『新たなチャンスには、その場でイエスと即答』
ユーグレナ・取締役代表執行役員 Co-CEO 兼 COO 植村弘子さん【後編】
誰しも迷うキャリアの決断。先輩たちはいつ、何に悩み、どう決断してきたの? 現役で活躍し続ける女性たちに、これまでのキャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、前回に引き続き、株式会社ユーグレナ取締役代表執行役員Co-CEO兼COOの植村弘子さんにお話を伺いました。
植村 弘子(うえむら ひろこ)さん
株式会社ユーグレナ取締役代表執行役員Co-CEO兼COO
エスビー食品株式会社に5年勤務した後、株式会社一休に17年勤務。エスビー食品では営業・PB商品の企画に従事。一休ではレストラン事業、宿泊事業の営業・営業企画等に従事後、カスタマーサービス部部長、執行役員 CHRO 管理本部長を歴任。2023年4月にユーグレナに入社し、執行役員 CSXO(最高ステークホルダー責任者)兼 人事部長を経て現職に至る。
商品やサービスの良さを広げたい!
社会人1年目から今まで、貫く思いは変わらない
- 食品メーカーで入社1年目にして“破壊者”とあだ名がつけられるほど、常に情熱を持って組織とサービスに向き合ってきた植村さん。一休ではCHRO、ユーグレナではCo-CEOと、組織を見る範囲はどんどん広がっていますが、根本にある気持ちはずっと変わっていないといいます。
- 「食品メーカー時代を振り返ると、表現として行き過ぎていたなという反省はあります。でも一方で、間違っていなかったなと思うんです。今の環境に課題感を持って、もっと良くしたいと思っているから、既存のおかしなところにぶつかりにいっていた。自分のためではなくて、この会社はもっと伸びるはず、消費者にもっと喜んでいただけるはずと信じていたので、絶対に変えるべきだと言い続けられたのでしょう。
いち営業担当として、自分が動いて売っていくところから、会社というチームの中の役割として組織を見るようになったという変化があったものの、自分自身は、その時々で『もっと良くしたい。強いチームを作りたい』と思ってやってきただけなんです」
- 自分がどんな環境に置かれても、続けてきたのは「最後の一歩を諦めない」ことだったと話します。
- 「社会人1年目から、大好きで通い詰めていたカレー屋さんがありました。あまりに美味しくて『これを全国誰でも食べられるように、レトルトカレーとして販売したい』と、食品メーカーの先輩に言ったら、『うちを含めてあらゆる大手メーカーが提案したけれど、あのお店はどことも組まない。だから無理だよ』と言われてしまいました。
それでも諦めきれずに毎日のように通っていたら、あるとき創業者の方が『いつも来てくれているね』と話しかけてくださったんです。思わず、『こんなに美味しいカレーはほかにない。もっと多くの人に食べてほしいから、食品メーカーとしてぜひ販売したい』と伝えたところ、『そこまで言うのなら作ってきたら?』と思いがけない返答をもらえました。開発担当と、試行錯誤を重ねて作ってもっていったところ、『こんなに美味しく作れるんだね!』と喜ばれ、商品化が実現できました。今でも売れている人気商品の一つです。
無理だ、という言葉を鵜吞みにして動かない人と、どこかにチャンスはあるはずだと動き続け、伝え続ける人。ほんの小さな違いが結果を大きく変えるのだと、実感した出来事でした」
- 一休のときにも、箱根の有名なホテルのオーナーと8年以上も交流を続け、掲載に至ったケースがあったそう。「テクニカルなことは一切なく、諦めないという執着があるだけ」と笑う植村さんですが、では、その執着はどこからくるのでしょうか。
- 「『これを食べた人は絶対に喜ぶ』『このホテルに泊まった人は絶対に喜ぶ』という思いがあるだけです。ユーグレナにしても、研究開発の現場に行くと『この微細藻類の力はすごい!』と感動することばかりです。
でも、多くの人がユーグレナの飲料やサプリメントを日常的に摂っているかと言ったら、そうではないでしょう。人と地球を健康にする、という壮大なゴールに向けて、可能性を感じているからこそ、今の現実が悔しい。でもだからこそ伸びしろしかない、と感じています。どうやったら、ユーグレナの良さが皆さんに届くのか。全力で向き合っている今も、これまでとフィールドや扱う商材が変わっただけで、一貫して続けてきたことの延長だと思っています」
評価は人が決めるもの
常に自問することで自己発電のエネルギーが生まれる
- 2024年1月より、ユーグレナのCo-CEOとして新たなスタートを切った植村さん。入社して1年未満で、現ポジションに就いたことを「いただいたチャンスに乗っかってきた、できすぎ人生」と話します。では、そのチャンスを自身のどのような行動や考え方、振る舞いによって引き寄せてきたのでしょう。
- 「すべてを自責にすること、置かれた場所でちゃんと咲くこと、誰よりもバットを振ることかな、と思っています。
私は、これまで周りの評価を気にしたことがないんです。評価は人が決めるもので、相手を変えるのは難しい。『こんなに頑張っているのに!』と周りに発するのではなく、いつも問うのは、自分に対してです。今日はちゃんとバットを振れたのかどうか。自分の行動で変えられるものは何だろうという発想でいると、周りに対して不満を抱えてストレスを感じることがなく、自己発電でエネルギーが生まれてきます。
そして、毎日バッターボックスに立っていれば、必ず一人は、見てくれている人がいます。その人が助けてくれたり力を貸してくれたり、『こんなことをやってみる?』と声がかかって挑戦をさせてもらえたり。自分がやってみたいと思うことに対しても、『いつも頑張っているから、やってみたらいい』と相手に受け入れてもらえることが増え、チャンスが広がっていきます」
- 新しい仕事やポジション、挑戦を依頼されたときには「絶対にその場でイエスと言う」ことも、自分の中で決めていることだといいます。
ちょっと考えさせてください、時間をくださいと言ったことはこれまで一度もなく、「わかりました。ありがとうございます!」と言ってお受けする。受けた上でどうするかを考えるのは、自分の席に戻ってからだと話します。 - 「オファーしてくれたということは、その方が『私ならできる』と思ってくれているから。チャンスを前にノーと言うのは、私を信じてくれた相手を信じていないということになってしまうでしょう。もしやってみてダメだったら、結果が教えてくれるし、世の中が『その役は降りなさい』と指摘してくれるはず。挑戦をする前から、自分で勝手に降りる必要はありません。まずは素直に、ありがとうございますとチャンスに乗っかって、バッターボックスに立ち続ける。心配事や自信がないことがあれば、どんどん相談すればいいと思います。
チャンスを前に、『私なんて無理』としり込みしている方がいたら、もしかしたらその方は、完璧なパフォーマンスを出さなければと思い込んでいるのかもしれません。チャンスをくれている人は完璧を求めているわけではなく、今の環境の中ならあなたが一番の適役、と言ってくれています。明日すぐに結果を出さなくても、時間をかけて結果がついてくるよう努力すればいいんです。受けるかどうかは悩みどころじゃないと考えています」
- Co-CEOとしての挑戦を前に、「強いチーム、強い会社を作りたい」と話す植村さん。そのためには、個々がプロフェッショナルとして強みを引き出せる集団である必要があるといいます。
- 「ユーグレナには、20代~70代まで、本当に多様なバックグラウンドのメンバーがいます。バイオ燃料事業やサステナブルアグリテックという肥料・飼料分野では、大手商社出身の50代、60代の方が、『キャリアの最後は、ユーグレナに力を貸したい』と入社を決めてくれたり、顧問として携わってくれたり。知識や経験を惜しみなく出してくれる“レジェンドたち”がたくさんいて、学びにあふれた、本当の多様性を実現している組織だと感じています。微細藻類で叶えようとしている、いままで誰もやったことのない事業も、プロが集まるからこそ成し遂げられる可能性があります。
私は、組織の役割として決断を下すポジションにいますが、上にいるのではなくて一人ひとりのプロたちの“横”にいて、一緒に伴走している、という気持ちでいます。彼ら彼女らがもっともっと力を発揮できる土台を作ることが、私に課された役割だと思っています」
→「前編記事」
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取材・執筆:田中 瑠子