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管理職の「謝罪」は、信頼回復のチャンス。怒りを理解に変える謝罪術

部下のミスや顧客トラブルなど、管理職として謝罪に向き合う場面は少なくありません。

 

今回は、マイクロソフト在籍時に累計585回の謝罪訪問を経験し、そのメソッドを『謝罪の極意~頭を下げて売上を上げるビジネスメソッド~』(小学館)や『815社17万人を分析してわかった 会社から期待されている人の習慣115』(ダイヤモンド社)としてまとめた越川慎司さんに、管理職が知っておきたい謝罪の極意を伺いました。謝罪前の準備から当日の立ち居振る舞い、謝罪後のフォローまで、ピンチを信頼につなげるためのポイントを解説します。前後編、前編です。

 

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監修者:越川慎司

株式会社クロスリバー 代表取締役社長
国内外通信会社などを経て、2005年マイクロソフト米国本社に入社。業務執行役員としてPowerPointやExcelなどの事業責任者を担当。2017年株式会社クロスリバー設立。世界各地に分散したメンバーが週休3日・リモートワーク・複業をしながら800社の働き方改革を支援。著書は『謝罪の極意~頭を下げて売上を上げるビジネスメソッド~』(小学館)『815社17万人を分析してわかった 会社から期待されている人の習慣115 』(ダイヤモンド社)など36冊。

謝罪は「許してもらう」ためではない。怒りを理解に変えるために行う

ーそもそも管理職にとって、謝罪の目的は? ‎
越川:「怒り」を「理解」に変えることです。謝罪が必要な場面では、相手は「責任者を連れてきてほしい」と思うほど強い怒りを抱えていることが多いです。しかし、目指すべきは相手の怒りを一時的に抑えることではありません。自社が問題から逃げず、相手の困りごとを理解し、今後も誠実に対応する会社であると伝えることが重要です。

謝罪の場で相手は、あなたに怒りをぶつけたいという気持ちもありますが、「この会社と今後も付き合って大丈夫なのかを確かめたい」という意図があります。問題発生後に隠蔽や責任回避をするのか、それとも真摯に対応するのか。相手は謝罪の場で、その姿勢を見ています。

だからこそ謝罪は、信頼回復にとどまらず、以前より強い関係をつくる契機にもなり得るのです。もはや謝罪訪問は、カスタマーサクセスのひとつです。優れたリーダーは、許してもらうことをゴールにせず、「この機会に関係を強化しよう」と考えます。顧客との契約関係や協働関係を維持し、再構築することをゴールとします。

ー越川さん自身の経験で、謝罪がより良い関係構築に繋がった事例を教えてください。
越川:私はマイクロソフト時代に最高品質責任者として、585回もの謝罪訪問を行いました。謝罪後、契約解除となった案件は1件のみで、28%の顧客が従来より契約を増やし、その累計額は63億円にのぼりました。

謝罪では、ボールペンを投げつけられたことや、コーヒーをかけられたこともあります。ちなみに独立直後に弊社と契約をしてくれた3社はかつてボールペンを投げられた顧客です。

相手の要求をすべて受け入れられなくても、逃げずに一緒に困難へ向き合う姿勢を見せたことが、顧客との同志的な関係につながったと思います。

謝罪の成否は、準備が9割。管理職が事前にすべきこと

ー謝罪が上手な管理職と、そうでない管理職。その違いは? ‎
越川:謝罪がうまくいくかどうかは、準備で9割決まります。

謝罪が上手な管理職は、謝罪訪問前に顧客のキーマンへ連絡し、問題の原因や相手の感情、再発防止策への受け止め方を確認します。理想的なのは、当日に初めて対話を始めるのではなく、事前のやり取りによって一定の理解を得ておき、訪問を「仲直りの握手をする場」に近づけることです。

一方で、謝罪に行くこと自体がゴールになっている人は失敗しやすいといいます。例えば謝罪の場にいわゆる定番と言われる手土産を持参すると、相手は「これで許してください」と言われているような印象を受けます。

顧客が本当に求めているのは、手土産でも形式的な謝罪文言でもありません。同じ問題が繰り返されない、あるいは問題が起きても影響を抑えられる仕組みです。

ー具体的に、どのような準備が必要なのか。
越川:時系列に沿った発生原因の整理と、実行可能な再発防止策の設計が最低限必要な準備です。

重要なのは、「二度とミスを起こしません」と約束することではありません。人やシステムが関わる以上、ミスを完全にゼロにすることは困難です。約束すべきなのは、再び問題が起きた際に影響を小さくするアクションです。

例えばシステム障害であれば、ネットワーク増強や、障害発生時にユーザーへ迅速に通知する仕組みなどが考えられます。「トラブルをなくす」と約束するのではなく、「トラブル時に混乱を抑えるための通知を行います」など、実行できる具体的な行動を約束することが優れた謝罪です。

また、営業部門だけで再発防止策を決めるのではなく、開発部門、総務部門、経営層など、関係部署と連携して会社としての方針を固める必要もあります。個人が独断で「対応します」と約束してしまうと、会社の意向や契約条件と食い違い、コンプライアンス上の問題につながる可能性があるので要注意です。

謝罪訪問、当日はどう動く? 信頼を損なわない立ち居振る舞い

ー実際の謝罪訪問での進行の基本は?
越川:まず謝罪に同行するメンバーとは、訪問先の受付で集合するのではなく、近くで事前集合し、最終確認を済ませてから向かってください。その際、服装に不備がないか、誰が謝罪文を読むのか、説明の役割分担をどうするかを確認し、メンバー全員そろってから受付へ向かいます。遅刻や服装の乱れは、相手の感情をさらに悪化させる要因になり得るので、絶対にしないよう気をつけてください。

また、受付で手続きを済ませ、会議室へ向かう移動中も重要です。このときに、「誰が謝罪の場に出席するのか」と「トラブルが現在どの程度の状態にあるのか」を確認してください。相手が部長なのか社長なのか、問題が収束に向かっているのか悪化しているのかによって、説明の内容や謝罪の深さは変わります。

そして、会議室では、相手から座るよう促されるまで座らないこと。謝罪文は原稿を読み上げるだけではなく、相手の目を見ながら要点を伝えること。国会答弁のように文書だけを見て話すと、気持ちが伝わりにくくなってしまいます。


ー謝罪の言葉で、特に意識すべき点は? ‎
越川:何に対して謝っているのかを具体的に特定することが重要です。

例えばシステム障害が起きた場合、「システム障害を起こして申し訳ありません」と言うだけでは不十分です。相手が本当に困ったのは、障害そのものではなく、業務が止まり、睡眠時間を削り、関係者への説明に追われたことかもしれません。「クラウドサービスの障害によって、皆さまの睡眠時間を削ってしまったことを申し訳なく思います」のように、相手が被った具体的な影響に焦点を当てて謝るべきです。これは、相手の痛みを理解していることを伝える行為です。謝罪は自社が起こした出来事だけを説明する場ではなく、相手の立場に立ち、何が負担になったのかを言葉にする場でもあります。

一方、責任が明確でないことまで広く謝罪しないことも大切です。 ‎ 「不快にさせてしまい、申し訳ありません」と曖昧な言葉を使うと、責任範囲が不明確になってしまう場合があります。誰に対して何について謝罪すべきかを特定し、必要な相手に必要な内容を伝える姿勢が大切です。


ー謝罪の場でやってしまいがちなNG行動は?
越川:代表的なものとして、腕時計です。謝罪中に視線が腕時計へ向くだけで、相手は「早く終わらせたいのか」と感じる可能性があります。高価な腕時計だけでなく、スマートウォッチなども外しておくほうが安全です。

また言葉選びにも注意が必要です。「だけど」「ですが」「でも」といったダ行の逆接表現は、相手の怒りを刺激しやすいです。特に「だけど」は、謝罪の直後に使うと弁明や反論として聞こえる恐れがあります。代わりの言葉として「しかしながら」など、より穏やかな接続表現を選ぶことで、言葉の引っかかりを減らせます。

謝罪では、失敗の確率を減らすことが大切であり、誤解される余地のある要素はあらかじめ取り除くべきです。

怒りの裏側にある「困りごと」に耳を傾ける

ー謝罪の場で相手の怒りとどう向き合うべき?
越川:怒りを完全に抑え込もうとするより、相手に感情を出してもらうことが大切です。相手が怒るのは「期待を裏切られた」と感じているからです。怒りの背景には、問題への徹夜での対応や、社内からの叱責、予定していた家族との時間の損失など、表面からは見えない負担があります。まずはその感情を言葉にしてもらうことで、初めて本音に近づけます。

逆に難しいのは、怒りの感情を出さず、一言も話さない顧客です。沈黙が続いてしまうと、謝る側は説明や弁明を重ねがちです。しかし、それは相手にとって言い訳として受け取られることがあります。怒りを表してもらえるほうが、何に傷つき、何を求めているのかを把握しやすく、次の対話につなげられます。

ただし、相手の発言で人格攻撃があった場合は受け流すべきです。 ‎ 人を潰すことを目的とした発言まで受け止める必要はありません。心身を損なうほどの状況であれば、自分を守ることを最優先にし、対応を中止する選択も必要です。

ーー

後編では、謝罪後のフォローや部下への向き合い方、トラブルを未然に防ぐチームづくりについて伺います。


(取材・執筆/菱山恵巳子)


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