『将来を考えて行動を制限しなくてもいい』
freee・CCO 辻本祐佳さん
女性なら誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたの?
現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、freee株式会社 CCO(Chief Culture Officer)の辻本祐佳さんをインタビュー。組織のカルチャーづくりへの取り組みや、自身のライフイベントと向き合う中で、仕事観がどう変化してきたのか、お話を伺いました。
辻本 祐佳さん
freee株式会社 CCO(Chief Culture Officer)
和歌山県出身。東京大学法学部を卒業後、楽天株式会社での法務経験を経て2017年8月freee入社。今後のfreeeカルチャーを再定義するプロジェクト参画をきっかけに、2018年7月から人事総務機能を統括、2020年にCCO(Chief Culture Officer)に就任。社内のカルチャー浸透・組織での体現に取り組む。一児の母。
目次
CCOとして、誰よりも組織のカルチャーに向き合う
- ― 「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに、会計や人事労務などのクラウドサービスを手掛けるfreee。辻本祐佳さんは、CCO(Chief Culture Officer)として、組織のカルチャー浸透に向けたさまざまな施策に取り組んでいます。 そもそも、チーフ“カルチャー”オフィサーは、あまり聞かない役職です。どんな役割、プロジェクトを担っているのでしょう。
- 「freee内で誰よりも“カルチャー”について考え、組織が前向きに進んでいくためにどのようなことをすべきかを考える人。それが、私が考えるCCOです。
例えば、2021年のオフィス移転では、単に作業効率のよいオフィスを作るのではなく、この場でどういった社内コミュニケーションを生み出し、freeeという組織がどういうコミュニティでありたいかを考えながら、一人ひとりが楽しみを見いだせるようにあえて余白のある空間を作っていきました。ミーティングスペースへの移動途中に、ドリンクカウンターで近くの人と会話が生まれたらいいよね、と日常シーンを想定していく。そうした細かな設計を、カルチャーにつなげていきます。
ほかには、年始に全社員が参加するキックオフイベントで企画運営を担当するのもカルチャーに関わるチームです。ビジョンや戦略についての真面目な議論から、社員同士が理解し合う遊び要素を取り入れたセッションまで、バリエーションに富んだ内容で、『今年も1年頑張ろう!』と前を向いてもらうための場を作ります。ユーザーを呼んでみんなで話を聞き、自分たちのプロダクトやサービスがどんな人に届いているかを再認識する機会も作りました」
- ― 辻本さんがCCOになったのは2020年ですが、以前から組織づくりへのコミットは深めていたといいます。きっかけは、2018年にfreeeの価値基準を新たに見直すプロジェクトが動き出し、メンバーの一員として誘われたことでした。
- 「前年の2017年、freeeでは組織が急拡大し、入社人数が既存社員数を追い越しました。freeeが大事にしてきた創業の思いやミッションをきちんと伝達していくために、価値基準を見直していこうと経営陣とディスカッションを重ねていきました。
私は前職で法務をやっていたこともあり、周りが実現したいことを法的に整理して言語化し、具体的なアクションに落とし込んでいくことが得意だったんです。カルチャーという領域は未経験でしたが、ふわっとしたテーマから、具体的な言葉や、それらを浸透させる施策に落とし込んでいくことは、まさに私の得意領域と重なるものでした。経営陣の皆さんが私の適性を見て、『辻本にカルチャーのことを任せよう』と引っ張ってくれたのだと思っています」
テクノロジーを使ってスモールビジネスに選択肢を増やす、freeeのビジョンに惹かれた
- ― 組織づくりやカルチャー浸透というテーマに触れたのは、freeeに来てからだと話す辻本さん。学生時代は「何がしたいのか分からないまま就活をしていた」そうですが、仕事観としては、揺るぎない思いがあったといいます。
- 「子どものころから、『仕事は手放してはいけない』という思いを持っていました。
私は和歌山の田舎の村で、母子家庭で育ちました。父は、私が3歳のときに亡くなり、母が市役所の嘱託職員として働きつつ、祖父母と同居しながら、私と3つ上の兄を育ててくれました。母の姿を見ながら『私も、子どもを一人で育てることになる可能性はゼロじゃない』と思っていました。必然的に、『仕事は絶対に手放してはいけないんだ』と考えるようになっていました」
- ― 進学した東京大学法学部では、就活が始まるや周りは迷いなく、裁判官か官僚、大手金融機関をはじめとした民間企業へ進路を決めていきました。一方、やりたいことが見えていなかった辻本さんは就活に大苦戦。そんなとき、たまたま先輩に紹介された楽天と出会い、その事業内容に強く惹かれていきました。
- 「創業者の三木谷さんがなぜ楽天市場を作ったかという文脈で、“離島や過疎化が進む地域でも、銀座4丁目と同じ条件でビジネスができる社会を創りたい”という思いがあると聞いて、そのときに、自分が育った和歌山の村の景色がよみがえってきて、『これだ!』と思ったんです。地方では、どうしても入ってくる情報が限られ、あるはずの選択肢も見えなくなってしまう。その環境をテクノロジーで解決しようという考え方が、すごくいいなととても共感しました」
- ― 法務担当として経験を積み、31歳でマネージャーポジションに昇格。順調なキャリアステップに見えますが、辻本さん自身は、ふと「このままでいいのか」と疑問を抱くようになりました
- 「マネージャーになると、それまで培ってきた専門スキルを切り崩していく感覚が芽生え、危機感が出てきました。ずっと仕事をしていかなくちゃ…と思うのに、5年後、10年後に貯金を切り崩して中身のない自分になっていたらどうしよう。今のうちにキャリアのすそ野を広げておかなくちゃと考え始めたとき、たまたま出会ったのがfreee代表の佐々木大輔さんでした」
- ー 前職の先輩に連れられてご飯に行くと、大学の同級生だという佐々木氏がいたのだそう。 そこで、freeeで実現したい社会について話す姿を見て、楽天に出会ったときに似た衝撃を受けたと話します。
- 「(佐々木)大輔さんは、『スモールビジネスの皆さんが、本当にやりたいことに集中できる世界を、テクノロジーで実現したい』と話していた。『これだ!!』と思いました。大企業であれば、本業以外の業務を人の力で解決することができますが、スモールビジネスでは難しい。人ではなくテクノロジーで解決できれば、事業を通じてできることの選択肢が増えます。“選択肢を増やす”ことは、私が仕事を通じてやりたいことだと思ったんです」
「無自覚」に向き合う、ジェンダーギャップをなくす挑戦へ
- ― ただ、freeeに入社後、順調にキャリアを重ねてきたわけではありません。責任感の強い性格特性から、「自分にはできない。もう辞めよう」と思ったこともあるのだそう。 オフィス移転プロジェクトのときは、フルリモート勤務から一部出社勤務になるという方針転換に、社内からさまざまな声が上がりました。意見がぶつかる様子を見て、カルチャーづくりを担う自分に全責任があると落ち込み、「CCO失格だ」と逃げ出したくなったと話します。 ではそんなとき、辻本さんを引き留めたものは何だったのでしょう。
- 「この組織内で、まだやるべきことがある。それは、ジェンダーギャップを解消することだ、という思いがありました。freeeで働く人はみんなとてもフラットな感性を持っていて、多様性を否定するような言動は一切ありませんし、仕事を進める上で性別を意識することもありません。
でも、役員や事業部長などを集めた経営会議を見渡すと、30人中、女性は私ともう一人の2人だけ。女性社員の比率は22%、管理職比率は12%と、数字が示す“事実”には、明らかなジェンダーギャップがあります。一人ひとり、ジェンダーは関係ないよね、と対等に思っているがゆえに、実際にはある性別による傾向の差や、もともと履いている下駄の高さに無自覚なんです。ここで私が抜けたら、後に続く人たちに同じような思い、もしくはより困難を感じさせてしまうだろうと、後ろ髪を引っ張られるものがありました」
- ― 「女性であることは、自分が持つ属性の一つでしかない」と話す辻本さん。「地域格差や、家庭環境の経済格差など世の中には多くギャップがあるけれど、まずは取り組むべき具体的なミッションがジェンダーだった」といいます。 今、取り組んでいることは、“無自覚”への気づきをもたらすコミュニケーション機会を作ること。女性当事者がリアルにどんなことを考えて仕事に向き合っているかを、経営陣に知ってもらうことから始めています。
- 「いろいろな属性の人がいる組織にするために、まずは男性も女性も含めていろんなジェンダーの人が当たり前にいる組織を目指したい。とにかく数字目標を達成しよう、と働きかけることもできますが、目標達成のために女性をいれるのではないかという疑いも出てくる可能性があり、そうすると女性の方も自信を持ちづらくなります。遠回りでも『全員が本気で取り組むべき課題だ』と思う人を、組織内で増やしていくことが大切だと考えています。
そのための取り組みの一つとして、女性メンバー30人ほどの中に、(佐々木)大輔さんに入ってもらい、ただ女性同士が話している話を横で聞くという場を作りました。『いつ結婚や出産を考えるべきか』『出産の前にマネージャーになったほうがいいか』といった、多くの女性がキャリアを考える際に抱く思いが出てきましたが、それさえも、大輔さんにとっては新鮮だったそう。『そんなことを考えるんだね、勉強になった』と感想を言う大輔さんに、こっちが驚きました(笑)。
今後は、他の経営メンバーにも体験してもらおうと思っていますが、改めて、女性が当たり前に考えるライフイベントの選択の悩みも、ちゃんと共有して伝えていくことが大事なのだと実感しました」
「仕事を手放してはいけない」頑なな仕事観が、変わっていった
- ー 辻本さん自身、2020年に7か月間の産休育休を取得し、一児の母として仕事を続けています。ご自身のライフイベントの変化は、仕事観にどんな影響があったのでしょうか。
- 「以前の私は、『絶対に仕事を途切れさせてはいけない』と頑なに思っていました。でも子育てをして、その考えが変わってきています。
私はいつも16時半に帰宅するのですが、パートナーも、同じかそれよりも早く帰宅して、一緒に家事や子育てをしています。仕事や家事、子育てを分けてどちらかが負担するというのではなく“全体を一緒にやる”というスタンス。そんな協力者がいると、普通に仕事ができるんだ、ということに気付きました。
もちろん、子どもの特性など家庭によって事情はさまざまあるでしょう。ただ、一般的に『女性は出産・育児でキャリアが断絶される』と言われるのは、女性の問題ではないのだとはっきりと思うようになりました。社会が、そのように負担を寄せているからなのであって、一緒に向き合ってくれる人がいるのならば、続けられるんだな、と。
子育てや介護など、仕事に全力投球できない時期があったとしても、個人の問題ではなく、家族や社会、企業がチームの問題として受け止められるようになれば、乗り越えられるもの。
今では、『仕事が途切れてもいいのかもしれない』と思えるようになりましたね」
- ― 子どもが生まれたことで、社会への責任感も芽生えるようになったという辻本さん。「今のままの社会を、子どもには残せない」「大きくなるまでに、社会を変えていかなければ」という思いもまた、freeeでカルチャー変革に取り組む原動力になっています。
- 「freeeで働く女性メンバーと話していて思うのは、将来を考えすぎて自分に制限をかける思考には陥ってほしくない、ということです。
将来子どもを産んだら続けられないかもしれないからこっちを選択しておこう、これは辞めておこう、という考え方はもったいない。未来の不安を先取りして行動制限をせずに、そのときはそのとき!今はこれがやりたいんだ!と動いていってほしいなと思います。そして、チャレンジしたいときにいつでもできる社会を創ることが、私たち大人の役割だと思っています。
まずはfreeeという組織が、ジェンダーギャップをなくし堂々と社会に発信できる会社になっていかなければいけません。社会全体を変える道のりは遠いけれど、自分がいる環境から、変化を起こしていきたいですね」
freee株式会社で働いてみたい方、コチラにて募集しております。
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写真:龍ノ口 弘陽
取材・執筆:田中 瑠子