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働く女性のための「ウェルビーイング」

ネガティブを抱きしめる勇気
〜失敗や感情を“なかったこと”にしない、子どもとの向き合い方〜

特別支援の現場に立つ現役の教員、中澤幸彦先生が、働く女性に向けて「子育てのお役立ち情報」をお届けする特集の第二弾!

今回のテーマは、「子どものネガティブな感情との向き合い方」についてです。

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中澤 幸彦(なかざわ ゆきひこ)“ゆっきー先生”

東京都公立中学校 特別支援教室/教員
AERA with kids パパ子育てアドバイザー

「いいこと」だけで終わらせない家庭の文化

公立中学校の特別支援教室で教えていると、子どもたちのネガティブな感情と日々向き合うことになります。

「失敗した」
「友だちとケンカした」
「怒られた」

どれも大人から見れば日常の一場面かもしれません。けれど子どもにとっては、世界が揺れるほどの出来事です。
私は教室で、そして家庭では二児の父として、その揺れに何度も立ち会ってきました。そこで強く感じていることがあります。

ネガティブな感情は、消すものではない。扱い方を学ぶものだ、ということです。


働くお母さんたちは、本当に忙しい毎日を過ごしています。それでも子どもとの会話を大切にしようとする。その姿勢自体が、すでに尊いものです。

よくあるのは「今日あったよかったことを話そう」という習慣。とても素敵だと思います。でも私は、もう一つ提案したいのです。

「今日の失敗」を話す時間。

我が家では、私のほうから「今日の失敗きいてよー」と笑いながら話します。怒られた話も、うまくいかなかった話も、恥ずかしかった話も、できるだけ隠さずに共有する。すると失敗は「あってはいけないもの」ではなく、「通過点」になります

特別支援の現場でよく見るのは、失敗を恐れて挑戦できなくなってしまった子どもたちです。
怒られたことそのものより、「失敗してはいけない」という空気のほうが、子どもを縛ります。失敗しない方法が「やらない」に根づいてしまうと、そこから戻すのは本当に大変です。たとえば、

ケガをしないためにスポーツをしない。
ケンカをしない、傷つかないために人と関わらない。
怒られないために、言われたことだけをやる。

こうした選択が積み重なると、だんだん「自分はどうしたいのか」を考える好奇心まで失われていきます。私は、そんな子どもたちを何人も見てきました。

ネガティブを家庭の中に居させる。それは、挑戦する自由を守ることでもあるのです。

すぐに励まさなくていい

子どもが落ち込んでいるとき、親は本能的に励まします。

「そんなの気にしなくていいよ」
「大丈夫、大丈夫」

早く笑顔に戻してあげたい。その優しさは自然なものです。でも時に、その励ましが子どもの感情のプロセスを奪ってしまうことがあります

「悔しかった」
「恥ずかしかった」
「怖かった」

その感情を十分に味わう前に「気にしなくていい」と言われると、子どもはこう感じることがあります。

「この気持ちは、間違っているのかな。」

感情は、感じきって初めて整理されます。私はよく、こう言います。

「悔しかったんだね」
「それはしんどいよね」

解決は急がない。まずは味わう時間を守る。大切にしているのは「感情を置いていかない」という視点です。感情は邪魔者ではありません。次の選択を考えるための材料です

そして、言葉だけでなく存在でも安心を渡します。

「隣で一緒に悔しがってもいい?」

ネガティブな感情は、人生や心を豊かにする大切な体験です。だからこそ、急いで消さずに、しっかり味わわせてあげたいのです。

ネガティブは自己理解の入口

特別支援の現場で驚かされるのは、子どもが自分の言葉で気持ちを説明できるようになった瞬間です。ある生徒がテスト後に言いました。

「点数は低いけど、一問だけ自分で解けたのがうれしかった」

その一言が出たとき、回復はすでに始まっています。だから私は問いかけます。

「どこで引っかかったと思う?」
「どこまで頑張った?」
「“低い”って、何と比べて?」
「次、同じ場面がきたらどうしたい?」

問いは、反省させるためではありません。自分の内側を観察する力を育てるためです。ネガティブな感情は「ダメな証拠」ではなく、「まだ言葉になっていない気持ち」です。それを言葉にできたとき、子どもは一段強くなります

強くなるとは、折れなくなることではありません。揺れても戻ってこられるようになることです。

ここで、点数の話を少しだけ。低い、高い。上がった、下がった。私たちはつい、こう言います。でもそれって、よく考えると少し変です。

理科のテストで、前回は生物、今回は天体。内容が違うのだから、単純に上がった下がったでは測れないはずです。では「低い」は何を基準にしているのか。平均点がわからなければ判断できない。結局、人と比べている場合が多いのです。

以前、89点を取ったのに、平均点が90点で「最悪」とつぶやいた生徒がいました。89%理解できた事実が、他者との比較で台無しになってしまった。こういう場面に出会うたび、私は思います。

テストは、本来「人と比べる道具」ではなく、「今の自分の状態を把握する道具」のはずだ、と。

だからこそ、子どもに自問自答させます。

自分は本当は、何を悔しがっているのか。誰の目を気にしているのか。自分はどう在りたいのか

ネガティブは、その問いの入口になります。

「ちゃんと」という呪縛から自由になる

「ちゃんとしなさい」

この言葉は、とても便利で、とても曖昧です。誰にとっての「ちゃんと」なのか。何が基準なのか

「ちゃんと時間に間に合って」
「ちゃんとした服を着て」

その背景には、社会の目や評価基準が隠れています。けれど大事なのは、「比較から自由になる」という視点です。他人基準の「ちゃんと」よりも、自分基準の「納得」。

私はなるべくこう言い換えます。

「今どんな状態が気持ちいい?」
「どうしたら次は楽になりそう?」

言葉を変えると、見ている世界が変わります。ネガティブな感情の背景には、「ちゃんとできなかった自分」への失望があります。けれど本当は、「どう在りたいか」が隠れている。そこに気づけたとき、失敗は自己理解に変わります。

親もまた、ネガティブを抱えていい

働く母として、完璧でいようとする日々。職場では評価される立場。家庭では感情的になってしまう自分。そのギャップに苦しむ方も少なくありません。でも、子どもにとって必要なのは「完璧な親」ではありません

「今日ダメだったな」と言える親。
「ママも失敗したよ」と笑える親。

その姿こそが、ネガティブと共に生きるモデルになります。

子どもにとって大切なのは、失敗を防ぐことではなく、ミスしても戻ってこられる場所があると知ること。その場所をつくるのが、親の言葉です。

ネガティブに居場所を

失敗も落ち込みも、人間にとって自然なものです。むしろ、それを経てしか育たない優しさがあります。

あなたは、うまくいかない日も大丈夫だよ

このメッセージは甘やかしではありません。心の安全基地を渡すことです。

ネガティブな感情に居場所がある家庭は、強い家庭です。子どもが「うまくいかない自分」も見せられる関係。揺れたあとに、また戻ってこられる場所。その土台があるからこそ、子どもは外の世界で挑戦できます

あなたの家庭には、ネガティブが安心して座れる椅子がありますか。その椅子を一つ置くだけで、子どもの挑戦はきっと変わっていきます。
そして、もし「ネガティブなことば」があるとすれば、それはきっとこれです。

誰にも、どこにも吐き出せない我慢。気持ちに居場所がないことこそが、子どもを孤立させます。

だからこそ、家庭という小さな世界の中に、どんな感情でも置いていい場所をつくっていきたいのです。


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