余暇を楽しむ新しい働き方「ワーケーション」のメリットとは?
近年、テレワークの普及やDX化の推進などを受けて、私たちの働き方も多様化してきています。中でもコロナ禍によって急速に普及したテレワーク・リモートワークは、働く場所にとらわれない柔軟な働き方を実現 。
この記事ではテレワークの一環として、職場ではなく観光地などで余暇を楽しみながら業務を行う「ワーケーション」について、メリットやデメリット、導入事例などをご紹介します。
目次
ワーケーションとは?
「ワーケーション」とは従業員や会社員が職場や自宅を離れ、観光地やリゾート地で業務を行う働き方です。
普段の職場とは違う非日常な空間で働き、余暇を過ごすことで、日常にない気付きや学びが得られ、新たなアイデアを生み出したり、心身ともにリフレッシュすることが期待されています。心に余裕が生まれれば、創造性や生産性が向上することでしょう。
またワーケーションは通常のテレワークとは異なり、企業と社員の生産性だけでなく「地域」「企業」「社員」の三者にとっての価値を生み出す取り組みであり、観光庁など国が推進している取り組みである事も特徴の一つです。
ワーケーションのメリット
生産性の向上
普段の職場では差し込みの業務や電話などで一つの業務に集中するのはなかなか難しいことでしょう。その点、リゾート地や観光地は普段と違う非日常な空間です。職場を離れて静かな環境で集中して仕事に取り組むことができます。
また、都会の喧騒やビジネス街の空気と距離をおくことでリラックス効果も得られます。
普段とは違う場所で働く事で、違う気づきや学びが得られ、新しいアイデアを生み出す事も期待できるでしょう。
社員満足度の向上
ワーケーションは導入企業こそそこまで多くはないものの、参加した従業員には満足度の高い取り組みであり、社員満足度の向上が期待されます。実際、観光庁のモデル事業の参加者の満足度は90%を超えている、と言う結果も出ています。(※観光庁『ワーケーション&ブレジャー今年度事業の結果報告』より)
人材不足や離職率の増加はどの企業でも大きな課題ですが、社員の満足度を上げることは総じて離職率の低下にも繋がります。
『優秀な社員の離職を防ぐリテンションマネジメントの重要性』についての記事はこちら
多様な働き方の推進
観光地で働くための運用や制度の整備、ツール導入のノウハウは、ワーケーションに関わらず働く場所という制限を取り払うので、多様な働き方の推進が期待できます。オフィス以外で働くためのノウハウが企業にあるということは、働き方の選択肢の拡大に繋がります。
働き方の選択肢が増えれば、多様な人材とのマッチングが可能になるので、企業にとっても優秀な社員の確保が期待できますし、社員や就職希望者にとってもワークライフバランスを大切にしながら働けるので大きなメリットになります。
有給休暇の取得促進
ワーケーションは「休暇を取りながら仕事もする」という取り組みです。リゾート地にいながら仕事が出来るので、仕事と余暇のバランスが取りやすく、休暇が柔軟に取得できるようになります。
例えば二週間のワーケーションの内、週3日は仕事をして残りの2日は休みにしよう、というような事もできるので、結果として有給休暇の取得促進に繋がります。
日本の有給休暇の取得率は世界的に見ても非常に低く問題になっています。ワーケーションの導入によって有休取得率が上がる事は、企業にとっても社員にとっても双方のメリットになるでしょう。
地域活性への貢献
ワーケーションは企業と社員だけでなく、地域と共創していく取り組みです。閑散期や平日、長期滞在型の観光事業の創出、ビジネス人口流入による地域の活性化、雇用の拡大などが期待できます。
ワーケーションを通じて、企業と地域が繋がり新しい事業を生み出す可能性もありますし、社員がSNSなどで地域の魅力を拡散する事で知られていなかった地域の魅力の発見にも繋がるかもしれません。
ワーケーションのデメリット
運用するためにコストや事前手続きが必要
ワーケーションを行うには、オフィス外で働くための事前準備が不可欠です。ノートパソコンの支給やインターネット環境の整備、オンライン会議ツールの導入や仕組み化が必要であり、事前準備やコストがかかります。
また、勤怠管理システムなどのシステム面の見直しや、場合によっては就業規則や人事評価制度の見直しも求められるでしょう。労務管理に関する社内規定の変更も必要になるため、事前に運用から実施までの時間を把握しておくことが重要です。
管理職が知っておくべき『労務管理の基礎知識』はこちら
セキュリティリスクがある
社外から仕事の情報を持ち出す事になるので、セキュリティリスクが上がることも考慮に入れる必要があります。
フリーWi-Fi下では暗号化していないデータは簡単に盗み出せてしまうため、業務内容によっては安全性の高いVPN(Virtual Private Network、専用回線)の整備や、端末にデータを保存できないセキュリティPCの導入を考えるのも一つの方法です。
オンとオフの切り替えが難しい
ワーケーションは基本的に自身の裁量で仕事をする事になるので、職場で働く時以上に社員の自己管理が求められます。いつ仕事をしていつ遊ぶのか、という時間管理が社員自身に委ねられるため、オンオフの切り替えが難しいと言われています。
休みは休み、仕事は仕事と、きちんと切り替えられる自律できる社員ばかりではないため、会社としても労働時間の申請や業務内容の報告など、ある程度決まりを設ける必要があるかもしれません。
また社員自身も自分をコントロールして、仕事と余暇を両立できるようスケジュール管理能力を高める必要があるでしょう。
セルフマネジメントについての記事はこちら。
ワーケーションを導入するポイント
ワーケーションは企業・社員・地域にとって大きなメリットになりますが、その反面、導入には時間や仕組みが必要な取組みです。
ワーケーションを導入する際には以下をきちんと策定し、内容を固めた上で導入する必要があります。
・就業規則や労務管理の確認
現在の就業規則や労務管理などがワーケーションに対応していない場合、規則の改正が必要です。必要であればシステムの見直しも検討しましょう。
・Web会議ツールやセキュリティPC、ネットワーク環境などツールと環境の整備
外部で仕事をする際に、社員の業務の妨げとならないよう環境の整備を行いましょう。セキュリティにも考慮しながら、ツールや環境の整備を行う必要があります。
・ワーケーション運用ルールの決定
「上長への報告」や「チームメンバーとの情報共有」など、企業の業務内容に沿った独自の運用ルールを策定します。ワーケーションを実施する部署の上長などと話し合いながら決めていきましょう。
・社員への周知
ワーケーションの実施が決まったら、趣旨や目的をあらかじめ社員に周知し、共通認識を持ってもらう事が大切です。必要であればセルフコントロールやスケジュール管理などの研修を行ってもいいかも知れません。
・事前事後の効果測定
新しい取り組みを行った際には、事前事後でどのような変化があったか、企業の生産性向上に繋がったかなどの効果を可視化する事が大切です。
ワーケーションの事例
最後に、いくつかワーケーションの事例を紹介します。
日本航空株式会社
日本航空株式会社では2017年に有給休暇の取得率向上を目的として、ワーケーションを導入しています。
テレワークを希望する社員に事前の休暇申請と当日の就業場所の報告、実施日は始業と終業の時間を上長に報告することを義務とし、システムへの登録も行い業務の進捗状況を可視化しています。有給休暇取得の推奨から導入したプロジェクトであり、業務の時間より休暇の時間を多くするなどの工夫をされているそうです。
結果的に、社員の長期休暇取得中に仕事が溜まってしまうという不安やストレス、長期休暇への抵抗感を解消でき、モチベーションを上げる事ができている事例です。
日本マイクロソフト株式会社
日本マイクロソフト株式会社では、「いつでもどこでも誰とでもコラボレーション」をコンセプトにワーケーションの枠にとらわれない制度を導入しています。
会社で仕事をするのが『日常』、オフィス外で働くのが『特別』ではなく、“日常”と“特別”という関係性やルールを全てクリアにし、場所に関わらずに働ける制度設計を行うことで、いろんな場所でいろんな人とのコラボレーションを生み出していくことに重きを置いているようです。
株式会社野村総合研究所
株式会社野村総合研究所では、2017年から「三好キャンプ」と呼ばれる、1ヶ月間の中期滞在型キャンプ(ワーケーション)を年に3回実施しています。
社員の業務的なモチベーションを維持すること、普段と違う環境で働くことで社員に気付きや発見が生まれ、イノベーションの創出に繋がることへの期待が主目的となっています。
また三好市役所に出向していた社員がコーディネーターとなったことで、地域とも繋がり、地域の高校の出張授業などのコラボレーションが生まれている事例でもあります。
出典:観光庁『ワーケーション&ブレジャーの導入・推進企業のご紹介 』
まとめ:ワーケーションを導入して余暇を楽しむ働き方を実現しよう
ワーケーションは社員だけでなく企業にとっても、自社の生産性を向上し、社員満足度も高めるメリットの大きい取組みです。事前の準備やルールの策定をしっかり行い取り組む事が大切です。
また会社がワーケーションを導入した時には、管理職やリーダーの方は自部署で必要になるルールをきちんと考え、事前に周知するようにしましょう。