『“建築業界を変えたい” 小さな一歩が物事を前に動かす』
野原グループ プロダクト開発課 神谷 友里絵さん【後編】
誰しも迷うキャリアの決断。管理職として活躍する女性はいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。キャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は前回に引き続き、野原グループ株式会社でプロダクト開発リーダーをを務める神谷 友里絵さんにお話を伺いました。

神谷 友里絵(かみや ゆりえ)さん
BuildApp事業統括部 BuildAppサービス開発統括部BA1部 プロダクト開発課 プロダクト開発1チーム リーダー
一級建築士、宅地建物取引士、インテリアコーディネーター
大学院を卒業後、大手ハウスメーカー、マンションディベロッパーを経て、2020年7月に野原ホールディングス株式会社 BuildApp1部に入社。2024年10月に芝浦工業大学博士課程に入学
目次
設計の現場で感じてきた業界課題、その難題に向き合う野原グループに強く共感した

- ハウスメーカーとマンションディベロッパーで約7年のキャリアを重ねた後、2020年に野原グループへの転職を決めた神谷さん。BuildAppの企画・開発職は、それまでの設計の仕事とは毛色が大きく異なるように見えますが、どんな思いが入社を後押ししたのでしょうか。
- 「設計・デザインするだけでは建物はできないのだと、それまでに働いた7年間で強く実感しました。1社目の戸建てから2社目のマンション設計へとフィールドを移すとさらに、現場監督や大工さん、施工管理の方々などさまざまな職責を担う人たちとの協業が広がっていきました。多くの人の協力があってはじめて一つの建物が完成する。そう感じる中で、業界共通の課題の多さにも気づくようになりました。
例えば、事前に聞いていた話と現場の状況が全然違い、言った・言わないで揉めごとが起こったり、設計図に変更を加えても職人さんに届くまでにタイムラグが発生し『もう工事を始めてしまった』と言われることが多々あったりなど、非効率的で無駄を感じる場面は少なくありませんでした。だからこそ、こうした課題を解決するツールに興味を引かれました」
- そんなとき、たまたま目にした野原グループの採用ホームページで「建設業界を変えていきたい」と書かれているのを見つけます。業界課題に向き合う熱い思いを感じ、「やりたいことが一致している!」と応募を決めたと話します。
- 「建設業界は変わらない、と長く言われてきました。職人の肌感覚が重視される属人的な仕事の進め方が当たり前で、世間でDXが流行り出してからも、なかなか業界として取り入れていこうという動きは起こっていませんでした。
そんな中で、真っ向から『業界変革』を目指している野原グループの思いに共感し、これまで設計職として現場を見てきた経験を、これからは“業界を変えていく”という新たなチャレンジに活かそうと考えたんです」
相手に合わせた言葉の選択で“オープンなコミュニケーション”を心がける

- もともとは、建築の仕事を通じて「一つひとつの家庭に幸せをもたらしたい」と思っていた神谷さん。建設業界全体の改善を目指す中で、「業界に関わるあらゆる職種の人たちの幸せを作っていきたい」と考えるようになりました。
そんな強い思いを持つ神谷さんですが、野原グループ入社当初は、BuildAppの現場導入を進めていこうとゼネコンや工事店に話をしにいっても、「BIM? そんな難しいことはわからない」「今までもできていたのだから大丈夫」と拒絶されることが少なくなかったといいます。 - 「コミュニケーションの中で意識していたのは、言葉の使い方です。私が分かる言葉でも知らない人はたくさんいます。誰が見ても理解できるような資料づくりを心掛け、『これってどういうこと?』と聞かれたときに、専門用語を使わずに説明できるよう準備をしていました。また、ゼネコンや工事店の方に話を聞くときは、一方的に質問をするのではなく、まずは自分のことをオープンに話すよう意識していました。変化の手ごたえを感じたのは、何度もやり取りを重ねる中で『現場がもっとこう変わってほしい』『そのために、こんなサービスがあるといいのに』といった声をもらうようになったときです。『現場の方がDXに意識を向けるようになって来ている。意識が変われば、業界自体も変わっていける』と思えたときは本当にうれしかったですね」
- 2024年から4人のチームを率いるリーダーを任された神谷さん。メンバーとのコミュニケーションでも“相手の立場で考える姿勢”を大切にしています。
- 「私の意見を押し付けるのではなく、メンバーが考え、行動する姿勢をサポートしたいんです。メンバーから出た提案、アイデアがあれば、そこに至った思考のプロセスを丁寧に聞いていきます。そうすることで、一人ひとりの持つ価値観を尊重していきたいと思っています。
週次のミーティングでは、私から率先して業務外の趣味の話もしていて、だんだんとみんなも『週末こんなところに行ってきました!』などと言ってくれるようになりました。オープンでいられるチームづくりが、BuildAppをより良くする企画アイデアの発信にもつながっていくと思っています」
「周りに相談する」という小さな一歩が物事を前に動かしていく

- リーダーを務める傍ら、2024年10月には芝浦工業大学の博士課程に入学するという、新しいチャレンジをスタートさせました。専攻は建築生産学。建設業界の構造的な課題に向き合う今までの取り組みを論文にまとめることで、学術的な評価を得たいと考えています。
- 「修士のときから、いつか博士課程に進めたらいいな、という思いがありました。周りに社会人博士の方が多くいらっしゃったので、『働きながら勉強するという道もあるんだ』と、人生の選択肢の一つとして頭に残っていました。
建設業界のDXを推進していくためには、私たちが作っているBuildAppを広めていかなければ意味がない。そのために、学術的に評価された論文を残すことが、私にできる貢献なのではないかと考えました」
- 博士課程に進み論文を書くことが野原グループにどのようなメリットをもたらすのか、上司に丁寧に説明した神谷さん。その結果、「会社としても応援したい」と背中を押され、入学後は週1日通学し、大学からリモートワークをする働き方を続けています。
- 「私が社内第一号として業務と研究の両立を進めることで、今後、同じように博士課程に進みたいという後輩たちの選択肢を広げられるかもしれません。新しい道を作っていくためにも、やると決めたことを最後までやり切りたいと思っています」
- 仕事だけでも多忙な中、“博士論文の執筆”というミッションを自らに課し大変な状況に自らを追い込んでいるようにも見える神谷さん。チャレンジを続ける理由を聞くと、「できる環境があるなら、やったほうが絶対にお得だから」と話します。
- 「研究そのものが好き、という理由もありますが、自分には秀でたものがないという思いが根底にあるのでしょう。オールラウンダーとして活躍するために引き出しを多く持っておきたい、そのために学び続けたいとずっと思っています。何歳からでも挑戦はできるけれど、体力的にも業務範囲的にも、若いうちにやっておいたほうがいい。やらずに後悔はしたくないんです」
- メンバーや後輩に対しても、「一歩を踏み出すことを躊躇してほしくない」と神谷さんは語ります。
- 「博士課程の進学は、“上司に相談する”という小さな行動から一気に実現していきました。何かやりたいけれどどう動けばいいのわからないのなら、隣の人に相談するだけでもいいと思います。
私は、一級建築士にも4回目でようやく受かったように、たくさんの挫折と失敗を味わってきました。努力すれば必ず成功するとは思っていません。でも、努力したことは絶対的な知識と経験になります。目指していた成果につながらなかったとしても、知識と経験は次に生かせるので無駄にならないんです。ぜひ、小さな一歩を怖がらずに、チャレンジするプロセスを大切にしてほしいと思っています」
→「前編記事」
~あわせて読みたい記事~ |
写真:MIKAGE
取材・執筆:田中 瑠子