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人的資本経営の本質とは?人の能力を活かす「支援型マネジメント」への転換【前編】

人材不足と急速な技術革新が進む現代において、企業の競争力の源泉は「人」にあると言われています。こうした背景のもと、近年注目を集めているのが「人的資本経営」です。

 

「人的資本経営」の本質は、人を資本として捉えるだけではなく、一人ひとりが持つ能力や経験を最大限に活かす点にあります。これまでの「管理するマネジメント」から、個々の強みを引き出す「支援型マネジメント」への転換が求められる今、管理職の役割も大きく変わりつつあります。

 

今回は、『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』著者の上林周平さんに、人的資本経営を実現するために、求められるリーダーシップのあり方について伺います(前編・後編)。

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監修者:上林 周平(かんばやし しゅうへい)

株式会社NEWONE 代表取締役
大阪大学人間科学部卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。2002年、株式会社シェイク入社。企業研修事業の立ち上げを実施。商品開発責任者として、新入社員〜管理職までの研修プログラム開発やファシリテーションを実施。
2015年、株式会社シェイク代表取締役に就任。2017年9月、これからの働き方をリードすることを目的に、エンゲージメントを高める支援を行う株式会社NEWONEを設立。
米国CCE.Inc.認定 キャリアカウンセラー。
著書に『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム出版)、『組織の未来は「従業員体験」で変わる』(英治出版)

人的資本経営では、経営戦略と人材戦略を連動させることが重要

ーそもそも「人的資本経営」の定義とは?
上林:人的資本経営とは、人をコストではなく、企業価値を生み出す資本として捉え、その価値を最大化する経営のことです。似た言葉に人的資源という考え方がありますが、こちらは「消費する“リソース”」を指すのに対し、人的資本は「増減する“キャピタル”」を指します。
人的資本経営において重要なことは、人が保有している能力、スキル、経験に着目し、それらをいかに活かすかという点です。‎
そのためには、経営戦略と人材戦略を連動させることが不可欠です。「人手不足だから10人採用する」といった考え方では不十分です。自社の経営戦略や事業戦略からどのような能力や経験が必要かを明確にし、それに基づいて現在のメンバーの能力を活用したり、必要な能力を持つ人材を採用・育成したりすることが重要です。‎
近年、大手企業を中心に、こうした人的資本経営へ徐々にシフトが進んでいます。かつては新卒一括採用で良い人材を集める方法が主流でした。しかし昨今では、経営戦略に基づき、人材を量と質の両面から可視化・分析する「人材ポートフォリオ」という考え方が広がりつつあります。

ー人的資本経営が注目される背景は?‎
上林:主に3つの背景があります。1つ目は人材の流動化と人手不足の深刻化です。「労働市場の未来推計2030(パーソル総合研究所)」によると、2030年には約640万人の労働力不足が予想されます。各社が人材確保に苦戦し、野球で言う“エースで4番”のような万能な人材の採用は難しくなっています。だからこそ、一人ひとりの能力を最大限活用することが重要になっています。‎
2つ目は、人材そのものが最大の競争力になってきていることです。2019年6月、Appleの最高デザイン責任者を務めていたジョナサン・アイブ氏の退任発表の際、Apple社の時価総額が約1兆円も目減りしました。このように、一人の人材の動向が企業価値に大きな影響を与える時代になっています。
また、AIの進展により、どの企業でも一定水準の戦略を描けるようになり、戦略自体の差別化が難しくなっています。だからこそ、差別化要因は戦略を実行する人や組織の実行力にあると言えます。
3つ目は投資家の視点の変化です。ESG経営やSDGsの観点から、人材をどのようにマネジメントしているかを投資家も重視し、人的資本の情報開示が株価に影響する時代になってきています。

人的資本経営において、管理職はメンバーの強みを見出す視点が必要

ー人的資本経営とエンゲージメントの関係とは?
上林:「エンゲージメント」とは組織と個人が前向きかつ対等につながり、お互いに自発的な貢献意欲が生まれている状態のこと。婚約指輪の「エンゲージリング」と同じく、英語の「エンゲージ」を語源としています。
従来の「人を大切にする経営」は、組織と個人が親子関係のように組織が上位に立ち、個人を保護する関係性でした。一方で人的資本経営では、組織と個人が対等なパートナーシップを持った関係を目指しています。こうした関係性において、エンゲージメントは不可欠な要素となります。‎
2020年に経済産業省から発表された「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」(通称「人材版伊藤レポート」)では、企業と個人の関係性は「選び選ばれる関係」であると示されています。
企業が個人を一方的に選ぶ関係から、今では企業が個人から選ばれる時代になっています。このような環境下で、選び・選ばれてしっかりと結びつく状態こそがエンゲージメントであり、エンゲージメントなくして人的資本経営は成り立ちません。

ー人的資本経営でのマネジメントと、これまでのマネジメントの違いは?‎
上林:大きくは管理型のマネジメントから支援型のマネジメントへの変化だと考えています。
管理型マネジメントは、環境変化が少なく、必要な能力も変わらないという前提があります。そのため自分と似たようなタイプの人材を育て、自分の経験やノウハウを伝えることで組織を強くしてきたのです。
しかし現在は、求められる能力も働き方も多様化しています。
支援型マネジメントでは、一人ひとりの能力や強み、それぞれの状況や制約条件を理解し、それらを活かしていくことを主軸としたマネジメントが必要となります。‎

ー支援型マネジメントにおいて、管理職が特に意識すべき点とは?
上林:メンバーの強みを見出すことです。従来の終身雇用を前提とした時代では弱点の改善する育成に注力していました。しかし、人材が流動化する現在では、弱点を指摘している時間的余裕もありません。マネージャーは「自分にはない強みがメンバーには必ずある」という視点で向き合うことが大切です。
野球に例えると、足が速い選手に打撃練習ばかりさせるのではなく、その足の速さを活かして代走として活躍してもらう。その人の強みを、成果に繋げる形で活かすことが最適解なのです。

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(取材・執筆/菱山恵巳子)

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