「強いチーム」を作るための土台作り
マネージメントやリーダーシップにお悩みを持つ方に向けて、リーダシップとはどういうものか、自分らしいリーダー像をバランスよく作り上げるために必要な考え方や行動などを解説する本連載。
第一回「変化の時代に求められるリーダーシップとは」では、リーダーシップとは何か?というところから、リーダーに求められる4つのスキルについて、第二回「チームのパフォーマンスを高める意図のパワー」では、意図の力を活用してリーダーシップを取る方法についてお話をしました。
今回は、強いチームを作るための土台作りについて、具体的にできることをお伝えします。私はアメリカの金融業界で働いていた時に、新しいチームをゼロから作る機会が多く、試行錯誤を繰り返していました。そんな時、会社がつけてくれたエグゼクティブコーチが、体系立ててチームを作る方法を教えてくれました。アメリカの大企業の大規模なチーム作りでも使われている方法です。
この方法を採用してから、チームの風通しがよくなり、モチベーションが上がり、チームとして仕事がしやすくなったなど、いいフィードバックが上がってくるようになりました。チームメンバーの個人の力の総和を超えた、強いチーム作りのヒントにしていただければと思います。
自分のミッションの言語化
まず、チームについて考える前に、ご自身の中から出てくるミッションを言語化します。自分の中で言語化できていないものは、他人に伝えることができないからです。
ミッションとは、自分が仕事を通して世の中にどういう価値を出したいのかを言葉にしたものです。自分が大切にしている価値観、自分が果たしたい役割などから考えていきます。細かい仕事内容が変わっても、ミッションステートメントの内容が変わらないような大きなレベルのものであることが好ましいです。
たとえば、コカコーラのミッションは、「世界中をうるおし、さわやかさを提供すること。前向きな変化をもたらすこと」です。(注釈1)
トヨタのミッションは、「わたしたちは、幸せを量産する」です。(注釈2)
ちなみに私個人のミッションは、「女性が心から湧いてくる使命に気づき、能力を最大限に生かして未来を創るお手伝いを通して、女性のエンパワーメントに貢献する」こと。
ミッションがあることにより、日々の仕事の中で出てくる細々とした課題、問題、苦悩などから抜け出て、視座を高く保つことができるようになります。仕事をする上での数限りない決断の際の、判断基準にもなります。
ご自身のミッションを、会社のミッションとどのように掛け合わせていくのか、そこにあなた自身が今のお仕事で出していける価値に関するヒントがあります。そして、そのミッションは、あなたがリーダーとしてどのようにチームを引っ張っていくかにも影響を与えます。また、ミッションは、内的なモチベーションの継続に役立ちます。
ミッションを考える際に、ヒントとなる質問を以下に挙げておきます。
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チームビジョンの作成
次に、チームのビジョンを考えていきます。ミッションが北極星のようなものだとしたら、ビジョンは、そこにどうやって行きたいのかという地図のようなものです。
例えば、コカコーラのビジョンは以下の通りです。
「私たちは、世界中で愛されるブランドや、丹精込めて作り上げている様々な飲料を通じ、心身ともに人々をうるおし、さわやかさを提供してまいります。より明るい未来を築くべく、持続可能なビジネスの実現を通じ、あらゆる人々の生活、地域社会、そして地球にとって前向きな変化をもたらすことを目指します。」
トヨタのビジョンは、以下のように書かれています。
「可動性(モビリティ)を、社会の可能性に変える。不確実で多様化する世界において、トヨタは人とモノの可動性=移動の量と質を上げ、人、企業、自治体、コミュニティができることをふやす。そして人類と地球の持続可能な共生を共生を実現する。」
弊社のビジョンは、「コーチングという、効果的なコミュニケーションツールを日常的に活かせる人を増やし、幸せな人間関係、共に成長できる人間関係を築けるお手伝いをする。一人一人が可能性を最大限に生かすことにより社会課題の解決を担う人材を増やす」です。
チームのビジョンを作る際には、会社のミッション、経営理念、ビジョンなどと照らしあわせて、あなたのチームがどのような役割を果たしていきたいのかを考えていきます。そういうものが明文化されていない場合は、会社がどのように顧客に対してサービスして利益を出しているのか、そこにチームの仕事がどのように関わっているのか、という視点で考えていきます。
例えば、私が富裕層向け商品のマーケティング分析のチームで働いていた時は、「顧客データの分析を通し、より良いマーケティングを提供できるようなインサイトを抽出し、施策の提案をすることで、顧客満足と利益の向上に貢献する。顧客と会社の利益につながる提案をすることで、富を増やすことに貢献する。」というようなビジョンを作成しました。
ビジョン作成のプロセスでおすすめしたいのは、上記のようなビジョンの定義、例、またアイディアなどをチームミーティングに持っていき、チームと一緒に完成させることです。自分たちで考えたビジョンには、当事者意識が生まれます。また、チームメンバーが、自分のタスクを超えたその先を考えて仕事をする習慣をつけることにも役立ちます。仕事に対する前提をともに作り共有することで、チーム間で意見の食い違いがあった時などにも、ビジョンに戻って解決することができるようになります。
強みの共有
次に、チームメンバーの強みの共有をおすすめしたいと思います。強みをベースにしたチームマネージメントは、従業員のエンゲージメントを上げ、会社の利益にも影響を及ぼすという研究結果があります。(注釈3)
強みは、例えばギャロップ社のストレングスファインダーを使ったり、よく知っている相手からのフィードバックによってリスト化したりできます。お互いにその強みがどのようにそのチームの仕事にいかせるか、話し合います。話し合いによって、本人が今まで気づいていなかったその強みの使い方に気がついたり、チーム全体の持つ強みにメンバーが気がついたりします。
そしておすすめしたいのが、チームの強みを俯瞰して見ることです。
例えば、出てきた強みから、下記のような表を作ることができます。(この例の中ではギャロップ社のリストを使用しています)
こうしてみると、チームとして強いところはどこか、逆に盲点はどこかが分かります。その強みをいかすためにどうすればいいか?盲点を補うためにどういう仕組みを作ればいいか?というところまで話し合うことができれば、ミスを減らしたり、チーム全体のアウトプットの価値を上げていったりすることに使うことができます。
例えば、上記の例では、チームの一番の強みは「人間関係力」ですが、逆に「影響力」が弱いことがわかります。影響力が必要なタスクは強みとして持っているDさんにふったり、外部に影響力を及ぼす必要があるプロジェクトにはあらかじめ影響力をどのように及ぼすか、プランニングをするなど、手を打つことが考えられるようになります。
チームチャーターの作成
ビジョンと強みの共有ができたら、次におすすめしたいのが、チームチャーターの作成です。これは、チームの中でどのように仕事をしていくかというルールを決めていく作業です。チームチャーターとは、チームの目的、役割、運営していく時の主義、運営方法、責任の所在などを言語化したものです。共通の目的やプロセスが明文化されていれば、心理的安全性が確保され、メンバーが団結して仕事をすることができます。
チームチャーターは、チームのマネージャー、またはチームメンバー全員で、ブレインストーミングをして最終化することをお勧めします。ブレインストーミングのミーティングをする際には、ファシリテーターを任命し、ホワイトボードなどにノートを取りながら、メンバーが積極的に参加し、協力してすすめていく環境を作ります。
チームチャーターに必要な要素は以下の通りです。
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チームチャーターを作成するにあたり、以下の手順で進めていきます。
1)前述のチームのビジョンを出す
2)チームが大切にしたい価値観を出す
例えば、「お互いに対する尊敬を持ち、それぞれの強みをいかしてできるだけ効率的に仕事をする」など、そのチーム特有の価値観を挙げていきます。
3)チームメンバーの役割と、それぞれのメンバーに期待されるものを書き出す
ここでは、チームメンバーがそれぞれチームの中でどのような役割を果たすのか、言語化します。また、誰がどういう責任を取るのかも明文化します。誰が全体の責任者なのか?メンバーそれぞれの責任は?という視点だけでなく、チームのステークホルダー(チームの仕事によって直接的または間接的に影響を受ける利害関係者)がチームに対して求めているもの、期待していることなども考えて、それにどのように応えていくのかを書き出します。
4)どのようにコミュニケーションを取るのかを言語化する
ここでは、どういう時にどのような方法でコミュニケーションを取るかを決めていきます。
5)チームにとって何が成功で何が失敗かを書き出す
成功したという証拠になるものを数値で出すとしたら(=KPI)、どのような数値になるのかを明らかにします。
6)問題が起こった時、メンバー同士の意見が合わない時などに、どのように解決していくかを書き出す
書いていると長く複雑になっていきそうですが、最終的なチームチャーターは、簡潔でわかりやすいものになるように工夫してください。できあがったら、全員にサインをしてもらい、同意を得ます。
フィードバックループを作る
上記のチームのビジョン、強み出し、チームチャーターの作成と参加者の同意などは、日常業務を離れてミーティングをすることをお勧めします。よくある方法として、チームビルディングの日を半日や1日取り、その中で数時間かけてブレインストーミングして作成するというのがあります。全員が参加できるよう、チームが大きい場合は小さいグループに分けてディスカッションしてもらい、後から発表してもらうという方法もあります。この話し合いをしてお互いを理解すること、お互いの強みだけでなく、コミュニケーションの特性、興味の方向性などを知ること、そしてそれを尊重しながら同じゴールを目指すということこそが、強いチームの土台だからです。
実際に私がこれをやっていた時は、普段使っているオフィスとは違うオフィスで会議室を借りたり、会議の途中でランチに行ったり、会議が終わった後に全員でボーリングのようなアクティビティをしたり、飲みに行ったりと、日常とは違う場所でコミュニケーションを取る工夫をしていました。
もちろん、それをするためには、日常業務から離れてチーム作りに時間をかけるというコミットメントが必要です。土台を整えた結果として、チームのモチベーションと生産性が上がるため、そのあたりを強調して上司やチームを説得することができれば、どんな企業風土においても実現可能ではないでしょうか。
最後に、大切なこととして、個人のパフォーマンスへのフィードバックだけではなく、チームとしてのパフォーマンスのフィードバックループを作ることもおすすめしたいと思います。
上記のビジョン、チームチャーターなどは、会社の方向性が変わったり、メンバーが変わったりすると、当然見直しが必要になってきます。定期的に見直す機会を持ち、同時にチームの功績を認識していくことにより、チームの結束力を強めていってください。
この連載では、3回に渡り、変化の激しい時代のリーダーシップを模索している方に向けて、自分らしいリーダー像をバランスよく作り上げるために必要な考え方や行動などをお伝えしてきました。リーダーシップを通して自分自身や人の意欲を高めたり、よりよい世界にしていきたいと希望を持って行動できると思っていただけたら、大変嬉しく思います。
注釈1 私たちの使命とビジョン(コカ・コーラ)
注釈2 トヨタフィロソフィー
注釈3 How Employees' Strengths Make Your Company Stronger
『第一回記事:“変化の時代”に求められる「リーダーシップ」とは』
『第二回記事:チームのパフォーマンスを高める、リーダーの「意図のパワー」』
吉川ゆり(HEA Coaching International LLC)
■経歴詳細:
大阪大学人間科学部卒業(行動学専攻)
Middleburry Institute of International Studies公共行政学修士号取得
コンサルティング会社を経て、米国大手銀行、フランス大手銀行にてVP(ヴァイスプレジデント)職を歴任後、サンフランシスコのフィンテックでシニアディレクターとして勤務。
2020年より社外のコーチングを副業として始め、2021年にHEA Coaching International LLC 設立。
■資格:
HPI認定ハイパフォーマンスコーチ(CHPC)
FRC認定ハイフローコーチ
全米NLP協会認定NLPマスターコーチ
タイムラインセラピー®協会認定タイムラインセラピー®マスタープラクティショナー
ABH米国 催眠士協会認定マスターヒプノシスプラクティショナー
ヒプノセラピスト
瞑想コーチ
臼井レイキ with Holy Fire レイキマスター
■所属団体:
ICF国際コーチ連盟(サンフランシスコ支部)