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マイキャリアストーリー

『違いを前提にコミュニケーションをとっていく』
キヤノンマーケティングジャパン ichikara Lab 室長 吉武裕子さん【後編】

誰しも迷うキャリアの決断。管理職として活躍する女性はいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。キャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。

今回は前回に引き続き、キヤノンマーケティングジャパン株式会社でichikara Lab(イチカララボ) 室長を務める吉武裕子さんにお話を伺いました。

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吉武 裕子(よしたけ ゆうこ)さん

2005年、キヤノンマーケティングジャパンに新卒入社。インクジェットプリンターの販売促進、商品企画業務を経て2020年に「ichikara Lab」立ち上げに携わる。2024年より室長(課長職)として、若年層へのマーケティング強化と新規顧客層へのリーチを担当している。

自ら考えて動く自由度の高さが、企業内起業プロジェクトの魅力

4年間の産休育休という長いブランクを経て、復帰後に小型プリンター「iNSPiC」のマーケティング戦略を担当した吉武さん。そこから初の企業内起業「ichikara Lab」が立ち上がり、現在のポジションや役割につながっています。
「手のひらサイズのミニフォトプリンター『iNSPiC』は20代を中心とした若い女性をターゲットにした、日本初上陸の商品でした。マーケティング戦略をどう立てていくか、ゼロから考えていける環境に面白さを感じ、自ら手を挙げてプロジェクトを担当しました」
「ichikara Lab」は、若年層へのマーケティング戦略を担う組織として2020年に立ち上がり、現在は吉武さん含め8人のメンバーが在籍しています。若い消費者たちはどんな視点やマインドでモノやサービスを選び、嗜好するのかを分析すべく、「ワカモノスタディ」というワークショップの場を立ち上げ、レポート発信も行っています。
「それまでのマーケティングの考え方は、『こういう商品を出すからマーケット調査をしよう』という、プロダクトありきの発想が多かったです。そうではなく、そもそも若年層の皆さんの中にはどんなインサイトがあるのか、生活マインドを理解していくことから始めようと『ワカモノスタディ』が生まれました」
ichikara Labのミッションの一つは、次世代の顧客層を開拓し育てていくことです。ただ、そのために何をどう進めていくかの細かい指示はなかったのだそう。
「だからこそ、自分たちで考え動いていける裁量の大きさがやりがいにつながっています」

当事者目線に立ち、肌感覚を持つことが大事

マーケティングを考える上で大事にしているのは「いかに当事者の目線に立てるか」だと吉武さんは話します。
「対象者と同性だから、あるいは同世代だからマーケティングができるとは思っていません。自分たちがリアルな一次情報に触れ、若い世代の皆さんと接する中で肌感覚を得ていくことが大事。商品にとらわれないマーケティング活動を行うことで、社外から『一緒に動きたい』と声をかけていただく機会も増え、私たちの視野も広がっています」
「当事者の目線に立つ」ことの大切さは、子育てやメンバーマネジメントからも学ぶことが多いのだそう。とくに、2人の男の子を育てる中で、「自分の子どもでも、自分とは違う“他人”である」という意識をはっきり持てたことは大きな成長だったと話します。
「当たり前のことですが、子どもは独立した人格を持つ他人です。子どもが生まれて、親子でも性格ってこんなに違うんだなと発見するたびに、『子どもと自分を一緒にしてはいけない』と強く感じるようになりました。違う人間である、という前提に立った上で、その子にとって一番良い環境や機会は何だろうと考える。その視点を持てたことは、マネジメントにも良い影響をもたらしているのではないかと思っています」
多様なバックグラウンドを持って集まっているメンバーに対しては、自分の考え方やスタンスを押し付けないよう、より強く意識していると話します。
「自分が良かれと思っても、本人はそう判断しないかもしれない。自分にとても近い存在である子どもですらそうなのですから、メンバーは尚更です。育ってきた環境も全然違うので、自分はこう思うからメンバーもこうあってほしい、という風には考えないようにしています。
メンバーにとって、私と働く期間は長いキャリアの中の一期間。できるだけいろいろな経験を積んで、自分の強みや魅力が最大に発揮される仕事に出会ってほしいです。目標設定を考える面談にじっくり時間をかけて、一人ひとりにどんな仕事の機会を提供することがベストなのかをいつも考えています」

あるべき像を勝手に取り込んで、不安を膨らませていた

メンバーに接する上で大事にしている考え方や思いを、迷いなく言葉にする吉武さん。しかし、現在の室長(課長職)ポジションに就いた2024年当時は、「育児と管理職との両立は難しいのではないかと不安が大きかった」と振り返ります。
「今思えば、課長とはこうあるべき、こんな風にできなくてはいけないと勝手に思い込んでいました。周りの管理職の皆さんができていることと自分の仕事ぶりを一つひとつ比較しては、不安を増幅させて、自分自身を追い込んでいたのです。
でも、“すごい存在”と見上げていた管理職の皆さんと話す機会が増える中で、みんな同じように悩んだり不安に思ったりしていることが分かりました。『なんだ、みんな一緒なんだ』と気持ちが軽くなりましたね」
課長に就く前には、女性管理職人材を育成する社内プログラムにも参加しました。外部のキャリアコンサルタントとの月1回の1on1の機会もあり、漠然と抱えていた不安を口にする中で、「それって、意外とこういうことなのではないですか」と紐解いてもらえたことが、安心感につながっていきました。
「育休から復帰するときも、管理職に就くときも、こうあるべきだという“像”にすごく縛られていました。思い込みを捨てるのは難しいかもしれませんが、当時の自分に声をかけられるのなら、『意外とできるものだから、不安を先回りして感じなくて大丈夫』と伝えてあげたいですね」
復帰した当時、所属していた組織には子育てと仕事を両立している先輩社員は多くはいませんでした。そこから約10年経ち、今では、メンバーのうち2人は育児休業中。性別問わず育休を取得する社員も増え、子育てとの両立は自然な景色になっています。
「でも、自分が経験したことを意識的にアドバイスすることはあまりない」と話す吉武さん。そこには、“人はみんな違う”という、これまで大事にしてきた“前提”がありました。
「私は育休から復帰した後、“母親”という役割以外に、“仕事をするいち社会人”という役割が加わったことがとてもうれしかった。日常から切り離されて、外から評価してもらえる立場になり、種類の違う2つの役割を行き来できるようになった。子育てとも仕事とも良い距離感を保ち、それぞれを楽しめるようになりました。

子育てをしている人もしていない人も、置かれた環境や家庭の状況はそれぞれ違います。
私が誰かのロールモデルにはなれないし、そもそもロールモデルを探す必要もないと思っています。誰かを真似する必要はなく、いろいろな人と関わりながらパーツごとに自分が真似したい、真似できそうな部分があれば取り入れる。それで良いのではないかと。
日々の会話の中で、メンバー同士あるあるを共有してお互いの大変さに思いを馳せながら、共感できるポイントを見つけ合っていきたいと思っています」


→「前編記事





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写真:MIKAGE
取材・執筆:田中 瑠子

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