進というキャリアの軸はどのように生まれたのでしょう。背景には、組織の事情に翻弄されながらも手にした、多様な業界・職種経験があると話します。
「大学卒業後に入ったのはメディアでした。当時は、『いずれ結婚や出産をしたら仕事を辞める』という人も多かったのですが、私はずっと仕事を続けたかった。世の中に大きな影響を与えられ、自分の言葉で伝えられる“マスコミ”の仕事に興味を持ち、メディアを選びました。
入社時は、お金の流れから社会を見たいと考え、経済部を希望していたのですが、新卒はまずは営業職を経験すべしという育成方針のもと、女性向けフリーペーパーの広告営業をすることになりました。そこでつまずいた経験や、読者の女性たちのさまざまな生き様に触れたことが、働き方や組織のあり方を考える最初のきっかけになりました」
― 新聞社をはじめメディア全体が“男性社会”だった当時、営業先で広告主のクライアントから、「男性の担当者に替えてほしい」「話が分かる(男性の)上司をつれてきて」と言われることもあったそう。社内では、“オールド・ボーイズ・ネットワーク”により、飲み会やゴルフなどで役員との距離が近い同期や同僚に仕事のチャンスが増えたり、昇格したりする例も目の当たりにしたといいます。 女性というだけで違う扱いになる。そんなモヤモヤの正体を突き詰めていったとき、働き方や価値観を変えていくことが大事だと上田さんは考えました。
「そこで、社内の新規事業立案制度を利用して、女性の強みを活かした“働きやすさ”に着目したセミナーや研修を行う事業を提案しました。役員からは『ビジネスとして成り立つはずがない』と猛反対を受けたのですが、社外の有識者や経営者からは『その志を応援したい』と多くの賛同をいただきました。大手企業の女性経営者やアナリストの方などを講演者として呼び、参加した読者との意見交換をするなど、イベント企画・運営も経験しました。
そこで出会ったのは、ビジネスパーソンや主婦の方、自分で事業をされている方など、それぞれの能力を生かした多様な生き方でした。みんなエネルギーにあふれていて、“バリエーションがあることは強い”と感じましたね」

「数字に弱い」と言われたくない。会計知識を学び自分の強みにしていった

ー その後、約10年のメディアでのキャリアを経て、より早くマネジメント経験を積める環境を求め外資系企業に転職した上田さん。「自分がやりたいことをやっていくために、30代のうちに裁量権を持って経営視点を身につけたかった」と話します。
「米系の外資で、アジア全体や日本の責任者などエグゼクティブがほとんど女性という、組織風土の違いに刺激を受けました。そして、その女性たちが仕事だけではなく、プライベートも自身のキャリアとして捉え、どんどんチェンジさせていく。私も新たな経験を積もうと、次に選んだのが金融機関でした」
ー 入社した金融機関は、女性向けのローン商品を新たに立ち上げるフェーズにありました。任されたのは、販売戦略や企画などを考える責任あるポジション。「業界未経験者の新しい視点を取り入れたい」との採用方針からチャンスにつながったといいます。 未経験から金融業界へ、思い切ったチャレンジの理由を聞くと、「お金は関心のある領域の一つだった」と話します。
「20代の頃から、ファイナンシャルプランナーの上級資格であるCFP ®を取得したり、社会人大学院で国際会計を学んだりと、お金の勉強を続けていたんです。
営業としてモヤモヤを抱えていたとき、『女性は数字に弱い』『お金のことは分からないだろう』などと言われることがあって。そんな決めつけはおかしい、と思っていました。勉強を始めたのは、私の中での負けず嫌いの気持ちがあったのでしょう。
やってみると、生きる上で欠かせない知識だと思いましたし、社内外の会議の場で会計に関する意見を口にしただけで、周りの見る目が変わることもあった。人がいかにバイアスにとらわれているかを思い知り、この知識を自分の強みにしようと考えるようになりました」
ー 「女性」と「お金」が、自身の中でのキャリアのテーマだったと話す上田さん。最初に任されたローン商品関連の仕事を一通りやり切り、強みを生かす別の機会を探っていたとき、巡り会ったのがダイバーシティ推進の仕事でした。
「メディアで新規事業としてやってきたことを、社内を対象に行える。面白いチャレンジだと思い、手を挙げて異動しました。

まず取り組んだのは、経営層にDEIの重要性を分かってもらうことでした。口では大事だというけれど、人と予算を投資してまでやるべきだと本当に理解している役員はまだまだ少なかった。そこで、社内のダイバーシティを高めることが、ビジネス上いかに有効か、データで示していきました」
ー 女性の管理職を増やす制度設計や、マネジメント研修、女性同士のつながりを作る座談会やコミュニティづくり。さまざまな施策を立ち上げていきましたが、支店長を任されると頑張りすぎてしまう社員も多く、サポート体制の重要性を痛感したといいます。
「支店長の女性が少ないと、“女性であること”が目立ってしまい、本人が自分に対して過度なプレッシャーをかけてしまうんです。『女性の支店長はダメだ』と思われないように数字を上げなければ。そう頑張りすぎて長続きしないケースもありました。いろいろなタイプのマネージャー像があっていいんだと、多様なあり方を示す大切さを学びました」

もっとも推進したいのは、経験や考え方のダイバーシティ

― ダイバーシティ推進の約5年の経験を、ほかの組織でも生かしたいと考えていたとき、日立製作所でその機会があると知った上田さん。デジタルシステム&サービスセクターのCHROに話を聞きに行くと、「我々のダイバーシティは世界から遅れている」と危機感を口にされたそうです。
「日立グループ内でグローバルを見渡せば、採用も育成も管理職登用もDEIは進んでいるほうである。が、そのなかで日本が遅れていて、グループの足を引っ張っているというんです。日本を代表する大企業が、そんな状況にあるのは悔しいなと思い、自分の経験を生かせるのならやってみたいと心が動かされました」
― 日立グループでは、各セクターのCEOがDEIの重要性を明言しています。2023年4月には、本社のCDEIOが執行役専務に昇格するなど、ダイバーシティ推進が全社課題であるというメッセージは明確です。 ただ、社内でメンバーの話を聞きに行くと、現場の実態や課題も見えてきたそうです。
「ダイバーシティには、性別、国籍、人種、宗教、文化などさまざまなテーマがあります。その中で、最初に取り組むべきテーマとして、女性の視点で現在の働き方や組織風土をどう捉えているのか、キャリアを作っていくために何が必要かを多様な部署、世代、ポジションのメンバーにヒアリングしました。

日立製作所DSSでは7割以上が新卒入社者で、ここ以外の働き方を知らないメンバーが多くいます。ジョブローテーションの少ない人は、身の回りの同僚や先輩、上司をロールモデルとしているので、どうしても視野が狭くなってしまう。
そこで、いろいろなキャリアの形があることを示そうと、他社で活躍されている女性役員の講演会や外資系含めた経験豊富なエヴァンジェリストとの座談会を実施しました。また、社内でも部署横断でつながりを作ろうと、コミュニケーション設計にも力を入れてきました」
ー 業界や職種の垣根を超えて、いろいろな人の考え、ものの見方を知ってほしい―。上田さんのその想いは、自身がメディア、外資系企業、金融機関、メーカーとさまざまな業界で「その会社にいなければ知り合わない人たち」と出会ってきた経験が大きいといいます。
「企業が向き合うクライアントも、どんどん多様化しています。日本はまだまだジェンダーというテーマにフォーカスされがちですが、本当は、経験や考え方のダイバーシティがもっとも重要だと思うんです。いかに多様な人の立場にたって物事を発想し、リスクを見極めて対応していけるか。それができなければ、企業は生き残ることができない時代になっています。

強い組織とは、変化に強い組織。一定のカテゴリーの人が集まるよりも、強みがバラバラの人材が集まった方が、チームの柔軟性は高まりますよね。
例えば、強いリーダーシップを発揮するマネージャーしかいない会社にいると、『自分には無理』と思うかもしれないけれど、いろいろなタイプのリーダーシップで、強みも凸凹なマネージャーがいれば、『こんな風なら自分にもできそう』と、管理職をやってみたい人も増えると思うんです。
多様なサンプルと出会うことで、強みを引き出し合う組織を作っていけると思っています」
― DEI推進の仕事を通じて感じるのは、「掛け算の大事さ」。小さな強みでも、掛け合わせればその人ならではのコアスキルが生まれると話します。
「メンバーと話していると、自分はこの分野しかやってこなかったので…と謙遜する人がいます。でも、経験の中に何かしら、強みに挙げられることがあると思っています。
私の場合は、営業経験だったりお金の知識だったり、新規事業提案に携わったことだったり。セミナーや講演会、人が集まる“場づくり”の経験・スキルも要素の1つです。
今自分が持つ何を掛け算するか、これから何を掛け算したら私だけのコアスキルになるか、新しいことへの小さなチャレンジが、自分にしかできない仕事につながっていくと思っています」








~あわせて読みたい記事~
◇専門領域で働きたいと思い、学生時代に会計の勉強を始めてみた(石油資源開発・経理/相蘇さんのインタビュー)
◇この組織でまだやるべきことがある。それはジェンダーギャップを解消すること(freee・CCO/辻本さんのインタビュー)





写真:龍ノ口 弘陽
取材・執筆:田中 瑠子

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