“変化の時代”に求められる「リーダーシップ」とは
女性管理職登用を進めている企業が多い中、理想と現実の狭間にいるのが、いまの私たちではないでしょうか。
実際、帝国データバンクが2023年に実施した調査によると、女性管理職の割合の平均は、政府目標の30%に対し、9.8%にとどまり(注釈1)、世界フォーラムの2023年ジェンダーギャップ指数ランキングでも、日本は過去最低の125位になっています。(注釈2)
背景には様々な要因が考えられますが、一因として、女性における「リーダシップを学ぶ機会の少なさ」が挙げられます。
私自身、キャリアとビジネスのサクセスコーチとして独立する前は、アメリカの金融という競争の激しい業界で、20年以上管理職キャリアを築いていました。当初は、マネジメントやリーダシップを体系的に学ぶ機会もないまま管理職に就いたため、自分が部下として経験してきたマネージメントやリーダーシップの方法しか知らず、数多くの失敗を経験しました。
その後、私は、組織やコミュニケーションに関する理論を体系的に学び、アメリカ人メンターに教えを請いながら、実践経験と共に、マネジメント・リーダシップへの理解を深めていきました。
マネージメントやリーダーシップを学ぶ機会もないまま管理職に就き、改めて学ぼうにも、日々の業務に忙殺される。過去の私と同じように悩んでいる女性は、多いのではないかと思います。
この連載では、そんなお悩みを持つ方に向けて、リーダシップとはどういうものか、自分らしいリーダー像をバランスよく作り上げるために必要な考え方や行動などを解説します。
リーダーシップとは何か?
まず、リーダーシップとは一体何なのでしょうか?リーダーといえば、会社で上の立場にいるとか、カリスマ性があるとか、生まれ持った素質であるとか、さまざまな誤解があります。また、リーダーシップとマネージメントが混同されることも多いのですが、この二つは全く異なるものです。
米国の心理学者W.C.H. プレンティスは、リーダーシップを「人間を指導して目標を達成すること」と定義し、成功しているリーダーは、個人のニーズや興味をグループの目的に結びつけ、人々の動機を理解し、メンバーの参加を得ることができると述べています。(注釈2)
また、ハーバードビジネススクールの元名誉教授のエイブラハム・ザレズニックは、マネージメントとは、安定とコントロールを求めて、現存の組織の仕組みの中でルールに従ってプロセスを動かすものであるのに対し、リーダーシップとは、カオスの中にあっても忍耐力を持って、真の課題を見つけるためのものだと述べています。(注釈3)
つまり、リーダーシップとは、現状の混沌や不安の中でもビジョンを持ち、他人を動機付けて自分ごとにして落とし込んでもらいながら、現状からそのビジョンの方へ連れていく力だと言うことができます。A地点にいる人に、今はまだ見えないB地点があることを信じてもらい、そこに行くことが自分にとってもいいことなのだと理解して、協力してもらう。それがリーダーの役割だと言えます。
組織の管理職、特に中間管理職は、時にはマネージメント的な役割を求められ、時にはリーダー的な役割を求められます。そのどちらも自由自在に行き来することができれば、管理職としての仕事の質が上がり、また「自分がいなくても勝手に動くチーム」ができるため、ご自身のプライベートとのバランスが取りやすくなります。
また、部下がいないからといってリーダーシップスキルが必要ないわけではなく、プロジェクトベースで他のメンバーに影響を与えられれば、提供できる仕事の価値が上がり、仕事自体もやりやすくなります。その意味では、リーダーシップスキルは、組織の上層部だけでなく、組織で働く全ての人にとって有効なものであり、仕事で成果を出したい方にとっては必要不可欠なものだと言えます。
では、そのリーダーシップを発揮するために必要なことは何でしょうか?
リーダーに求められるスキルとは
これからリーダーを目指す人、リーダーになったばかりの人には、一体リーダーシップには具体的には何が必要なのだろう?と思われる方も多いのではないでしょうか?
ビジョンを持って人を引っ張っていくリーダーにとって必要不可欠なスキルは、以下の通りです。
● 自己理解力:自分をどれだけ知っているか
● メタ認知力:物事を高い視座から見ることができるか
● 人との関係性を作る力:人を理解していい関係を気づき、巻き込むことができるか
● 集中力:大切なことに意識を向け続けることができるか
以下、一つずつ説明していきます。
自己理解力
リーダーにとってまず必要なことは、自分を理解していることです。自分を理解していない人は、他人を理解することもできないからです。
実は自分のことはよく分かっているようで、実は分かっていない、または言語化されていないことが多いものです。
自己理解は、次の要素に分けることができます。
下に、要素別に考えるための質問をまとめていますので、質問に答える形でジャーナリングしてみてください。
(1)感情の理解
● どんな時にどんな感情になりますか?
● 何に心を動かされますか?
● 普段、よく出てくる感情は何ですか?
● 気が付いたら感じていることは何ですか?
● 反対意見や批判が出た時、どんなふうに反応しますか?
● 職場で問題が起こった時、どのように対処しますか?
(2)特性の理解
● あなたが努力せずにできることは何ですか?
● よく人に頼まれることは何ですか?
● 人生や仕事で大事にしていることは何ですか?
● あなたが得意なことは何ですか?
● 自信を持ってできることは何ですか?
● 人のプレゼンテーションで、画像がある方が理解しやすいですか?音声だけの方が理解しやすいですか?感覚的に理解するタイプですか?
● 人、もの、プロセスの何に一番興味がありますか?
● 落ち込んだ時、一人でいる方が好きですか?それとも人に囲まれている方が好きですか?
(3)価値の理解
● あなたの価値は何だと思いますか?
● あなたが世の中に提供したい価値は何ですか?
● あなたの人生の目的は何ですか?
● 仕事を通して何をしたいですか?
● あなたのミッションは何ですか?
いかがでしたか?自己理解が深まれば、自分が仕事で向かって行きたい方向が明らかになり、どんなリーダーになりたいのかが明らかになってきます。また、自分とは違う他人の特性にも気がつくようになるため、コミュニケーションの質が上がります。上記の質問は、あなたのチームのメンバーを理解するフレームワークとしても使ってみてください。
メタ認知力
次にリーダーにとって大事なのは、直近の仕事、部署、部下、置かれている状況、そして自分自身を、俯瞰して見る「メタ認知能力」です。メタ認知能力とは、自分の認知をもう一つ高いところから認知する能力です。
メタ認知能力をわかりやすく言うと、今現実で起こっていることの中にいる自分の他にもう一人の自分がいて、自分が今いる状況を映画のスクリーンの外から見ているようなイメージです。そうして今いる自分にどっぷりつかることなく俯瞰してみることにより、今取り組んでいる仕事が会社全体に与える影響を理解して人に伝えることができたり、何か職場で対立が起こった時に、そのドラマに入らずに問題解決にエネルギーを向けることができるようになります。
また、優秀な女性ほど、「他人に認められるために」と頑張る傾向があるのですが、俯瞰してみることができると、他人がどうという視点から離れて、今の行動が、自分のミッションにあっているのか?人生の価値観にあっているのか?と考えられるようになります。
メタ認知能力は、人を動かして行く時には必須の能力と言えます。自分がこうだから・・という自分目線ではなく、全体を俯瞰する目線でチームの人々を見ていくと、一人一人が何によって動機付けられるのか、どういった言葉がけが効果的なのか、一体その人が何につまずいているのか、などが理解できるようになります。
人との関係性を作る力
次にリーダーに必要なのは、コミュニケーション、言語化、ネットワーキングなど、人との関係性を作っていく能力です。コミュニケーションに関しては、「生まれつき引っ込み思案で」とか「口下手で」という方もいらっしゃるのですが、誰もが後天的に身につけられる能力なので、今からでも遅くありません。
コミュニケーションに必要なのは、相手を理解する能力と、自分の思っていることを的確に言葉にする能力、そして共感力など、非言語の部分で相手に影響を与える力です。このコミュニケーション能力にも、上記の自己理解力が非常に大きな意味を持ってきます。自分の心や頭の中が言語化できている人ほど、他人にも的確な言葉で伝えることができるからです。
また、人とコミュニケーションを取る上では、相手の立場に立つということが非常に重要になります。自己理解を深め、他人と自分とは違うという前提があれば、相手にあわせてコミュニケーションの方法を変えていく工夫ができるようになります。そして、自分の話を押し付けるのではなく、相手の話を聞くことが大切です。
組織のリーダーにもう一つ必要なスキルとして、ネットワーキング能力があります。これは私がメガバンクで働いていた時に女性の役員に教えてもらったことですが、仕事をスムーズに遂行するために、戦略的にネットワーキングをしていく必要があります。そのために、組織の中で誰がキーパーソンで、その周りに誰がいるのか、誰に影響を与えるためには誰にアプローチすればいいのか、などを常に把握する努力をしてみてください。
集中力
最後に、とても基本的なことですが、リーダーに必要なスキルとして、集中力を挙げたいと思います。集中力とは、自分の仕事に集中するという意味だけでなく、本当に大事なことに意識を集中できる能力ということです。
リーダーが常にビジョンに意識を向け、組織にとって本当に大事なことに注意を向けていると、そのチームにいる人は、安定と安心を感じます。船にキャプテンが必要なように、チームにも常に意識を行くべきところに向けている人が必要なのです。
リーダーが集中すべきところに集中していると、日々次から次に降ってくる雑務や、そのチームのアジェンダとは関係のないところから押し付けられる仕事などに対し、最適な優先順位をつけることができます。
逆に、集中力のないリーダーの下にいるチームは悲劇です。なぜなら、いつも注意があっちにそれ、こっちにそれていると、気がついたら忙しく仕事をしているだけで、価値を生み出すことができていないという状態になるからです。価値を生み出すことのできないチームは、会社の中で立場が悪くなったり弱くなったりします。そうすると、モチベーションがだんだん下がっていってしまうのです。
また、部下は見ていないようでリーダーの一挙手一投足を観察しています。リーダーが集中力を持って仕事をしていると、部下も同じような行動を取ることができます。全員が本当に大事なことに集中して仕事をしているチームは、だらだら残業しなくても、きっちり成果を上げていくことができるようになります。結果的に、リーダーであるあなたの仕事も楽になっていくのです。
現代は、AIをはじめとしたテクノロジーの発展で、歴史上かつてないほど社会の変化が早い時代に入っています。前例のない中で素早く方向転換を迫られる企業も多いでしょう。そんな変化の時代に求められるのは、まだ人が見えないゴールを見据え、大きな船の舵取りをいつでもさっとできるリーダーだと言えます。
今回は、そんなリーダーに欠かせない4つのスキルをご紹介しました。以上の4つのスキルを上げていくために、今日からすぐできる行動は何か?を考えて、実践してみてください。
第一回目は、リーダーシップとは何か、そしてリーダーに必要なスキルについてお伝えしました。次回は、自分とチームのパフォーマンスを上げる方法をお伝えします。
注釈1 帝国データバンク
注釈2 Global Gender Gap Report 2023
注釈3 Harvard Business Review, 2004
注釈3 Harvard Business Review, 2004
吉川ゆり(HEA Coaching International LLC)
■経歴詳細:
大阪大学人間科学部卒業(行動学専攻)
Middleburry Institute of International Studies公共行政学修士号取得
コンサルティング会社を経て、米国大手銀行、フランス大手銀行にてVP(ヴァイスプレジデント)職を歴任後、サンフランシスコのフィンテックでシニアディレクターとして勤務。
2020年より社外のコーチングを副業として始め、2021年にHEA Coaching International LLC 設立。
■資格:
HPI認定ハイパフォーマンスコーチ(CHPC)
FRC認定ハイフローコーチ
全米NLP協会認定NLPマスターコーチ
タイムラインセラピー®協会認定タイムラインセラピー®マスタープラクティショナー
ABH米国 催眠士協会認定マスターヒプノシスプラクティショナー
ヒプノセラピスト
瞑想コーチ
臼井レイキ with Holy Fire レイキマスター
■所属団体:
ICF国際コーチ連盟(サンフランシスコ支部)