『物件作りに込めた想いは、そのまま社会へのメッセージにつながる』
東急不動産・都市事業ユニット 小田麻友美さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたの? 現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、東急不動産株式会社 都市事業ユニットの小田麻友美さんをインタビュー。学生時代の仕事観、オフィスビルや商業施設など大型プロジェクトを動かす面白さについて、お話を伺いました。
小田麻友美(おだ・まゆみ)さん
東急不動産株式会社 都市事業ユニット 渋谷開発本部
プロジェクト推進部 事業企画グループ 課長
2007年に東急不動産株式会社に入社。分譲住宅の開発や賃貸オフィスビルの運営、渋谷エリアでの開発プロジェクトに携わり2023年4月より現職。
“多様な人を束ねる仕事”に惹かれた
- ー オフィスビルや商業施設、分譲・賃貸住宅、ホテルやリゾート、シニア領域まで、幅広いアセットを扱う東急不動産株式会社。2007年に新卒で入社した小田麻友美さんは、住宅から大型商業施設開発までさまざまなプロジェクトを経験してきました。 直近で担当しているのは、2023年10月19日にオープンする複合施設「フォレストゲート代官山」の開発プロジェクト。コンセプトづくりからデザイン設計、施工、販売・プロモーション戦略まで、約5年間にわたりプロジェクトをリードしてきました。 建築デザインの隈研吾先生をはじめ、それぞれの領域のプロフェッショナルが集まり、街の新たなランドマークを作っていく。そのプロセスでは、意匠へのこだわり、施工の難しさ、予算の交渉などさまざまな調整が必要になるといいます。
- 「近隣住民の皆さまや設計者、施工者、そして利用されるお客様を含め、多くのステークホルダーが納得する道を探っていくのは大変です。でも、チームが一つのゴールに向けて力を発揮したとき、思ってもいない推進力でプロジェクトが動き出していく。その喜びは、何にも代えがたいものです」
- ー 異なる立場、視点を持った人たちとのものづくりが面白い。そう話す小田さんの原点はどこにあるのでしょう。 学生時代のキャリア観を聞くと、「就職活動が始まる前まで“ディベロッパー”という存在すら知らなかった」と話します。
- 「大学では、3年生の秋までテニスサークルの活動に没頭していました。就きたい仕事のイメージもほとんどなく、ぼんやりと“形に残るモノづくり”に携わりたい、という程度の考えでした。
ディベロッパーの仕事を知ったきっかけは、大学の2つ上の先輩が東急不動産にいたから。その後オフィスビル開発を手掛ける社員の方に話を聞く機会があり、『ビルづくりは、いろいろな方向を見ている人を束ねる仕事』という言葉に心惹かれました。私がサークル活動に夢中になっていたのは、『異なる思いや目的を持つ仲間を束ね、一体感のある、心地よい空間を作ること』に面白さを感じていたから。ディベロッパーの仕事には、私が好きな要素があるかもしれないと思いました」
- ー せっかく挑戦するなら、住宅から商業施設まで、あらゆる建物を手掛ける総合ディベロッパーで経験を積みたいと考え、東急不動産への入社を決めた小田さん。 入社後、約5年間は大阪で住宅開発を経験したのち、6年目から東京で都市事業ユニットに異動。オフィスビルの運営やリニューアル、複合施設の開発など大小数多く携わってきたといいます。
チームで力を発揮するから
一人では成し遂げられないプロジェクトが完成する
- ー 2007年の入社当時、総合ディベロッパーの多くは圧倒的な男性社会だったといいます。東急不動産も例外ではなく、女性社員は全体の1~2割しかいませんでした。しかし、「性別で業務が限定されることはなく、どんどん仕事を任された」と小田さんは当時を振り返ります。
- 「大阪ではマンションや戸建ての住宅開発を担当し、用地取得から間取り、施工プラン、販売戦略の策定まで一貫して任されました。2013年に東急不動産がホールディングス化した際は、グループ会社間の業務整理を進める際の当社側の窓口を担当したことも。経営目線を学ぶ、貴重な機会になりました」
- ー 手掛ける物件が大型になればなるほど、設計や施工などの協力会社や、近隣住民、施設利用のお客様など、ステークホルダーは増えていきます。その調整を、「大変」ではなく「面白い」と思えるのはなぜなのでしょう。
- 「ディベロッパーの仕事は、設計や施工などプロフェッショナルなスキルを持つ方達の合意形成を図り、プロジェクトを成功させるプロデューサーのような役割だと考えています。だからこそ、相手の考えを尊重し、理解しようとフラットに接することができる。同じ方向に向かっていこうと旗を振ることができるのかもしれません。人に動いてもらう難しさはありますが、チームだからこそ、自分一人では到底成し遂げられないレベルの仕事ができます。“メンバー全員が120%の力を発揮できた”と思える瞬間がとても好きなんです」
- - デザインや施工、予算など様々な観点から利害がぶつかることが少なくない不動産物件開発。そんなとき小田さんは、一人ひとりに向き合い、「どの点は譲れず、どこなら工夫の余地があるのか」を引き出し、解決していくといいます。
- 「学生のころから、『この人はどうしてこう考えたのだろう』『この発言の裏には、どんな思いがあるのだろう』と考えるクセがありました。対話を重ねて、真意を確認しにいくプロセスが好きでした。
仕事においても、コミュニケーションの積み重ねが新しいアイデアにつながっていくことがあります。うまくまとめられない不甲斐なさを反省することもありますが、『小田さんがそういうのなら、この案で動いていこう』『このスケジュールでやってみます』などと言われると、それまでの大変さは吹き飛びます」
→「後編」に続きます。
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写真:MIKAGE
取材・執筆:田中 瑠子