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管理職が知っておくべき!労務管理の基礎知識

労務管理は人事の仕事と思われている方も少なくないと思います。たしかに、雇用契約書の締結や、給与計算、社会保険関連の手続きなどは基本的には人事部門の労務担当者が処理しています。その意味で「労務管理は人事の仕事」という面があることに間違いはありません。しかし、同時に、適切な労務管理の実現のためには、人事だけではなく、現場で従業員の働き方をコントロールしている管理職が正しい知識を持ち、適切に行動することが不可欠です。この記事では、管理職が知っておくべき労務管理の基礎知識を解説します。

なぜ管理職にとって労務管理が大切なのか

労務管理とは、労働契約の条件や労働環境を始めとした「従業員の労働に関する様々なことがら」を管理する業務をいいます。この労務管理は、「適法性の確保」と「生産性の向上」の2つの観点で、管理職の皆さんにとってとても重要な役割といえます。

まず、1点目の「適法性の確保」とは、労務管理を適切に行わなければ、会社に違法行為をさせることになってしまうということです。

労働者は、雇い主である会社と比較して交渉力が低いです。よって、会社が労働者を自由に管理できるようにしてしまうと、労働者の安全や健康を犠牲にしてまでも、会社の利益を確保しようとしてしまう恐れがあります。

そこで国は、労働基準法などの法令で労務管理の最低ラインを定めています。そのラインを下回るような労働条件の取り決めを無効とし、一定の場合には会社に対してペナルティを課すこととしています。つまり、個々のメンバーが納得している働き方であっても、法が定める最低ラインを下回ってしまうと違法行為になってしまうのです。

そのため、現場で具体的な指示を出す管理職がこの「最低ライン」を正確に理解していないといけません。さもなければ、悪気がなかった場合や、むしろ会社やメンバーのためによかれと思ってした判断により、会社に違法行為をさせてしまうことに繋がる恐れがあるのです。

続いて、2点目の「生産性の向上」については、管理職の皆さんには釈迦に説法かもしれません。過重労働が常態化している職場や、ハラスメントが横行している職場、または安全が確保されていない職場で業務に集中することは困難です。そして、人材の流動性が固まっている昨今では、そもそも人も定着しないでしょう。つまり、労務管理が適切に行われていない職場ではチームメンバーが十分に能力を発揮することができず、チームの生産性も中長期的に見て低下してしまいます。

そのため、チームの生産性を向上させるという観点でも、適切な労務管理は必要不可欠なのです。

適切な労務管理を実現するための視点

このように、管理職にとって労務管理の重要性は高いのですが、具体的にどのような点に気をつければよいのでしょうか。

そこで、前述した労務管理の2つの要素、「①適法性の確保」と「②生産性の向上」を実現するためにもっておきたい視点をお伝えします。

①【適法性の確保】法令に定められたルールを正確に理解する

法令に定められたルールの理解を抜きにして、適法性を確保することはできません。とはいえ、管理職として押さえておかなければならないルールは実はそう多くはありません。この記事でも、法令上のルールの重要ポイントを解説しますので、ぜひ参考にしてください。

なお、適法性を確保するという観点では、自身の経験則や個人の価値観は有害だと心得てください。管理職の中には、若いうちは労働時間など気にせず身を粉にして働くべきだという考えの方もいるかもしれません。また、メンバーの中にもそのような働き方を歓迎する人がいる場合があるのも事実です。しかし、このような個人の価値観が違法行為を正当化してくれることはありません。

また、基本的に労務管理に関する法規制は、管理する側にとって年々厳しい内容(労働者に対する保護を手厚くする内容)に変わり続けています。そのため、過去の法知識をアップデートせずに「昔はここまではOKだった」という記憶に頼って労務管理をしてはいけません。法改正にキャッチアップできていないことにより足元をすくわれることにもなりかねないのです。

適法性確保のためには、個人の考えに頼ることなく、法令のルールを把握し、遵守しようとする姿勢が大切になります。

②【生産性の向上】個々のメンバーの違いと向き合う

適法性の確保と異なり、生産性向上のためには、各従業員の特性やニーズを尊重した対応を採ることが不可欠です。例えば、仕事を通じて多くの経験を積みたいメンバーと、家庭と業務のバランスを重視しているメンバーに対する働き方の管理は、全く別の発想で対応すべきです。前者には働きすぎを防ぐ管理が、後者には勤務時間調整の必要があるからです。また、はっきりダメ出しをしなければ響かないタイプもいれば、強いフィードバックを受けるとショックを受けてしまい、肝心のフィードバックの内容が心に残らないタイプもいます。

つまり、生産性向上の観点では、管理職の個人的な仕事観を持ち込むことなく、個々のメンバーのニーズや特性に応じて、柔軟性を持って対応を考える必要があるのです。

とはいえ、間違えてはならないのは「適法性の確保」と「生産性の向上」の優先順位です。特に、リソースが逼迫している状況下では、適法性の確保には一時的に目をつぶりたくなることもあるでしょうし、やる気に満ち溢れたメンバーに「それ以上働くな」と言いづらいという気持ちも理解できます。しかし、こと労務管理においては、このような事情は違法性を治癒してくれる要素にはなりません。そのため、適法性の確保が第一優先である、というスタンスは揺るがないようにしなければなりません。

管理職が押さえておくべき労務管理に関する法制度

労務管理において、管理職が押さえて置くべき具体的な法制度として、「労働時間管理」「有給取得」「ハラスメント対応」の3つがあげられます。以下、詳しく見ていきましょう。

・労働時間管理
まず、管理職が認識しなければならないのは、残業時間です。具体的には1日8時間または週に40時間を超える時間の労働をさせることはできないことが原則です。そのうえで、会社と労働者が時間外労働に関する協定(36協定)を結ぶことによって、その協定で定められた上限まで労働時間を延長することが可能になります。

そのため、まずは自社の36協定に定められた時間外労働時間の上限を把握すること。そして、その上限の範囲内で部下の業務が収まるように管理・調整することが、労働時間管理のはじめの一歩ということになります。

なお、時間外労働時間の上限には、「月に45時間・年に360時間の範囲内で定められる一段目の上限」と、「臨時的な特別な事情がある場合に限って年6回を上限に適用することが可能な二段目の上限(特別条項)」の2種類があります。

特別条項については、ざっくりと「年に6回まで使える限界突破」のような捉えられ方をされがちです。しかし、これは一時的な業務の繁忙や突発的なトラブル対応などの「臨時的な特別な事情がある場合」にのみ例外的に認められる特別な措置です。毎年6回までは一段目の上限を超えられる前提で、今年はあと●回までいける、といった認識をしている方は、考えを改める必要があります。

・有給取得
管理職の方は、人事部門からの「●●さんは●月までに有給をあと●日取得して頂く必要があります」といった注意喚起を目にしたことがあるのではないでしょうか。これは、年10日以上の年次有給休暇(有給)が付与される労働者に対して、年に最低5日は有給を取得させることが法令で義務付けられたことに対応するものです。
そして、6ヶ月以上、フルタイムで継続勤務した従業員には、原則として10日以上の有給を付与しなければなりません。つまり、シンプルに言い直せば「フルタイム従業員には年に5日以上有給を取得させなければならない」ということになります。

管理職は、メンバーが期限ギリギリになって、5日間の有給を無理やり取得しなければならないといった事態に陥ることのないよう、普段から計画的に有給を取得するように声掛けをするようにしましょう。

また、有給取得について管理職が認識しておくべきもう一つの重要な要素に「時季変更権」があります。これは、労働者から請求されたタイミングに休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に、会社側が有給の取得タイミングを変更することができるという権利です。しかし、この時季変更権を行使できるか否かは、有給取得申請者の担当する作業内容、繁閑の状況、代行者の配置の難易等の様々な事情を考慮して客観的に判断する必要があります。「明日休まれると困っちゃうから」といった程度の理由で行使できるような権利ではありません。管理職は部下の有給取得申請を承認する権限を持っていることが多いと思いますが、部下の有給取得申請を却下する際は、独断ではなく、人事担当者や、顧問の弁護士・社労士などの専門家にその適否を確認することをおすすめします。

・ハラスメント対応
法令上、会社はハラスメント防止に必要な措置を講じる義務を負っています。昨今では様々なハラスメントが取り上げられており、どの範囲まで対応すべきか悩ましいところではありますが、少なくとも、セクハラ(セクシャルハラスメント)と、パワハラ(パワーハラスメント)については、十分注意を払う必要があります。

まず、セクハラについては、部下との関係性や性別に関わらず、性的な言動を一切しないことが基本です。多くの職場では、業務上、性的な言動を発する必要性はないからです。仮に相手が嫌がっていなかったとしても、そのような言動を目や耳にした周囲の人に悪影響が及ぶことは避けられません。また、そもそも上司と部下という関係においては、本当は嫌だと思っていることも口にはしづらい可能性も高いからです。

他方、パワハラについては、セクハラと比べ、線引きが難しく、悩ましい面があります。管理職という立場上、時に部下に厳しく接する必要もあるためです。やや抽象的にはなってしまいますが、業務上の必要性があるのか(必要性)と、厳しさの程度が適度か(相当性)の両面から、部下への対応の適切性を自問自答し続けるしかないのだと思います。

なお、パワハラについては、「ハラスメントの種類とは? 職場でパワハラが発生する理由、管理職としての対処法」において詳しく解説されていますので、こちらもぜひご参照ください。

まとめ

管理職にとって重要な役割のひとつである労務管理。適切な知識を身に付け、実行することは、より良いマネジメントへとつながります。ぜひ、この記事を参考にしてみてください。

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片岡 玄一

SIer、移動体通信キャリア、ウェブサービス事業者などで法務を担当し、複数企業で法務部門長を歴任。
著書:良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方(共著/技術評論社)

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