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仕事に効く話

産婦人科医 高尾美穂先生に聞く
働く女性が知っておきたいヘルスケア

仕事もプライベートも前向きに楽しみたい! そうは思いつつも、いつもなんとなく不調を感じている方も多いのではないでしょうか。

今回は、医学博士・産婦人科専門医として多くのメディアでも活躍する高尾美穂先生にご登場いただき、働く女性が毎日を健やかに過ごすための方法をお聞きしました。


高尾美穂先生
医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者。イーク表参道・副院長として婦人科診療に携わる傍ら、スポーツ庁国立スポーツ科学センター 女性アスリート育成・支援プロジェクトのメンバーとして女性アスリートのサポート、ヨガのイベント・指導を行うなど、活動は多岐にわたる。女性の健康で幸せな人生と前向きな選択を後押しすることをライフワークとし、テレビ・雑誌など数々のメディアで活躍。

自分の不調を「課題」として放っておかないこと

― 生理痛やPMSなどのさまざまな体の不調。女性がこれらに振り回されず健康に過ごすためには、まず何から始めたらいいのでしょうか?
高尾先生:  まずは困っていることに自分で気づき、課題として認識することが大切です。生理の出血量の変化や生理痛が繰り返し起こる不調だけではなく、自分では気づいていないけれど、周りから見ると生理前にメンタルの調子が悪くなっていることもあります。

生理をはじめとする体の不調は、自分が困るだけでなく、周りにも影響を及ぼしてしまっていることもあります。だからこそ、自分の体の不調を『解決すべき課題』として認識することが社会人としての義務だと思います。そしてまずはセルフケアに取り組みましょう。


― セルフケアとは、具体的にどのようなことをすればいいのでしょうか?
高尾先生:大切なのは、十分な睡眠・ストレッチなどを含めた適度な運動・ストレスを減らすよう日々取り組むことです。睡眠時間が足りないことでメンタル的な不調にも陥りやすいですし、イライラもします。運動不足は当然肥満になりますし、姿勢も悪くなり、多くの病気に直結します。

― 十分な睡眠時間とは、どれくらい必要なのでしょうか?
高尾先生: ほとんどの方は1日7時間の睡眠が必要だと思っていてください。よく眠れた次の日って、それだけでご機嫌に過ごせた経験もありますよね? 『睡眠の質』で短時間睡眠をカバーするという話も聞きますが、それは効果がないことがわかっています。

また、『ショートスリーパー』と呼ばれる3~4時間の睡眠時間でも健康に支障がない人は、遺伝子で決まっていて100人に1人くらいしか存在しませんし、トレーニングで身に着く技術ではありません。
「よく寝た」というだけでもメンタル的に落ち着き、体調も回復します。1日7時間の睡眠を確保しましょう。
― それでも日々忙しいと、どうしても無理をしてしまう女性は多いと感じます。
高尾先生:そうですよね。一括りに『働く女性』といっても、仕事量や、子育ての有無、また子育て中でも子どもの年齢によっても状況はさまざま。そんな中、24時間という時間は平等です。どれだけ時間が足りないか、というのはみなさん自身が一番感じておられると思います。

そんな中、みなさんどうしても自分のための時間を削って無理をしがちです。でも、今の生活習慣の中で、睡眠・運動・リラックス、どれが失われているのかに気付く。そしてしっかりと睡眠時間を確保し、適度な運動習慣を持つ、そして自分がストレスを感じず快適だと思えるような人間関係を保つ努力をすることを、30・40代前半の女性にはぜひ取り組んでほしいと思います。

更年期は誰もが通る道。心配しすぎなくて大丈夫

― さまざまな不調の中で、これから訪れる更年期にも不安があります。
高尾先生:更年期は卵巣機能が低下し、女性ホルモンの分泌が急激に減る時期のことです。50歳頃に閉経を迎えることが多いので、40代後半から50代前半が更年期にあたります。卵巣機能の低下により、脳の視床下部の働きが不安定になることで現れる症状を更年期障害といいます。でも、誰もが通る道ですし、きちんとした対処法もあります。そんなに恐れなくても大丈夫ですよ。
閉経に向け、女性ホルモンの分泌量が減る時期を「更年期」と呼びます。
― 最近は、30代・40代前半でも生理不順、のぼせ、イライラといった更年期のような症状を感じるという話を聞きますが、これはどういうことなのでしょうか?
高尾先生:更年期という言葉を世の中でもよく聞くようになったので、私の元にも『更年期が心配』と相談に来ていただく30代の方も増えました。でも、生理が順調に来ているということは、卵巣機能は維持され、ホルモンの分泌は安定しているということ。更年期ではありません。

つまり、30代40代の更年期のような不調は、直接的に視床下部の働きが落ちて自律神経の活動が不安定になっているために起こります。

自分の生活を見つめ直し、睡眠、運動、ストレスのどこかに『きっとこれが関係しているだろうな』と思い当たることが原因だと思われます。

年に1回、婦人科でのエコー検査で病気の早期発見を

― そのほか、30代・40代の女性が気にしておくべき病気や、見逃してはいけない体のサインはありますか?
高尾先生:30〜50代にかけてはホルモンの変化が起こる年齢なので、生理の周期がバラついたり、生理の量が増えたり減ったり、体になにかしらの変化が起こります。

たとえば子宮筋腫は40代からグッと増えますし、『チョコレート嚢胞』と呼ばれる子宮内膜症が卵巣にできた状態も30代あたりから見つかることが増えます。

かつては『生理は病気じゃないから生理痛も我慢しなさい』という時代もありました。でも、現代においては生理の不調がその後の病気につながる可能性も多くのデータで明らかになっています。たとえば生理痛が重い人の方が軽い人よりも、将来的に子宮内膜症を発症するリスクが2.6倍高いなど。

しかも子宮内膜症は、妊娠できない理由になり得たり妊娠中のトラブルのリスクになり得たり、閉経後の発がんリスクを高めたりと、負担がとても大きい病気です。

では、そうならないためにはどうするかと言ったら、『生理痛が重い』というサインを見逃さず、対策をしていくことが大切。そして病気の早期発見のためにも、定期的に婦人科を受診してほしいですね。

― 婦人科の受診頻度はどれくらいがいいのでしょうか?
高尾先生:子宮頸がん検査は2年に1回、自治体からの通知があるかと思いますが、あわせてエコー検査を受けることがおすすめです。

子宮頸がんの検査はあくまで、『子宮頸がんの有無』を調べるだけなので、そこで異常がなかったからすべて大丈夫、という言えるわけではありません。エコーで子宮や卵巣の様子を知ることで、婦人科系の病気の早期発見につながります。

体や心の不調には対策方法がある時代。自分や周囲を大切にしよう

― 体の変化もあるなかで、仕事やプライベートでも決断のタイミングが増えてくるのが30代の女性だと感じています。自分らしく働くためのエールをお願いいたします。
高尾先生:30代は、一番いろんな立場の方がいる年代です。たとえば仕事をバリバリと楽しんでいる人、仕事にモヤモヤがありこの先が不安な人、結婚や出産をしたいけどパートナーとうまくいっていない人、子どもが3人いて子育てにいっぱいいっぱいな人など。

そのくらい生活がバラバラなので、自分にないものを同級生が持っているように感じることもあり、焦ったり他人が羨ましく感じたりするかもしれません。でも、その気持ちは、他の立場の方があなたに抱いているかもしれない、と思っておいた方がいいです。結局はないものねだりであることに気づけるはず。

そして、自分がどういった人生を過ごし始めているかが見えてくる年代だからこそ、一度立ち止まって、これからどういう人生を歩みたいかを考えてみてほしいです。たとえば出産など、体のタイムリミットがある問題は判断しなければならない大事な時期でもありますので。

特に体の不調に関しては、対策方法がある時代です。困っている状態を放っておかないでくださいね。女性の場合特に、ご自身が困っている状態を解決し、ご機嫌に過ごすことは、パートナーや家族、周囲の人にも良い影響を及ぼします。だからこそ、自分自身の調子の良さを前向きにゲットしていってほしいです。

― では最後に、仕事でも管理職など次のステージに登ることが多い40代の働く女性にも、これからをどう過ごしていくべきか、教えてください。
高尾先生:40代は、自分たちの次の世代に対してどんなことができるのかを社会的な面で考えてほしいと思います。また、人との付き合い方をもう一度見直してみて、仕事以外でも思いが通じ合う仲間を大切にしてほしいです。だってこれから20年来の友人をイチから創るってとても大変ですよね?

ホルモンの変化でイライラしたり落ち込んだりする時期ではありますが、自分のせいと責めずに、婦人科などの専門家に相談すると、より自分らしい自分でいられると思いますよ。



まずは自分の健康状態を把握し、不調に気づいたら日々の生活を見直すこと。必要以上に心配しなくても不調には対処法がある、というのは心強いお言葉でした。自分と周りの大切な人のためにも、健康を保つことをしっかりと意識していきましょう。
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