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人生の役割からキャリアを考える「ライフキャリアレインボー」とは

変化の多い社会の中、働き方は多様化し、キャリアにおける「正解」というのが見えない時代になってきました。働く人の意識もどんどん変化し、キャリアを中心とした人生設計は当たり前ではなく、人生の一つの要素としてキャリアをどう描くか、という方向に変わってきているように思います。

 

今回解説するのは、キャリアを単に「職業」ではなく人生の中のさまざまな「役割」と捉える考え方、「ライフキャリアレインボー」です。自身のキャリアはもちろん、部下のキャリアを考える上でも、ぜひご活用ください。

ライフキャリアレインボーとは

「ライフキャリア・レインボー」とは、1950年代に米国の教育学者のドナルド・E・スーパーが提唱したキャリア理論のことです。ライフキャリア・レインボーでは「キャリア」を職業や仕事だけではなく、例えば「子供」「社会人」「親」というような人生の中で訪れる様々な場面における役割として定義しています。

この多様なキャリアが積み重なっていく様子を虹にたとえ、「ライフキャリアレインボー」と名付けられたのです。

出典元:文部科学省「高校生のライフプランニング」

ライフキャリアとは

そもそも「ライフキャリア」とは、仕事だけではなく、家庭生活、地域社会とのかかわり、趣味や遊びなどの個人活動など、生涯にわたり人生において果たす役割や経験の積み重ねのことをいいます。

人生には、仕事や結婚、子育て、介護、趣味の活動など様々なライフイベントがあり、その全てを包括したものが「ライフキャリア」なのです。

ライフキャリアレインボーの考え方

ライフキャリアレインボーは「ライフステージ」と「ライフロール」の大きく二つの考え方を主軸に考えられます。

ライフステージ

ライフステージとは、人生における発達段階を指しており、スーパーによると以下の5つに分類されています。

・成長段階(0~14歳)
・探索段階(15~24歳)
・確立段階(25~44歳)
・維持段階(45~64歳)
・解放段階(65歳以上)


ライフキャリアレインボーを考える上での時間軸のベースであり、それぞれの段階で課題が存在します。

ライフロール

対してライフロールとは、人生において自分が担う「役割」のことです。スーパーは人生には主に8つの役割があると提唱しました。

・子ども
・学習者
・職業人
・余暇人
・市民
・配偶者
・家庭人
・親
・年金生活者


の8つです。

全てを経験する人もいれば、一部を経験する人もいるでしょう。ただ人生においてはこれらの役割が順番に訪れるわけではなく、それぞれのライフステージでいくつも重なり合いながらキャリアが描かれていくのです。

「職業人」に埋没しすぎると「家庭人」や「親」としての役割が疎かになったりします。だからライフキャリアを描く上では、重なり合う役割をバランス良くこなしていくことが重要です。それぞれの役割を意識し、視点が変わることで、自身のライフキャリアについて新たな発見があるかもしれません。様々な役割における自分を意識することで、より充実したライフキャリアプランを考えられるでしょう。

ライフキャリアレインボーが注目される理由

体系化されてからすでに50年以上が経過している「ライフキャリアレインボー」の理論ですが、今だからこそ注目される理由があります。

多様化が進む社会

現在の社会は、世界中の情報がリアルタイムで行き交う情報化社会です。様々な価値観が浸透することにより、「ダイバーシティ」「ワークライフバランス」といった言葉が一般的になり、社会はどんどん多様化が進んでいます。

終身雇用や正社員はすでに当たり前ではなく、転職は珍しいことではありません。副業を推進する会社も出てきており、働く場所についても、自宅やカフェ、ワークスペースを利用したリモートワークが進んでいます。

個々のワークスタイルが変化していく中で、企業が画一的に従業員のキャリアを組み立てることは難しく、一人一人にあったキャリア支援を模索する必要が出てきています。

高齢化の進行

厚生労働省の発表によると、令和4年度時点の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳です。平成2年の男性75.92歳、女性81.90歳と比べるとどちらも6歳程度寿命が伸びています。

ITや医療の発展で進行した高齢化は、退職後のセカンドキャリアの必要性や余暇時間の長期化をもたらしました。今や人生100年時代と言われており、退職後のキャリアを描くことは非常に重要であると言われています。

企業によっては役職定年を設けることもあり、役職定年の対象となった層はモチベーションの低下や立場の変化による孤立化などに陥るケースもあります。
またこの頃は介護や自身の健康問題など、家庭人としての役割に変化が起きる頃でもあります。

ただ、役職についていた社員というのは、知識も経験も豊富であり会社にとっても得難い人材であることは間違いありません。中高年の社員こそ、役職定年や退職などキャリアの終盤まで見据えた、ライフキャリアを考えるための支援が必要だと言えるでしょう。

キャリア支援の重要性

目まぐるしい社会の変化を受け、企業で働く社員のキャリアを定型化することはもはや不可能になってきました。個人は自発的なキャリア形成を、企業は働く社員それぞれに合ったキャリア支援を行う必要性が出てきています。

共働き世帯は増加を続けており、仕事と育児、仕事と介護を両立する社員も増加しています。優秀な社員に働き続けてもらうためには、家庭と仕事との両立を前提としたキャリア支援が必要不可欠でしょう。

優秀な社員の離職を防ぐ「リテンションマネジメント」の記事はこちら
優秀な社員の離職を防ぐリテンションマネジメントの重要性

ライフキャリアレインボーの導入方法

ライフキャリアレインボーはキャリア形成における考え方の一つであり、具体的な導入方法というのはありませんが、例えば次のような場面で利用することができるでしょう。

・キックオフや期初の全体集会
考え方の周知として、全体に共有する。

・研修
全体への共有や、ワークを通して個々のキャリアを考える。

・1on1ミーティング
上司と部下の1対1のミーティングで、部下のキャリアを考える。

ワークシートの書き方

ライフキャリアレインボーでは、前述した通り「ライフステージ」と「ライフロール」の二つの軸でライフキャリアを考えます。

今回は厚生労働省のワークシートを元に例を示します。

出典元:厚生労働省『平成 29 年度労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業』ジョブ・カード様式1作成ワークシートより

現状を把握する

まず現状を把握しましょう。

1.それぞれの役割別に、自分が今どのような活動をしているか具体的に記入します。

2.各役割について、どれくらい時間やエネルギーを使っているかを考え、合計で100%になるように振り分けます。

過去を振り返る

次に過去を振り返ります。例示のシートにはありませんが、現在の左に過去何年まえかの列を追加すると良いでしょう。

追加したら現状把握と同様、各役割別に「1.具体的な活動」「2.時間やエネルギーの内訳」がわかるように記載します。

将来を考える

最後に将来について考えます。

1.将来想定される役割やありたい姿から理想的な姿を考え、具体的に記入します。可能であれば達成時期は明確にしましょう。それまでの具体的なプランが立てやすくなります。

2.シートが完成したら、上司や研修のファシリテーターに共有します。自分が描いた理想に向けて何が足りないか、そのために何をすべきか、どんな風にワークキャリアを形成していくかを考えていきましょう。

部下のキャリア形成についての記事はこちらをご覧ください。
部下のキャリア形成支援のために、管理職が心がけておくべきこと

ライフキャリアレインボーの導入メリット

ライフキャリアレインボーの導入には様々なメリットがあります。ここでは会社や上司にとってのメリットを紹介します。

メンバーの自律を促し、モチベーションを高める

ライフキャリアを描くことで、メンバーの具体的なキャリアプランをイメージすることができます。自分のありたい姿に向かって設計したプランは、部下のモチベーションを高め、また自律的な成長を促します。

相互理解が進む

イフキャリアレインボーに沿って、キャリアプランを考えることで部下の考えていることや目指したい姿が具体的にわかり、上司と部下の相互理解が進みます。

部下が本音を話してくれるかな、と心配な時は、是非自身のキャリアプランから開示してみてください。相手の事を知る事で、部下も自分の思っている事を口にしやすくなり、本音を知る機会が得られるでしょう。

この場合はもちろん上司も自身のライフキャリアプランについて事前に描いておく必要があります。

自己分析についての記事はこちら
マネジメントスキルを高めるためにも! 管理職がすべき自己分析とは

個々にあったマネージメントが行える

部下のライフキャリアの現状や理想の姿を知る事で、個人の希望により合致したサポートを行うことができます。目標を知る事で、達成するまでのキャリアプランを調整できますし、日頃の声の掛け方も変わるでしょう。自分のやりたいことや理想の姿を知る上司が支援する事で、社員にとって働きやすい環境になれば、離職防止やエンゲージメントの向上が期待できます。

まとめ

キャリアを「職業・仕事」だけではなく人生の中のさまざまな「役割」と捉えて設計する「ライフキャリアレインボー」の考え方について解説しました。

現代の複雑化した社会では、個々のキャリアプランもどんどん多様化していきます。個人に沿ったライフキャリアを理解し、一緒に考えることで、より部下に寄り添ったマネージメントができるようになるでしょう。

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