5分で完結!子どもとの質の高い時間で築く親子の絆と自己効力感【専門医が解説】
~「肯定的な注目」という魔法~
毎日、仕事と育児の両立に追われるあなたへ。 たった5分で子どもとの絆を深める方法があることをご存知ですか?
Be myself 読者の皆さま、初めまして。小児科医で3児の母でもある西村佑美です。いわゆる発達障害(現在は神経発達症と呼ぶ)を専門とし、都内大学病院の専門外来に勤務する傍ら、多動や言葉の遅れといった発達特性をもつ我が子の子育てをした当事者経験から、従来の医療の枠を超えた支援の必要性を痛感しました。
2020年、コロナ禍を契機に「ママ友ドクター」という新しい専門家像を確立。現在は出版を機に起業し、発達・子育て支援の新しいカタチを作る経営者という一面ももっています。
完璧な母親という呪縛からの解放
私たち子育て世代は、かつてない挑戦に直面しています。キャリアの構築と子育ての両立は、時として私たちの心に大きな重圧をもたらします。しかし、ここで重要な気づきが広がってきました。
「完璧な母親」を目指す必要はない、むしろ、限られた時間の中で最大の効果を生む「スマートな子育て」こそが、現代を生きる私たちに求められているのです。
質の高い時間という革新的子育てアプローチ
なぜ今、「質の高い時間」なのか?
従来の「長時間一緒にいること=良い子育て」という固定観念は、もはや現代の働く母親たちの現実にそぐわないものとなっています。例えば、3時間子どもと同じ空間にいても、どちらかがスマホを見ながらの「ながら子育て」や、子どもがタブレットで動画を観続けているなど、実質的なコミュニケーションがほぼ無い場合、その時間は子どもの心の発達にほとんど寄与しません。一方で、たった5分でも、心を込めた関わりをもつことで、子どもの自己肯定感・自己効力感を大きく育むことができるのです。
「質の高い時間」の科学的根拠
研究によれば、子どもの健全な発達に最も重要なのは、親との「アタッチメント(愛着)」の質です。これは必ずしも長時間の関わりを必要とせず、短時間でも質の高い相互作用を通じて形成できることが明らかになっています。
アタッチメントとは、子どもが特定の養育者(多くの場合は親)との間に形成する情緒的な絆のことです。安定したアタッチメントをもつ子どもは、以下のような特徴を示します。
・高い自己肯定感をもつ
・ストレス耐性が強い
・問題解決能力に優れる
・他者との良好な関係を築ける
・学習意欲が高い
特に注目すべきは、このアタッチメントの形成には、24時間365日の密着した関わりは必要ないという点です。むしろ、以下のような「質の高い関わり」が鍵となります。
(1)子どもの感情に気づき、適切に応答する
(2)子どもの目線に立って共感する
(3)子どもの自主性を尊重する
(4)一貫した態度で接する
5分で実践!質の高い時間の作り方
「質の高い時間」が重要とはいっても、忙しくてなかなか確保できない!!というのが本音の私たち働く女性。では、どうすればいいのか。5分で完結する質の高い時間を、1日数回確保しようと意識すればいいのです。まずは1回からでも。習慣になってくると1日何回でも確保できるようになります。私の書籍『発達特性に悩んだらはじめに読む本』では、このような習慣を「肯定的な注目」、「注目ほめ習慣」とも呼んでいます。
朝の準備時間を会話の機会に
忙しい朝でも、工夫次第で質の高い時間は作れます。朝の準備時間を有効活用し、会話の機会にして行きましょう。
・着替えや身支度の手伝いをしながら、今日の予定を確認
・「今日も頑張ろうね」や「ママのために園に行ってくれてありがとう」という励ましとねぎらいの言葉がけ
・小さな自立を褒める機会として、行動に注目してナレーション
「おかえり」の瞬間を大切に
お迎えもしくは子どもの帰宅時の最初の5分間は、その日一番の質の高い時間となります。以下を参考に大事に過ごしてみてください。
・いったん手を止め、子どもの視界に入り目が合って「おかえり」
・「今日はどんなことがあった?」と、オープンな質問
・答えを急かさず、うなずきながら返答を待つ(最低5秒!)
・「今日も一日、園/学校に行ってくれてありがとう。ママも頑張ったよ」
寝る前の5分を活用
一日の終わりは、子どもの心が開かれやすい貴重な時間です。子どもとの絆を深められるよう、短時間でも密なコミュニケーションをとって行きましょう。
・その日あった良かったことを共有
・明日の予定を楽しみに話し合う
・スキンシップを取りながら、「大好きだよ」というメッセージを伝える
・年齢相応でない甘え方をしてきても、「もう小学生なんだから」などと拒否せず受け入れる
質の高い時間をさらに充実させる「肯定的な注目」とナレーション
基本的な考え方
肯定的なナレーションとは、子どもの行動をリアルタイムで言語化し、前向きな視点で認めていく関わり方です。単なる「ほめる」とは異なり、子どもの行動プロセスそのものに注目し、それを声に出して伝えていく手法です。一般的な「ほめる」と同等かそれ以上の効果をもたらし、子どもたちの成長に良い影響を与えます。この手法は、発達特性のある子どもたちにも効果的です。子どもたちの行動の背景にある理由を理解し、肯定的な視点で接することで、子どもの成長を確実に促すことができます。
行動を肯定的にナレーションする効果 |
行動の3分類と対応
行動ナレーションを行うにあたり、子どもの行動を、「増やしたい行動」「減らしたい行動」「やめさせたい行動」に3分類し、特にその中の「増やしたい行動」に注目するのが有効です。
【増やしたい行動】
・日常的な良い行動、当たり前にできていること。
→例:「自分で起きられたね」「おいしそうに食べているね」
【減らしたい行動】
・すぐに止める必要のない気になる行動
→環境調整や具体的な説明を後で行ってもよいので焦らない。
【やめさせたい行動】
・他害自傷、危険行為など
→即座に明確に制止、代替行動を説明・練習
行動ナレーション、実践のポイント
では、具体的にどのように「行動ナレーション」を実践して行けばよいのでしょうか?以下がポイントとなります。
・1日30~50回を目標に行動に注目してナレーション
・25%の達成でも認める
・行動の節目を意識した声かけ
・子どもの反応を見ながら調整
・まずは「減らしたい行動」を減らそう、ではなく「増やしたい行動」をどう増やすのか…から考える。
・子どもが「減らしたい行動」を繰り返すときは、事前に具体的な約束をするのを習慣づけ、約束を守るという意識に切り替える(守れたらほめる)
【タイミング】
・行動の最中にリアルタイムで実況中継するように声をかける
・30秒〜数分おきに小まめに実施するのも手
・行動の節目でメリハリをつける
【表現方法】
・「〇〇しているね」「〇〇したね」という形で行動を言語化
・感情的な判断を加えず、観察した事実を伝える
・ポジティブな視点で解釈する
まとめ
この「5分の質の高い時間」という考え方を味方につけることで、仕事と育児の両立がより実現可能になります。完璧を目指すのではなく、できる範囲で少しずつ継続実践していくことが、持続可能な親子関係づくりの秘訣です。さらには、これからの時代に合った、子どもの才能や特性を引き出し伸ばすという新しい可能性も開けるのです。
ぜひ、明日からでも試してみてください!
明日からできる3つのステップ
(1)まずは朝・帰宅時・就寝前の5分間を意識的に確保
(2)子どもの行動を3分類し「増やしたい行動」に注目
(3)毎日、最低10回は「肯定的なナレーション」を実践
西村佑美(にしむらゆみ)さん
小児科専門医、子どものこころ専門医。小6長男、小3長女、年中児次男の3人を育てる母。重度自閉症のきょうだい児として育ち、大学病院勤務の発達障害(神経発達症)専門の医師になる。自身も発達特性のある子どもの子育てに苦しんだことから、医学的専門知識と母としての実体験を融合させた独自のアプローチで、発達特性を持つ子どもの親に寄り添う活動「ママ友ドクター®プロジェクト」を続け、2022年から発達特性のある子どもの子育てに悩むママ向けのオンラインスクールコミュニティ「子ども発達相談アカデミーVARY-バリィ-」を主宰。全国30都道府県6か国に会員を広げる。2024年9月に出版した本はAmazon4カテゴリーで1位を獲得しベストセラーに。2024年10月、一般社団法人日本小児発達子育て支援協会を設立し、代表理事に就任。
◇西村佑美 公式サイト
『発達特性に悩んだらはじめに読む本』