部下の成長を促す「上手な叱り方」|叱り方のポイントと絶対に避けるべきNG例
部下を育てたい、チームを良くしたい―そう思っていても「叱ること」には迷いや葛藤がつきまとうものです。「きつく言いすぎたかもしれない」「関係が悪くなったらどうしよう」「そもそも私に叱る資格があるのだろうか」多くの管理職が、そんな不安を胸に抱えています。
本記事では、研修講師やビジネスコーチとして多くの管理職を支援してきた小川由佳さんに監修いただき、“上手な叱り方”を解説。叱ることの本来の意味を見つめ直し、部下の可能性を引き出すための具体的なポイントをお伝えします。
目次
- 「叱る」と「怒る」は違う!叱ることの本来の目的と意義
- なぜ叱ることは難しいのか
- 叱ることは「フィードバック」である
- 叱ると怒るの違い
- 叱らないリスク
- 叱る際のポイント
- 「相手のため」という視点を持つ
- 「SBI」を伝える
- 「人」と「事柄」を切り分ける
- 叱る基準は明確に
- 「Iメッセージ」で伝える
- 部下の成長に向き合う姿勢を貫く
- 建設的な叱り方のステップ
- 事象が起こって冷静になれる時間をとってから
- 叱る時は1対1の場所で
- 事実ベースで具体的に伝える
- 部下の信用を失うNGな叱り方
- 信頼関係が無い状態で叱る
- その人自身を否定する
- 感情的になる
- 叱る基準が不明確
- シチュエーション別、叱り方のコツ
- すぐに落ち込んでしまう部下への叱り方
- 反抗的な部下への叱り方
- 感情的になってしまいそうな時の叱り方
- 上手な叱り方まとめ
〈監修者:小川由佳〉
株式会社FAITH 代表取締役
津田塾大学卒業後、沖電気工業や外資系メーカーで、物流やSCM業務に従事。
i2テクノロジーズジャパンに転じ、コンサルタント、マネージャーとして、クライアント企業に対するSCMソフトウェアの導入や、それに伴う業務改革のコンサルティングを実施。このときの経験を通じて「企業の根本は人だ」という想いに至り、人材育成分野に関心を持つ。
ジレットジャパンのSCM部門で管理職を経験後、ジェネックスパートナーズへ参画。コンサルタントとして、クライアント企業における業務改革や組織変革の支援を行う。また、研修やコーチングを通じて、クライアント企業のリーダー育成やチーム活性化に従事。
2011年に独立し、各種研修プログラム開発および講師やコーチとして活動中。
株式会社FAITH
「叱る」と「怒る」は違う!叱ることの本来の目的と意義
なぜ叱ることは難しいのか
多くの管理職が悩む「叱り方」。なぜ叱ることにハードルを感じるのでしょうか?
それは、「叱ること」が知識やスキルを身につけただけでできるようになる課題ではないからです。叱るためには、時には自分の捉え方やものの見方を問い直し、場合によってはそれを手放したり書き換えたりする必要があるのです。
叱ることは「フィードバック」である
部下を叱るべき場面で「これを言って関係性が悪くなったらどうしよう」「わだかまりができるかも」「自分も100%できているとは言えないのに叱って良いのか」などと躊躇しているうちに、タイミングを逃してしまうことはありませんか?そんなとき、心の奥底で「叱ること」を「罰すること」「非難すること」などと悪いイメージで捉えているのではないでしょうか?
もしそうだとしたら、叱ることを「フィードバック」だと捉えてみましょう。フィードバックとは、相手のなりたい姿やあるべき姿と現状とのギャップを伝え、成長できるように支援することです。あくまで相手の成長を支援することなので、叱ることは「罰すること」や「非難すること」ではないし、叱る際に「自分が100%それをできているか」は心配しなくて良いのです。
叱ると怒るの違い
「叱る」と混同されがちな「怒る」という行動。この2つは、「誰のためにしているか」という視点が異なります。「叱る」というのは相手のため、つまり部下の成長のために関わることを指します。一方、「怒る」というのは自分の感情を発散したい、部下を思い通りにコントロールしたいなど、自分のための行動です。
ちなみに、「部下のため」の行動であれば、叱られた部下の立場からしても、その場では「叱られて嫌だった」と感じても、後から振り返ると「あの時上司が叱ってくれてよかった」と思えるものです。叱ることは成長支援の機会だと思い、管理職の役割の1つとして取り入れていきましょう。
叱らないリスク
適切に叱られないと部下は自分の改善点に気づけず、成長できなくなります。それがチームや成果にも悪影響を及ぼすかもしれません。
また、叱るべき時に叱らないと「ああいうことをしてもいいんだ」とチームメンバーからも甘く見られてしまったり、チームにルールや基準がない無法地帯になってしまったりします。
叱るということはチームとしての基準を示すことでもあるので、それがないと上司としての立ち位置に部下から疑問を持たれてしまう可能性もあります。
叱る際のポイント
では、叱る際に管理職はどんなことを意識すれば良いのでしょうか?押さえるべきポイントを紹介します。
「相手のため」という視点を持つ
大前提として、「相手の成長のために叱る」という視点は不可欠です。そのため、叱る前には部下への期待とそれに対しての問題点を明確に整理しておく必要があります。その場の勢いで叱ってしまうと、相手に伝わらないことがあります。
行動を変えてほしいから叱るわけなので、行動を変えるに足る情報がないと叱られた部下も「なぜ叱られたのかわからない」となってしまいます。
「SBI」を伝える
フィードバックでぜひ伝えたい情報にSBIがあります。SはSituation(状況)、BはBehavior(行動)、IはImpact(影響)です。叱る時にはこのSBIを意識し、「こういった状況で、こういう行動をしたことが、こういう影響になっている」と伝えると、具体的に部下のどういった点が問題なのかが伝わりやすくなります(参考:『耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 フィードバック入門』中原淳)
「人」と「事柄」を切り分ける
また、「人」と「事柄」を切り分けることも重要です。「なんでできないの」「あなたはダメ」など人格を否定するような言い方は避け、事象や行動に焦点を当ててフィードバックをすることが大切です。
叱る基準は明確に
できるだけ叱る基準も明確にしておくべきです。ある時は叱るけどあるときは野放し、ある人には叱るけど同じことをしても別の人には叱らない。これではメンバーからの信頼を失ってしまいます。
「Iメッセージ」で伝える
「Youメッセージ」と「Iメッセージ」という概念があります。「Youメッセージ」は「あなた」を主語にした伝え方であり、例えば「大事な商談についての話なんだから、(あなたは)ちゃんとメモを取ってよ」などという表現がそうです。「Youメッセージ」でネガティブなことを伝えると、相手を責めるニュアンスで伝わってしまう場合があります。
「Iメッセージ」は「私」を主語にした伝え方。例えば「大事な商談についての話なのに、(あなたが)メモを取っていないと、当日何かミスが起こるのではないかと心配なんだよ」という表現がそうです。ネガティブなことを伝える時は、「上司が感じていること」や「上司に見えていること」として伝えることで、相手も受け取りやすくなる可能性があります。
部下の成長に向き合う姿勢を貫く
叱ることにおいて、最終的に大切なのは「逃げずに相手と向き合う」あり方です。たとえ伝えづらいことであっても、「この件はちゃんと伝えなければならない、本人のためにもチームのためにも良くない」という覚悟を決めて伝えることが大切です。
建設的な叱り方のステップ
続いて、実際に叱る際のステップを紹介します。
事象が起こって冷静になれる時間をとってから
事象が起こってすぐは、こちらも感情的になっていることが多いです。そんなとき、反射的に叱ってしまうと本来の目的が果たせなくなってしまいます。自身が感情的になっている場合は、ある程度冷静さを取り戻してから叱りましょう。
ただし、あまり間が空いてしまうと相手からしたら「何のこと?」となってしまうので、ある程度早い段階で叱ることも意識しましょう。
叱る時は1対1の場所で
また、叱られている場面は誰だって見られたくないものです。叱る時は人がいない、一対一になれる場所で行いましょう。
事実ベースで具体的に伝える
叱る時、まずは事実ベースで具体的に起こった事象と相手に対する期待をしっかり伝えます。そして相手と対話をして認識を合わせ、今後どうしていくかというフォローまで行う。ここまでをセットでフィードバックしましょう。
部下の信用を失うNGな叱り方
叱り方によっては、部下からの信用を失ってしまう可能性もあります。以下は気をつけるべきNGな叱り方です。
信頼関係が無い状態で叱る
叱るためには日頃から関係性を築いておく必要があります。関係値が浅いままいきなり叱っても相手からは「この人は私のことを知らないのに」と思われ、受け入れられないことがあります。日頃から信頼関係を築くことが、叱る前提として必要です。
その人自身を否定する
叱る時は、「起きた事柄・問題」だけにフォーカスしましょう。相手自身の人格を否定したり、責めたりすることは、ハラスメントにも繋がりかねません。
感情的になる
感情的になってしまうと、結果として相手に感情をぶつけるだけになってしまいかねません。また、部下も上司の言葉に耳を傾けなくなります。叱ることはあくまで相手の成長のため、ということを今一度思い出してください。
叱る基準が不明確
ある時には叱るけど、ある時には叱らないというのもよくありません。叱る基準やルールはブレないように気をつけましょう。
シチュエーション別、叱り方のコツ
ここでは、部下のタイプやシチュエーション別に叱り方のコツを解説します。
すぐに落ち込んでしまう部下への叱り方
すぐに落ち込んでしまう部下は、自分を過小評価していて、ネガティブなことばかりに目が行きやすい傾向があります。叱られた際、こちらの意図とは裏腹に「自分を否定されている」と受け取ってしまうことがあります。
このタイプの部下には、「こういう風になってほしいと思っているから、ここを改善した方が良いよね」というように、期待と要望を合わせて伝えるとよいでしょう。また、「こうなってほしいと思っているけど、改善していくために私たちにできることはある?」というフォローをすることも効果的です。
反抗的な部下への叱り方
反発してくるタイプの部下は、先にこちらから相手の状況を聞いてあげた方がいい場合もあります。「〇〇の件で納期遅延があったと思うけど、あれについてはどう思っている?」と状況と相手の言い分を聞いた後で「それを踏まえた上で、こちらから見解を伝えるね」というかたちで対応する方法もあります。
感情的になってしまいそうな時の叱り方
感情的になってしまうことは誰しもあります。そんな時は、まず時間を取ることが大切です。少し時間があれば、自分の感情やその理由を紙に書き出すことも効果的です。書き出すと気持ちも落ち着きますし、自分は部下に何を期待していて何を問題だと思っているのか、何をどこまで伝えるべきかなどを整理できます。
また、普段から自分がイライラやモヤモヤする時のスイッチに気づくことも重要です。私たちは、自分の中の「当たり前」や「こうあるべき」に抵触することを人にされると、感情的になりやすいものです。例えば「時間は絶対守るべき」という価値観があると、相手が少し遅れただけでイライラしてしまいます。
そういう自分の価値観に気づくと、なぜ感情的になっているかを一歩引いた目で理解できて、少し冷静になれるでしょう。
上手な叱り方まとめ
叱るというのはダメ出しすることではなく、相手の成長を支援すること。これは、管理職の役割の1つです。叱ることにハードルを感じている方も、「あくまで叱る役割を担っている」という感覚で臨むと、やりやすくなるのではないでしょうか。
■監修者プロフィール
小川 由佳
株式会社FAITH 代表取締役
津田塾大学卒業後、沖電気工業や外資系メーカーで、物流やSCM業務に従事。
i2テクノロジーズジャパンに転じ、コンサルタント、マネージャーとして、クライアント企業に対するSCMソフトウェアの導入や、それに伴う業務改革のコンサルティングを実施。このときの経験を通じて「企業の根本は人だ」という想いに至り、人材育成分野に関心を持つ。
ジレットジャパンのSCM部門で管理職を経験後、ジェネックスパートナーズへ参画。コンサルタントとして、クライアント企業における業務改革や組織変革の支援を行う。また、研修やコーチングを通じて、クライアント企業のリーダー育成やチーム活性化に従事。
2011年に独立し、各種研修プログラム開発および講師やコーチとして活動中。
株式会社FAITH





