重たい組織に挑戦風土を創る “チェンジリーダーシップ”の3つの鍵
昨今、人的資本経営や女性活躍推進の重要性が叫ばれて久しくなっています。成熟企業の事業創造 / 組織変革の支援をしている私たちmichinaruの元にも、“組織に眠る多様な人材の発掘・活用” や、“個に秘められたリーダーシップの開発” といったテーマのご相談が多く寄せられるようになりました。「多様な人材が活躍する組織を創りたい」「一人ひとりに成長機会を提供したい」という会社側の想いが透けて見えます。
その一方で、メンバーからは、「突然、活躍しろ・成長しろと言われても、キャリアの踊り場を迎えて自分のキャリアをどう創っていくべきか悩んでいる」「責任ある仕事が自分に務まるか不安だ」というキャリアの端境期(はざかい期)特有のお悩みが聞こえてきます。
本連載では、組織変革コンサルタントおよびキャリアカウンセラーとしてマネジメントのコンサルティングを行って来た、わたくし横山が、そんなキャリアの端境期(はざかい期)にいるメンバーの挑戦意欲を引き出し、成長実感を感じながらキャリアを歩んでもらうために、マネジメントにとって大切なことは何か。また、メンバー一人ひとりの成長を企業成長に繋げていくために重要なことは何か。「メンバーの意欲や職場の成果を高めるマネジメント」をテーマにお話していきます。
目次
重たい組織に挑戦風土を創る “チェンジリーダーシップ”の3つの鍵
これまで、メンバーの意欲や職場の成果を高めるマネジメントをテーマに「キャリアの転換期で悩むメンバーの意欲と成長を促す向き合い方(第1回)」、「多様なメンバーとともに成果を生み出す“インクルーシブ”な職場づくり(第2回)」について書きました。三回目となる今回は「重たい組織に挑戦風土を創る “チェンジリーダーシップ ”」について考えてみたいと思います。
日々、事業や組織と 向き合うミドルマネジメントの皆さんにとって、最も頭の痛い問題は「組織の重たさ」ではないでしょうか。顧客にとって必要な提案が内部の反対によって通らない。稟議や社内決裁に膨大なパワーと時間がかかる。新たな取り組みに仲間が集まらない。気が付くと内向きの仕事ばかりしている…。そのような声をよく伺います。
イノベーション理論の体系的な解説書「両利きの経営(東洋経済新報社)」 が日本で発行部数 10万部を超えるベストセラーになりました。これは長らく日本企業が得意としてきた改善・効率化・技術的深化による“連続的成長”だけでなく、創造・挑戦・可能性の探索による“非連続的な成長”を実現する組織的変革に対する切実な関心を示すものでしょう。
顧客にもメンバーにも選ばれ続ける企業であるために、今、多くの日本組織において「長らく蓋をしてきた挑戦風土をいかにして取り戻すか」に焦点が当たっています。
今回は、石橋を叩いてもなお渡らないような堅実な風土を持つ「重たい組織」が挑戦する風土を取り戻すために不可欠な“チェンジリーダーシップ”についてお話しします。
チェンジリーダーシップは誰が発揮するものか
固定化した状態に疑問を持ち自ら変えようと動く人のことを“チェンジリーダー”、そして、チェンジリーダーが発揮する周囲に働きかける力を“チェンジリーダーシップ”と言います。 チェンジリーダーシップは職位や年齢・性別に関わらず発揮できるもので、新入社員でも嘱託社員でも時短社員でも自ら変化の一歩目を踏み出すことができます。「変革は辺境から生まれる」との言葉があるように、私の感覚では現体制から遠いほどチェンジリーダーシップは生まれてきやすいようにも感じます。
ですが、もっともチェンジリーダーとしてのインパクトを発揮するのは、ミドルマネジメントの皆さんではないでしょうか。博報堂コンサルティングの調査では、自社の現事業に対して危機感を抱いている割合は経営陣よりミドル層の方が高いとの結果も報告されています。現場の前線で顧客の声を聞き、多様化するメンバーの想いやキャリアに向き合い、会社の10年・20年先の未来が自分ごとであるミドルマネジメントこそ、変革に想いが乗るのでしょう。
そこで、本稿では旧態依然とした組織に疑問を持ち、挑戦が軽やかにできる組織をつくりたいと願うミドルマネージャーの皆さんに向けて、自ら変革の主体となる「チェンジリーダーシップの鍵」についてお伝えします。
「まず自分から変わる」
ひとつめの鍵は「まず自分から変わる」です。インド独立の父ガンディーは「あなたが見たいと願う世界の変化にまずあなた自身がなりなさい」と言ったそうです。私達はよく「うちの組織はこれがダメ」「経営陣があんなんだから」と自分以外の他者に対して指摘をしますが、その問題の一端は組織の一員である自分自身も担っているという視点が抜けてしまいがちです。
「失敗を恐れずに大胆に挑戦する組織でありたい」と思っているなら、あなた自身が大ゴケするほどの挑戦を仕掛けて部下に見せてあげてください。「自ら学び成長するチームをつくりたい」と願うなら、自ら新しい学びの場に出かけ、そこで得た刺激を職場でシェアしてみてください。その行動に背中を押され、一人また一人とその輪が拡がればしめたものです。
自らやってみようとすると「目の前の仕事が山積みで手が回らない」、「周囲のシラケた空気が気になる」といった挑戦を押しとどめるストッパーの存在にも気づくでしょう。次のメンバーに行動の輪を拡げるために、これらのストッパーを外す方策を自チームの中だけでもなんとか練ることはできないか、具体論で考えてみてください。同じ理想を持つ上司や仲間にアイデアをもらいにいくのも効果的です。具体の課題に向き合い足を動かしているうちに課題のセンターピンが見え、賛同者が増えていくかもしれません。迷ったら「まず自分から変わる」、ぜひ心に留めておいて欲しいと思います。
「変えるのではなく、加える」
チェンジリーダーとして組織に向き合うとき、私達が陥ってしまいがちなのが現状を否定することです。「このままではダメだ、変わらなければ」というメッセージは多くのリーダーが発信しますが、その言葉で奮い立って変わろうと思うメンバーばかりではないでしょう。それは、現状を否定する言葉はこれまでの自分たちの努力やアイデンティティを否定するように伝わるからです。
北風と太陽の寓話の通り、自分を脅かす存在に人は耳を傾けません。だからこそ、変革を促す二つ目の鍵は「変えるのではなく加える」。組織が創業以来大事にしてきたこと、情熱を注いできたこと、その積み重ねで今があることを肯定し、その上でこれから皆で理想とする未来に向かって新たに加えたいことにも目を向けようと提案してみて下さい。
例えば、「これまで自社を支えてきた無駄のないオペレーション設計力は、唯一無二のリソースであることを称賛・感謝するとともに、顧客の困りごとを掴み取り新たな事業を生み出す力を加えることによって、さらにお客様に選んでもらえる存在になるはずだ」、と語ってみてください。新規事業vs既存事業のような二項対立にならずに、ビジョンを実現するために双方が大切な役割を果たしていると捉え直しができるでしょう。
個人個人に向けても同じことが言えます。一人ひとりのこれまでの努力や積み重ねてきたスキル・経験を肯定し、その上に何を加えようか?というまなざしが向けられると、彼らの挑戦意欲は高まっていくでしょう。人は、過去慣性が働く生き物だからこそ、「自分のありのままを承認されている(I’m OK)」と思える心理的安全性の担保は最も重要な要素です。
「枠を超える越境」
三つ目の鍵は「越境」です。組織を揺さぶろうとするとき、チェンジリーダーにとって土台となるのが“自社を相対化してとらえる視点”でしょう。自社にとっての当たり前が特異なことであるかどうかは、外に出てみないと分からないものです。
私は育休から復帰後、熱心に働く組織風土の会社で時短勤務でしか働けないことが非常に心苦しかった時期がありました。ですが、そんな固定化した考えを揺らがしてくれたのが、同じ時期に育休から復帰したいわゆる社外ママ友です。彼女たちは時短に引け目を感じておらず、むしろ時間対成果を高めているプロフェッショナリズムを会社から評価されていました。自社での「当たり前」は他所での「非常識」(かもしれない)という発見は、私の組織観を揺らがす大きな出来事でした。
こうした「当たり前」の揺らぎはチェンジリーダーにとって財産であり、自社以外の多くの「当たり前」を知ることは変革の参照点を手に入れることに繋がります。良い面も悪い面も外に出てみないと相対化はできないのです。
同時に、組織の中においても越境は有効です。普段の自身の枠を超えて、経営の立ち位置、他部署・他地域の立ち位置、他世代の立ち位置に、まるで憑依するように飛び越んでみてください。対話を通じて彼らの場所からは何を感じ、どう見えているのかを知ることによってチェンジリーダーシップは届きやすくなるでしょう。
加えて、外に出て同志に出会うこともチェンジリーダーにとって大きな出来事となりえます。
・言葉を尽くさなくても同じ温度感で理想を共有できる仲間
・自分がやりたいと思っている取り組みをすでに三歩先まで進めている先人
・組織の中では見せにくい弱さや葛藤をさらけ出せる同志
に出会い、すぐには理解が得られない活動を続けるガソリンにするリーダーたちをたくさん見てきました。
取り組みの停滞を感じたら、ぜひ境界線を飛び超え、自分自身の視点こそを動かしてみてください。知らず知らずに視野が狭まっていて見えていなかったものに気付くかもしれません。ミドルマネジメントの皆さんが行き詰ったときに、気軽に壁打ちを申し込める社外の仲間やメンターが当たり前にいる世界になるといいなと思います。
チェンジリーダーはどこにいるのか
ここまで、重たい組織に揺らぎをもたらすチェンジリーダーシップの3つの鍵についてお伝えしてきました。皆さんにとって、「あの人がまさに実践者だな」と顔が浮かぶ人はいるでしょうか。
最後に、今まさにリーダーシップを発揮し、重たい組織に揺らぎを起こし、変革へ導こうとするチェンジリーダー達を紹介できればと思います。
お一人は、創業70年を超える専門商社で新規事業を率いるリーダーです。もともとは一拠点で営業をしていた彼が本社でグループ全体の新規事業推進を任される部長になったのは、彼のチェンジリーダーシップが高く評価されたからではないかと思います。
一拠点にいたころから常に視点はグループ全体の未来にあったという彼は、自社がこれまで築いてきた「トップダウン戦略を全員でやり切る文化」を称賛しながらも、「ボトムアップで一人ひとりがWillに基づいて事業を生み出す組織文化」へさらなる進化を遂げるべく旗を振って主導してきました。聖域になりがちな幹部陣との対話の場を自ら積極的に創り、他社からの視点・フィードバックが常に得られる仕掛け創りを通じて、泥臭く根気よく変革の輪を拡げています。
もうお1人は素材メーカーで人事を担当されているチェンジリーダーです。自社が新たに掲げた理念を絵に描いた餅に終わらせないように、オフィシャル・アンオフィシャル問わず多くの対話の場を設け、肩書や立場を超えて一人ひとりの中に理念が根付くように身を砕いてこられました。
若手社員を集めた対話の場で熱く自分なりの理念体現のカタチを語る社員に触発され、「私にもまだ理念が真に意味するところは理解しきれていないけれど、皆に負けないように私なりに解釈すること、挑戦することを約束したい」とおっしゃったことがありました。理念策定の主管部署の一員としての教科書的な振る舞いを手放し、生身の人間として場に身を委ね、理論武装することなく想いを分かち合う。人を変えようとするのではなく、まず自身の心を「I Message(“私”を主語とした主張)」でさらけだすことでチェンジリーダーシップを発揮できることを学ばせていただいた経験でした。
全3回の連載を通じて、年々忙しさと難易度が増すミドルマネジメントの皆様に向けて「メンバーの意欲とチームの成果を高めるマネジメント」をテーマに書かせていただきました。メンバーのWillと顧客価値、短期成果と中長期のイノベーション創出など、多くの二律背反に悩む日々の中で、「マネジメントは大変だけれど面白い」「正解なき時代だからこそメンバーとともに思い切り葛藤に向き合ってみよう」と思ってくださった方が一人でもいらしたら嬉しいです。
michinaru株式会社
「Hatch Our Potential ! 〜未知なる扉を開ける挑戦者で溢れる世の中に〜」をビジョンに、挑戦と応援が循環する社会の実現に向けて、成熟企業の新事業創出や事業活性、人材育成・組織開発を伴走支援しています。 参加者のWill(内発的動機)から事業を生み出す新規事業創造プログラム「Hatch!」や異業種交流型で事業アイデアを育む「Hatch! Reframe Open」を展開。