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仕事に効く話

“インクルーシブ”な職場創りに向けて
マネジャーが大切にすべき3つのこと

 昨今、人的資本経営や女性活躍推進の重要性が叫ばれて久しくなっています。成熟企業の事業創造 / 組織変革の支援をしている私たちmichinaruの元にも、“組織に眠る多様な人材の発掘・活用” や、“個に秘められたリーダーシップの開発” といったテーマのご相談が多く寄せられるようになりました。「多様な人材が活躍する組織を創りたい」「一人ひとりに成長機会を提供したい」という会社側の想いが透けて見えます。

 

 その一方で、メンバーからは、「突然、活躍しろ・成長しろと言われても、キャリアの踊り場を迎えて自分のキャリアをどう創っていくべきか悩んでいる」「責任ある仕事が自分に務まるか不安だ」というキャリアの端境期(はざかい期)特有のお悩みが聞こえてきます。

 

 

 本連載では、組織変革コンサルタントおよびキャリアカウンセラーとしてマネジメントのコンサルティングを行って来た、わたくし横山が、そんなキャリアの端境期(はざかい期)にいるメンバーの挑戦意欲を引き出し、成長実感を感じながらキャリアを歩んでもらうために、マネジメントにとって大切なことは何か。また、メンバー一人ひとりの成長を企業成長に繋げていくために重要なことは何か。「メンバーの意欲や職場の成果を高めるマネジメント」をテーマにお話していきます。

“インクルーシブ”な職場創りに向けてマネジャーが大切にすべき3つのこと

前回は、キャリアの転換期で悩むメンバーの意欲と成果を引き出す対話について書きました。今回は、成果を生み出す基盤としての「インクルーシブな職場づくり」について考えてみたいと思います。

インクルーシブな職場とは、さまざまな違いを持ったメンバーが、それぞれの個性や能力を発揮し、組織の一員として活躍する職場を意味します。インクルーシブな職場づくりをお勧めするのは、それが単に事情を抱えるメンバーにとって働きやすい環境に繋がるだけでなく、メンバー一人ひとりの成長意欲をさらに高める仕掛けでもあるからです。

人は生来貢献すること、承認されることが嬉しい生き物です。自分の能力や個性を発揮して、職場に貢献できるという実感が積み重なることで、それが自信となり、ここでもっと成長したい、新しい仕事や役割にも挑戦してみたいという原動力へと繋がっていくのです。

では、メンバーの意欲と職場の成果を同時に高める「インクルーシブな職場」はどのようにしてつくることができるのでしょうか。ここでは、インクルーシブな職場づくりにむけてマネジャーが大切にすべき3つのことをお伝えしたいと思います。

1)個の多様性をチームのリソースとして捉えること

まず、インクルーシブな職場づくりとは、メンバー個々の持つ“違い”を認め、それを活かすことから始まります。これを読んでくださっているマネジャーの皆さんはどの程度自チームに存在する“違い”を認識しているでしょうか。

経験年数等による能力レベルの違い、育児や介護による短時間勤務等の働き方の違い、性別や年齢等の属性レベルの違いを思い浮かべた方もいるでしょうし、価値観や志向性等のキャラクターの違いを想起された方もいらっしゃるでしょうか。職場が内包する“違い”とは誰の目にも見えやすい年齢/職種/役割/性別/スキルのような属性レベルのものに加えて、ひとりでには見えてこない価値観/資質/興味関心/得意技等の個々人固有の個性が挙げられます。

マネジャーの皆さんに大事にしてほしいことの一つ目は、誰の目にも明らかで知覚しやすい違いだけでなく、水面下に潜んでいる一人ひとりの個性に意識的になって、それをリソースとして捉える視点を持つことです。ボストンコンサルティンググループの調査によれば、ダイバーシティ対応の有無によってイノベーションによる売上の割合に2倍近くの差がついたとの結果もあります。このことからも、個の多様性は新たな価値・成果創出の原動力になることが分かっています。

「なるほど。“違い”がリソースになるという考え方は分かった。でもうちのチームにはそれほど多様性はないから活かしようがないなあ」と思っている方がいらしたら、それはご自身の“違い”を見る目が粗いからかもしれません。

前述のとおりチームには大小無数の“違い”が存在しますが、その人自身が価値を認めている「ものさしの多さ」によって認識できる“違い”が変わってくるのです。これは「認知的複雑性」と呼ばれるもので、例えばあるマネジャーが「業務遂行スキルが高い」「論理的にコミュニケーションが取れる」というものさししか価値を認めていなければ、「細部までこだわり切る」「他者に気配りができる」「あてもなく探索し続けられる」といったチームメンバーが持つ持ち味はリソースになりにくくなります。しかし、長くビジネスの世界に身を置くと後者の要素も非常に重要な価値の源であることが分かります。

ぜひご自身のなかで、自身が「ものさし」として認知できていない“違い”はないだろうかとチームを見渡し、個々人の個性に接してもらえたらと思います。新人もベテランも短時間勤務中の社員も、実はかけがえのないリソースをチームに提供してくれているかもしれません。まずマネジャー自身がそれに気づき「あなたのその資質にチームは助けられているよ」「いつもありがとう」と惜しみなく賞賛を向けることが、メンバー自身の意欲を高める出発点になるでしょう。

2)多様な個を束ねる軸を創る

インクルーシブな職場づくりに向けてマネジャーの皆さんに大事にしてほしいことの2つめは、多様な個を束ねるチームの軸を持つことです。いかに同質性が高く見えるチームでも目を凝らしてみると人数分の個性が存在しますが、それらを上手にチームの力に変えることは簡単なことではありません。細部にこだわる資質を持っている人は猪突猛進の資質を持っている人とソリが合わないと感じることがあるでしょうし、効率と手順を整えることに強みを持つ人と状況を察知し、臨機応変に進めることに強みを持つ人が組むことで生じるストレスや軋轢もあるでしょう。

今まで水面下に隠れていた“違い”が表出することは、良いことばかりではなくメンバー同士の軋轢を生み衝突を引き起こすこともあります。そう、インクルーシブな職場づくりは面倒くさいのです。だからこそ、多様な個性がバラバラにならずに調和し、チームの力へと変えていくためには求心力となる軸が必要です。

ワールドカップを戦うサッカー全日本女子のなでしこジャパンの選手たちは、普段世界中のチームに所属をしていますが、ひとたび招集されるとチームとしての傑出した力を見せてくれます。これは、日本の女子サッカーを盛り上げ、次世代の女の子たちにサッカーの楽しさを知ってもらいたい、という想いが共通しているからでしょう。

多様なメンバーの活躍を謳うグーグルも、メンバー全員が「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」というミッションに真摯であるという前提条件のもとでのみ心理的安全性は担保されると言いきっています。

ある経営者は「自社の経営戦略として、これまで以上に女性活躍を推進したい。ただし、挑戦と成長という創業以来大切にしてきた自社のアイデンティティは必ず同時に実現する」とメンバーに宣言しました。寝耳に水のインクルーシブ施策に戸惑っていた幹部をはじめメンバーにとってその言葉は拠り所になり、組織の取り組みは加速していきました。多様性を力に変えるには数少ない一点で強烈に束ねる必要があると改めて学ばせてもらった出来事でした。

皆さんにとって、チームを束ねる軸とは、チームが実現したいビジョンでしょうか。チームをチームたらしめるアイデンティティでしょうか。インクルーシブな職場づくりを進める上であなたが譲れない軸は何かをぜひ言葉にしてメンバーと共有してもらいたいと思います。

3)「結果の質」ではなく「関係の質」からはじめる職場づくり

インクルーシブな職場づくりに向けてマネジャーの皆さんに大事にしてほしいことの3つめは、「結果の質」ではなく「関係の質」から始めることです。マネジャーにとって、チームで結果を出すために「やるべきこと」をチーム運営の中心に据えることはごく自然なことですが、結果を出すためにまず注力すべきは「チーム内の関係性」であることが分かっています。

MIT教授のダニエルキム氏が「成功循環モデル」として継続的に結果を出すチームを創るために発見した法則によると、チーム内の「関係の質」が高まれば高まるほど、一人ひとりが気づきやアイデアを思いつく「思考の質」が高まり、新たな協働や挑戦に向かう「行動の質」を高め、「結果の質」の高まりをもたらすと言われています。

チーム成果が芳しくないリーダーがなんとかその状況を打開しようとするとき、行動の質にあたる「正しく戦略は遂行されているか」「誰が何をしているか」に目が向き、関係の質は軽視されがちです。しかしながら、往々にして成果向上の鍵はチーム内の関係性、ひいてはチームの文化や雰囲気といった目に見えないものが影響しています。

役職や経験にかかわらず、一人ひとりは尊重されているか、個人の意見やアイデアは歓迎されているか、役割を超えて積極的に協力し合っているか、チームの未来に熱量があるか、コミュニケーションは特定のパイプに偏っていないか。継続的に成果をあげるチームを創るために、職場の関係性が今どのような状態なのか、繰り返されているパターンがないかを観察し、気がかりな変化があればそれをチームに投げかけていくことこそマネジャーの大事な役割です。

例えば、「新しいアイデアが出て盛り上がるにもかかわらずなぜか途中でなかったことになってしまう」「A部門との協働においてはカタチを変えてトラブルが繰り返し起こる」などの課題がチーム内にあり、その原因も解決策も見出せない状況にあったとします。そんな場合でも、チームの力を信じ、その気がかりを発してみることでチームが持つ多様で大きな知恵が引き出されるのです。

原因や解決策に対する確信も正解も持たないままチームに投げかけることは決して容易なことではないでしょう。しかしながらその恐れをマネジャー自らが乗り越え、チームに問いかけることで「関係の質」に影響をもたらし、違和感を放置せずにテーブルの上に乗せることのできる「思考の質」、課題を皆で解決することに力を注ぐ「行動の質」へ繋がるGoodサイクルが回りだす、そんな体験を今のチーム・今のメンバーとともにぜひしてもらえたらと思います。

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今日は多様な人材の意欲とチーム成果を引き出す“インクルーシブな職場づくり”についてお話してきました。

高度化・複雑化する現代の仕事環境下において、独力で簡単に解決できない問題は日に日に多くなっています。そうした中で多様な強みを持つ個人のリソースを活かし、ひとりでは辿りつくことのできなかった問題の本質を見出したり、対話を通してクリエイティブな解決策を導き出すことのできる、インクルーシブな職場の価値はますます高くなっていくでしょう。昨今かつてないほど厳しいプレッシャーの中でメンバーの成長とチーム成果の責任を背負うマネジャーが増えています。そんな皆さんにとって役立つ“新たなリーダーシップの形” として実践してみていただければ嬉しいです。

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michinaru株式会社

「Hatch Our Potential ! 〜未知なる扉を開ける挑戦者で溢れる世の中に〜」をビジョンに、挑戦と応援が循環する社会の実現に向けて、成熟企業の新事業創出や事業活性、人材育成・組織開発を伴走支援しています。 参加者のWill(内発的動機)から事業を生み出す新規事業創造プログラム「Hatch!」や異業種交流型で事業アイデアを育む「Hatch! Reframe Open」を展開。

(https://michinaru.co.jp/)

 

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