『偶然の出来事の積み重ねがキャリアをつくる』
トライズ・取締役CCSO 武隈 知世さん【後編】
誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。今回は前回に引き続き、トライズ株式会社取締役CCSO(Chief Corporate Sales Officer)の武隈知世さんにお話を伺いました。
武隈 知世(たけくま ともよ)さん
トライズ株式会社
取締役CCSO
執行役員に就任2カ月目で大手企業へ転職
- 武隈さんにとってもう1つの大きなターニングポイントとなったのが、アマゾンジャパン合同会社での経験です。転職のタイミングを伺うと「トライズで執行役員を2カ月務めたあと」 と話します。
- 「私はずっとベンチャー企業で働いてきて、執行役員という役職をいただくところまで来ましたが、そんな自分が大企業でフラットな立場からどこまでやれるのだろうかと、考えるようになりました。年齢は30代に入り、フラットな立場で転職できるのもそろそろリミットだと思いました。とはいえ、さすがに執行役員に就いてすぐに退職するのはどうかと悩みましたね。
そんな時、たまたまトライズの重役の方と2人でお話をする機会があり、打ち明けてみたんです。すると『職業の自由は憲法で守られているからね』との答えが返ってきて……。この言葉で視野が開けたというか、社長にも言うだけ言ってみようと思えました。実際、社長に伝えてみると『勉強になるし行ってきたら』と言ってくださいました。
アマゾンジャパンでは、優秀な人たちに囲まれ自分のスキルに対する不安も感じ、入社1ヶ月で打ちのめされましたね。でもみなさん、とても謙虚で、自分の持ち合わせているものを惜しまずシェアする社風があり、非常に得がたい経験をしました」
- アマゾンジャパンで1年半あまりを過ごし、再びトライズに戻る決意をした武隈さん。その決断を下すまでには、非常に悩んだと言います。
- 「トライズに戻るきっかけとなったのは、トライズの社長から『そろそろ戻ってきたら?やり残したことがあるでしょ』と言われたことです。ちょうどその頃、アマゾンの所属チームで大きなプロジェクトを任せてもらえることになり、キックオフした直後でした。このプロジェクトを成功させられたら、昇格や様々な社内キャリアの大きな足掛かりにもなると考えていました。再び海外で挑戦できるチャンスにもつながりそうだったので、1週間ほど悩みましたね。
ただ、執行役員に就任して2カ月でアマゾンジャパンに転職して、やり残したことがあるのは事実。そして今の自分にしかできないのはどちらの仕事かと考えた時、他にも担い手のいるアマゾンジャパンのプロジェクトではなく、トライズでやり残した仕事に取り組もうと、戻ることを決めました」
長年の行動指針は師匠の言葉
- 2023年2月、トライズに戻り執行役員CCSOに就任した武隈さん。現在は法人向けにグローバル人材育成サービスと、新規事業戦略室室長として学習アプリ「TORAbit」を提供しています。
- 「法人向けサービスでは、クライアントのグローバル展開戦略に基づいた人材育成をしています。日本企業が海外へ進出するための橋渡し役ができる層を厚くしていくことに携われ、大きなやりがいを感じています。一方、橋渡し役を担う人材は部長や役員相当のビジネスパーソンで、多忙な方ばかりです。そういった方々に、いかに忙しい中で効率的に英語スピーキングのスキルを身につけていただくかが現在の課題です。
学習アプリ『TORAbit』は、10年以上の実績がある当社の誠実に人のスキルアップに並走していくコーチングとEdTech(エドテック)を掛け合わせ、『手軽に有意義なトレーニングをしたい』というニーズに応えるために提供しています。トライズの強みとテクノロジーを掛け合わせてどのように生かしていくのか考えることもまた、楽しくもあり難しくもありますね」
- これまでの武隈さんのキャリアを振り返ると、フットワークが軽く行動力にあふれている様子がうかがえます。その根底にある信念を伺うと、こんな答えが返ってきました。
- 「20代の頃、私が師匠と呼んで慕っている経営者に弱音を吐いたことがありました。その時『結局、コツとか手段、技ではなく、圧倒的な時間を突っ込んだ者が勝つんだよ』と言われたんです。この言葉は今でもスマホのメモに記してあって、長年の私の行動指針になってきました。ただ、年齢も重ねてきているので、持続性を考えるとこの行動指針はそろそろ変えていかなければ、とも思っているところです」
- 圧倒的な時間を仕事に費やしつつも、心身を健やかに保つために意識していることは「オフの時間に難しいことをしないこと」だと話します。
- 「今はオフの時間に、勉強など頭を使うことを極力しないようにしていて、自分が笑顔でいられる場に身を置くようかなり意識しています。あとは、10代の頃から趣味でDJをしているので、月に1〜2回DJブースにたつ時間を作っています。その時間は没入できて、とても幸せな時間ですね」
- 最後に、ご自身のキャリアを振り返り「偶然の出来事をチャンスと捉えて、真摯に向き合うことの大切さ」を伝えたいと話します。
- 「キャリア理論の1つに『計画的偶発性理論』というものがあります。個人のキャリアの8割は偶然の出来事によって形成されているとする理論です。私のキャリアはまさにこの通り。キャリアのスタート時には、こんなキャリアパスになるとは、全く想像していませんでした。偶然の出会いや出来事が積み重なって今があります。
もちろん失敗も数多くしてきました。でも偶然の出来事が成功するか失敗するかは、実際に取り組んでみないとわかりませんし、失敗から得られることも多いです。ですから失敗したらその時考えるという姿勢で、偶然の出来事をチャンスと捉えて取り組んでいくことが大切ではないかと思います」
~あわせて読みたい記事~ |
写真:MIKAGE
取材・執筆:北森 悦