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管理職ラボ

部下育成のコツ“部下のリーダーシップ”を引き出す関わり方

変化の激しいVUCA(ブーカ)の時代では、かつてのような育成方法では部下は育たなくなってきています。「部下の育成に自信がない」「部下とどう関わればいいのかわからない」と感じている管理職も多いのではないでしょうか。

 

本記事では、ビジネスコーチとして多くの管理職を支援してきた小川由佳さんに監修いただき、“部下育成のコツ”を解説。部下の可能性を引き出し、チームが成長するためのヒントをお届けします。





〈監修者:小川由佳〉
FAITH(フェイス)代表
津田塾大学卒業後、メーカーで物流業務に携わる。1999年、サプライチェーンマネジメント(SCM)のソリューションプロバイダーに入社。コンサルタントとして、クライアント企業に対するSCMソフトウェアの導入や、業務改革のコンサルティングを実施。社内初の女性マネージャーの1人として奮闘する中、人材育成分野に関心をもつ。その後、メーカーのSCM部門での管理職を経て、2006年、コンサルティング会社へ転職。クライアント企業のリーダー育成に従事。研修やコーチングを通じて、育成に関わったリーダーの数は600人以上。2011年に独立、各種研修プログラム開発および研修講師、若手管理職や働く女性に対するパーソナルコーチとして活動中。

部下育成の目的は、チームの成長

変化が激しい現代において、管理職の過去の経験だけで意思決定をすることはあらゆる場面で難しくなってきています。そこでいま求められているのは、メンバー一人ひとりが情報を持ち寄ってアイデアを出し、自分で考えて動くチームです。


例えば自社商品の売れ行きが悪くなってきた時、管理職一人でその理由を考え改善策を実行することには限界があります。そんな時、現場を知っているメンバーがお客様の言動などの情報を持ち寄り、解決策を考え、実行する。そういった個々の力を使いながら、トライアンドエラーを繰り返すことがチームの成長には必要です。

「リーダーシップがある部下」を育成しよう

自ら考えて動ける部下、つまりは「リーダーシップがある部下」が今の時代には求められています。自ら「こうしたい」「これを実現しよう」という想いがあり、そのために行動し、さらに周囲に働きかけて巻き込み実現する影響力がある部下のことです。

管理職に求められるのは、支援型リーダーシップ

では、リーダーシップがある部下を育成するために、管理職はどのようなマネジメントをすれば良いのでしょうか?

これまでは管理職が主体となり、過去の経験に基づいて指示命令するマネジメントが主流でした。しかし、メンバー一人ひとりが自ら考えて動いていけるチームにするためには、管理職はあくまで支援をする立場となります。部下にチームの方向性を共有し、その方向性に沿って自ら考えて行動していけるようにサポートすることが、管理職の振る舞いとして求められます。

部下育成に必要な「安心の土台づくり」

ここからは、リーダーシップがある部下を育成するための具体的な方法を解説します。まず大切なのが「安心の土台づくり」です。

そもそも部下は「自分で考えて動いて良いものだ」と思えているでしょうか?

例えば部下から「こんなことをしてみました」と報告された時、「そこまでやらなくていい」と言ってしまうと、その部下は次からチャレンジをしなくなってしまいます。また会議中に部下から「こうした方が良いのではないでしょうか」と提案された際、「まだ新人なんだからそこまで言わなくていい」「ネガティブなことを言わなくていい」などと言ってしまうと、次から意見を言えなくなってしまいます。

管理職は、部下が「管理職には本音で話して良い」「チームでは率直に議論してもいい」「新しいことにチャレンジしても良い」と思えるような環境づくりをする必要があります。これは「心理的安全性の確保」とも言い換えられ、まずは部下の安心の土台を築いてあげることが重要です。

管理職から部下への「承認」は、信頼関係構築に効果的

安心の土台を築くためには、管理職と部下の間で信頼関係があることが前提となります。ベースとなる信頼関係の構築には、管理職から部下への「承認」が効果的です。

管理職から部下への承認は3種類あります。

①成果承認:売り上げ、成績などの成果を認めること。「売り上げが上がって素晴らしい」など。
②行動承認:行動を見て認めること。「朝早くから出社していて頑張っているね」など。
③存在承認:その人の存在を認めること。挨拶をする、笑顔を向ける、目線を合わせて話す、メールに返信するなど。

成果承認は、成果をあげた人しか承認することができませんが、後の2つはどんな部下に対してもすぐに働きかけることができます。特に存在承認は簡単かつ効果的です。

部下をよく観察する

また、安心の土台を築くためには、部下の行動をよく見ておく必要があります。例えば部下が新しい挑戦をして失敗してしまったとしても、過程を見ていればポジティブな側面を発見することができます。「結果は残念だったけど、チャレンジ自体は素晴らしかった」「新しい発想が良かった」など、よく観察することで承認できるポイントが見えてくるはずです。

部下育成のポイントとなる、管理職の振る舞い

続いて、部下育成のために管理職はどのような振る舞いをすれば良いのか、押さえるべきポイントを紹介します。

部下の個性を活かす

できるだけ一人ひとりの強みや個性を生かした方が、結果的にはチームとしての成果の最大化につながります。人の「苦手なこと」は急激には上達しにくいと言えます。もちろんある程度改善してもらう必要はありますが、「強み」を生かす方法を考えた方が、部下にもやる気になってもらいやすいものです。

「これができるようになってほしい」という“理想の部下像”があったとして、部下が全員同じ強みを持っていたとしたらチームとしては機能しません。逆に、様々な強みが集まった集団の方が強いチームだと言えます。

部下の行動を引き出す

部下には「会社として世の中にどのような価値を提供しようとしているのか」「この部門はどういう役割を果たそうとしているのか」「チームでははどういう役割を果たそうとしているのか」という点を共有しましょう。そうすることでチームが同じベクトルを向くことができ、一人ひとりが積極的に行動をするようになります。また自分の仕事がチーム、部門、会社、社会へ繋がっていることがわかれば、モチベーションにも繋がりやすくなります。

「Must」「Will」「Can」のフレームワークを使う

キャリアプランニングのフレームワークに「Must・Will・Can」というものがあります。「Must」は会社からその人への期待や役割。「Will」はその人がやりたいことや大事にしたいこと。「Can」はその人が得意としていることや強み。また、時短勤務などの制約も含みます。管理職は、部下と一緒にこの3つが重なるところを見つけて仕事を任せることが大切です。

例えば、プロジェクトのリーダーを部下に依頼したい時、「これをやってほしい」とMustの側面だけ伝えてしまうと「私はやりたくないのに」と、モチベーションに繋がらない可能性があります。しかし「以前、こういう仕事がしたいと言っていたよね。このプロジェクトでの経験が生きると思うし、あなたのこういった強みが必要なの」と「Will」「Can」を一緒に伝えれば、その業務にも前向きに取り組んでくれることでしょう。

部下に「自分の強み」を気づかせる

人は自分の強みに気づいた時、大きく変わることがあります。例えば「私は心配性で新しいことに挑戦できない」と思い込んでいる方は、裏を返せば「誰よりも早くリスクに気づける」という強みを持っているということ。そういった本人は弱みだと思っているけど実は強みになり得る部分を管理職が見つけ、活かせる仕事を任せることは、部下の自信にもつながります。 ‎

部下のタイプ別、育成の具体的な手法

ここでは様々な部下のタイプ別に、どのように育成をすれば良いのかケーススタディを解説します。

自信がない部下

このタイプの部下には、二つのアプローチが効果的です。一つ目は、強みにフォーカスして引き出してあげること。本人が苦手だと思っていることでも、その人が活躍できる切り口や強みを実感させてあげることです。

二つ目は、小さな成功体験を積ませてあげることです。いきなり難易度が高い仕事を依頼するのではなく、少し難しいけどできそうなレベルの仕事を依頼しましょう。人は頑張れば手が届きそうなレベルのことをやり遂げると、最も成長に繋がると言われています。そして目標設定のハードルを少しずつ上げていくことで、できることも増え、自信をつけられるでしょう。

時短勤務中の部下

子育てや介護などで時短勤務中の方は、遠慮して意見を言わなかったり、チャレンジを避けたりするケースも多いです。例えば新しいチャレンジをしたくても「子どもの体調不良で急に呼び出されたらどうしよう」「迷惑をかけているのに周りにどう思われるか」などの不安を抱えています。

まずはそういった不安や制約を聞いた上で、どう対応するかを一緒に考えていくことが必要です。

時間と成果が必ずしも比例するとは限りません。例えば、出社時間は短いけれど、この時間ならメール確認ができるなど、人それぞれ成果の出し方があるはずです。「時短だから」という言葉で一括りにしてチャレンジを諦めてしまうことはとてももったいないことです。

また、誰しも置かれている状況はその時々で変わります。小学1年生の入学時は子どものケアが必要で勤務時間が短くても、1年経てば子どもも学校に慣れて勤務時間を伸ばすことができるかもしれません。

管理職は「時短だから」と一括りにせず、一人ひとりの状況を聞いて柔軟に対応しましょう。

年上やベテランの部下

「人」と「事柄」を切り分けて接することが大切です。「人」とはその人の人格のことで基本的に変えられません。「事柄」とは行動のことで、変えられるものです。

人格そのものを否定されるとわだかまりが残ります。指摘をする際はあくまで「事柄」のみに注目しましょう。

また部下と言えど人生では先輩です。リスペクトすることを大前提として、言葉遣いや基本的なマナーは守りましょう。

そして年上の部下には、うまく頼ったり相談したりできる関係性を築くと良いでしょう。コントロールしようとするのではなく、協力を依頼するような姿勢が効果的です。

現代の部下育成まとめ

部下の育成に力を入れ、お互いの強みを生かすチーム作りができれば、成果はもちろん、メンバーの仕事のモチベーションも向上します。管理職は「自分の強みは何だろう」「相手の強みは何だろう」という視点を持ち、それをチームとして最大化していく育成を意識していきましょう。



■監修者プロフィール
小川 由佳
株式会社FAITH 代表取締役

津田塾大学卒業後、沖電気工業や外資系メーカーで、物流やSCM業務に従事

i2テクノロジーズジャパンに転じ、コンサルタント、マネージャーとして、クライアント企業に対するSCMソフトウェアの導入や、それに伴う業務改革のコンサルティングを実施。このときの経験を通じて「企業の根本は人だ」という想いに至り、人材育成分野に関心を持つ
ジレットジャパンのSCM部門で管理職を経験後、ジェネックスパートナーズへ参画。コンサルタントとして、クライアント企業における業務改革や組織変革の支援を行う。また、研修やコーチングを通じて、クライアント企業のリーダー育成やチーム活性化に従事

2011年に独立し、各種研修プログラム開発および講師やコーチとして活動中

株式会社FAITH


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