ワークエンゲージメントとは?高めるための方法や測定方法を解説
少子高齢化が進み労働人口が減少していく中、どうすれば生産性を上げ、企業や社会を成長させていけるのか。これは国や企業にとって喫緊の課題です。その解決策として注目されているのが、働いている「人」のパフォーマンスを最大化していく「ワークエンゲージメント」への取り組みです。
ワークエンゲージメントは、令和元年に厚生労働省が出した「平成30年版労働経済の分析」において、「働きがい」という言葉を客観的に分析するための概念として用いられました。この記事では、ワークエンゲージメントの概要や、ワークエンゲージメントを高める方法について紹介します。
目次
ワークエンゲージメントとは?
ワークエンゲージメントとは「仕事にやりがいを持ち、いきいきと取り組めている状態」を指します。ワークエンゲージメントが高ければ高いほど、仕事への意欲があり、ポジティブに取り組めていると言えます。
エンゲージメントとは
そもそもエンゲージメントとは、「契約」や「誓約」などを意味する言葉です。ビジネスでは「深い関わり」や「思い入れ」などの意味で使用される場面が多いでしょう。いくつか例を紹介します。
・従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントとは、人事領域で使われる言葉で、企業と従業員の間の信頼関係を指して使われる言葉です。従業員が、組織のビジョンに共感していて「この組織で成長したい」「組織に貢献したい」と感じている状態は、従業員エンゲージメントが高い状態といえます。
・顧客エンゲージメント
顧客エンゲージメントとは、マーケティング領域で使われる言葉で、企業と顧客との間の信頼関係を指して使われます。顧客がこの会社を信頼している、これからも契約を続けたい、〇〇ならこの企業だ、と考えてくれている状態は顧客エンゲージメントが高い状態です。
ワークエンゲージメントの概念
ワークエンゲージメントは、個人と「仕事」との関係性に着目した考え方です。仕事への熱意や愛着の意味を持っています。
ワークエンゲージメントが高い状態とは、仕事に対して「活力」「熱意」「没頭」の三要素が揃った状態を指します。
近年の、転職が当たり前の価値観となった社会では、個人と“企業”のエンゲージメントだけで「働きがい」を論じることが難しくなってきました。個人と“仕事”との関係性に着目することで、従業員のモチベーションをより高め、会社としての生産性を上げていく必要があるのでしょう。
ワークエンゲージメントの位置付け
次に、ワークエンゲージメントが高い状態とはどのような状態かを、従業員のメンタル面から説明します。
ワークエンゲージメントが高い状態の従業員は、仕事に対して活動水準が高く(多くのエネルギーを注ぎ)、肯定的な態度で取り組んでいます。一方で、これとは対照的に、仕事への活動水準が低く、態度が否定的な状態を「バーンアウト(燃え尽き症候群)」といいます。後述しますが、バーンアウトは、ワークエンゲージメントを計測する上でも尺度として用いられる概念です。
他にも、仕事に対しての活動水準は高いが否定的な態度の「ワーカホリズム」、仕事に対して肯定的な態度だが活動水準は低くなる「職務満足感」が、従業員のメンタル面の位置付けとして定義されています。
業務の成果を上げ、会社を成長させるためには、従業員をワークエンゲージメントの高い状態に持っていくことが重要なのです。
ワークエンゲージメントを高めるメリット
では、ワークエンゲージメントを高めると具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
生産性の向上
まず第一に生産性の向上が挙げられます。
ワークエンゲージメントが高い従業員は、活力と仕事への熱意があり、業務にも集中して取り組めます。さらに、ワークエンゲージメントが高い従業員同士は相互にポジティブな影響を与えあうので、さらなる成果を生み出すと考えられます。自然と、会社の生産性も向上するでしょう。
離職率の低下
ワークエンゲージメントが高い従業員は、精神的にも安定しており仕事が充実している状態にあります。そのような従業員が多い会社では、人間関係も良好であるといえます。従業員が安心して働ける職場は働きやすく、離職率の低下が期待できるでしょう。
優秀な従業員の離職を防ぐための取り組みについては、ぜひこちらの記事もご覧ください。
優秀な社員の離職を防ぐリテンションマネジメントの重要性
顧客満足度の向上
また、ワークエンゲージメントが高い従業員は、目の前の仕事に対して誠実に、懸命に取り組む傾向があります。高いパフォーマンスは、商品やサービスの品質の向上にも繋がります。そのため、顧客からの信頼に繋がっていくでしょう。
ワークエンゲージメントの測定方法
一見、曖昧な概念であるワークエンゲージメントはどのような尺度で測れば良いのでしょうか。一般的な方法として以下の3つが挙げられます。
UWES
UWEは「Utrecht Work Engagement Scale」の略で、ワークエンゲージメントを直接測定する方法です。「熱意」、「没頭」、「活力」の3つの尺度を用いて、17個の質問形式で測定を行います。安定性があり、現在最も利用されている測定方法です。
MBI-GS
MBI-GSは正式名称を「Maslach Burnout Inventory-General Survey」といい、16の設問の回答から、ワークエンゲージメントの対局概念である「バーンアウト」かどうかを測定する方法です。つまり、該当する数値が低ければ低いほど、ワークエンゲージメントが高いと判断します。
この測定方法では「Exhaustion(疲弊感)」「Cynicism(シニシズム:仕事そのものから距離を置く無関心な態度」「Professional Efficacy(職務効力感)」という3つの尺度を用いて設問を構成し、バーンアウトの状態を数値化します。
OLBI
最後にOLBIは「Utrecht Work Engagement Scales」の略で、MBI-GSと同様にバーンアウトの状態を数値化する方法です。
OLBIでは尺度として「疲弊」「離脱」のネガティブな2要素を用います。数値が低ければ低いほど、ワークエンゲージメントが高いということです。
ワークエンゲージメントを高める方法
続いて、ワークエンゲージメントを高めるための具体的な方法を紹介します。
前提として、ワークエンゲージメントを高めるうえで、重要な二つの因子があります。一つ目は「個人の資源(心理的資本)」、二つ目は「仕事の資源」です。
「個人の資源(心理的資本)」とは、個人の成長におけるポジティブな心理状態を指し、自己効力感、楽観性、レジリエンス(屈せず、立ち直る姿勢)、希望(目標に向かって取り組む姿勢)などの内的な因子を指します。
一方「仕事の資源」とは、就業条件、対人関係や社会関係、組織での仕事の進め方や課題など、外的な因子を指しています。
この二つは密接に関わっており、相互に影響を与えながら、お互いを強化していく性質を持っていると考えられています。つまり、この二つを強化することでワークエンゲージメントにポジティブな影響を与え、高めていくことができるでしょう。
では、具体的な方法を紹介します。
1on1の導入
コミュニケーションの量と質を担保できる1on1の導入は、「個人の資源」「仕事の資源」双方を強化するためにも、有効な方法の一つです。
1on1をうまく行うことで、管理職が部下をポジティブな心理状態(個人の資質の強化)へと促していくことができます。また、管理職と部下とのコミュニケーション量を増やすことで、目の前の部下にとっての「仕事の資源」が十分かを管理職が判断し、その場でフィードバックすることができます。
キャリア面談の実施
キャリア面談も、「個人の資源」「仕事の資源」双方を強化するために導入するメリットがあります。
キャリア面談は1on1とは異なり、部下の中長期的なキャリア目標や成長のための計画を立てる場です。
管理職と部下が目標を一緒に打ち立てることで、部下の希望が明確になりますし(個人の資源の強化)、部下のキャリア開発のために外的因子を整えることにもなります(仕事の資源の強化)。
部下のキャリア形成支援については、ぜひこちらの記事もご覧ください。
部下のキャリア形成支援のために、管理職が心がけておくべきこと
研修の導入
「個人の資源」と「仕事の資源」、両方を強化できる手段として、研修の導入もおすすめです。
どんなテーマであれ、研修は、個人の内面を深化・成長させ、知識・技能を強化する目的で行われます。会社が積極的にそういった場を提供することで、従業員のモチベーションを高める良いきっかけになり、仕事に対する姿勢の変化や、視野の広がりも期待できます。そして結果的に、ワークエンゲージメントの向上につながるのです。
また管理職は、特に以下のような研修を受けることで、部下のワークエンゲージメント向上に効果を発揮するでしょう。
● リーダーシップ研修:管理職がリーダーシップスキルを強化し、部下を効果的に指導する方法を学ぶことで、チーム全体のエンゲージメントが向上します。
● コミュニケーション研修:効果的なコミュニケーションスキルを向上させる研修です。この研修は、個人の資源に対して大きな影響を与えます。具体的には、コミュニケーション能力が向上することで、自己表現がしやすくなり、他者との関係構築がスムーズになります。また、チーム内での意見交換が活発になり、問題解決や意思決定が迅速に行えるようになります。これにより、個々の従業員が自信を持ち、自分の役割をより明確に理解することで、仕事への意欲と満足感が高まります。
社内公募制の導入
「仕事の資源」強化の一環として、社内公募制の導入も良いでしょう。
従業員がやりたいことに手を挙げることができる仕組みがあれば、仕事の熱意を生むキッカケになります。
このように会社だけではなく、個人にとっても有益な仕事を与えるマネジメントは、ワークエンゲージメントを高める上で最適です。人で組織を強める「ピープルマネジメント」の考え方も手段として有用なので、興味のある方はこちらの記事もぜひご覧ください。
「人」で組織を強める「ピープルマネジメント」とは?手法や注意点を解説
まとめ:ワークエンゲージメントを高めるために
ワークエンゲージメントは自然に高まるものではなく、会社全体が積極的に取り組むことで、少しずつ高めていくことができます。フィードバックや1on1などの、いち管理職の行動でも、取り組めることはたくさんあります。
ワークエンゲージメントが向上することで、従業員の働き方や考え方に変化が生まれ、組織全体の生産力を高めることに繋がるでしょう。