子どもと自分のキャリアのために、「非認知能力」の伸ばし方
昨今、子育て分野でよく聞く「非認知能力」。これからの時代を生き抜くためには、子どもはもちろん、大人も身に付けておくべき能力です。子どもと大人が同時に非認知能力を伸ばす方法を、マユミさんが教えます。
34歳独身。明るく人懐っこい笑顔で、愛され上手。一方で、ややがさつな面もあり、不用意な一言で周囲をヒヤリとさせることも。営業職から企画職に移り、そろそろマネジメントを任されそう。親からは早く結婚するよう急かされているのも、モヤモヤのタネ。
42歳既婚。いつも落ち着いていて、気配り上手な優しい先輩……というのは表の顔で、実は些細なことで悩みがちな小心者。寝る前はその日の自分の言動を振り返ってモヤモヤするのが定番。現在はミホさんの隣の課の課長。小学生男子の子育て中。
非認知能力は、管理職にも必要な能力
ミホさん
最近仕事をしていても、AI技術の進歩や、グローバル化、多様化が進む現代で、私のキャリアは大丈夫なのかな……と、ちょっと不安になることがあるんです。「今まで自分たちが受けてきたような教育だけでは、生き抜くことができない」という話も聞いたことがあります。
マユミさん
そうだよね。私たちが学校や家庭で重視されてきた学力・偏差値など目に見えてわかる能力のことを認知能力と言うんだけど、これだけだと、時代の流れに飲み込まれてしまうとも聞く。
特に、これからの時代、主体的に人生を切り拓くためには、目に見えない能力である、非認知能力が大切だとも言われてるよね。
ミホさん
聞いたことはあるのですが、具体的にどのような能力なのでしょうか?
マユミさん
私も自分のキャリアを考えたり、子どもと向き合ったりする中で気になって、勉強したことがあるんだけど、非認知能力は、自己肯定感、自制心、やり抜く力、回復力、共感力・協働力、社会性が主な要素。非認知能力が高い人は、自分をあるがままに受け入れ、どんな時でも自分に価値を見出すことができるんだ。
そして、一つの偏った物事の見方だけでなく、様々な視点から物事を見て考えることができるから、自分の可能性に蓋をせずに、自分の世界をどんどん広げることができるんだよ!
ミホさん
そうすると、たしかにキャリアにも良い影響がありそうです。
マユミさん
まさにその通り。様々なことに好奇心を持って主体的に学ぶことができるから、時代の変化を乗りこなすことができる。しかも色んな視点で物事を捉えられると、人の意見に柔軟に対応できて、コミュニケーションも円滑に進む。その意味では、管理職こそ高めておきたい能力かも。
ミホさん
実際、管理職の非認知能力が高いと、どんなメリットがあるんですか?
マユミさん
上司の非認知能力が高ければ、部下との関係も上下関係からフラットな横の関係になるの。そうすると、組織内に心理的安全性も生まれて、アイディアが出やすくもなるんだよ。
ミホさん
たしかに、そういう懐の広い上司だと私も意見を言いやすいです。自分のキャリアを切り拓くためにも、将来、管理職になった時のためにも、ぜひ私も、今から非認知能力を高めたいです!
AIに淘汰されないために、学校教育でも非認知能力に注目
ミホさん
しかも今の時代は、大人だけではなく、子どもの頃から、非認知能力を伸ばすことが注目されているそうですよね。
マユミさん
そうなんだよ。激変の時代では、今までの勉強のようにインプットとアウトプットを繰り返しているだけではNG。それってAIにもできてしまうことだからね。人間がすべきことは、0から1を生み出したり、問題を発見し、共感したりすること。これってまさに非認知能力なんだ。
ミホさん
マユミさんはお子さんが小学生ですが、学校教育でも非認知能力は求められていると感じますか?
マユミさん
それは実感する。例えばテストでも「これについてどう思うか、あなたの考えを述べなさい」という問題が出るなど、ただ暗記の勉強をしているだけでは解けない問題が増えているなと感じるよ。
とある名門中学校の入学試験でも、魚の写真を見せて「サンマはどれでしょう」という問題が出たんだって。日常生活で好奇心・探求心を持っていることを学校側が重視している証拠だよね。
ミホさん
私が子どもの頃は、いわゆる偏差値重視の教育でしたし、学校でも「出る杭は打たれる」ような環境だったので、学校で教わる以外のことに興味を持って探求することはそこまで歓迎されなかった気がします。
マユミさん
日本は、みんなが同一になり、同じ方向を向いて頑張ることで、戦後の経済を回復してきた背景があるからね。でも、これからの社会を見据えるともうそれだけでは太刀打ちできない。だから、教育分野で非認知能力に注目が集まっているんだ。
ミホさん
そんな時代背景も影響していたのですね。
マユミさん
子供のころに非認知能力を高められなかったことで、今、自分に自信がなかったり迷いの中で生きていたりする人もいると思うけど、それは、自分が悪いのではなく、そうならざるを得ない環境だったから仕方がない面もあるの。でも、大人になってからでも非認知能力は伸ばせるし、非認知能力を伸ばすことで、ありのままの自分を取り戻せるはずだから。
「日常の中の非日常」体験で、大人も子どもも非認知能力が伸びる
ミホさん
では、非認知能力の伸ばし方も教えてください。大人になってからでも伸ばせるというお話でしたが本当でしょうか?
マユミさん
もちろん! 非認知能力は、伸ばしたいと思った時に何歳からでも伸ばすことができるんだよ。
まず最初のステップは、自己肯定感を高めること。ありのままの自分を認めることからスタートするの。その上で、新しいチャレンジをしてみる。何かに夢中になってみることで、人生を楽しむことができて、生きる力が高まるんだよ。
ミホさん
今後もし子育てをした時の参考にもしたいのですが、子どもの非認知能力を伸ばすために、親ができることはありますか?
マユミさん
非認知能力のロールモデルになることかな。生活の中で「非認知能力とはどういうことか」を見せることで、子を導くことができる。
親が何かに挑戦し、失敗したとしてもまた次にチャレンジする姿を見せることで、子どもも「挑戦することって怖くない」と思えて、自己肯定感や好奇心、探求心が高まっていくの。
だから、新しい挑戦や勉強をする時は、子どもの前で楽しそうに行った方が良い。子どもが寝た後や学校に行っている一人の時間に挑戦するのは勿体ないなって思うよ。
ミホさん
納得しました。親のそういった姿を日常的に見ていると、子どもは「挑戦することが当たり前」というマインドになり、前向きに生きていけそうです。他に、日常生活の中でマユミさんがお子さんの非認知能力を伸ばすために行っていることはありますか?
マユミさん
ちょっとしたことだけど、近所のお散歩だって子どもの非認知能力を伸ばすきっかけになるんだよ。例えば、あえて早朝5時に近所の公園に行って、日常の中の非日常を見せるの。そうすると「芝生が湿っているのはなんでだろう」「昼間と違って高齢者が多いね」と、ふとした疑問が生まれる。そこで、親は答えを与えるのではなく、一緒に考えたり調べたりすることで、好奇心・探求心を深めるお手伝いができるんだよ。
ミホさん
しかも一緒に考えるってことは、共感力にもつながりますよね。子どもの非認知能力を伸ばすためには、教える姿勢ではなく、伴走する感覚が大事なんですね。
マユミさん
まさにその通り。子どもは親を通して、親も子どもを通して相乗効果で非認知能力を伸ばすことができるんだよ。
ミホさん
特別なことをしなくても、日常生活を少し変えるだけで大人も子どもも非認知能力が伸びていくのは、嬉しい気付きでした。
マユミさん
いますぐにでも始められるでしょ? 働く女性を取り巻く環境が過渡期にあるからこそ、自分の人生は自分で決めなければならない。非認知能力を伸ばして、勇気を持って一歩踏み出すことが、確実に次の世代への明るい希望にもなるから、一緒に意識していこう!
監修者:ボーク重子
ICF会員ライフコーチ。Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。30歳の誕生日直前に渡英、ロンドンで現代美術史の修士号を取得。1998年に渡米し、出産。2004年にアジア現代アート専門ギャラリーをオープン。。現在はライフコーチとして、全米・日本各地で講演。一人娘・スカイは2017年「全米最優秀女子高校生コンテスト」で優勝。著書に『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など。
(BYBS 非認知能力マスターコーチ 和田えりか、毛利まゆこ取材)