管理職女性100名に大アンケート! 6割が「管理職になって良かった」とポジティブな結果に!
働く女性を応援するBe myselfでは、女性管理職100名にアンケートを実施。管理職になる前後での変化や、現在のモチベーションや本音を大調査しました! 結果の解説として、ジェンダー問題や働き方を専門に扱うジャーナリストで、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の治部れんげさんをお招きし、日本の女性管理職がおかれている状況をひも解きます。
調査結果はこちら
<アンケート概要>
・対象:企業に務める30代・40代の女性管理職 100名
・実施日:2023年12月
目次
- 管理職就任後、満足度は高め
- ■一般社員の頃、管理職になりたいと思っていたか
- ■ご自身のキャリアを振り返り、管理職になってよかったと思いますか?
- 給与、スキル、信頼…管理職になって得たモノとは?
- ■管理職になって、最も良かったこと
- ■給与への満足度
- ■管理職になったことで特に成長を実感しているスキル・能力等(※複数回答)
- ■管理職になり、周囲からの信用・評価が上がった実感
- ■どのようなときに、チームビルディングの喜びを感じるか(※複数回答)
- ■仕事に対する裁量の大きさの変化
- ■管理職になり、スケールの大きな仕事に関わっている実感はあるか
- 時短勤務が浸透? 5時間労働の管理職も!
- ■睡眠時間、労働時間
- ■管理職になる前と比べた労働時間
- ■管理職になる前と比べた仕事のペース管理
- これから女性管理職をもっと増やすためには、個別のニーズに対応を
- ■社内の女性メンバーにも、管理職になるよう勧めたいですか
- ■今の会社は、女性が管理職として働きやすい環境が整っているか
- ■女性が活躍するために特に必要だと思うこと(複数回答)
管理職就任後、満足度は高め
まずは、管理職になる前から振り返ります。一般社員の頃の出世意欲に関して「管理職になりたかった」「ややなりたかった」の合計が34%。つまり、66%が希望したわけではないのに管理職に就任したという結果となりました。
■一般社員の頃、管理職になりたいと思っていたか
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一方、「管理職になってよかったか」という質問では、60%が「よかった」「とてもよかった」と回答しています。
■ご自身のキャリアを振り返り、管理職になってよかったと思いますか?
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就任後の満足度は高いのに、希望者は少ない。この現状には管理職へのイメージギャップなどが隠れているのでしょうか?
「転職は意思を持って行いますが、同じ組織内での昇進については、そもそも強い意思を持つ方はあまりいないのが現状です。ただ、それでも3割以上の女性が管理職登用に対して意欲的。10〜20年前よりも増えているという体感ですね。
女性活躍が進み、『女性管理職』という生き方が一般的になり、将来のビジョンを描きやすくなったと考えられます。実際、管理職になって良かったという意見が多数派なのも、研修や多様な働き方の制度など、女性が働きやすい環境になるよう、企業が努力している証拠ではないでしょうか」(治部さん)
とは言え、「管理職になってよくなかった」「とてもよくなかった」と答えた層も1割程度存在しているのも気になります。
「仕事のやりがい、お金、時間をトータルで考えた時に『管理職になってからの方が負担が大きい』と感じる方はどうしてもいるだろうと感じます。部下のフォローが中心の仕事内容になってしまったり、管理職になったことで労働組合からも外れ、残業代が付かなくなったり、それなのに家事と育児の負担が変わらなかったり。そういった問題を抱える管理職は一定数存在してしまいます」(治部さん)
給与、スキル、信頼…管理職になって得たモノとは?
では、「管理職になって良かった」と感じる要因は何なのでしょうか。「最も良かったこと」として挙げられたのは、上から「給与アップ」「裁量を持てる」「自身の成長」でした。
■管理職になって、最も良かったこと
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「給与アップがモチベーションになるのは、年代性別問わず普遍的なことですよね。
『裁量が持てる』というのは、やはり管理職になったことで仕事の自由度が増し、自分の時間を自分でデザインできている方が多い証拠だと思います。管理職になってからの方が、意外とプライベートとの両立が取りやすくなったという声も聞きます。
『自身の成長』がモチベーションになっている方は、『管理職になりたかった』と答えた34%の方のように、元々意欲が高い方だったのではないかと推測します」(治部さん)
ここからは、管理職になったことによる具体的な変化についても掘り下げていきます。
■給与への満足度
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給与に関して「やや不満」「不満」と答えた人が33%でした。これに対して、治部さんの見解は?
「前提として、日本の給与水準は欧米と比べ、一般的に低いと言われています。そのような状況でも、満足をしている方が比較的多いのは、管理職になったからこそ。責任が増えた分、きちんと経済的にも報われているのは良いことです。企業としてこの点をきちんとアピールできていれば、『管理職になろう』と意欲を持つ方はもっと増えるのではないでしょうか」(治部さん)
成長実感については、様々なスキルアップを感じている管理職が多く見られました。
■管理職になったことで特に成長を実感しているスキル・能力等(※複数回答)
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「ここで上位に挙げられている問題解決力、マネジメントスキル、リーダーシップは、管理職には必須の能力でもあります。その能力のスキルアップを感じているということは、日頃から使えているということ。とても良い結果だと感じました」(治部さん)
また、管理職になると、周囲からの信用にも変化が出るという結果に。
■管理職になり、周囲からの信用・評価が上がった実感
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「名刺を出した時の反応の良さや、商談で管理職の方を見てお客様が話すなどといったシーンはよくあることです。管理職になり、周囲の信頼・評価が上がったと答えた方が6割を超えているのは、納得の結果ですね」(治部さん)
管理職ならではの「チームビルディングの喜び」に関しても前向きな結果に。
■どのようなときに、チームビルディングの喜びを感じるか(※複数回答)
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「管理職とは、部下の仕事に対して責任を持つ立場です。一人ではできない規模やスピードで仕事を達成できた時に喜びを感じるのは、管理職のあるべき姿と言えます。そして、そのためにチーム全体のコミュニケーションが上手くいっていることが大切なので、『チーム全体の雰囲気の良さ』を感じられているのはとても良いことです。
また、2割近くの方が『チームの労働環境の改善』を挙げています。これは現代ならではの感覚です。かつての管理職は叱咤激励しながら部下にたくさんの業務を任せていました。しかし、現代では部下の働き方も管理職の仕事だと感じている。やはりダイバーシティの観点が浸透したことや、ハラスメントに対する意識が高くなったことが理由です。管理職が先回りして働きやすい環境を整えることで、チームの成果も上がると考える方が増えていますね」(治部さん)
続いて、仕事の裁量の変化について。基本的に、管理職になれば裁量は大きくなるものですが、「変わらない」という方も34%存在しました。
■仕事に対する裁量の大きさの変化
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「特殊な事例ですが、もしかしたら女性活躍推進をはき違えた企業側が『管理職における女性割合を増やしたいから、とりあえず登用した』という悪いパターンもあるかもしれません」(治部さん)
「女性管理職を増やす」ことが目的になってしまってはいないか? 改めて女性活躍推進とは何かを、企業によっては認識し直す必要がありそうです。
また、管理職になり「スケールの大きい仕事に関われている」と実感している方は、半数を超える結果に。
■管理職になり、スケールの大きな仕事に関わっている実感はあるか
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「ただし、仕事のスケールの大きさは、業種、企業規模にもよって異なります。役職が上がったことでスケールに大きな変化が現れるとも限りません。そういった意味でも、特に実感していない方が43%というのも納得の結果です」(治部さん)
時短勤務が浸透? 5時間労働の管理職も!
さて、ここで気になるのが管理職のワークライフバランスについて。睡眠時間や労働時間、働きやすさについても調査をしました。
■睡眠時間、労働時間
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まず、注目すべきは睡眠時間について。短い方もいるようで、治部氏も警笛を鳴らします。
「2021年版の経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本人全体(全世代・男女)の平均睡眠時間は7時間22分と33ヵ国中最短。また、男性より女性のほうが13分短い結果となり、日本の女性の睡眠時間は世界と比べても短いのです。
睡眠が減ると明確に風邪をひきやすくなるというデータも存在しています。また、当然仕事の生産性も下がります。持続可能な働き方のためにも睡眠時間は確保してほしいところです」(治部さん)
一方で労働時間の結果については、ポジティブな側面もあるといいます。
「今回のアンケートで、労働時間が5時間という方もいます。これは育児時短勤務やリモートワークをされながら管理職になっている方が含まれるということ。フレキシブルな働き方の管理職もいらっしゃるということですね」(治部さん)
ちなみに、1日の平均労働時間が10時間を超えていた人は全体の3割程度。ただし、そのうちの67.9%は「管理職になって良かった」とも回答していました。労働時間はキャリアの満足度にあまり関係しないとも考えられます。
「たしかに、労働時間が短ければ満足度が高くなるとは一概には言えません。自分の裁量で働けることや、チームを引っ張って成果を出すことが、働く喜びと感じる方もいます。そういった方は、多少の労働時間の増加があっても、負担に感じません。労働時間が伸びることがかならずしも管理職の不幸につながっているわけではないのです」(治部さん)
では、管理職になってから労働時間はどのように変化したのでしょうか? 半数は「変化がない」 という結果に。
■管理職になる前と比べた労働時間
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「責務は増えたにも関わらず、労働時間が短くなった、変化がないと答えた方が6割近くいるのは良い傾向だと思います。一方、労働時間が長くなったと感じている方の中には、本来部下に任せるべき業務まで管理職が手をかけているという方もいるのかと感じます。例えば、『私がやった方が速い』と、部下の資料を作ってしまうなど。そういったことはないように、本来の管理職の仕事であるマネジメントに業務の重きをおけると、自分で時間をコントロールしやすくなるはずです」(治部さん)
ということで、 管理職になり「仕事のペース管理に変化はあったのか」の結果も見てみます。
■管理職になる前と比べた仕事のペース管理
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管理職になってから「自分のペースで働きやすくなった」と回答した人は3割に止まりました。これは、どういうことなのでしょうか?
「例えば、部下のことを待つ時間、部下の資料を添削して戻す時間などは、管理職になると必ず発生します。そのため、自分のペースで働けるようになった方は3割にとどまったのではないでしょうか」(治部さん)
ちなみに、管理職になって「自分のペースで働きやすくなった」と回答した人(30%)に限ると、管理職になって「とてもよかった」が23%、「よかった」が64%と、実に9割近くがポジティブな回答を行っています。
女性活躍推進に向けて、企業が注力すべきポイントが浮き彫りとなる結果となっています。
これから女性管理職をもっと増やすためには、個別のニーズに対応を
ここまでの女性管理職の本音を踏まえ、今後さらに女性管理職を増やすためには具体的にどうしたら良いのか探ります。まずは社内の女性メンバーに「管理職になるよう勧めたいか」という質問から。「どちらとも言えない」が6割と、最も多い結果になっています。
■社内の女性メンバーにも、管理職になるよう勧めたいですか
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「例えば、部下に対して『管理職になりなよ!』という姿勢をとると、『圧をかけられた』と捉える方もいるかもしれません。『私も管理職になりたいです』と聞かれれば勧めるけれど、自分から積極的に『管理職はいいもの』というアピールはしない。これは部下それぞれの事情や働き方の多様性を重んじているということが表れた結果だと思います」(治部さん)
さらに、今の会社の働きやすさについても「どちらとも言えない」が最多となりました。
■今の会社は、女性が管理職として働きやすい環境が整っているか
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「『どちらとも言えない』が最多という時点で、20〜30年前に比べたら大きく進歩していると感じます。しかも『どちらかと言うと整っている』『整っている』の合計は46%です。幸せに働けている労働者が約半数いることは嬉しい結果です」(治部さん)
では、「働きやすい環境が整っている」と感じる方をもっと増やすためには、どうすれば良いのでしょうか?
「例えば、企業側が『働きやすさのために』と制定した制度が、労働者にとってはいらない配慮だったというパターンも。労働者のニーズと企業からの配慮がズレていることは多くの企業で散見されます。労働者は何を求めているのか、管理職が日々のコミュニケーションの中で、正しくニーズを把握できれば、本当に働きやすい環境が整うと感じます」(治部さん)
最後にズバリ「今後女性が活躍するために必要なこと」も調査。現役女性管理職の半数以上の方が「柔軟な勤務形態」を挙げています。
■女性が活躍するために特に必要だと思うこと(複数回答)
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「コロナ禍を経て、リモートワークができるようになった反面、なんとなく勤務形態を戻してしまった企業も存在します。改めて、対面で会う意義、意図を明確にした上で、会わなくてもできる業務に関してはリモートワークも柔軟に取り入れる必要があると思います」(治部さん)
次いで「出産・育児をサポートする社内制度」も、多くの女性が求めています。
「出産・育児に対するサポートは家庭によってニーズは様々です。育児時短制度も、小学校入学までなのか、卒業までなのか…というように。労働者が欲しいと思っている制度と企業がどう働いてパフォーマンスを出してほしいかは、丁寧にすり合わせる必要があると感じました」(治部さん)
そして気になるのが、「配偶者など家族の協力」。これは企業のサポート外の部分でもあります。
「日本の企業が提供している育児支援制度は、諸外国と比べても手厚いのですが、一方で男性の家事育児参加がとても少ないというデータがあります。OECDの調査でも、加盟国のうち日本だけが女性の家事時間が男性の5.5倍という結果に。これは日本の女性活躍を拒んでいる大きな原因です。そのため、男性の育児をサポートする社内制度をもっと充実させてほしいと感じます。男性への育児サポート制度こそ、女性活躍にはインパクトがあることなのです」(治部さん)
女性活躍推進の課題も見えてきた今回のアンケート結果。治部さんは、総評として「ポジティブな結果だった」と語ってくれました。
「2015年の女性活躍推進法制定から8年が経ち、広く浸透してきた印象を受けました。顕著な問題点もなく、マイナスな数値も、個人の状況の差異に留まる範囲です。明るい気持ちになる結果でしたので、労働者が幸せに働けている企業の事例を公にし、どんどん後に続いてほしいですね」(治部さん)
現代の管理職女性の本音から、女性活躍は良い方向に進んできていると言えるでしょう。まだ残る課題を解決するためにも、Be myselfでは今後も企業の良い事例やロールモデルとなる女性管理職を紹介し、自分らしく働く女性が増える未来をつくっていきたいと思います。
<解説者>治部れんげ
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、などを務める。