『生活の中に溢れているヒントに気づき、 アウトプットに落とし込む』
株式会社LIXIL・デザイナー 和田明日香さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。女性管理職として活躍するインタビュイーはいつ何に悩み、どう決断してきたのか。キャリアの分岐点と決断できた理由を語っていただきます。
今回は、LIXIL Housing Technology 商品・デザイン本部 デザインセンターインテリアグループ シニアデザイナーの和田明日香さんにお話を伺いました。
和田明日香(わだ・あすか)さん
LIXIL Housing Technology
商品・デザイン本部
デザインセンターインテリアグループ
シニアデザイナー
既存の方法に捉われず、ゼロからイチを生み出す
- 新卒で入社した会社で約9年間、照明のプロダクトデザイナーとして経験を積んできた和田さん。LIXILへの転職を決意したのも「暮らしに関わる製品をデザインしたい」という思いからでした。
- 「LIXIL入社当初は、ポストやフェンスといった、住宅の外で使われるエクステリア製品のデザインを担当していました。6年間エクステリア製品のプロダクトデザインを担当した後、室内建具や床材などのインテリア製品 のプロダクトデザイン担当になりました。現在は、国内外向けに1〜2年後に商品として開発されるインテリアのルートテーマの開発、部門横断型や新規ビジネスにつながるようなアドバンス(先行開発)デザインを担当しています。
既存の枠にとらわれないアドバンスデザインでは、課題を見つけ、それを解決する方法やアウトプットとしてのデザインまで自ら考えていきます。まさにゼロからイチを生み出していきます。エクステリア製品担当の時から徐々に始めているのですが、自分の中でも大切にし、周囲からも評価されてきた部分だと感じています」
- アウトプットの一例を挙げてもらうと、一昨年商品化した「Concept F」という製品を教えてくれました。
- 「従来のフェンスは、戦後の住宅政策による土地の区画整理のために普及しました。『ここから先はうちの土地だから入ってこないで』という明確な境界線を引くためのものだったんです。
でも、さらにさかのぼってフェンス本来の役割を見つめ直してみると、フェンスの前任とも呼べる竹垣は、全然高さがないので外から内が見えますし、隙間も多くて人が入ろうと思えば簡単に入れてしまいます。その竹垣の価値とは何だったのか。光や風を通し、空間を緩やかに仕切る役割を担っていたのではないか。その価値観は、今の日本人の中にも息づいているのではないかと思いました。
新しい素材と技術を駆使すれば、現代のライフスタイルに竹垣が持つ価値観を融合させた、新しい「フェンス」を作れるのではないか—こういった発想から「Concept F」は完成しました。
建築家の方とお話をさせていただく際にも、歴史的背景から課題を探り、アウトプットを実現させていったことに好評をいただきました。このように、既存の方法に捉われず、新しいビジネスや製品・サービスの芽を作り出すことを日々仕事の中で大切にしています」
小さい子どもを抱えた働き方を『当たり前』と受け入れてもらえた
- 前職の照明メーカーの組織改編により、直接的にデザインに関わる部署がなくなってしまったことで転職を考え始めた和田さん。「この会社に入らない理由はない」と思い、LIXILへの入社を決めたそうです。
- 「照明メーカーで直接デザインに関われなくなってしまったのですが、暮らしに関わる製品をデザインしたいという思いはずっと持っていたので、転職活動を始めました。LIXILとの出会いは、ポートフォリオを見て声をかけてもらったのがきっかけでした。
転職活動を始めた当時は育休から復職して1年あまり。ちょうど子どもが2歳になる頃で、時短勤務中でした。転職活動において、この点はマイナスに働くだろうとある程度予想はしていましたが、案の定、『子どもが小さい』という理由だけで次のステップに進めない企業もありましたね。
でも、LIXILの面接では、前職で時短勤務をしていることや、子どもが小さいので突発的な休みをもらうことも多いかもしれないことを伝えると『今のライフステージでは、それがむしろ当たり前』と、ごく自然に受け入れてもらえる雰囲気があったのです。
また、LIXILは住宅建材の総合メーカー。住宅関連の多岐にわたる製品に携われるのは非常に魅力的でした。面接を受けた後、『この会社に入らない理由はない』と思い、入社を決めました」
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が浸透しているからこそ、働きやすい
- 入社して改めて実感したのは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の浸透でした。
- 「入社してみると、『性別や年齢、障がいの有無など、個性やバックグラウンドの異なる、さまざまなメンバーがいるからこそ多様な意見が生まれ、それがいい製品を生み出す』という考えが社内に浸透していました。そんなLIXILだから、子どもが小さくて大変な時期にあった私を必要としてくれたのだと感じました」
- 入社後、仕事と育児の両立の悩みを人事に共有し、一緒に社内制度を考えた時期もあったのだそう。
- 「当時、繁忙期になると、どうしても20時までに保育園へお迎えに行けない日がありました。そういった日には、自費でベビーシッターを頼んでお迎えに行ってもらっていたんです。そういった悩みを人事に共有し、ベビーシッター費の助成制度を考えてもらうなどしていました。
このような柔軟な対応も、D&Iが浸透していたからこそだと思います。
現在私が所属するデザインセンターでは、女性だけでなく男性も数名育休を取得していますし、保育園のお迎え時間に合わせて何時に退社するかの事前共有も日常的に行われています。また、コアタイムなしのスーパーフレックス制度も導入されていて、非常に働きやすい環境が整っています。
今、子どもは小学4年生になり、ある程度のことは自分でできるようになりましたが、それでも、学校から帰ってきて習い事に行くまでの間に夕食をとらせたり、体調が悪いときには病院に連れて行ったりしなければなりません。そんな時にスーパーフレックス制度は重宝しますね」
→後日公開の「後編記事」に続きます。
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写真:MIKAGE
取材・執筆:北森 悦