世代間の意思疎通が進む教育支援制度「リバースメンタリング」とは
会社は幅広い年齢層の人たちが協働する空間です。同じチーム、同じ部署でも社員の年代が違うことはままあり、上司と新入社員であれば一回り以上歳が離れていることも珍しくありません。年齢差から、若手社員とコミュニケーションが取り辛かったり、価値観が大きく違うこともあるでしょう。またチーム内でのコミュニケーションが少ないと変化も生まれにくい傾向にあります。
この記事では、世代間の意思疎通を進めるための教育支援制度「リバースメンタリング」について紹介します。
目次
- リバースメンタリングとは?
- ■リバースメンタリングのはじまり
- ■メンタリングとの違い
- ■リバースメンタリングを導入すべき組織
- リバースメンタリングのメリット
- 1.ベテラン社員の視野を広げる
- 2.若手とベテランのコミュニケーション促進
- 3.管理職のマネジメント力向上
- 4.若手のモチベーション向上
- リバースメンタリングの実施方法
- (1)人選を行う
- (2)目的の共有
- (3)オリエンテーションを行う
- (4)リバースメンタリングの実施
- (5)フォローアップ
- リバースメンタリングの注意点
- 1.事前に目的を共有する
- 2.メンターの心理的負担に配慮する
- 3.フォローアップの体制を整える
- 4.評価への反映を検討する
- リバースメンタリングの導入事例
- まとめ:
リバースメンタリングとは?
リバースメンタリングとは若手社員がメンターとなり、先輩社員や上司をサポートする育成手法です。先輩社員と若手社員の役割が逆転することから「逆メンター制度」とも呼ばれています。
若手社員が指導者の役割を担うので、一般的には「若手社員が先輩社員よりも詳しいこと」が指導内容となります。たとえばPCなどのデジタル機器や最近のSNSについて、詳しくない上司に対して若手社員が操作方法をレクチャーしたりします。
■リバースメンタリングのはじまり
リバースメンタリングがはじまったのは1990年代後半。米国のゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEOジャック・ウェルチ氏が、同社のCEO時代、若手社員をマネジャーのメンターにする制度を導入したのがはじまりだと言われています。その試みが成功したのをきっかけに、制度が国内外に広がっていったようです。
■メンタリングとの違い
一般的に「メンタリング」とは、指導役の社員(メンター)と指導を受ける社員(メンティー)が一対一で組み、メンティーの仕事内容からキャリア支援など、社会生活や心理的なケアをおこないながら、成長を支援する人材育成手法です
リバースメンタリングは名前の通り、メンターとメンティーの役割が逆になっています。リバースメンタリングは若手社員の知識を先輩社員に共有することを目的にしており、心理的なケアなどは目的に含まれない場合が多いです。
■リバースメンタリングを導入すべき組織
リバースメンタリングは世代を超えたコミュニケーションを活性化させる取り組みであり、縦の繋がりが浅く、組織内が硬直化傾向だと感じた時に推奨されます。
たとえば下記のような組織が、リバースメンタリングを導入すべき組織として挙げられます。
・年功序列型の組織
・上下関係がはっきりした組織
・平均年齢が高い組織
・ダイバーシティを推進したい組織
上記のような組織は、世代間の意思疎通が阻害されがちで、世代を超えた知識や価値観の共有がうまく行われていない傾向にあります。現在の社会は変化が目まぐるしく、同じ考え方で凝り固まってしまうと、今後生き残っていけないと言われています。リバースメンタリングを行うことで、新しい価値観を発見したり、今までなかった発想が生まれる良い機会になるはずです。
リバースメンタリングのメリット
ではリバースメンタリングの具体的なメリットはどのようなものがあるでしょうか。
1.ベテラン社員の視野を広げる
若手から新たな知識や価値観を習得できるので、ベテラン社員はこれまで以上に視野が広がります。
育ってきた環境で価値観が異なることは当然ですが、同世代の人たちとばかり仕事をしているとどうしても価値観が固まってきます。例えば商品開発部門であれば、若手世代の消費者のニーズからどんどん遠ざかっていくことになり、それは致命的です。
若手社員の物事への見方を聞いたり、雑談の中から普段利用しているサービスを知るだけでも、視野は広がっていきます。ベテランには若手にはない積み重ねた経験と実行するために必要な知見があります。若手から新しい知識を得ることで、新しい仕事に繋げていくことができるかもしれません。
2.若手とベテランのコミュニケーション促進
リバースメンタリングは若手とベテランのコミュニケーションを促進します。普段はあまり話すことのないメンバーと会話を重ねることで、コミュニケーションの量が増え、少しずつメンタリングの時間外でもフラットなコミュニケーションが取れるようになってくるでしょう。
そうなれば縦の関係向上が見込め、チーム力の向上はもちろん、引いては会社全体をオープンフラットな関係性にしていくことが望めます。
3.管理職のマネジメント力向上
普段は指導をしている管理職もリバースメンタリングでは教わる側です。若手の価値観や考え方を知ることでメンバーへの理解も深まり、マネジメントを行う時に今まで見落としていたことや、気をつけるべき点など新たな発見があるかもしれません。
関わり方が変わることで、見えるものも違ってきます。リバースメンタリングは管理職が若手の考え方を理解する貴重な機会になるでしょう。
管理職とメンバーの信頼関係構築の記事はこちら
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4.若手のモチベーション向上
リバースメンタリングは、若手のモチベーション向上にも効果があります。
単純に先輩や上司とのコミュニケーション量が増えることによって、お互いの理解度が高まります。また年上の先輩や上司に指導する機会は、若手にとっては自分に自信を持つきっかけとなるかもしれませんし、将来マネージメントを行う際のシミュレーションの一環になるかもしれません。
関係性が良くなることで、普段の仕事も円滑に進むようになり、離職防止にも繋がると考えられます。
リバースメンタリングの実施方法
具体的なリバースメンタリングの実施方法について紹介します。
(1)人選を行う
まず、リバースメンタリングの人選を行います。
会社側は「誰に」「どんな効果を期待するのか」「どんな変化が起きて欲しいのか」を事前に明確にし、適切な人選を行う必要があります。
組み合わせも重要です。一般的に直属の上司部下はしがらみが多く指導がしづらいということも多いので、別部署の上司と部下を組み合わせにするケースが多いようです。上司・部下それぞれのキャリアやスキル、考え方などを加味しながら良い組み合わせを考えていくのが良いでしょう。
(2)目的の共有
人選が決定したら、メンター・メンティーそれぞれに目的の共有を行います。
また一般的なメンタリングとは違い「指導内容」についても事前に共有しましょう。メンター(若手社員)に期待していること、メンティー(ベテラン社員)に期待していること、また両者に対しての心掛けやサポート体制などを明らかにして、共有しておくことが成果を最大化するためには重要です。
(3)オリエンテーションを行う
実施内容が決まったら、オリエンテーションを実施しましょう。人事担当者がファシリテーションを努めて、改めて制度の目的やルール、実施期間などについて周知します。その場でメンター・メンティーが簡単にお互いを知ることができるようなコンテンツを用意してもいいかもしれません。
また、必要に応じて事前にメンターが指導方法について学べる機会を用意するのも良いでしょう。
(4)リバースメンタリングの実施
オリエンテーションが終われば、実施期間に入ります。実施中に起こった問題や疑問点はすぐに相談できるようにサポート窓口は明確にしておきましょう。
また事前に関係部署にも同意を得、簡単に共有しておくことも大切です。可能なら中間報告などを行えば『自分もやってみたい』と若手社員やベテラン社員が思うきっかけとなるかもしれません。
(5)フォローアップ
実施中、実施後それぞれにフォローアップを行います。
メンターはまだ若手社員なので、上司に指導することを負担に感じるかもしれません。また逆にメンティーが若手の指導を受けることを負担に感じることもあるかもしれません。個々の様子を見ながら相談にのり、適宜フォローをする必要があります。
実施後はぜひ振り返りを行ってください。振り返ることで、自分たちにどんなメリットがあったかを言語化し実感を高めることができます。また、会社側も実施に関してのフィードバックを受けることで、既存ルールの変更や緩和等を検討し、良い実施環境を整備していくことが大切です。
リバースメンタリングの注意点
リバースメンタリングを効果的に行うためには、工夫や配慮が必要です。以下に注意点をいくつかまとめました。
1.事前に目的を共有する
リバースメンタリングの目的や期待していることを、事前にメンター・メンティーそれぞれに周知しましょう。また関係部署にも周知を行い、理解を得ることが大切です。
2.メンターの心理的負担に配慮する
年上の社員を指導することは、時にメンターの心理的負担になるかもしれません。
・必要があればメンターを二人体制にする
・メンティーに、あらかじめ「傾聴の姿勢」や「威圧感を与えない振る舞い」を意識するよう伝えておく
など、メンターに配慮した取り決めが必要です。
3.フォローアップの体制を整える
メンター・メンティーそれぞれに対してフォローアップの体制を整えておくことはとても大切です。実施中のサポート窓口を設けることはもちろん、実施中にはフォローアップ面談を定期的に設定しましょう。
形骸化させないためにも、効果が出ているのかを確認するためにも、リバースメンタリングは一定期間期限を区切って行うことが大切です。
4.評価への反映を検討する
うまくいけば、リバースメンタリングは若手社員にとって大きなモチベーションになります。自分のやっていることが成果に繋がっているということを認識してもらうためにも、評価に反映する仕組みを検討してみてもいいかもしれません。
リバースメンタリングの導入事例
リバースメンタリングを取り入れて実際に成功している会社も幾つかあります。
「資生堂」ではダイバーシティ推進の一環として、2017年から若手社員がエグゼクティブオフィサーや部門長のメンターとなって意見交換するリバースメンタリングの実施を行っています。世代を超えた異なる意見や価値観を尊重するフラットな風土づくりに繋がっているようです。
「P&G」では20年前から社内メンタープログラムを実施しており、その一環としてリバースメンタリングも行われています。主に管理職がメンティーとなり「若い部下の気持ちを理解」したり、「仕事と子育てを両立する部下の悩み」など、多様な状況下にある部下を理解する取り組みの一つとして行われているようです。日本で最初にリバースメンタリングを導入したのはP&Gだと言われています。
まとめ:
今回は世代間の意思疎通を進めるための教育支援制度「リバースメンタリング」について解説しました。
目的や人選を明確にしフォロー体制をしっかり整えて行うことで、若手とベテラン双方の育成を目指せるでしょう。