多くの役割が求められる管理職は罰ゲーム?「何でもできる理想の管理職像」の手放し方とは
正解のないVUCAの時代、管理職には多くの役割が求められています。「組織に心理的安全性を」「とにかく1on1をしよう」「いつでもご機嫌で」…このように、「管理職は、とにかく変わろう!」という言説が溢れる現代。管理職へのハードルは上がり、「管理職は罰ゲームだ」とも言われるようになってしまいました。
「管理職像に一つの正解はない。『変われ』という言葉に巻き込まれないで」と語るのは、組織開発コンサルタントの勅使川原真衣さん。これまで2万人以上の働く人を見つめてきた勅使川原さんに、「理想の管理職像」の手放し方を伺いました。前後編、前編です。
監修者:勅使川原 真衣(てしがわら まい)
組織開発コンサルタント。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。ボストン・コンサルティング・グループ、ヘイグループ(現コーン・フェリー・ジャパン)での外資系コンサルティングファーム勤務を経て、2017年に組織開発を専門として独立。個人の能力でなく「関係性」という切り口から、組織をより良くする提案を行う。二児の母。2020年から乳がん闘病中。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)『組織の違和感 結局、リーダーは何を変えればいいのか?』(ダイヤモンド社)などがある。
「満遍なくなんでもできそうな管理職」が求められてしまっている
- ー今、管理職が「罰ゲーム」だと言われている理由とは?
- 勅使川原:印象論ですが、能力の「曖昧化」と「多元化」が昨今の問題だと感じます。管理職に求める能力が曖昧かつ多元化した結果、「管理職は全方位のスキルを身につけすごい人になろう!」という風潮がありますよね。管理職のハードルが上がりきってしまっています。
なぜそのような風潮が生まれたかというと、管理職の能力を全方位型に上げれば、経営層はラクだからです。本来、戦略の立案や言語化は経営層が担う役割です。でも実際は管理職に任せられている組織もあります。「優秀なあなたなら考えられる」「それがリーダーシップだ」なんて言い方をして。
さらには最近だと「ご機嫌であること」も管理職の重要なコンピテンシーであるとまで言われ始め…。これでは管理職の負担が重すぎます。何をどうしたら良いかわからないですよね。だから「管理職は罰ゲームだ」なんて言葉も生まれるのです。
- ーそのような管理職が求められた結果、組織に及ぼす悪影響は?
- 勅使川原:今、理想とされている管理職像は、満遍なく何でもできそうな人。つまりは特徴のない「球体」のような人材にしてしまうことでもあります。本来、人間は凸と凹があるからこそ、組み合わさってチームになるのです。しかし、球体は他者と組み合いません。これだと組織力は落ちてしまうはずです。
管理職に最も必要なのは「自信を持って過信しない」姿勢
- ー管理職本来の役割、あるべき姿勢とは?
- 勅使川原:管理職は、間に立つ人です。メンバー個人の凹凸を組み合わせて組織として回すことが役割です。そのためには、良し悪しをつけずに、メンバーをよく観察する必要があります。
その上で大切な姿勢とは、自信を持ちつつ、自分のことを過信しないことです。これは組織論の大家、ヘンリー・ミンツバーグ氏との対談の中で出てきた言葉です。自分は間違えることもあるし、未熟だという前提を持ちつつ、自分を信じて最後までやりきる。そういった姿勢が、管理職に必要だと感じます。
逆に言うと、自分を過信している人は失敗しやすいです。「自分は間違えない」「優秀だ」という虚勢にも近い過信は、メンバーからも見抜かれます。
そもそも管理職層と若い世代は考え方が異なるものです。例えば、仕事を人生の全てだと思っていない方も増えてきている中で、自分はそうしてきたからといって、「やる気」「エンゲージメント」という言葉でまとめることは不可能です。
マネジメントの答えは一つではありません。どんなに理不尽だと思うような行動も、相手には相手なりの理論があります。だからこそ管理職は、相手のことを考える必要があります。「こうあるべきだ」ではなく「なんでこうなんだっけ?」から始めると良いでしょう。
忙しすぎて「とにかく業務や組織を回さなきゃ」という焦りから、メンバー一人一人と向き合えていない管理職も多くいると思います。でも、その対応が本当に時間短縮になっているかというと、そんなことはありません。「この人に言っても無駄だな」とメンバーに思われてしまうと、相談なしにいきなり仕事を辞める「静かな退職」も発生します。退職せずとも、わだかまりは相当残りますし、最終的にチームの崩壊に繋がることもあります。
態度主義での評価である以上、女性が自信を持って働くことは難しい
- ーなぜ、女性は管理職になることへ苦手意識を持ってしまうのでしょうか?
- 勅使川原:社会的なプレッシャーがある中で「優秀な管理職像の正解」があると思わされているので、「私なんか」と思ってしまうのでしょう。けれど実際には、それぞれが自分なりに素敵なマネジメントや働き方が実践できています。その価値を自分自身で認められなかったり、承認が与えられていないのだと感じます。
さらに日本では、長時間働いている人が評価される風潮がまだまだ根付いています。日本はこれまで担当職務を定めずに人材を採用する「メンバーシップ型」の雇用と人材マネジメントをしてきました。社員に対して「機能として何をすべきか」という職務要件定義をしてきていませんよね。その結果、職場やPCの前に長時間いる人が「なんとなく頑張っているから」と評価されやすい風潮になってしまっています。あるいは、声を掛けられた時に「何でもします!」という御用聞き的な柔軟さこそが、会社への貢献とされてきました。
要するに日本は態度主義なんです。職務に対してどれぐらいできているかではなく、なんとなく頑張っているか、貢献しているか、良い人か、「はい」と言うか、いつも元気か、ご機嫌か…。そのような要素が評価につながってしまっています。これは会社だけではなく、学校も同じですよね。授業中に足を組んだり肘をついたら「やる気がない」と怒られる。ただ、その姿勢がラクだからしているだけなのに。元々、態度主義で教育され、会社も態度主義で評価する。さらにはメンバーシップ型雇用が拍車をかける。
こうした風潮は、ケア労働がある方にはとても不利ですよね。例えば、育児や介護、ご自身の病気で17時に退社する人は、評価されにくい現状があります。ケア労働を担いがちな女性の方が、社内で弱者になりやすく、自信も失ってしまいがちだと感じます。
「なんとなくこの人は頑張ってくれそうだから」「良い人だから」のようにふわっと業務を振り分けたり評価したりするのではなく、仕事における役割を明確にしないと、女性管理職は増えていかないと思います。
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(取材・執筆/菱山恵巳子)





