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ハラスメントの種類とは? 職場でパワハラが発生する理由、管理職としての対処法

執筆者:河村晴美 

 

現在、日本国内にはさまざまな種類のハラスメントが存在しています。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントはニュースとして取り上げられることも増え、社会問題として認識されることが浸透してきました。一方で、職場では旧来のパワーバランスや仕事環境の変化にともない、新しいハラスメントが次から次に発生しています。まずは、働く私たちがハラスメントについて正しい知識を習得しましょう。

ハラスメントとは? ハラスメントの種類

ハラスメント(Harassment)とは、一言でいうと「嫌がらせ」や「いじめ」です。
以下に、ハラスメントの種類を紹介します。


1.パワーハラスメント
上司など優位な立場の人が、劣位や下位の従業員に対して嫌がらせやいじめを行うこと。 業務上の指導や評価を理由に、不当な要求や圧力をかけるなどの言動または行為を指します。

2.セクシュアルハラスメント
性的な態度や行動によって相手を不快にさせる行為。性別や年齢、プライベートや容姿について不必要な発言をしたり、身体に触れたりする行為が含まれます。また、言葉やジェスチャー、写真などを使って性的な嫌がらせを行う場合も含まれます。
男性から女性に対して行なう場合が多いですが、女性から男性、また同性同士で行われる場合もあります。

3.セカンドハラスメント
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどを受けた人が、その後別の上司や周囲の同僚から二次被害を受けること。勇気を出して相談をしたにもかかわらず、相談窓口や担当者より、感情に配慮されずに調査面談をされたり、または逆に批判されたりする事態も含まれます。セカンドハラスメントを恐れて声を上げられない社員も存在するといわれています。

4.マタニティハラスメント
妊娠や出産を理由に女性従業員を差別し、嫌がらせを行う行為。マタニティハラスメントは、女性の職業的な機会やキャリアを阻み、不利益を与えます。

5.モラルハラスメント
言葉や態度、身振りなどによって人を不安にさせたり、または巧妙に支配したり、人格や尊厳を傷つけるなどの精神的な暴力や虐待の総称。パワハラのように大声で叱責したり、殴る・蹴るなどの肉体的にダメージを与える直接的な暴力行為ではなく、精神的な苦痛を与える嫌がらせのことです。

6.ジェンダーハラスメント
男らしさや女らしさを強要するハラスメントのこと。例えば「男だったらもっと強気で行け」「女には管理職は無理だ」などの思い込みによる発言や、性別への偏見を原因とした不公平な評価、採用や昇進機会の損失などです。また、採用の条件が男女で異なる場合や、人員配置に男女いずれかを優先させる扱いもジェンダーハラスメントの一種となります。

7.リモートハラスメント
リモート環境下ならではのハラスメント全般。例えば、業務に関係がないにも関わらず、Webカメラに映った部屋の様子を細かくチェックしたり、必要以上にオンラインに繋いておくことを強要するなどを指します。

8.アルコールハラスメント
飲酒に関連した嫌がらせ行為や迷惑行為のこと。上下関係を理由に囃し立てなどを行い、本人の意向を無視して飲酒を強要したり、酔ったことで暴言や暴力などの迷惑行為を行ったりすることなどが該当します。

9.スモークハラスメント
喫煙に関する嫌がらせ行為のこと。例えば、非喫煙者に対して受動喫煙させてしまう行為や、喫煙者が非喫煙者に対して喫煙を強要する行為などを指します。また、断りにくい優位な関係性の中で「たばこを吸っていいか」と提案をしたり、勤務時間中に不当な喫煙時間を取得したりするのもスモークハラスメントにつながります。

10.スメルハラスメント
においによって周囲を不快にさせる行為のこと。一般的に、口臭や体臭を指しますが、強すぎる香水や柔軟剤のにおいもスメルハラスメントを引き起こす要因となります。体質的な原因もあり、デリケートな問題なので対応は難しいです。

11.テクノロジーハラスメント
パソコンやタブレット、スマートフォンなど、ITスキルやハイテクノロジー技術に詳しい人がそうでない人に対して、いじめや嫌がらせ、またはからかいや嘲笑したりすること。

12.リストラハラスメント
組織内でのリストラ(人員削減)対象者となる従業員に対して嫌がらせを行い、自主退職に追い込む行為。簡易的な業務のみを押し付け、仕事のやりがいを奪ったり、逆に膨大な量の業務を押し付け、精神的に追い込むことなどが挙げられます。また、退職を拒否している社員にしつこく退職勧奨をすることもリストラハラスメントにあたる可能性もあります。


耳慣れないハラスメントもあったかもしれません。ハラスメントの種類が増えたのはより細分化されてきたからであり、その理由は社会の問題意識が高まっていることを反映しているといえるでしょう。今後も『〇〇ハラスメント』という言葉が出てくるかもしれませんが、大事なことは、枝葉末節にとらわれるのではなく、冒頭でお伝えしたように、そもそもハラスメントとは「嫌がらせ」や「いじめ」のこと。基本の定義を理解して、あとは類推して判断していきましょう。

特に問題となるのが、パワーハラスメント

数々のハラスメントの中でも、近年、特に問題視されているのがパワーハラスメント(パワハラ)です。厚生労働省の「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、2019年に全国の総合労働相談センターに寄せられたハラスメント(いじめ・嫌がらせ)相談件数は87,570件となり、10年連続で最多を更新していました。

厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況

このような社会の状況を背景として、2020年にはパワーハラスメントの防止を企業に義務付ける「パワハラ防止法(正式名称は、改正労働施策総合推進法)」が施行されました。大企業は2020年6月1日より義務化、中小企業を含むすべての事業主も 2022年4月1日より義務化されています。

パワーハラスメントの定義

パワーハラスメントの定義は、厚生労働省により明確に言語化されており、
「(1) 優越的な関係を背景に」「(2) 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」「(3) 就業環境を害する」という3つを要件としています。
さらに、厚生労働省より『職場で起きる典型的なパワーハラスメント6類型』が例示されています。


『職場で起きる典型的なパワーハラスメント6類型』
①精神的な攻撃
②身体的な攻撃
③人間関係からの切り離し
④過大な要求
⑤過小な要求
⑥個の侵害


※ただし、これらに該当しない場合も、パワハラに該当するケースもあります。

出典:厚生労働省明るい職場応援団HP


職場でパワーハラスメントが発生する理由

ハラスメントの中でもなぜ、パワーハラスメントは発生しやすいのでしょうか? 3つの原因があります。


①コミュニケーション不足による誤解と不信感

令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査の報告書にもあるように、パワハラが起こる原因には、上司と部下のコミュニケーション不足があります。コミュニケーション不足は、相手への不信感を招きます。例えば、ミーティングの時に上司が眉間にしわを寄せる表情をすると、不安を感じませんか? 実際にあった私の経験談です。顧客企業へのプレゼン資料を作成して、課長に確認していただいた時のことです。課長は頬に手を当てて、しきりに首を横にふるしぐさをしたのです。

(何か不手際があったかも…)と不安になりつつも、恐る恐るアドバイスを求めたところ、なんと昨晩から親知らずが痛くて痛くて辛いとのこと。「もう、先に言って下さいよ〜」と言ったところ「ゴメンゴメン」と苦笑されて、私もホッとしました。

私はこの時以来、相手のしぐさや言葉について、自分で勝手に解釈せずに確認することが大切なのだと気づきました。コミュニケーション不足は誤解や疑心暗鬼を生みやすいです。「それって本当?」「ネガティブ解釈してない?」と自分を客観視してみると、案外相手はそんなことは思っていなかったという場合もありますね。

出典:「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」

②立場の固定化、組織の硬直化

今も多くの日本型企業が採用している終身雇用&年功序列の制度では、社歴の長い年長者が組織で上の立場になる組織構造が継続されています。このような組織では、一部の従業員が優越的な立場を利用して、立場の弱い人に対してマウント取りや高圧的な態度で接することがあります。

年長者や役職者に対して、下の人が自分の意見を伝えることはなかなか難しいものです。その理由は、声を上げることで人間関係が悪くなったり、さらに攻撃されたり、不利益を被るかもしれないなどの不安を感じるからです。

人材の流動化が少なく、外からの視点が入りにくい組織では、世間一般の認識とズレていることに気づきません。例えば、高圧的態度、人格否定、侮辱などが当たり前の言葉づかいや態度として常態化していることを、中にいると普通に感じてしまっていることがあります。
閉じられた組織は、問題が明るみになりにくく、どうしても隠蔽体質になりやすいです。だからこそ、自浄作用、つまりセルフチェックを発動しなければいけません。


③過度な成果主義がもたらす、ストレスの玉突き事故

人間は過度にプレッシャーをかけられ追いつめられると心の余裕がなくなり、他の何か・誰かに八つ当たりをしてしまいます。ハラスメントが起きる職場では、他者を非難し攻撃する言葉が投げつけられて、ますます不機嫌の悪循環にはまっていきます。

まさに、ストレスの玉突き事故です。このような職場で、仲間と組織のために貢献したい!という気持ちになれるでしょうか?

令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査の報告書にもあるように、パワハラ(セクハラも含む)が起こる職場の特徴の1つに『業績が低下している/低調である』とあります。

過度なプレッシャーは「苦痛から逃げたい」という気持ちが強くなるあまり、正常心を失わせて冷静な判断ができなくなってしまいます。行き過ぎた成果主義は、時に企業理念を逸脱させて、倫理観を失わせ、法令遵守の精神を忘れさせてしまう危険さえもあるのです。

管理職がすべきハラスメント対策

ハラスメント対策としてまずすべきことは、部下と率直に対話できるコミュニケーションに力を入れることです。「率直な対話」とは、ただ仲良くすれば良いわけではありませんし、甘やかしでもありません。お互いが率直に自分の考えを伝え合えることで、結果的に誤解や不信感がなくなり、ハラスメントも回避できるのです。

コミュニケーションの目的は、信頼関係を構築して、価値ある仕事をするためです。

実は、パワハラは、適切な指導なのかの判断が難しいと言われています。そのために、上司は本音では部下を伸ばしてあげたいと思っていても、パワハラだと言われるのは不本意なので「事なかれ主義」のマネジメントをしている傾向も見られます。

一方で部下にとっても、上司から適切な育成指導をしてもらえないと、成長角度も上がりませんし、成長実感を得られません。つまり、ビジネス書を読んでもリーチできない、現場感覚で磨かれるべき経験スキルを学ぶ機会が無いということです。

このブラックボックス化されている重要なスキルに気づいている、一部の優秀な若手社員は、叱られることでもっと伸びていきたいと思っているのです。

【2023年 上司と部下の意識調査 報告書】


このように、伸ばしたい上司と伸びたい部下には利害関係は一致しているのですが、コミュニケーション不足による遠慮と誤解が発生しているせいで、この状態が蔓延化してしまっています。

パワハラをしないために、目指すべき管理職像とは

では、パワハラを避けるために、どんな管理職を目指すべきなのでしょうか? 典型的な4つの管理職像を紹介します。

●目指すべき「ハツラツ上司」
目指すべきは、思考力が高く、部下を信頼する「ハツラツ上司」です。仕事への熱量も高く、部下へのサポート愛も熱いタイプです。ハツラツ上司は精神論ではなく、思考力も高いので、チームが迷走しそうになった時には「何のために?誰のために?」と目的思考で本質を語ってくれます。明晰な思考力で分析しながら、メンバーが動きやすいように、時には後ろに回って応援をし、空気を明るくしてくれて、メンバー達が安心して能力発揮できる場を創り出してくれます。

典型的な口ぐせ
「いいね。やってみよう」
「さらに3手先を考えたら、他にやるべきことは何がある?」

●部下を萎縮させる「ガミガミ上司」
声を大きくすることで存在感を示すタイプで「部下は私の言うことに従うべきである」と考えています。過去にはうまくいっていたかもしれませんが、現代において再現性はかなり低いです。世の中の大局には疎いのですが、部下の些細な行動が気になり、ダメ出しをしがちです。繊細な部下は萎縮し、優秀な部下は呆れるまたは離れていってしまいます。

典型的な口ぐせ
「何度言ったらわかるの!」
「なんで私が言った通りにやらないの?」

●意志が希薄な「ムリムリ上司」
思考力は高いのに熱意に欠けるので、一言で言うと「成し遂げたい」意志と意欲が低いタイプです。せっかくの思考力を課題解決と価値創造に活かさず、部下育成にも冷ややかです。そのため、頭の中は過去事例の記憶と分析が占めています。部下を応援するよりも、昔のミスや失敗についてよく覚えています。

典型的な口ぐせ
「以前にこんなミスしたよね? 君には無理だし向いてないよ」
「以前にこんな失敗があった。だから今回もうまくいくはずがない」

●背中を見て学べ「ダンマリ上司」
言語化が苦手なため、黙して語らずタイプの上司です。経営層からの方針や上席からの指示も、自分の頭で組み立てて部下へ伝えることをせず、上から言われたままを下へ伝達してしまいます。
上司と部下のどちらが「背中を見て学べ」の解釈の解像度は高いでしょうか? 部下のレベルで解釈させるのではなく、ベテラン上司が教えることが本来の「技の伝授」です。

典型的な口ぐせ
「上が言ってるのだから、やらなければいけない」
「つべこべ言うより、言われた通りにやって」

【まとめ】

部下メンバーをマネジメントする際に、気合いで引っ張る精神論では限界がありますし、人間は合理性だけでは動かないのも事実です。

正解が無い時代かつ多様性社会である現代のリーダーシップは、以前にも増して「ハツラツ上司」のように「感情」と「思考力」の2軸の高さが求められています。

AIなどの台頭で、より一層、人間の価値を考えなければいけない時代です。だからこそ、過去にうまくいったマネジメント手法を単に踏襲するのではなく、今の時代にマッチしたマネジメントを取り入れることがハラスメント対策にもつながるのです。

河村 晴美のイメージ画像

河村 晴美

NHKクローズアップ現代に出演した『叱りの達人』
これまで24年間、のべ15万人へ人材育成の講演研修の実績あり
営業や採用事務を経験、部下の育成などにも携わる中で「一声かけると人は
変わる」と体感。心理学などを学び、キャリアコンサルタント、コーチング
の資格を取得。部下育成研修などで講師を務める中「ほめるだけで人っての
びるのかな」という参加者の管理職の言葉から、ほめるの対義語である『叱
る』の意味を考えるようになる。自身もパワハラされた経験から、ただ怒鳴
ったりダメな点だけを伝えるのではなく「敬意と厳しさを両立させて、感謝
される叱り方」を具体的に伝えることで、パワハラのない社会を作りたいと
活動を行っている。京都女子大学卒
叱りの達人協会(有限会社ハートプロ)

【書籍】
「やる気をONする叱り方」(PHP研究所)等多数あり
【メディア出演】
日本経済新聞、読売新聞、産経新聞、朝日新聞、奈良新聞、NHK、
読売テレビ、関西テレビなど多数。
KRY山口放送ラジオ『どよーDA』月1回のレギュラー出演中
【趣味】
落語鑑賞や宿坊体験、3歳の頃より母親から指南された書道

 

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