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仕事に効く話

チームのパフォーマンスを高める、
リーダーの「意図のパワー」

マネージメントやリーダーシップにお悩みを持つ方に向けて、リーダシップとはどういうものか、自分らしいリーダー像をバランスよく作り上げるために必要な考え方や行動などを解説する本連載。

 

第一回の「変化の時代に求められるリーダーシップとは」では、リーダーシップとは何か?というところから、リーダーに求められる4つのスキルについてお話をしました。

今回は、チームのパフォーマンスを高める、リーダーの「意図のパワー」についてお伝えしたいと思います。

人間の意図が持つパワー

自分とチームのパフォーマンスを上げるために、リーダーが今日から、日々の業務の中で意識的にできること。それは、文字にすると単純なことなのですが、「何事にも意図を持つ」ということです。人の意図の持つパワーについては、脳科学、教育学、心理学などの分野で研究が進んでいます。意図を持つことにより、同じ情報を見ても、意図を持たない場合とは脳の違う領域が活性化されるという研究結果もあります。(注釈1)

意図を持つと言うのは、前回お伝えした「集中力」の向く矛先を設定するということです。これは、自分自身の脳に、何に集中するかを教えるというプロセスでもあります。そうすることにより、私たちが持つリソースのうちで一番貴重、かつ重要な、時間というものを有効に使い、少ない時間で多くの成果を出す=パフォーマンスが上がるという図式になります。

これをビジネスの文脈で表すと、「常にアジェンダをもち、それに沿って動く」ということになります。実際、ハーバード大学経営大学院教授で、企業戦略の第一人者でもあるマイケル・E・ポーター博士の行った「CEOの時間の使い方」に対する調査でも、「明瞭で効果的なアジェンダを持ち、それにを推し進めるために多くの時間を割く」ということが、CEOの時間の有効活用について最重要項目だという結果が出ています。調査対象のCEOは、平均で、四半期の勤務時間の43%の時間を、自身のアジェンダを推進する作業に費やしていたそうです。(注釈2)

また、自分のアジェンダをあらかじめ設定しておくことにより、忙しい日常生活の中で、他人のアジェンダに左右されてはっと気がついたら1日、1週間、1ヶ月が終わっていた・・・という状況を防ぐことができるようになります。

ではここで、まずあなたのリーダーとしてのアジェンダ出しをしてみてください。たとえば、この四半期、6ヶ月、1年で、あなたが成し遂げたいことは何でしょうか?これは、仕事についてだけでなく、個人的なことについてもリスト化するのをおすすめします。難しく考えず、「チームをこうしたい」「このプロジェクトをこうしたい」「こういうふうに人と接したい」「こういうふうに毎日過ごしたい」「こういう人になりたい」といったレベルで大丈夫です。

意図を使って集中力・パフォーマンスを上げる方法

次に、“意図のパワー”を使って具体的にパフォーマンスを上げていく方法をご説明します。

まず、先ほど出したアジェンダを、毎朝見直す時間を作ってください。アジェンダは、できれば3〜5個に絞ることをお勧めします。それ以上になると、日々そこに集中することが難しくなるからです。

私たちの意識には、顕在意識という表層的な思考の部分と、潜在意識という無意識にやっている習慣の部分があるのは、ご存じでしょうか。また、脳にはRAS(毛様体賦活系)という、認識のフィルターがあります。これは、目の前にある莫大な情報の中から、何を認識するかを決めるためのメカニズムです。

毎朝アジェンダを見直すことにより、日常生活の中で常に作動している潜在意識に、あなたの意図をインプットすることができます。すると、自分が特に意識していない間にもその意図を全うするためのアイディアや行動について脳が回答を求め続け、RASがそれに対して必要な情報を認識し続けることができるようになります。そうすると、ふとした拍子にいいアイディアが湧いてきたり、今まで見逃していた情報が目に止まったり、普段以上に集中してアジェンダに関連する作業ができたりするようになります。

次に、アジェンダごとに、その日にやることをタスクとして書き出します。それができたら、今日はどんな1日にしたいか?どんな気分でいたいか?というところまでセットで書き出してください。

弊社のコーチングプログラムでお客様に普段おすすめしているのは、ここまで出した意図をビジュアライゼーションして、1日を予行演習することです。その日のカレンダーを見ながら、今日はこういう会議がある、こういう人と話をする、こういうタスクをする、などがわかったら、先ほど設定したどんな1日にしたいか?という理想をもとに、ざっと1日の予行演習をします。頭の中で、理想的な自分として振る舞い、理想的な結果が出ていることを想像するだけです。これをやるとやらないとでは、1日の進み具合、自分の満足度が違う、というお声をいつもいただきます。そして、それこそが、意図を先に設定することの効果です。

先にこうする、と決めておくと、その意図からずれた時に、自分で気づきやすくなり、その場で軌道修正ができるようになります。この予行演習のアイディアは、プレゼンや会議でも使えるので、ぜひことが起こる前に、あらかじめ脳内で予行演習をする癖をつけてみてください。

また、ハーバードのCEOの調査で出てきたように、アジェンダがわかったら、それを推し進めるために、多くの時間を割くことが必要です。そのためにおすすめしたいのは、タイムブロッキングです。アジェンダごとにタスクが出てきたら、それを何時から何時までやる、という時間割のようなものを作ります。この時のポイントは、突発的な出来事がでてきてもその日のうちに完了できるよう、余裕を持って時間割を組むことです。

そこまでできたら、実際に1日の作業を始めます。活動前にこのひと手間をかけることで、意図の設定ができ、潜在意識のパワーを借りて1日を効率よくすすめる準備ができるのです。

リーダーが全てに意図を持って行動をそこに合わせていけば、リーダーが本来するべき仕事にエネルギーと時間を割くことができるようになります。そして、チーム全体が同じように自分の仕事に対して意図を持って動くことができれば、そのチームは自ずとパフォーマンスが上がっていきます。そのために、まずは、リーダーであるあなたが日常的に意図を持つ訓練をして、それをチームに浸透させていくことをお勧めしたいと思います。

無意識の意図で部下のパフォーマンスを引き出す

最後に、意図の持つもう一つのパワーを使って部下のパフォーマンスを引き出す方法についてお話しします。

「ピグマリオン効果」という有名な心理学のコンセプトがあります。人間は、高い期待をかけられると、それにこたえるよう行動し、成果が出るという心理効果のことです。これは、人間が無意識に他人の意図を汲み取って行動するために起こります。

私も実際に経験したことですが、部下に対して上司である私が、「この人はあまり仕事ができないな」と思い始めると、その人はなぜか失敗を繰り返したりして、ますますパフォーマンスが下がっていきます。でも、同じ人でも別の上司の元にいけば、仕事の質ががらっと変わったりするのです。

この心理効果を利用して部下の力を伸ばしていくためには、その人の強みや興味を理解した上で、「この人は適切な環境を与えられれば、強い力を発揮できる人だ」という信念を持って相手に接する必要があります。

そして、適切な裁量を与えたり、いつも見守っていることを何気なく知らせたり、ピンチの時は手を差し伸べたり、小さいことでも成果を出した時は褒めたりと、その人に対して肯定的な関心を持っていることを分かってもらうような行動をします。

これは、常に相手に対してポジティブな意図を持つ、ということです。どんな人間関係でも、あなたの無意識の意図は、相手に伝わります。あなたがポジティブな意図を持っていると、それは必ずチームに伝わり、やる気や忠誠心といったものになって返ってくるのです。

もし今、あなたのチームの中で、「この人は仕事があまりできない」と感じる人がいたら、「この人はどういう環境の中でどういう仕事を与えられたら、もっとも力を発揮するだろう?」と考えてみてください。



連載第2回目の今回は、目には見えないけれど、私たちのパフォーマンスや幸福度、満足度など人生の質にも影響を与える、「意図のパワー」についてお伝えしました。ぜひ、今日から実践してみて、効果を感じてみてください。

次回は、強いチームを作るための土台作りについてお伝えします。


第一回記事:“変化の時代”に求められる「リーダーシップ」とは



注釈1Modulation of Neural Activity during Observational Learning of Actions and Their Sequential Orders / Scott H. Frey and Valerie E. Gerry Journal of Neuroscience 20 December 200626
注釈2HBR July-August 2018

吉川ゆり(HEA Coaching International LLC)のイメージ画像

吉川ゆり(HEA Coaching International LLC)

■経歴詳細:
大阪大学人間科学部卒業(行動学専攻)
Middleburry Institute of International Studies公共行政学修士号取得
コンサルティング会社を経て、米国大手銀行、フランス大手銀行にてVP(ヴァイスプレジデント)職を歴任後、サンフランシスコのフィンテックでシニアディレクターとして勤務。
2020年より社外のコーチングを副業として始め、2021年にHEA Coaching International LLC 設立。

■資格:
HPI認定ハイパフォーマンスコーチ(CHPC)
FRC認定ハイフローコーチ
全米NLP協会認定NLPマスターコーチ
タイムラインセラピー®協会認定タイムラインセラピー®マスタープラクティショナー
ABH米国 催眠士協会認定マスターヒプノシスプラクティショナー
ヒプノセラピスト
瞑想コーチ
臼井レイキ with Holy Fire レイキマスター

■所属団体:
ICF国際コーチ連盟(サンフランシスコ支部)

 

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