【国際女性デー特別企画】
女性が自分らしく働くために、いま私たちがすべきこととは
3月8日は国際女性デー。1904年、ニューヨークで婦人参政権を求めたデモが起源となり、国連によって1975年に制定されました。現在では「女性の生き方を考える日」として、日本でも広まっています。しかし、世界経済フォーラムが公表しているジェンダーギャップ指数では、日本は146カ国中116位。女性活躍にはまだまだ課題が残っている現状です。
ジェンダー平等の社会を実現し、女性が自分らしく働くために、いま私たちがすべきことは何なのか。今回は、世界で開発途上国支援を行ってきた、独立行政法人国際協力機構(JICA) 上級審議役の武藤めぐみさんにご登場いただき、ジェンダー平等に向けた取り組みの歴史から、現状の日本の課題、そしていま私たちができることをお聞きしました。
<武藤めぐみさんプロフィール>
独立行政法人国際協力機構(JICA) 上級審議役
海外経済協力基金、国際協力銀行を経て2008年より国際協力機構(JICA)。OECD-DAC統計作業部会副議長。政策研究大学院大学博士。
目次
ジェンダー平等に向けた取り組みの変遷から感じる、「行動を起こせば変わる」ということ。
- ―武藤さんは長年、開発途上国支援活動をされていますが、ジェンダーギャップ解消に向けた世界的な取り組みの歴史について教えてください。
- 武藤さん:私は平成元年から開発援助の仕事を続けています。やはり開発途上国支援の視点でも、ジェンダー平等はずっと中心テーマとして存在しています。その中で、大きく3つのターニングポイントがありました。まず1970年代に提唱された「WID(Women in Development:開発と女性)」という、経済成長に女性を参加させようという目標。例えば、村で給水場を作る時には女性も使いやすいものにといったように、まずは女性が参加する入り口を広くすることを重視していました。
続いて1980年代からは「GAD(Gender and Development:ジェンダーと開発)」という考えが主流に。なぜ女性が経済成長に参加しづらいのか、逆に男性の役割に改善点はないのか、構造上の問題を考えるようになりました。1981年には女子差別撤廃条約が国連で発効しています。
そして第3のポイントは、1995年に開かれた第4回世界女性会議(北京女性会議)です。あらゆる政策、計画にジェンダーの視点を必ず入れようという「北京宣言及び行動綱領」が、策定されます。
このように世界各国が知恵を出し合い、良い方向に向けて変遷を遂げているという歴史があります。ジェンダー平等はまだまだ達成されていませんが、世界的な指針が合意されると、タイムラグはありながらもたしかに一般に浸透していくのです。
- ―武藤さん個人の感覚としても、ジェンダーギャップは改善に向かっていると感じられますか?
- 武藤さん:そうですね。それこそ私の就職活動の数年前までは採用が男女で分かれていて、男性は総合職、女性は事務職というのが一般的でした。当時に比べれば、女性の選択肢も各段に広がってきていますよね。
ここ最近では、ジェンダー平等実現を含むSDGsの推進が当たり前のこととして浸透していますし、どんどん良い方向に進んでいますよね。皆で行動を起こせば社会は変わる、というのは実感としてあります。JICAでも女性管理職が増え、新型コロナを経た見直し機運もあり、働き方がかなり変わってきています。
周りの視線よりも、「いまできるベストは何か」を重視し、仕事と育児を両立
- ―では、武藤さんのこれまでの活動の中で、特に感銘を受けた女性の姿や、理想とする具体的な方がいましたら教えてください。
- 武藤さん:90年代にフィリピンに駐在し、インフラ整備や教育、農業のプロジェクトに参加していたのですが、その中で出会った二人の女性の姿は、私に大きく影響を与えています。
一人目は、世界銀行のプロジェクトリーダーのフランス人女性。もう一人はアジア開発銀行でプロジェクトリーダーをされていた日本人女性です。現地でお子様を育てながら働かれていました。
お二人のリーダーシップの取り方、ワークライフバランスの考え方にはとても影響を受けましたね。例えば、裏表なくメンバーと接して、ストレートに結論を探しに行くというリーダーとしての在り方。「いま私たちは何のためにこの時間を使っているのか」を中心におくことで、余計な根回しや調整は最小限に抑えて働く姿勢などです。
また、日本人女性の方は地方出張にお子様を一緒に連れてきたりと、一般的な常識や周りからの視線よりも「子どものためにいま尽くせるベストは何か」を考え、仕事と育児を両立されていました。
- ―武藤さんもお二人の働き方を参考にされていたのでしょうか?
- 武藤さん:はい、私も息子を一人育てたのですが、お二人の姿を自分に重ねていました。私のように子育てをしながら世界で働くことは、もしかしたら一般的には「変わっている」と思われるかもしれません。でも、彼女達もやってきたのだからこれで良いんだと思えて、家族をはじめ周囲に助けてもらいながら自分の道を進むことができました。
女性が働く上で、「仕事の自分」「プライベートの自分」とは異なる、第三の「プロフェッショナルな自分」を作ると良い
- ―現在、日本が抱えるジェンダー平等の課題はどういった点にあるのでしょうか。
- 武藤さん:時代は変化しているものの、まだまだ高度経済成長期に確立された働き方が主流ですので、ライフイベントの影響を受けやすい女性がどうしても働きづらい環境ではありますよね。例えば上司の指示に絶対従うトップダウン型の働き方をしつつ、夜の飲み会でコミュニケーションを取る、というのが日本の伝統的な「チームワーク」と思われてしまっているように。そうなると子育て中などの女性はどうしてもコミュニケーションの場に加われないですよね。
私個人の体験としても、かつてそのような働き方をする関係者が多いプロジェクトに参加したことがあり、ジェンダーの壁をどう突破するか、とても悩みました。仕事で自分から新しい提案もできない、コミュニケーションの場にも行けないから親交も深められない……というように。
- ―その時はどのように突破されたのでしょうか?
- 武藤さん: 「仕事での自分」「プライベートでの自分」とは異なる「プロフェッショナルとしての自分」を持つために、仕事とは別に勉強会を始めたんです。そこがコミュニケーションの場にもなりますし、自分の得意分野を作ることで会社でも意見が言えるようになります。そして自信にもつながって、精神安定にもなるんですよね。
しばらくして私は学校に入り経済学を学び直したのですが、もちろん、入り口は趣味からでも良いと思います。いまはオンラインでの講座も充実していますし、短い時間でも学ぶ機会というのは数多く存在します。それらを活用してプロフェッショナルとしての自分を磨くことを少しずつでも積み上げていったら良いと感じます。
ジェンダーはあくまで「個性の一部」という社会へ
- ―武藤さんが理想とするジェンダー平等の社会とは、どのような社会ですか?
- 武藤さん:まずは、ジェンダーにとらわれない個性を自分自身が大切にして働くこと。
そして企業のリーダー層は、個を尊重し、メンバーが自律的に働ける環境を整えることが大切ですよね。でも、それはメンバーの「個性を発揮した働き方」に頼りきることではないと思うんです。だってもし子育て中など、仕事の時間がかなり限られていたら、個性を発揮している場合じゃない! と感じますよね(笑)。そういった個人の状況も尊重した声掛けをするなど、みんながポジティブに働けるチーム作りをすることが理想的だと思います。
社会全体は良い方向に変わってはいますが、まだまだ働きづらい環境にいる女性は多くいると思います。そういった切実な思いの中に、解決へ向けたヒントがたくさんつまっているんです。でも、切羽詰まっている当事者個人でアクションを起こすことは難しい。だからこそ、そういった女性たちの思いや、声に出せない意見を集める機能をみんなで作っていけたらと思いますね。
「ジェンダーはあくまで個性の一部」という社会の実現には、まだまだ課題は数多くあるのが実情です。それでも、まずは私たち個人が一歩踏み出し「プロフェッショナル」を目指すこと。そして私たちが自分らしくポジティブに働くこと自体が、社会を変えることになるのだと思います。