チームの一人一人が影響力を発揮するシェアドリーダーシップとは
VUCA(※)の時代と呼ばれる予測不可能な時代に突入する中で、リーダーシップの一つの在り方である「シェアドリーダーシップ」が組織の中で注目を集めています。
シェアドリーダーシップは、予測困難な何かが起こった時、単独のリーダーだけでなくメンバー全体がリーダーシップの役割を果たし、協力して目標を達成しようとするアプローチです。なぜこの新しいリーダーシップスタイルが注目を浴びているのでしょうか。この記事では「シェアドリーダーシップ」の概要やメリット・デメリット、注意点などを紹介します。
※VUCA…ブーカ。「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」の4つの頭文字を取った造語。
目次
シェアドリーダーシップとは?
シェアドリーダーシップとは、チームメンバーそれぞれがリーダーシップを発揮し、場面に応じてリーダーの役割を共有できる状態を指します。
従来のリーダーシップでは、リーダーが意思決定や方針を主導し、メンバーはその指示に従う形態や、「サーバント・リーダーシップ」と呼ばれるリーダーがメンバーの特性を理解し、支援を行う形態が主で、いずれの場合もリーダーとメンバーの役割は固定されていました。しかし、シェアドリーダーシップでは、組織やチームの中で複数のメンバーが流動的にリーダーの役割を担う事で、メンバーそれぞれが、より主体性を持って組織の目標に取り組む事ができるようになります。
シェアドリーダーシップは、従来のリーダーシップスタイルでは対応しにくい複雑な状況や急激な変化に適したスタイルです。メンバーが主体的にリーダーシップを発揮し、柔軟に対応することで、変化の激しい場面でも、チームとして乗り越えていく事ができるようになります。
シェアドリーダーシップのメリットやデメリット
では具体的にシェアドリーダーシップのメリットやデメリットはどのようなものがあるのでしょうか?それぞれ紹介します。
メリット
1. チーム全体の力を最大限に引き出す可能性がある
チームメンバーそれぞれの強みやスキルを生かし、その状況に応じて強みを発揮できるメンバーがリーダーシップを発揮することで、チーム全体の成果を底上げすることができます。
2.不測の事態への対応速度と柔軟性が向上する
それぞれが時と場合に応じてリーダーの役割を果たすことで、不足の事態が起こった時にリーダー不在でも対応方法をメンバーが自ら進んで考え行動するようになります。その結果、問題への対応速度が向上し、物事への柔軟性も生まれるでしょう。
3. 当事者意識が生まれ、チームメンバーのモチベーションが向上する
各メンバーがリーダーシップの役割を果たすことで、目の前の自分の仕事だけでなく、仕事全体を俯瞰する視野の広さと視座の高さが身につきます。チーム全体の仕事に関わることによって、組織内で自らが重要な存在であると感じる機会が増え、やりがいや熱意が生まれ、モチベーションが高まります。
4. 新しいアイデアが生まれる
メンバーそれぞれが主体性を持ちリーダーシップを発揮できる環境は、チーム力を高め、チーム内の議論も活発にします。いがみ合いや好き嫌いの感情ではなく、全体最適の視点、さらには「何のために行うのか?」といった目的思考による健全な議論ができるように変わります。
5.次世代のリーダー育成が期待できる。
すべてのメンバーがリーダーシップを発揮する機会を持てるようになることで、若手の頃から日々の業務の中で「リーダーシップとは何か」を学ぶことができ、次世代のリーダーの育成につながります。
デメリット
1.環境づくりに時間がかかる
シェアドリーダーシップでは、メンバーそれぞれがチーム内で発言しやすい環境であることがとても重要です。できたばかりのチームでは関係性が深まっておらず、シェアドリーダーシップを行う場合、リーダーの高いファシリテーション能力が求められます。
2. リーダーシップの一貫性の欠如と意思決定の複雑化
複数のメンバーがリーダーシップの役割を果たすため、組織の一貫性が欠如する可能性があります。一人のメンバーがリーダーシップを発揮した時には、周りがフォロワーに回る必要があり、リーダーにはこれをあらかじめメンバーに周知する必要があるでしょう。
「船頭多くして船山登る」と言われるように、指図する人が多すぎると、かえって統率が取れずに意に反した方向に物事が進んでいく懸念があります。そうならないように注意が必要です。
シェアドリーダーシップを成功させるポイント
シェアドリーダーシップを成功させるためのポイントはいくつかあります。
チームの目標やビジョンを明確化する
シェアドリーダーシップが成功するためには、チーム全体が明確な目標とビジョンを共有している必要があります。メンバーが別々の方向を向いていては、誰かがリーダーシップを発揮しても他のメンバーの同意を得ることができず、バラバラになってしまいます。だからこそ、組織やチームの目標やビジョンはあらかじめ明確化しておくことがポイントです。
目標設定のコツについての記事はこちら
■管理職の目標設定のコツ。組織やメンバーを成長させるための考え方
フォロワーシップの重要性
フォロワーシップとは積極的にリーダーの方針を支援する役割のことを指します。仮にメンバーの一人がリーダーシップを発揮したとしても、誰もついていかなければ他のメンバーも本当に従っていいのか判断に迷ってしまいますし、リーダーシップを発揮したメンバーも自信がなくなってしまうでしょう。リーダーにはリーダーを一番に支援する「フォロワー」が必要なのです。
シェアドリーダーシップでは、誰もがリーダーの役割を行う機会があります。メンバーの一人がリーダーシップを発揮した時、他のメンバーは自然にフォロワーに回ってリーダーを支援することが、非常に重要なポイントになります。
メンバーへの周知と理解を促す
シェアドリーダーシップが機能するためには、メンバー全員が組織の方針や目標を正確に理解し、共有することが重要です。シェアドリーダーシップを行う際には、「チームの目標やビジョン」「フォロワーシップ」についても事前にメンバーへ周知し、それぞれの理解を促すことがポイントです。
シェアドリーダーシップの注意点
では、実際にシェアドリーダーシップを実施する際、リーダーが気をつけるべき注意点を三つご紹介します。
組織の目的をメンバーに周知する必要がある
メンバーが目指すべき方向を理解できないままでは、各自の取り組みがバラバラになり、チーム全体が一体となって進むことが難しくなります。
リーダーは最初に組織の目的を明確に説明し、メンバーが共通の価値観・ゴールを持つように努めましょう。目的を共有することで、メンバーの視界を揃え、全員が同じ方向を向いて協力する下地が作られます。
チーム内の信頼関係が重要
個々のメンバーが自発的にリーダーシップを発揮するためには、チーム内の信頼関係や心理的安全性の確保が不可欠です。リーダーは積極的に発言したり、アイデアを臆せず発信したり、時には周りにアドバイスを求める必要があります。その為には、メンバーにとってチームが安心安全の場であり、お互いに対して信頼感があることが大前提となります。リーダーはチームメンバーそれぞれとの関係性はもちろん、メンバー間の信頼関係構築にも目を配り、信頼関係の構築に努めることが重要です。
信頼関係構築のポイントについての記事はこちら
■管理職とメンバーの信頼関係構築のポイント
従来のリーダーシップを否定するものではない
シェアドリーダーシップを理解すると「それぞれがリーダーシップを発揮できるなら、従来のリーダーは必要ないのではないか」と思ってしまうかもしれません。ですが、シェアドリーダーシップは従来のリーダーシップを否定するものではありません。
シェアドリーダーシップではあくまで「他者への影響力」を示し、「チーム全体を管理する」マネジメントとは異なります。シェアドリーダーシップを生かす為には、メンバーの信頼関係構築やビジョンや目標の周知が不可欠であり、全体像の把握のためにも本来のリーダーが担う役割は重要なものになると言えます。
まとめ
あなた自身を含めたメンバーそれぞれの強みを生かし、柔軟な対応が期待できる「シェアドリーダーシップ」は予測不可能な時代の中で、大きな可能性を秘めています。
一人一人が主体性を発揮し、それぞれの強みを発揮できる環境は、チーム力の向上にも繋がります。チーム内の信頼関係やメンバーの主体性は一朝一夕で築くことは出来ませんが、少しずつ積み上げていく事で、大きな成果を出せるチームに育っていきます。
いきなり重大な責任を担うポジションにつくことは誰しも不安になることでしょう。だからこそ、小さなことからリーダーの役割に慣れておくことが良いですね。
ぜひ、リーダーシップを発揮することに気後れしないでください。
ちなみに、わたくしが考えるリーダーの定義は「やると決めた人」です。あくまでもマイ定義なので、あなたも自分にとってのリーダーの定義を考えてみてください。
先日、私もこんな経験をしました。友人女性のお家へ遊びに行った時のことです。友人が家事と仕事で疲れていたようで、ソファに座った状態で小さくため息をついた時、5歳の長男くんがママの頭をよしよしと撫でながらこう言ったのでした。「ボクはママの味方だよ」
私は胸が熱くなりました。親は自分が子どもを育てるのは当たり前だと思っているでしょうが、一方で子どもも自分なりに親への労りの気持ちをもっているのですね。その時の5歳の男の子は、「仲間や愛する人のために貢献したい」という立派なリーダーシップを発揮していたのでした。
私たちは皆、自分の人生のリーダーです。ぜひ、周囲の仲間やメンバーとお互いにリーダーシップを発揮して仕事を楽しんでくださいね。
河村 晴美
NHKクローズアップ現代に出演した『叱りの達人』
今まで25年間、トヨタ自動車、東京海上日動、大阪府警察本部など、のべ15万人へ講演
研修の実績あり。新卒入社した有線放送会社で同期入社700名中で5位の営業成績を挙げ
るものの、部下育成はおでこに蕁麻疹が出るほどストレスで自信を失う。心理学やキャリ
ア形成、コーチング、西洋哲学(言語分析)などを学び『リスペクト&ユーモアで伸ばす
叱り方』でパワハラ予防の専門家として活躍中。好きな映画は、スターウォーズ、鬼平犯
科帳。京都女子大学卒
叱りの達人協会(有限会社ハートプロ)
我慢や力押しせずにラクして相手が動き出すコミュニケーションのコツを知りたい方はこちら
https://shikarinotatsujin.com/present/#merumaga
【書籍】
「やる気をONする叱り方」(PHP研究所)等多数あり
【メディア出演】
日本経済新聞、読売新聞、産経新聞、朝日新聞、奈良新聞、NHK、
読売テレビ、関西テレビ、Abema TVなど多数。
KRY山口放送ラジオ『どよーDA』レギュラー出演中
【趣味】
落語鑑賞や神社仏閣めぐり、宿坊体験など
母親より書道を3歳の時より指南され、墨の香りに癒される