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不調に気づいたら養生を。働く女性が知っておきたい中医学の基礎知識

「なんとなくだるい」「イライラしやすい」「眠りが浅い」――病院に行くほどではないけれど、日々の小さな不調に悩まされている方は多いのではないでしょうか。そんな「未病」の段階にこそ力を発揮するのが、中医学の考え方です。今回は、『心と体を整えるおいしい漢方〜季節の食養生で不調を改善』(扶桑社)の著者であり、鍼灸師、国際中医専門員の田中友也さんに、女性が30代から意識したい養生の基本や体調の整え方について伺いました。前編では、中医学の基礎知識や、取り入れたい生活習慣について語ります。

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田中友也さん

鍼灸師、国際中医専門員、国際中医薬膳管理師、登録販売者資格保持。関西学院大学法学部卒業後、北京中医薬大学、上海中医薬大学などで研修。現在、兵庫県にあるCoCo美漢方(ここびかんぽう)で日々、健康相談にのる傍ら、鍼灸師として施術も行う。著者に『心と体を整えるおいしい漢方〜季節の食養生で不調を改善』(扶桑社)、『不調ごとのセルフケア大全 おうち養生 きほんの100』(KADOKAWA)、『体とココロが喜ぶごほうび漢方』(主婦の友社)、『こころと体がラクになる ツボ押し養生』(Gakken)など。

養生は「転ばぬ先の杖」

ーそもそも中医学とはどういう学問なのでしょうか?
田中:中医学は「中国伝統医学」を短縮した言葉です。大きく三つ特徴があり、一つ目が自然と人間はお互いに影響し合うという考え方。最近は低気圧などの天気によって体調が変化する「気象病」も一般的になってきましたよね。これも自然の影響を人間の身体が受けているということです。
二つ目の特徴は、身体を一つのまとまりとして捉えること。病気の原因を特定の部位の異常ではなく、身体と心、全体のバランスの崩れだと考えます。これは個別の不調ごとに対処する西洋医学との大きな違いです。例えば、胃腸の不調を感じた時、西洋医学だと消化器内科や内科に受診すると思います。一方、中医学では胃腸の不調は胃腸だけの問題ではなく、肝や腎(東洋医学的な臓腑の考え)とも関係していると考えます。
中医学では、体の臓器のことを「五臓」と言い、互いに影響し合っていると考えているのです。五臓は「肝」「心」「脾」「肺」「腎」があり、どれか一つの働きに過不足があると身体のバランスが崩れ、不調があらわれてしまいます。

三つ目の特徴は、同じ症状でも不調が起こった原因によってアプローチを変えること。お腹が痛い時も、「何によってお腹が痛いのか」に着目します。
例えば、風邪の時に飲む漢方の「葛根湯」は有名ですよね。ただ、葛根湯は冷えてぞくぞくするような風邪の時に飲むものであって、インフルエンザのような高熱が出ている風邪では合わない場合があります。このように同じ風邪という不調でも、冷えなのか、熱なのかによってアプローチを変えるのです。

 

―「養生」という考え方についても教えてください。
田中:養生は、「生命を養う」という意味で、未病のうちに対処して大きく心身を崩さないようにしましょうという考え方です。「未病」とは、不調を感じている状態のこと。眠れない、体がスッキリしない、肩が痛い…人それぞれ未病があります。
養生は、いわゆる「転ばぬ先の杖」です。基本的に季節の養生というのは、次の季節に不調が出ないために行います。夏の養生は、秋に不調がでないよう今のうちに整える、という意味です。先手を打って、できるだけ元気に過ごすことを目指しています。

中医学的、身体をつくる3要素

田中:また、中医学では、身体をつくる要素を「気」「血」「津液(水)」と呼んでいます。
「気」はエネルギーのことで、免疫力や体温を維持するなどの働きもあります。日本語にも「気」がつく言葉って多いですよね。「元気」「やる気」「気が利く」とか。だから「気」がエネルギーを指すことはイメージしやすいと思います。
特に女性は、夕方や生理中は冷えを感じることがありますよね。体温を維持するのにも「気」が必要なので、冷えは元気がなくなってきている証拠でもあるんです。
「血」は全身を巡る血液としての意味と、メンタルや睡眠に関わる栄養物質としての意味があります。なので、「血」が足りないと眠りが浅くなったり、頭がボーッとする、目がかすむなどします。また、髪の毛や肌も「血」があることで保たれていると考えます。なので、産後に抜け毛が増えたり、生理中に髪がパサパサしたり化粧ノリが悪くなったりという方もいらっしゃいますよね。
「津液」は「水」とも表現されるのですが、血液以外の正常な体液のこと。唾液、汗や涙などですね。正常な体液を指すので、むくみなどは含まれません。津液には、体を潤したりクールダウンさせたりする働きがあります。
中医学では、この3つのバランスが取れている状態が健康であると考えます
―3つの要素が完全に良いバランスである状態は、難しいものなのでしょうか?
田中:もちろんバランスが良い状態の人もいますが、なかなか難しいですね。体質だけでなく、生活習慣や食生活、ストレスや忙しさなどで3つの要素に過不足がでることがあります。例えば「気」が足りない状態を「気虚」と言い、まさに元気が足りない状態。「気」が滞っている状態は「気滞」と言い、ストレスが溜まっていてパンパンになっている状態です。同じように「血」が足りないのが「血虚」。「血」の巡りが悪いのが「瘀血(おけつ)」。「津液」が足りず潤い不足なのが「陰虚」。水が滞って余っている状態を「痰湿」と言います。
特に女性は7の倍数で身体が変化すると言われています。28歳をピークに体調は下り坂に入り、バランスが崩れやすくなってしまうのです。この下り坂を緩やかにし、バランスを整えるのが、中医学の得意分野なのだと思っています。
ーちなみに30〜40代の女性は、どのような不調で相談に来られることが多いですか?
田中:最近、まさにその世代の方の漢方相談は増えていますね。自分の身体をケアする意識が高まっていることは、とても良いことだと思います。
相談される内容はもちろん人によって様々ですが、生理痛、不眠、メンタルの不調(落ち込み、イライラ)、頭痛、冷え性、気象病などが多い印象です。

生活習慣の改善も「頑張りすぎない」で

ー体調を崩しにくくするための生活習慣のポイントは?
田中:やはり身体を冷やさないが良いので、食事で言うと、冷たいものを食べ過ぎないことと、お菓子を食べ過ぎないこと。白砂糖も身体を冷やすので。チョコレートを食べるのだったら、果物やナッツに変えるなど、意識してみてください。またはせめて大袋のお菓子ではなくて小袋で買うとか。
また、シャワーだけでなく、湯船に浸かれると良いですね。湯船に浸かる時間がない方は、お腹周りや硬くなりがちな首肩まわりをシャワーで温めて、血流を良くすることもオススメです。
あとはやはり睡眠が大切です。なにも毎晩22時に寝なさいとは言わないので、無理のない範囲で10分でも良いから早く寝るとか、ちょっとした心がけから始めほしいです。
そして、予定を詰め込みすぎず、1人の時間を作ること。育児や介護中の方は自分の時間をつくることがなかなか難しいかと思いますが、1日の中で10分でも15分でも確保してもらえたら。コーヒーをゆっくり飲むとか、ぼーっとするとか、上手な息抜きを実践してください。
ーぼーっとする時についスマホを触るのは…?
田中:中医学では「目を使う」ことも「血を使う」と考えられています。なのでスマホの触りすぎも血不足に繋がり、あまり良くないんです。ついスマホを触ってしまう方は、散歩はどうでしょうか。歩いていればスマホも見ないと思いますし、身体を動かすことにもなりますし。家の周りをぐるっと回るだけでも息抜きになりますよ。
健康の基本として、身体を動かし体力をつけることも大切です。例えば今の体力ゲージが60だとしましょう。その状態で漢方を飲むなどしていくら身体を回復させても、マックスが60なんです。結局、体力ゲージを60から100にすることも並行して必要なんですよね。そのためには散歩などの軽いもので良いので、運動習慣はぜひつけてほしいですね。
ただ、皆さんすでに頑張りすぎている状態なので、あれもこれもと新しく取り入れるのではなく、むしろ心も身体も緩めて、「あまり頑張らないこと」を優先してくださいね。
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