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仕事に効く話

メンバーの意欲や職場の成果を高めるマネジメント

 昨今、人的資本経営や女性活躍推進の重要性が叫ばれて久しくなっています。成熟企業の事業創造 / 組織変革の支援をしている私たちmichinaruの元にも、“組織に眠る多様な人材の発掘・活用” や、“個に秘められたリーダーシップの開発” といったテーマのご相談が多く寄せられるようになりました。「多様な人材が活躍する組織を創りたい」「一人ひとりに成長機会を提供したい」という会社側の想いが透けて見えます。

 

 その一方で、メンバーからは、「突然、活躍しろ・成長しろと言われても、キャリアの踊り場を迎えて自分のキャリアをどう創っていくべきか悩んでいる」「責任ある仕事が自分に務まるか不安だ」というキャリアの端境期(はざかい期)特有のお悩みが聞こえてきます。

 

 

 本連載では、組織変革コンサルタントおよびキャリアカウンセラーとしてマネジメントのコンサルティングを行って来た、わたくし横山が、そんなキャリアの端境期(はざかい期)にいるメンバーの挑戦意欲を引き出し、成長実感を感じながらキャリアを歩んでもらうために、マネジメントにとって大切なことは何か。また、メンバー一人ひとりの成長を企業成長に繋げていくために重要なことは何か。「メンバーの意欲や職場の成果を高めるマネジメント」をテーマにお話していきます。

「キャリアの端境期(はざかい期)にいるメンバーの“意欲”と
“成長”を促すマネジメント」について

連載第1回目の今回は、「キャリアの端境期(はざかい期)」つまり、キャリアにおいて次のステージに向けた過渡期にいるメンバーの意欲と成長を促すマネジメントについて考えてみたいと思います。

キャリア理論家の大家、ダニエル・J・レビンソンは、30歳前後に可能性が狭まっていくような焦りを抱く「30歳の壁」、人生の正午を迎え真の個性化に向き合う「中年の危機」など年齢に応じた過渡期が訪れると提唱しました。比較的安定するその他の時期と違い、過渡期には人知れない揺らぎが生じることは、程度の差こそあれ誰もが経験しているでしょう。また現代の労働環境の中では、年齢要素だけでなく、結婚・出産・介護といったライフイベントを目前にして揺れるケースや昇進昇格の対象者にノミネートされるなどそれまでとは異なるプレッシャーがかかることで不安定になるケースもよく見聞きします。

いずれにせよマネジャーに求められるのは、こうした過渡期にさしかかっているメンバーを見過ごさず、彼らの新たな意欲と成長を引き出すことによって本人・組織双方にとってWin-Winになるようなキャリアトランジション(次のキャリアステージへの移行)を成功させることでしょう。

では、どのようなマネジャーの振る舞いによってそれが可能になるのかをお伝えします。

メンバーのキャリアに向き合う上で必要なリフレーム

まず、必要なのは、メンバーのキャリアに向き合うマネジャーのメガネを付け替えることです。これをリフレームと言いますが、どんなリフレームが必要なのでしょうか。

一つ目は、キャリアの理想や希望を聞く際に“外的キャリア” ではなく“内的キャリア” について押さえることです。 “外的キャリア” とは、営業・開発・マーケティングといった職種や、課長・部長・社長などの職位といった肩書きなどです。まだ就いたこともない“外的キャリア” について本人に意向を聞いたところで憧れの域を出ませんし、そもそもパイに限りがあるので就けるとも限りません。展望を持つこと自体は悪いことではないものの、隣の芝生は青い、になりがちです。お勧めは“内的キャリア” について目を向けることです。「どんなことが好きで、得意で、大事な自分なのか」、「これから伸ばしたい資質や5年後までに積んでみたい経験はどんなものなのか」「仕事を通じてどんな自分になりたいのか」、そうした対話が積み重ねられると、今の仕事に対する意味付けもしやすくなるでしょう。

二つ目は、キャリアに悩むメンバーと話す際のマネジャーの自己定義についてです。マネジャーはどうしてもメンバーに向き合う際、「問題解決者」になりたくなります。メンバーよりも多くを知っていないといけないし、悩みを解決してあげなければならないと感じるのです。だからこそ、メンバーのキャリアについても道先案内をしたくなるのですが、必要なのは“キャリア自律” という言葉がある通り、メンバー自身が自律能動的に選択する力を育てること。そうした意味においてマネジャーはメンバー自身の自己理解を促し、内省スキルを高める「伴走者」として自らを定義してほしいと思います。Googleでは、よきマネジャーの条件として、良きコーチであることを挙げています。答えを渡すのではなく、問いによって彼らの自律的成長を支援する。そんな視座に立ってほしいと思います。

三つ目は、自身のバイアスに気付くことです。人は必ず自分自身の価値観や前提に基づいた判断や評価をしています。例えば、「女性は仕事より子どもを優先したいものだろう」「小さな子どもを育てる女性社員に出張は難しい」といった固定観念を持ったままメンバーと向き合った場合、メンバーの「子どもも大切にしたいけど仕事も頑張りたい」「自分が行く必要があるのであれば出張にもトライしたい」という内なる声は聴かれないまま無かったことにされてしまうケースがよくあります。(メンバーはウェルカムされない声をわざわざ出しません。)マネジャーは、キャリアの端境期にいるメンバーの中にある小さな声を引き出すためにも、自身のバイアスに自覚的になり、それを一旦「脇に置く」ことを心がけてみてください。マネジャーがどんな声をも受け入れる器を持つことで、本人さえも気付いていなかった「~したい」というWill(内発的動機)が少しずつ語られ始めるかもしれません。

メンバーのキャリアに伴走する上で大切な対話のスキル

3つのリフレームをおさえたマネジャーの皆さんにぜひ習得してほしいスキルがあります。それが「対話」なのですが、実はこの対話というシロモノ、多くのマネジャークラスの方々が苦手意識を持っているものでもあります。
では、対話とは何でしょうか。考えをぶつけあい白黒をつける議論、情報と感情を共有し関係性を創る会話と違って、対話とは正解のないテーマに対して互いの考えを交換し、新たな視座を手に入れる行為です。


良い対話には「良い問い」と「良い間(ま)」があります。マネジャーの皆さんはメンバーと話す際、自分が正しいことを話してあげなければいけない、沈黙がないようにコミュニケーションをリードしなければと思っているかもしれません。しかしながら対話に必要なのは、「答え」ではなく「問い」、「円滑な話術」ではなく問いに対して考えを巡らし新たな声が生まれてくる「間(ま)」です。メンバーと意味のある対話をしたいと願うならば、「問いを出したら黙る」にトライしてみてください。

そうはいっても慣れないうちは何について対話したらいいかわからない、という方も多いでしょう。そんな際は、自分らしさを構成する「スキ・トクイ・ダイジ」を深ぼる、人生の目的について探究する「ライフパーパス」を言葉にするといったことから始めてみることです。そう、前段でお伝えした「内的キャリア」に目を向ける質問です。ここでは上司・部下の関係を外して、お互いの「スキ・トクイ・ダイジ」や「ライフパーパス」について出し合ってみてもよいかもしれません。どこかにある正解に素早くたどり着く“いつもの会話”から、正解も上下もない探索的な対話に移ることができるでしょう。

徐々にメンバーの動機の源泉(Will)が浮かび上がってきたら、あなたがどうしても解きたい課題はなに?(Must)と問いかけてみてください。職場の非効率、若手の離職、社会に存在する手付かずの課題など、大小さまざまなものでOKです。キャリアを通じて解きたくて仕方ない課題が明確になればなるほど、そしてそれに対する使命感が高まれば高まるほど、新たなキャリアステージに移行する原動力になってくれます。

そして、WillとMustについて本人の自覚が進むと、成長したい領域が明確になり、ストレッチしたいスキルや能力(Can)についても自然と語られだします。具体的な行動を後押しするチャンスです。ぜひ小さな一歩を応援してあげてください。

ここまでくれば自身がキャリアの探究に丁寧に伴走することを通じて、意欲的に成長に向き合うメンバーが育つことに気付くことでしょう。可能性を秘めた対話のスキル、ぜひ磨いてくださいね。

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第一回の今回は、キャリアに悩むメンバーを持つマネジャーに必要なリフレームと対話のスキルについてお話ししました。次回は「多様なメンバーを活かす職場づくり」について書いてみたいと思います。次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。

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michinaru株式会社

「Hatch Our Potential ! 〜未知なる扉を開ける挑戦者で溢れる世の中に〜」をビジョンに、挑戦と応援が循環する社会の実現に向けて、成熟企業の新事業創出や事業活性、人材育成・組織開発を伴走支援しています。 参加者のWill(内発的動機)から事業を生み出す新規事業創造プログラム「Hatch!」や異業種交流型で事業アイデアを育む「Hatch! Reframe Open」を展開。

(https://michinaru.co.jp/)

 

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