心理的安全性の高い組織とは?強い組織づくりのために管理職ができること|石井遼介さん監修
「心理的安全性」という言葉を耳にする機会が増えました。変化の激しい時代だからこそ、組織には一人ひとりが気づきを共有し、挑戦できる環境が求められています。その土台となるのが、心理的安全性です。
今回は『心理的安全性のつくりかた』の著者であり、組織づくりを数多く支援してきた株式会社ZENTech代表取締役・石井遼介さんに、心理的安全性の基本から、管理職が押さえるべきポイントまでを伺いました。前後編、前編です。
監修者:石井 遼介(いしい りょうすけ)
株式会社ZENTech 代表取締役。一般社団法人日本認知科学研究所理事。武蔵野大学しあわせ研究所研究員。
東京大学工学部卒。シンガポール国立大経営学修士(MBA)。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。著書に『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)監修に『心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)。2026年8月『書くカウンセリング』(サンマーク出版) 刊行予定
心理的安全性とは? 「ぬるい組織」とはまったく違う
- ー心理的安全性が高い組織とは?
- 石井:一言でいえば、メンバーの誰もが率直に意見を言い合える組織です。
心理的安全性という言葉は誤解されやすいワードでもあります。例えば「ぬるい組織」という認識。「ぬるい組織」とは、仕事の達成基準が低く、現状維持が蔓延している状態です。そうではなく、メンバーが健全に意見を衝突させ、成果を挙げることに注力できる組織こそが、心理的安全性が高い組織です。
かつては、管理職の指示をメンバーが聞いて、その通りに働けばうまくいくという時代もありました。ただ、変化が激しいいまの時代には、管理職や会社のトップ層といえども、常に正しい方針を示し、的確に組織の軌道修正を行うことは難しいのです。 このような変化は、時代の要請でもあると考えています。
ですから、メンバー一人一人が気づいたことを共有し、意見を出すことが大切です。例えば「最近、お客様からの問い合わせ内容が全然変わってきたので、提案の重点を変えたほうがいいかもしれない」といった視点は、管理職よりも現場で働くメンバーの方が持っていることもあります。そういった組織の成長のための気付きを発言するためには、心理的安全性が必要なのです。
心理的安全性が高い組織は、4つの要素で決まる
- ー組織の心理的安全性が高いかどうかは、どう評価したら良い?
- 石井:組織の心理的安全性は4つの因子で構成されています。「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」です。この4つをものさしに、組織の心理的安全性をとらえます。
それぞれの因子の具体例を挙げてみましょう。
・「話しやすさ」:若手であっても、会議で「私はこう思いますが、どうですか?」とフラットに話せる。
・「助け合い」:組織の中で「今ちょっと忙しそうだから、これやっておくよ」といった声掛けが起きる。
・「挑戦」:メンバー発信で新しいプロセスを導入する。
・「新奇歓迎」:新しいメンバーが来た時「お手並み拝見」といった態度で試すのではなく丁寧に説明や歓迎の姿勢がある。
これらのような行動が組織・チームでよく起きているとき、心理的安全性が高い組織と言えます。
- ーAIの普及によって、心理的安全性の重要度は高まった?
- 石井:そうですね。AIの普及により、大きくふたつの観点で、心理的安全性の重要性が上がりました。それはコミュニケーションの質と、権限委譲の2点です。
まず、コミュニケーションの質について。業務においてもAIと壁打ちして企画をしたり考えを深める人が増えています。また、場合によっては自分が考えていないことまで、AIが「これが企画書です」とつくってくれたりしますよね。
けれども、仕事は自分ひとりでは完結しませんから、AIが出した成果物や、AIと深めた考えを、今度はチームメンバーや、上司や、お客様に理解してもらわないといけない。ひとりでAIと作業していた時間が多ければ多いほど、その先のコミュニケーションが重要です。
AIの出力を、確認もせずそのまま渡すのはもちろんダメですが、お互いの考えに「これってどういうこと?」「ここで書かれていることは、具体的に何をするってことなの?」と意見を言い、確認をし合えることも大切です。こうしたコミュニケーションの質を高く保つためにも心理的安全性の重要性が高まっています。心理的安全性があることでAIの「綺麗だけれどもズレた成果物」のエラーを検出したり、自分がAIと考えを深めて「これは重要だ」と感じたことを、他者にもわかってもらえるようになるんですね。
もうひとつは、権限委譲の観点です。AIで個々人の生産性が上がると、実は組織の速度は逆に遅くなることがあります。メンバーがAIを使用してこれまでの3倍速で仕事をしたら、管理職はこれまでの3倍の承認作業をしなくてはなりません。ですから、稟議上申から決裁までのスピードが、これまでより遅くなることすらあり得ます。これまで通りの承認フローでは、管理職がパンクしてしまう。決裁でなくても「AIがこういってますが、どうしましょう?」という相談が増えるだけでも忙しくなるでしょう。
ですから、メンバーがAIと話して深めた内容について、一定の条件のもとで「決める権限を渡す」ことが重要です。「予算〇〇万円までならば自分で判断して良い」といったルールを整備することはもちろんですが、それ以上に大切なのは、 本来権限があるはずの範囲のことを、後から「なんで相談しなかった」と理不尽に怒られたりしないという安心感です。この心理的安全性こそが、権限を本当に委譲する上で極めて重要です。
AIがないときでも、多くの会社では職務権限規程に「部長決裁で可」と書かれていても「念のために、役員にお伺いを立てる」そして「役員のGOも出たプロジェクトだから進めよう」といったコミュニケーションが日々行われています。つまり、権限委譲は、運用で簡単に形骸化する。その形骸化は心理的安全性の低さがつくっている、ということです。
成果を出す管理職は「伝え方」を考えている
- ー心理的安全性が高い組織の管理職の共通点は?
- 石井:自分のコミュニケーションがメンバーにとって効果的であるかという視点を持っていることです。
心理的安全性が高い組織の管理職は、言いたいことを言うのではなく、仕事を前に進めるために言うべきことを効果的に伝えるという特徴があります。
例えば部下の資料をチェックした際、できていないところがいくつか目につく。その時に、全てをその場で指摘したくもなりますが、これを言うことで部下が成長するか、「よし、やってみよう」と思えるか、という観点で自分の言葉を選び、伝えることが大切。言いたいことが20個あっても、メンバーの習熟度や置かれた状況に応じて、いきなり全てを伝えても受け止められないから、「まずはここからちょっと工夫してみようか」と2〜3個に絞って伝えるなど。このように、どう伝えるのがメンバーにとって効果的かを考えていますね。
- ー管理職が陥りがちな心理的安全性に関する課題は?
- 石井:心理的安全性を高めるために「とにかく部下に優しくしなくては」「部下の要望はなんでも聞いてあげなくては」と勘違いしてしまうことです。また、ハラスメントを恐れるあまりメンバーを腫れ物のように扱い、必要な指導さえもできなくなっているケースもあります。
もちろん、指導と称した理不尽なハラスメントはNGです。しかし、会社によっては、メンバーの方が「もっと成長したいからもっと言ってほしいのに」と思うくらい、管理職との温度感にズレが出ているケースもあります。
心理的安全性は、メンバーみんなで中長期的に成果を出すためのものです。管理職が「メンバーから優しいと思われるか」「メンバーから好かれているか」は関係ありません。
メンバーとは中長期の成長を見据えた関わり方で、「この人といるとちゃんと成果を出せる」と思われる管理職を目指してください。
- ー心理的安全性を高める上で、女性管理職だからこその強みは?
- 石井:女性管理職は日本社会の中でまだまだマイノリティな立場です。自分が少数派の時の感覚や、発言が通らない感覚を体験として持っている方も多いかと思います。
その経験は組織の心理的安全性を高める上で役に立つと思います。「あの時もっとこうしてもらえたら発言しやすかったのに」という視点があれば、いま組織の中でなかなか発言できない方やマイノリティな立場の方に管理職として寄り添うことができるのではないでしょうか。
ーー
後編では、管理職が今日から実践できる心理的安全性を高めるコミュニケーションや、部下との関わり方を紹介します。
(取材・執筆/菱山恵巳子)





