キャリアに悩む30代40代女性へ。陶芸家SHOWKOさんが見つけた、自分らしい働き方
『感性のある人が習慣にしていること 』(クロスメディア・パブリッシング)の著者の陶芸家・SHOWKOさん特別インタビュー後編。陶芸家以外にも執筆業やコーチングなど様々な分野で活躍されているSHOWKOさん。どのようにキャリアを歩んできたのか、自分らしく働くヒントを伺います。

SHOWKOさん
陶芸家。アーティスト。2002年より佐賀県武雄の草場一寿氏の元で修行、2005年に京都で自身の工房「Spring Show Studio」をスタート。2009年にブランド「SIONE(シオネ)」を立ち上げ、全国で多数の企画展を開催し、2011年より海外で展開。2016年には銀閣寺近くの旅館をリノベーションし、工房兼 ショップをスタート。著書に『私らしい言葉で話す 自分の軸に自信を持つために』(CCCメディアハウス)『心に気持ちのよい風を通す』(大和書房)『感性のある人が習慣にしていること 』(クロスメディア・パブリッシング)。2025年10月には『クラフトフルネス』(クロスメディア・パブリッシング)をテーマにした新刊を発売。
人が求めているものを届け、新しい文化を伝えたい
- ー改めて、SHOWKOさんのキャリアの歩みを教えてください。
- SHOWKO:元々私は、330年続く茶道具を作る窯元の家で生まれました。そして20代の頃にアーティストとして陶板の制作を開始。並行してwebデザインの会社でも働いていました。
クライアントワークをする中で、「ものづくりをしてお金を稼いで生きていく」とはどういうことなのかを肌で感じて。自分が良いと思ったものを作って展覧会をするだけではなく、人が求めているものを届け、新しい文化を伝えていきたいと思い、2009年に器のブランド「SIONE」を立ち上げました。“読む器”というコンセプトの下、まず物語を作り、そのストーリーに沿って絵柄を考え、作品を展開しています。
- ーなぜ“読む器”というコンセプトなのでしょうか?
- SHOWKO:私にとって身近だった茶道の文化がヒントになっています。茶道の世界では、一つ一つの道具に名前がついていたり、茶室にある掛け軸にも主催側の思いが込められていたりと、全てに意味が存在しています。お茶会に招かれた際には、どのようなストーリーが道具や掛け軸に込められているのか想像する、という非言語でのコミュニケーションが行われています。だからこそ10年、20年経ってもその日のことを忘れない。そのような時間を過ごす文化が茶道であると、私は捉えています。
一方で、日常で使うコーヒーカップなどには名前もなく、絵柄も書かれていないものが多い。それってもったいないことだと思っていて。日本古来の文化をもっとカジュアルにわかりやすく伝えられるブランドがあったら良いなと思い、物語をテーマにしたブランドを立ち上げました。
自分の「役目」に気づいた二度の転機
- ーマルチなキャリアを歩む上で、転機はありましたか?
- SHOWKO:焼き物を始めとした日本の伝統技術がどんどんなくなっている現場も目の当たりにしたので、10代の頃から「受け継ぐ」とは何かをずっと考え続けていました。家を継ぐ、ということだけでなく、この時代に生まれた自分の命の役目は何か、ということです。
そして自分の役目に気づいた転機は二つあって。一つ目は、ブランドを立ち上げる前に、焼き物の修行で佐賀県に2年間暮らしていた時。そこで出会った職人さんたちは私が何十年かかっても到達できない素晴らしい技術を持った方々でした。そういった方々を目の当たりにすると、私は職人としてではなく、ディレクターとして一緒にお仕事をする方が、世の中にインパクトがある良いものが作れるのではないかと思ったのです。
二つ目は、2018年に10年間ほど一緒に過ごしたパートナーとのお別れをする出来事がありました。ボストンバック2つに荷物を詰めて、1歳と4歳の子どもを1人で育てるというハードな時期を経験しました。その時に「なんだ、大事なものってボストンバッグ2つに入っちゃうんだ」と気づいたのです。
それ以降、陶芸家という「もの」をたくさん作り続ける立場でありながら、人生に必要な「もの」はそんなにない、という矛盾を抱えるようになりました。陶芸家としてものづくり以外にできることを考え、生き方やフィロソフィーをお伝えしていくことも大切な私の役目だと感じるようになり、執筆業にも力を入れるようになりました。
答えがない世界で何を選びとり、自分をどう育て、キャリアを作っていくか。そのヒントとなり、ラクになる生き方をお伝えできたらと思っています。
30代は「自分らしさ」の模索時期
- ーSHOWKOさんのキャリアの中で、「自分らしさ」はどのように変化してきましたか?
- SHOWKO:やはり子どもを産んでからは、より効率的な働き方に変わりました。昔はダラダラと残業をしていましたが、子育てがあると時間が限られるので、その中で何をするかを考えるように。特にシングルマザーになってからはその傾向が強まりましたね。「どう生きていくか」と「どう稼いでいくか」が同じ一本の線になったので。
40代になってからは、「自分は何がしたいのか」という自我のようなものが少しずつ外れていった感覚があります。自我を形成したり自分は何をやりたいのかともがいていた30代を越え、社会の一員として利他的に生きる。自分がある上で、何かを与えることに喜びを見出し、循環して巡る。そういう感覚が40代から芽生えてきました。
- ー30代は自我を形成する時代なのですね。
- SHOWKO:そうですね。30代のもがきは全くの無駄ではありません。自分というのは、時間をかけて形成されていくものです。10代で周りの人と傷つけ合いながらも自分が形成されて、30代でもさらにもがく。そこで「私はこういう生き方をする」と考えるからこそ、40代で正しく自我を手放しはじめられるのだと思います。
- ー40代以降の女性の中には、これまで仕事で走り抜けてきた分、ふと自分の時間ができた時「自分はこれからどう生きていくのか」に悩む方も多いです。
- SHOWKO:ずっと走ってきた方は自分と繋がる時間がなかったのだと思います。だから今はチャンスだと思ってください。考える時間ができたからこそ、少し自分と繋がって「本当に自分は何がやりたかったのか」「自分のどの能力が世の中に対して使っていけるのか」を棚卸しすると良いと思います。
自分に対するご褒美の時間を持って、旅に出るなどして心の中に降りていく時間を過ごしてほしいです。
また、ものを作ったり手を動かして没頭することも良い作用があると思います。「私には何ができるんだろう」という問題はロジカルに頭で考えても答えが出にくいことでもあります。そこで一旦頭の熱を下ろして、とにかく「ものづくり」に邁進してみる。
ものづくりというとハードルを感じるかもしれませんが、なんでも良いと思います。靴磨きでもキャベツの千切りでもOK。ちょっとした挑戦をしてみたら「自分はこういうことが好きだったんだな」と気づくことがあります。例えば、40歳から何かを始めても20年続ければ60代。その趣味が高じて次のキャリアに繋がるかもしれません。
ものづくりはある意味、動く瞑想のようなものですね。過去も未来も一旦切り離して今だけを考えられる時間になります。
- ー最後に、キャリアの節目に立つ30代、40代の女性たちに、自分らしさを仕事に生かすためのメッセージをお願いします。
- SHOWKO: まずは自分のことをとにかく好きになってください。自分自身の好きなことをたくさん紙に書いてみてほしいと思います。「こんなことができて凄い」と思えることを書き出して、そこからにじみ出てくるものが「自分らしさ」に近いものだと思います。
そうやって自分を受け止める時間を月に1回でもいいので持っていただきたいです。また、自分の100年史を作ってみるのもいいと思います。自分が好きなことを書いた後に、もし100歳で死ぬとしたら、いつ何をやっているかという夢の棚卸をすると、今はここだけど、将来はこうなりたいというのが見える化できます。新たな自分も発見できると思います。
焦っている時はどうしても近視眼的になりがちですが、100年史を考えると「50歳でもまだ人生は40年以上ある!」ということに気づきます。そこまでに何をやりたいかを楽しく考えてみてください。
「こうあるべき」から少し自由になって、自分の感性を大切にする。そんな日々の積み重ねが、自分らしく働くキャリアの選択を支えるかもしれません。
(取材・執筆/菱山恵巳子)