部下のマネジメントのために、
上司として必要な「傾聴力」
34歳企画職のミホさんと、隣の課の課長で42歳のマユミさん。同じ会社で働く仲良しの先輩後輩の2人が、働く女性として感じるあらゆるモヤモヤを語りながら解決策を探る、当コラム。今回のテーマは「上司に必要な傾聴力」について。1on1など、部下の話を聴く機会も増えた昨今。部下の話を正しく“傾聴”できていますか? マネジメントに役立つ傾聴スキルをマユミさんが説きます!
34歳独身。明るく人懐っこい笑顔で、愛され上手。一方で、ややがさつな面もあり、不用意な一言で周囲をヒヤリとさせることも。営業職から企画職に移り、そろそろマネジメントを任されそう。親からは早く結婚するよう急かされているのも、モヤモヤのタネ。
42歳既婚。いつも落ち着いていて、気配り上手な優しい先輩……というのは表の顔で、実は些細なことで悩みがちな小心者。寝る前はその日の自分の言動を振り返ってモヤモヤするのが定番。現在はミホさんの隣の課の課長。小学生男子の子育て中。
目次
部下の話を「仕事モード」か「相談モード」か切り分けることが傾聴の第一歩
ミホさん
管理職を目指す上で、部下の話をしっかりと聴くスキルも必要だと思うのですが、どうも普段から聴き下手で……。
マユミさん
相手の言っていることをきちんと理解すること、すなわち「傾聴力」は、マネジメントで必要なスキルだね。上司に傾聴力があれば、部下に安心感が生まれて、コミュニケーションがスムーズになるよね。
ミホさん
そうですよね。マユミさんは聴き上手ですが、傾聴力はどうやったら身に着くのでしょうか?
マユミさん
ありがとう! そもそもなんだけど、上司と部下という利害がある関係では密な相談って受けづらいんだよね。部下側も自分の発言が評価にかかわるかもと思うし、上司側も「指導しなくては」という前提があるでしょ。
ミホさん
なるほど。言われてみれば直属の上司にはマユミさんに話すように悩みを打ち明けられないですね。
マユミさん
そうだよね。だから、部下の話を聴く時は、仕事の内容に対するアドバイスを求められている「仕事モード」なのか、相談に乗ってほしい「相談モード」なのかを上司の方が意識的に分ける必要があるの。その上で、部下の話を傾聴すること。
傾聴では、「同感」ではなく「共感」を使う
ミホさん
たしかに、そういった心構えも大切ですよね。では、傾聴の流れについて教えてください。
マユミさん
まず、傾聴では「同感」ではなく「共感」で話を聴くことが前提なんだ。
ミホさん
どういうことでしょうか?
マユミさん
「同感」というのは、聴き手の価値観や経験で心が動いている状態。例えば、相手の話を聴いて、“自分も”好きか嫌いか、“自分も”知っているか知らないか、というように。
一方、「共感」とは、話し手がどう思っているかに興味を持ち、理解すること。”あなたは”これが好きなんだ、”あなたは”これを知っているんだ、という視点。つまり話を理解する時の軸が自分にあるか、相手にあるかの違いなんだ。
ミホさん
傾聴では、話を聴く時には自分の意見を押し殺さなければいけない……ということでしょうか?
マユミさん
「同感」をしてはいけないわけではないんだ。ただ、自分の意見に気付いたら、相手に伝えようとするのではなく、心の中に放っておくの。
だって、自分の意見を持ってはいけないとなると自己否定につながって、ストレスも溜まるでしょ? あくまで、話を聴く時に「同感」と「共感」は並列にとっておいて、どちらも否定しない視点が重要。
ミホさん
自分の感情や本心を抑えることが、傾聴の第一歩だと勘違いしていました。だから人の話を聴くことに苦手意識があるのかもしれません。
マユミさん
傾聴する時には「同感」も「共感」も心の中にあるけど、コミュニケーションを取る時は「共感」で、が鉄則かな。共感なら相手の意図とズレようがないでしょ? 同感軸でアドバイスしようとしたり自分の意見を言ってしまうから、相手が伝えたかったことからどんどんズレてしまうんだよ。
部下の反応に気を配りながら確認作業を積み重ねることが、傾聴
ミホさん
「共感」で聴きながら、相手の話しをきちんと理解するために、どのようなテクニックがありますか?
マユミさん
私が頭の中でよくやっているのは、“分けて聴く”こと。「自分と同じ考えだ」「自分とは違うな」と整理していくと、理解しやすいの。この分け方も、あくまで頭で整理するためで、話し手を無理矢理同じ意見にさせようとしてはダメだよ。
ミホさん
話の途中で、「分かるよ、同じようなことが昔あってさ」と遮られて、そういうことではないんだけどな……とモヤモヤした経験はあります(笑)。
マユミさん
まさに自分の経験軸での「同感」のコミュニケーションだよね。そうではなくて、傾聴では「伝え返し」をして、しっかりと話し手の反応を見ることが必要なんだ。
傾聴の第一人者であるアメリカの心理学者でカウンセラーのカールロジャースのカウンセリングも、会話の85%が「伝え返し」だったと後の分析でわかったことなんだって。
ミホさん
伝え返しの方法について詳しく教えてください!
マユミさん
聴き手は話し手が伝えた内容を「これってこういうことかな?」と返す。そして相手の反応が「そうです!」「はい!」といったスッキリとしたYESなのか、「まあ……そうですね」「ええ……はい……」のようにモヤモヤとしたYESなのかを見る。後者の場合は聴き手側が話し手の内容を理解しきれていないことや、聴き間違いが発生している証拠なんだ。
ミホさん
会話の中で上司に対してハッキリとNOは言えませんが、YESの中にも種類があるのは個人的にもよくわかります。例えば上司に悩み相談してアドバイスをいただいたとしても、少し納得いかない時は「そうですね……一旦そのようにやってみます」のような曖昧な返事をしてしまいます。逆に自分でも腹落ちするアドバイスが返ってきた場合「やってみます!」と、心の底からYESが言えます。
マユミさん
モヤモヤとしたYESが現れた時に、「だから私が言いたいのはこういうことで」と、自分の意見をさらに説明するのではなく、どこでズレたのか再度聴いて確認すること。これが傾聴の流れなんだよ。
ミホさん
あくまで相手が言いたいことを引き出すことが目的ですもんね。
部下の本音を引き出す、傾聴ワード「他に何かある?」
ミホさん
ちなみに、部下が本音を語りやすくなる声掛けはあるのでしょうか?
マユミさん
私がよく使うのは、話の最後に「他に何かある?」と聴くことかな。もしくは「他に質問とか伝えておきたいことある?」と、二択にする。
ミホさん
「質問ある?」だけだと、質問で返さなくてはと思いますが、「何か」とか「質問か伝えておきたいこと」だと、何でも言っていいんだと安心して発言できますよね。
マユミさん
相手の回答を狭めすぎない投げかけがポイントなんだよね。
ミホさん
逆に傾聴する際に使わない方がいい言葉はありますか?
マユミさん
自分の意見を押し付けるような言葉かな。「でも」といった否定や、「わかるよ」といった無理矢理自分の価値観・経験に紐づけるような言葉もNG。
ミホさん
「わかるよ」と言われたら部下から修正しづらいですもんね。ズレたまま話が進んでしまいそうです。
1日5分のコミュニケーションで、部下の本音を傾聴しやすい関係に
マユミさん
あとは、かしこまって1on1の場を設けて傾聴しようとするのではなく、日常的に上司からコミュニケーションを多く取って、話しやすい環境を整えることも必要。心理学でも「ザイオンス効果(単純接触効果)」と言われていて、短時間のコミュニケーションでも回数が多いほど、相手に好感を抱きやすくなるんだよ。
ミホさん
でも、リモートワークが増えて、なかなか難しくなりましたよね。
マユミさん
例えば、「タスク確認」などの名目で毎日軽いミーティングをルーティーン化するのはどう? それも30分とかは負担になるけど、5分など短い時間なら無理なく取り入れられそうじゃない?
ミホさん
そうですね。その時に「他に何かある?」と上司から振ってもらえたら、何かと相談しやすくなりそうです。
自分の心の声を聴くのも、傾聴力
マユミさん
あとね、ミホさんに伝えたいのが、自分の心の声も傾聴してほしいということ。
ミホさん
あまり意識したことなかったです。
マユミさん
特に管理職になると部下の話を傾聴しても、上司は自分の話を傾聴してくれないってことも増えるんだ。そういった時に、自分は自分の意見を否定しないで共感してあげること。どうしても「これではダメなんだ」「上司が言うようにしなければ」と思いがちだけど、自分の本音の存在は認めて、自分自身が理解する。そこに良い・悪いのジャッジはしない。そうすれば、自分の心ともうまく付き合えるようになるんじゃないかな。
ミホさん
傾聴はマネジメントに必要なのはもちろん、自分自身が健やかに働き続けるためにも必要なスキルなんですね。今日から取り入れてみます!
POINT
①傾聴では、話し手に興味を持つ「共感」軸で話を聴くこと。
②話し手の言葉を「伝え返し」し、反応を確認。モヤモヤを修正すると、話を傾聴できる。
③自分の心を傾聴することも働く上では大切。
監修者:岩松 正史
一般社団法人日本傾聴能力開発協会代表理事。公認心理師・傾聴心理師、キャリアコンサルタント。職場と家庭の人間関係に難しさを感じている人に「楽に聴ける傾聴法」の提供を通して、人生に自信と安心を提供する傾聴教育の専門家。著者に『その聴き方では、部下は動きません。』(朝日新聞出版)など。