企業の戦略立案に役立つ!経営分析の手法と指標をわかりやすく解説
経営分析は、企業の現状を把握し、未来の方向性を定めるための重要な手段です。戦略立案や長期的な事業の構想にも不可欠といえるでしょう。
本記事では、経営分析の基本的な考え方から具体的な指標や手法、分析時に気をつけたいポイントまでをわかりやすく解説します。
目次
経営分析とは?
経営分析とは、企業の経営状態をあらゆる角度から客観的に可視化し、分析する「企業の健康診断」のようなものです。
財務指標や業績データなど数値化したデータを元に、収益性・安全性・生産性・成長性などを分析します。
これは経営層だけでなく、現場をマネジメントする管理職にとっても重要な視点です。例えば、部門の目標設定や予算配分を行う際、経営分析の知識があれば、会社全体の動きや課題を踏まえた戦略的な判断が可能になります。感覚に頼らず根拠ある意思決定を支えるのが、経営分析の本質的な役割です。

経営分析の目的
経営分析の目的は、企業の経営状況を客観的・多角的に把握し、課題の発見や戦略の策定につなげることにあります。
例えば業績が黒字であっても倒産することは十分にあり得ます。また、単年度では業績が赤字の会社でも、黒字の会社より長期的に見たら安定していることもあり得るのです。
経営分析で現状のボトルネックや強みが明らかになれば、短期的にはどこにリソースを集中すべきか、長期的にどのような改善策が必要かといった意思決定がしやすくなります。
また、経営指標を継続的に追うことで、計画と実績のギャップを早期に察知できることも大きな利点です。経営分析は、企業をより健全かつ戦略的に運営するためのナビゲーションの役割を果たします。
経営戦略については、こちらの記事もご覧ください。
https://bemyself.pasonacareer.jp/skill/skill-3297/
主要な経営分析手法
経営分析にはさまざまなアプローチがありますが、大きく分けると「財務分析」と「非財務分析」の2つに分類できます。
有名なもので、経済産業省が提供してる「ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)」などがあります。
財務分析
財務分析は、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書(CF)などの財務諸表を用いて企業の経営状況を数値で評価する手法です。
具体的には、収益性・安全性・効率性・成長性などの指標を使って、企業の強みや弱みを可視化します。公認会計士や顧問税理士と相談しながら行うのも良いでしょう。
また財務分析は客観性が高く、第三者への説明資料としても活用できる点が大きな特徴です。
予算管理についての記事はこちらをご覧ください。
https://bemyself.pasonacareer.jp/skill/skill-3632/
非財務分析
非財務分析は、財務データには現れにくい企業の状態や将来性を評価するための手法です。
例えば、従業員満足度・離職率・顧客満足度・ブランド力・サステナビリティへの取り組みなどが対象になります。財務分析のように明確な数値で出てくるものではありませんが、アンケートや面談の実施により、定量化することができます。
最近では、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家の増加により、非財務情報の重要性も高まっています。また、業務プロセスや組織文化、イノベーション力といった定性的な要素を把握することで、経営の持続性やリスクを評価する材料にもなります。
自社での実施が難しい場合、専門のコンサルタント会社に依頼する場合もあります。特に労務管理に関しては社労士に相談するのも良いでしょう。
「財務分析」における重要な指標
ここでは、経営分析の中でも財務分析において主な観点である「収益性」「生産性」「安全性」「成長性」で用いられる主な経営指標をご紹介します。
これらの指標は主に次の財務諸表に基づいて計算されます。
項目 | 説明 |
---|---|
貸借対照表 | ある時点での企業の財務状況を表す。略称B/S。 |
損益計算書 | 一定期間における経営成績を表す。略称P/L。 |
キャッシュ・フロー計算書 | 一定期間におけるキャッシュ・フロー(資金の増加と減少)を表す。略称C/F。 |
収益性の分析における指標
収益性指標は「企業が利益をどれくらい生み出しているか」「効率的に稼げているか」を測るための指標です。収益性を確認することで、現在の収益構造に無駄がないか、改善すべきポイントがどこにあるのかを見直すヒントになります。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 概要 | 計算式 |
---|---|---|
総資本経常利益率(ROA) | 企業の総資本をどのくらい活用し、利益を上げたか | 年間経常利益 ÷ 総資本の年平均 × 100 |
自己資本利益率(ROE) | 自己資本を利用して、どのくらい利益を上げたか | 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 |
売上高総利益率 | 売上高に対して、どれくらい利益が出ているか。粗利。 | 売上総利益 ÷ 売上高 × 100 |
売上高営業利益率 | 売上高に対して、どれくらいの営業利益が出ているか | 営業利益 ÷ 売上高 × 100 |
売上原価率 | 売上高に対して、どれくらい原価がかかっているか | 売上原価 ÷ 売上高 × 100 |
売上高販管費率 | 売上高に対して、どれくらい販売管理費がかかっているか | 販売費及び一般管理費 ÷ 売上高 × 100 |
損益分岐点 | 売上高と総費用が同額となり、損益がゼロとなるポイント | 固定費 ÷ 限界利益率 |
生産性の分析における指標
生産性指標は、企業が保有する資産(ヒト、カネ、モノ)をどれだけ効率よく運用し、成果を生み出しているかを測るための指標です。リソースの使い方に偏りや無駄がないかを把握し、業務の改善につなげることができます。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 概要 | 計算式 |
---|---|---|
売上高付加価値率 | 売上に対してどれだけの付加価値(粗利や利益など)を生み出しているか | 付加価値額 ÷ 売上高 × 100 |
労働生産性 | 従業員1人あたりがどれだけの付加価値を生み出しているか | 付加価値額 ÷ 従業員数 |
資本生産性 | 企業が持つ資本(資産)を使って、どれだけの成果(売上や利益)を生み出しているか | 付加価値額 ÷ 総資本 |
労働分配率 | 付加価値のうちどれだけを人件費として従業員に還元しているか | 人件費 ÷ 付加価値額 × 100 |
安全性の分析における指標
安全性指標は、企業の財務基盤がどれだけ安定しているか、外部環境の変化にも耐えられる体制が整っているかを測るための指標です。財務の健全性を把握することで、長期的な経営の安定性や資金調達の信頼性を高める指針になります。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 概要 | 計算式 |
---|---|---|
流動比率 | 短期的な支払い能力を示す指標。流動資産が流動負債に対してどれだけあるか | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 |
当座比率 | 即時に現金化できる資産を元にした支払い能力を示す。現金や売掛金などが流動負債をどれだけカバーできるか | 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 |
固定比率 | 自己資本で固定資産をどれだけ賄えているか。長期的な事業の安全性があるか | 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 |
固定長期適合率 | 固定資産が安定した資金(自己資本と固定負債を合わせた長期資金)でまかなえているか | 固定資産 ÷ (自己資本+固定負債)× 100 |
自己資本比率 | 総資産に対する自己資本の割合。企業の財務の健全性や倒産しにくさを測る | 自己資本 ÷ 総資産 × 100 |
負債比率 | 自己資本に対しての負債の割合。資金調達における借入依存度を把握する | 他人資本(負債)÷ 自己資本 × 100 |
成長性の分析における指標
成長性指標は、企業が今後どれだけ事業を拡大できるか、継続的に成長していけるかを見極めるための指標です。市場における競争力や将来性を把握し、中長期的な戦略や投資判断に活かすことができます。
代表的な指標は以下の通りです。
指標 | 概要 | 計算式 |
---|---|---|
売上増加率 | 前年と比較して売上がどれだけ伸びたか | (当期売上高-前期売上高)÷ 前期売上高 × 100 |
経常利益増加率 | 本業を含む企業活動全体の利益がどれだけ増えているか | (当期経常利益−前期経常利益)÷ 前期経常利益 × 100 |
純資産増加率 | 企業の純資産(自己資本)がどれだけ増加しているか | (当期純資産−前期純資産)÷ 前期純資産 × 100 |
総資本増加率 | 総資本(自己資本+負債)がどの程度増えているか | (当期総資本−前期総資本)÷ 前期総資本 × 100 |
経営分析のポイント
ここでは、実践的な経営分析を行うために押さえておきたい4つのポイントを紹介します。
正しいデータを用意する
経営分析の精度は、使うデータの信頼性に大きく左右されます。
誤った数値や古い情報をもとにした分析では、正しい判断を下すことはできません。例えば予算と実績の整合性が取れていない場合、現状把握どころか誤った課題認識につながる恐れもあります。
そのためにも日頃の会計管理や予算管理は適切に行う必要があります。また非財務分析に必要なデータについても、前年度と比較ができるように整えることが重要です。
各指標を満遍なく分析する
特定の指標だけに注目すると、経営全体のバランスを見失ってしまうことがあります。
例えば収益性ばかりを重視していると、安全性の低下に気づかず、資金繰りが悪化する可能性もあります。経営分析では複数の視点をバランスよく取り入れ、全体像を捉えることが重要です。また、時系列での比較や他社とのベンチマークも取り入れることで、より客観的で多面的な判断が可能になります。
環境の変化を加味する
分析は常に「今の環境」を踏まえたうえで行う必要があります。
例えば景気後退期と成長期では、同じ売上成長率でも評価の基準が変わります。また、業界特性や市場の動向、法制度の変更など、外部環境の影響を無視すると判断がズレてしまう恐れがあります。
環境変化に柔軟に対応できる視点を持つことが、実務における経営分析には不可欠です。
今後の戦略立案に活かす
経営分析は、現状を知ることが目的ではなく、その結果をどう活かすかが本質です。
分析は過去を振り返るための作業であると同時に、未来を設計するための道具でもあります。現状の数値を「読み解く力」と、それを「行動につなげる力」を組み合わせることで、経営の質を一段高めることができるのです。
まとめ|経営分析の指標を理解して企業力を高めよう
経営分析は、企業の未来への戦略を描くための土台となる重要なプロセスです。管理職や現場のリーダーが経営分析の視点を持つことで、経営と現場の距離が縮まり、全社的な課題解決にもつながるでしょう。