『長野への移住で得た家族の時間と新たなキャリア』
セイコーエプソン株式会社 サステナビリティ推進室 鴨崎志保さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。管理職として活躍する女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、セイコーエプソン株式会社でサステナビリティ推進室課長を務める鴨崎志保さんにお話を伺いました。
鴨崎 志保(かもざき しほ)さん
セイコーエプソン株式会社
サステナビリティ推進室 課長
農学系の学科を卒業し、20代は環境分野、特に当時2000年代の主流であった公害対策や環境アセスメント評価、官公庁や自治体の環境施策に関連するコンサルティング業務に約6年従事。その後、市民参加型のエコアクションを創出する、株式会社とNPOの両輪経営を実現している組織へ転職。事務局長としてマネジメント全般を担う一方、役員や理事として経営者の視点での組織運営に力を注ぐ。2021年9月にセイコーエプソンへ入社。2024年4月より課長ポジションに就く。 二児の母。
多様化するサステナビリティ領域の経営課題に取り組む
- 1942年創業の情報関連機器・精密機器メーカー、セイコーエプソン株式会社。長野県諏訪市の自然豊かな地に本社を構え、会社のパーパスを「『省・小・精』から生み出す価値で人と地球を豊かに彩る」と定めています。サステナビリティ経営に力を入れている同社で、サステナビリティ推進室課長を務めているのが、2021年9月に中途入社した鴨崎志保さんです。
サステナビリティ推進室の役割は大きく3つ。サステナビリティに係る経営課題を執行部門に伝え改善活動を推進していくこと、サステナビリティに関する社会的なニーズをくんだ企業活動の実装をすること、CSR活動に関するお客さまや他事業部からの問い合わせへの対応やPR活動を担うことだと鴨崎さんは語ります。 - 「サステナビリティに関するテーマは変化を続け、多岐にわたっています。例えば、ここ数年では、企業が取り組むべきテーマとして“環境への取り組み”や“人権への対応”が、その重要性を増してきました。適切な人権・労働環境のもとで作られた製品かどうか、自然環境に過度な負担をかけて事業活動が行われていないか、その製品を使用することは社会にとってマイナスの影響となるのかプラスの影響となるのか、など、消費者が製品を選ぶ際の基準の一つとなってきています。そうした世の中の動きにどう対応していくかが経営側に問われているので、その分、サステナビリティ推進室の役割もより重要なものになっていると感じています」
- 大学卒業後から、環境分野に長く携わってきた鴨崎さん。子どもの頃から動物や植物、自然が好きで、将来は野生動物の保護に関する仕事に就きたかったそう。
- 「テレビでやっている自然や動物系のドキュメンタリー番組が好きで、世界の絶滅危惧種について子どもながらに関心がありました。動物たちを守る仕事ができたらいいな。そんな思いで大学は農学系に進み、自然保護を研究するサークルにも入りました。野生動物の生態調査や環境ホルモンの生体への影響の研究などを通し、視野が広がり環境問題の解像度が上がっていくにつれ、『特定の種類の野生動物だけを保護するのではなく、もっと包括的な環境保全や改善活動、持続可能な環境づくりに携わりたい』と考えるようになりました。そうしてファーストキャリアとして、公害対策や環境アセスメント評価を手掛ける環境コンサルティング会社に入社しました」
個人の環境意識の醸成からサステナビリティへ、関心が広がっていった
- 1社目の会社に約6年間勤める中で、企業や官公庁、自治体の環境施策に関連するコンサルティング業務を担当。環境規制(環境配慮に関する法令)に伴う調査や評価の仕事を手掛けます。その重要性を痛感する一方で、事業領域上、“個人の環境意識”にまでリーチできないことへのもどかしさも感じるようになったそう。
- 「環境規制がかかれば、資金的にも人的にもリソースがある大企業は動き出すのですが、中小零細企業はコストの投資に対して腰が重いのが現状です。『今まで以上に環境問題に関して積極的な取り組みを促すには、中小零細企業で環境活動が促され、市民レベルで個人の意識が上がっていかなければ、解決にはつながらない』と課題感を持つようになりました」
- そこで、鴨崎さんが次のキャリアに選んだのが、市民参加型のエコアクション創出に取り組むNPO団体でした。
- 「この組織は株式会社とNPOの両輪経営を行っており、『100万人のエコアクション創出』という大きな目標を掲げていました。株式会社の方では環境分野に特化した新規事業立ち上げの支援や運営サポートなども行っていて、私は役員や理事などのポジションに就きながら自社の組織マネジメント全般を経験しました」
- ”経営者の右腕“として約12年間、“個人の環境問題への意識改革”というテーマに向き合ってきた鴨崎さん。そこからサステナビリティ領域に関心を持ち、セイコーエプソンへの転職を決めます。そのきっかけは何だったのでしょうか。
- 「長く環境分野でやってきて、もう少し自分の領域を広げたいと思い、持続可能な社会には環境分野だけの課題解決では十分でないということからも、サステナビリティに興味を持ちました。また、家族との時間を大切にするために長野への移住を決めたことも後押しとなりました。長野という新たなフィールドでキャリアチェンジの可能性を模索していたときに、セイコーエプソンのサステナビリティ推進室の募集を偶然目にしたんです。より大きな組織で、社会で必要とされていくプロジェクトを手掛けたいと思っていたこともあり、ぜひ挑戦したいと思いました」
→後日公開の「後編記事」に続きます
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写真:マヤ
取材・執筆:田中 瑠子