漫画家・おかざき真里さんに聞く②。軸足が多いほど「まあいっか」で乗り切れる!のイメージ画像

仕事に効く話

漫画家・おかざき真里さんに聞く②。軸足が多いほど「まあいっか」で乗り切れる!

『サプリ』『&ーアンドー』、そして連載中の『胚培養士(はいばいようし)ミズイロ』など、いつの時代も圧倒的リアリティで女性が抱える問題を描く、漫画家のおかざき真里さん。「女性が自信を持って働き続けるために必要なこと」を聞く特別企画後編です。

後編では、30〜40代はどのように働けば良いのか、また働く女性の幸せとは何かをお聞きします。

 

※前編はこちら

 

<プロフィール>
おかざき真里(おかざき・まり)/漫画家
1967年、長野県生まれ。高校時代からイラストの投稿やマンガ誌への連載で活動を続け、多摩美術大学美術学部デザイン科グラフィックデザイン専攻を卒業後、株式会社博報堂に入社。デザイナーやCMプランナーとして働きながら、『ぶ〜け』(集英社)にてマンガ家デビュー。2000年、結婚を機に退職。その後『サプリ』『渋谷区円山町』シリーズや、『&―アンド―』『かしましめし』など代表作多数。

働き続けるためには、「まあいっか」と思える気分転換が必要

―連載を抱えながら3人の育児をされてきたおかざきさんですが、忙しい日々を乗り越えるために必要なことは?
おかざき:よく「どうしてそんな風に両立できるんですか?」と聞かれますが、逆に私はたくさん軸足を持つ方が向いているタイプです。

今も違う出版社で2つの連載を掛け持ちしていますし、3人の子供もそれぞれ受験などがあります。でも、こうやっていっぱい軸足があって良かったと感じます。

というのも、仕事だけだったら自滅していただろうし、育児だけだったら子どもに迷惑かけるぐらいのめり込んでしまうだろうし。仕事と育児の両方があって初めてバランスがとれたなと個人的には思います。

周りを見ていても、軸足をたくさん持っている人の方が長く働き続けられていると感じます。業界の浮き沈みは時代の波で変わるので、色々と経験している方が柔軟に働けるのではないかと思います。

―「仕事だけだと自滅してしまう」というのは?
おかざき:感情が引っ張られ過ぎてしまうと思うんです。自分のコンディションは自分でよくわかるので、「今ダメだな」「調子悪いな」という時が来る。でも、そういう時に横で子どもがわちゃわちゃしていると「まあいっか」って思えるんです(笑)。

―良い意味で切り替えられる感覚ですね。
おかざき:この世で一番大事なのは「まあいっか」という気分転換なので。「自分はなんで今これしかできないんだろう」と仕事で落ち込んだ時でも子どもがいて切り替えられるし、逆に「子どもに怒りすぎちゃったな」って時も仕事で切り替えられる。

もちろん、集中しなければならない場面はありますが、長く続けていくことを考えると、ある程度のところで、自分の気持ちをちょっと切り替えることが大切です。

若手のスタートアップ企業の方と話すと、情熱を持っている部分と、ドライな部分がとてもハッキリしています。そういった線引きを自分で知ってる人たちは強いなと思いますね。

私は感情をすごく引きずるタイプなので、これまでも強制的に小さな子どもが切り替えてくれました。そういったスイッチがたくさんあればあるほど、働く上では良い気がします。

―仕事と育児の両立を、「軸足が増えた」と前向きに捉えるのはとても良いですね。
おかざき:特に今の時代、終身雇用もだんだん薄れてきているので、一つの仕事・会社にしがみつく必要だってありません。でも新しい軸足を持った時に、過去に一生懸命やっていたことが活きる瞬間もあるんです。例えば10年後に「急にあの時のあの経験はここに活きるのか!」のように。

キャリアがどんどん変わっていっても経験は無駄にはならないし、長く働いていると全部回収ができるので。次々に色んな挑戦をしたもの勝ちな部分はあると思います。

―おかざきさんにとって漫画、育児以外の軸足は何かありますか?
おかざき:子どもが成長してくると、自分の趣味の時間もとれるようになりました。最近はアーティストのライブへ行くのを再開したり、美術館を巡ったり。あともう少し時間ができたら日本画をもう一度始めたいとも考えています。

できることを地道に続け、「褒められる」経験を

―今の30代、40代の女性が自信を持って働き続けるためにはどうしたら良いのでしょうか?
おかざき若いうちに、一度「ちゃんと褒められる」経験をしておくことだと思います。もし出産をするのなら、どうしたってキャリアが一度途絶えるので、もう一度その場に戻ってきたいのなら、どんな小さなことでも何かしら功績を作っておく

小さなことでも、早い段階で名前を覚えてもらえるような仕事を一つ経験していれば、次々と軸足を変えた時にもまた同じ場所に戻って来れるので。

―「褒められる」というのは、賞をとったり社内で1位になったり、大きなことの方が良い?
おかざき:どんな小さなことでも良いと思います! 実は、私自身も、漫画で賞をいただいたこともないですし、何かで1位になったこともありません。

でも『サプリ』では、嘘でない感情をとにかく誠実に描こうとしていました。また、空海と最澄を描いた『阿・吽』でも、「人ができないくらいきちんと取材をして挑もう」と思って描きました。どちらも賞をとったわけではないけれど、それを見てくれた方からドラマ化のオファーや空海に関する講演のオファーをいただきました。

おかざき: かつて、新卒での入社前に某銀行の頭取から「嫌にならずにちゃんと続けてたら絶対見てる人が見ててくれるから、自分が信じたことはコツコツやりなさい」と言われたことがあって。最初に聞いた時は、もうちょっと楽にショートカットしたいとも思ってたんですけどね(笑)。

実際、何の賞も取らない人生ではあったけど、続けられていているのは、多分見ている人が見てくださっているからなのだろうなと。なので、無理をせず、自分ができることをコツコツ続けることで仕事も良いサイクルに乗るのではないでしょうか。

管理職は「楽しそうに働く」ことも大切

―30代、40代は会社の中で管理職へ昇格する時期でもあります。管理職として必要なことは?
おかざき:たとえスキルや実績に自信が持てなかったとしても、楽しそうに働いているだけで、部下には良い影響を与えられると思います。もちろん、実際はそんな悠長なこと言ってらんないよ! って場面もあるとは思いますが、管理職にとって「楽しそうにしてる」ことも大事な仕事ではないでしょうか。

私もアシスタントさんを管理する立場でもあるのですが、私のアシスタントさんは、漫画家にしては珍しく全員結婚しているんです。というのも、「おかざきさんのように子供がいっぱいいる中で仕事してるのを見て、私も結婚って悪くないなと思った」と言ってくれて。「なんか楽しそう!」と思ってくれたのか、みんな次々と結婚出産をされましたね。私が楽しそうに働いていたことで後輩たちに良い影響を与えられたかなと感じています。

30~40代をコツコツ誠実に生きると、その後の人生も楽しい

―では、おかざきさんが考える「幸せ」とは?
おかざき:今のところ先進国では「家庭と子供という生活基盤があること」=「幸せ」という何となくの共通認識があります。でも本来、自分が幸せだったらそれでいいじゃん! と思うべきだし、それが幸せへの一番の近道かなと思っています。

その価値観を色んな世代の方に理解してもらえないのが面倒ですが、でも、そもそもわかってもらえなくていいかなとも思っていて。

―たしかに、自分の幸せは自分が決めるものですよね。
おかざき:私がそうやって幸せそうにしてると、20代前半の娘も「お母さんを見ると、どうやら30年後もどんどん幸せになるんだなと思える!」と言ってくれます。娘がそうやってわかってくれるんだから、それでいいやと思っていますね。

だから、私は「今すっごく幸せで、楽しいよ!」と周りによく言っています。そうやって常に幸せアピールすることが、上の世代の人間の仕事だと思いますし、何より自分もラクになれるんです。

―これから歳を重ねることが楽しみになります!
おかざき:しかも、50代はこれまでの人生の中で、一番ラクですよ。

20代で広告代理店に居た頃の私は、私個人というより、「若いお姉ちゃん」が仕事に必要とされている部分があって。現場でも「私の意見」ではなく「若いお姉ちゃんとしての意見」を求められて、それに応えなければいけない時代でした。
でも今は、誰も私にそれを望みません。私個人の話をして、聞いていただける。自分の言葉に嘘をついたり空気を読んだりしなくて良いのはラクですね。

そういう風になれたのも、若いうちにちょっとずつ褒められて、自分の名前を少しずつ残してきたからです。今度はその名前を拾って仕事をもらえるターンになるので。

―最後に、30代、40代の働く女性にメッセージをお願いします!
おかざき:30〜40代は人生の過渡期ですが、とても充実していました。しかも、経験がそのまま自分の成長につながっていた子どもや10代の頃のように、30〜40代もまた、経験が自分のキャリアとして積みあがっていく時でもあります。誘惑してくる言葉もたくさんあるとは思いますが、惑わされずに自分ができる好きなことをコツコツと誠実に積み上げていくと、そこから先の人生も超楽しいですよ!



【前編】漫画家・おかざき真里さんに聞く①。元会社員の女性漫画家だから描ける、不妊治療・育児と仕事の両立のリアル

(取材・執筆/菱山恵巳子)

  • line
  • リンクトイン

RANKINGランキング

  • 週間
  • 月間