CSRとは?企業の社会的責任と取り組み事例をわかりやすく解説
近年、企業が社会からより高い倫理観や透明性を求められる中で、「CSR(企業の社会的責任)」という考え方がますます注目を集めています。
CSRは単なる社会貢献活動にとどまらず、環境保護や人権尊重、地域との共生、コンプライアンスなど、企業活動全体に関わる重要な指針です。
この記事では、CSRの意味や背景、具体的な活動内容、企業にとってのメリットなどを初めての方にも分かりやすく解説します。
目次
CSRとは
CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。
企業はただ利益を追求するだけでなく、社会や環境に対して責任を果たし、主体的に社会に貢献していくことを求めるべきだという考え方です。
ここで言う「果たすべき責任」とは、例えば環境保護への配慮、地域社会への貢献、従業員の人権尊重などを指します。
CSRの背景と重要性
CSRはなぜここまで重要視されるようになったのでしょうか?その社会的背景と、企業に求められる責任の変化について解説します。
CSRが注目されるようになった理由
かつて企業の最大の目的は「利益の追求」とされてきました。しかし1990年代以降、企業の不祥事や環境破壊、労働問題が世界的にも社会問題として取り上げられるようになると、企業には「社会的な責任をどう果たすか」が問われるようになりました。
日本でも2000年以降に企業の不祥事が多く取り沙汰され、CSRが重要視されるようになりました。2003年にはCSRについて本格的な議論が開始され、大手の企業でCSRの部署が設置されるなどの出来事から「CSR経営元年」と呼ばれています。
企業に求められる社会的責任の変化
これまでCSRは慈善活動や社会貢献にとどまりがちでした。
しかし現在では、法令順守(コンプライアンス)はもちろんのこと、環境対策や人権への配慮、働きやすい職場づくりなど、広範囲な取り組みが求められます。今の時代、CSRは企業活動そのものに組み込むべき「経営の本質」として捉えられています。
つまり、企業は単に「社会から評価される存在」であることを目指すだけでなく、「社会の一員としての責任を果たす存在」でなければならないのです。これは、持続可能な経営を実現するうえでの土台とも言えるでしょう。
CSR(企業の社会的責任)の7つの原則|ISO26000
CSRに関する国際的な指針として広く認知されているのが、国際標準化機構(ISO)が発行した「ISO26000」です。
これは企業が社会的責任を果たすうえでの行動原則を示すものであり、世界中の企業にとってCSR実践の基盤となる考え方です。企業は企業活動のあらゆる面で以下の7つの基本原則を意識することが求められます。
1.説明責任(Accountability)
企業はその活動が社会に与える影響について責任を持ち、十分な説明を行う必要があります。
2.透明性(Transparency)
組織の意思決定プロセスや成果、事業活動について透明性を保たなければなりません。
3.倫理的な行動(Ethical behavior)
倫理に反しない公正な行動を取ることはもちろん、社会的良識に基づいた行動が求められます。
4.ステークホルダーの利害の尊重(Respect for stakeholder interests)
企業活動は従業員、顧客、地域社会など様々な関係者に影響を及ぼします。利害関係者(ステークホルダー)に対し、それぞれの立場を理解し、配慮する姿勢が必要です。
5.法の支配の尊重(Respect for the rule of law)
各国の法律や規則を遵守しなければなりません。
6.国際行動規範の尊重(Respect for international norms of behavior)
法的拘束力がない場合でも、国際的に合意された行動規範を重視することが求められます。
7.人権の尊重(Respect for human rights)
すべての人の基本的人権を尊重し、それを侵害してはいけません。
CSRを本質的に機能させるには、これらの原則を経営戦略や現場の実践に一貫して反映させていくことが重要です。
CSRの主な活動内容と具体例
ここではCSRにおける主要な活動内容と、それに紐づく具体的な実践例を紹介します。
環境保護
気候変動や資源枯渇といった環境問題は、企業活動と切り離せない課題です。事業活動において、可能な限り環境への悪影響を減らす、環境の保全・回復に取り組む活動は重要なCSR活動の一つです。
・CO2排出量の削減
・省エネルギーの推進
・環境・生物の保全運動
・リサイクルの促進
・エコ製品の開発
・オフィスのペーパーレス化
・グリーン購入(環境配慮型商品・サービスの選定)
・植林などの森林回復活動 など
環境に配慮した経営は、企業の信頼性を高めるだけでなく、将来的なコスト削減や法規制リスクの低減にもつながります。
地域社会への貢献
企業は地域社会の一員であり、その地域に支えられて成り立っています。雇用の創出だけでなく、教育や文化面での協働など地域に対して貢献することもCSRの一環です。
・地域イベントへの協賛
・地域住民に向けたイベントや交流企画
・防災訓練の支援
・地元学校との連携プロジェクト
・地域清掃活動 など
とくに中小企業においては、顔の見える関係性を築くことで地域からの信頼を得やすくなり、採用や事業展開にも良い影響をもたらします。また、社会課題に寄り添う姿勢は、社員の誇りや働きがいにもつながります。
人権尊重と働きやすい職場づくり
「人権」を尊重すること、従業員が安心して働くための職場環境の整備は、CSRの根幹に関わるテーマです。
・外国人労働者や障がい者の雇用に対する配慮
・LGBTQ+への理解促進(研修の実施など)
・ハラスメントの防止
・労働時間の適正化
・多様な働き方の導入(テレワーク、時短勤務など)
・育児・介護と仕事の両立支援 など
これらは単なる福利厚生ではなく、人を大切にする企業姿勢そのものであり、内外に対するメッセージにもなります。
コンプライアンスと説明責任
法令を遵守することはCSRの基本中の基本です。さらに近年では、法的に問題がない行為であっても「社会的にどう見られるか」が厳しく問われる時代になっています。不祥事や情報漏洩などが一度でも起これば、企業の信頼は大きく損なわれ、回復に多大なコストと時間がかかります。
・社内規範の周知、徹底
・コンプライアンステストの定期的な実施
・内部通報制度の整備
・ガバナンス体制の強化
・社外に向けたCSRレポートの発行 など
人材育成
企業にとって人材は最大の資産です。経営資源の中でも最も重要な要素だと位置付けられており、長期的な競争力の源泉となります。
CSRの視点では、従業員のスキルやキャリアを育てることも社会的責任の一つとされています。
・CSRに関する理解促進や研修
・ダイバーシティ研修など時代に即した教育機会の提供
・資格取得支援
・若手育成プログラムの整備 など
人材育成を重視する姿勢は、従業員の働きがいを高めると同時に、組織全体の持続可能性を高めることにもつながります。
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CSRに取り組むメリット
CSRは企業にとって単なる「社会貢献」の枠を超えた、経営戦略上の重要な要素です。ここでは、CSRに取り組むことによって得られる代表的なメリットを3つの観点から解説します。
企業価値・ブランドの向上
社会課題に真摯に向き合い、CSRに積極的に取り組む企業は、不祥事を起こしにくい傾向にあります。結果として、消費者や社会からの評価が高まり、社会における企業価値やブランドの向上が期待できるでしょう。
そのため、CSR活動は自社の得意分野や経営理念の延長線上にあることが大切です。
CSRの取り組みが認知され、企業ブランドが強化されると、他社との差別化にもつながります。ブランド価値が上がることは、業績向上に直結するのです。
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取引先との信頼構築
企業にとって「どのような会社と関わるか」は非常に重要な要素です。
CSRに積極的な企業は、誠実で責任あるパートナーとして評価されやすく、安定したビジネス関係を築くことができます。最近では、企業間の取引においても自社のCSR基準を設けているケースが増えており、CSRに無関心な企業は選ばれにくくなる傾向にあります。
CSRは企業間の信頼のベースとなる重要な要素なのです。
リスク回避と経営の安定
不祥事や労働トラブル、環境問題への対応の遅れは、企業にとって重大なリスク要因です。
前述した通り、CSRに積極的に取り組む企業は、不祥事を起こしにくい傾向があります。CSR活動を通じて法令遵守や内部統制、従業員のコンプライアンス意識を強化することが、そうしたリスクを未然に防ぐことに一役買っているからです。
また、外部からの批判に対しても、自社のCSR方針に基づく明確な説明ができれば、危機対応のスピードと信頼性が格段に上がります。CSRはリスクマネジメントの一環としても非常に有効な取り組みなのです。
CSRと関連する用語
CSRの文脈では、よく似た意味で使われる用語や、密接に関連する概念が多く登場します。ここでは4つの関連キーワードを取り上げて解説します。
ESG
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った言葉で、企業の非財務的な要素を評価する観点です。
CSRは企業の社会的責任や倫理観などを示す概念ですが、ESGは企業経営において考慮すべき概念です。
CSRはこのESGの“実践面”とも言える存在であり、企業がESGを意識した経営をするうえで、CSR活動は欠かせない要素とされています。ESGとCSRは目的とアプローチが異なるものの、企業の信頼性や持続可能性に関わる点で密接に関係しています。
SDGs
SDGs(エスディージーズ)は、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、2015年に国連で採択された17の国際目標です。
CSRの取り組みは、このSDGsの達成に直結するものであり、多くの企業が自社のCSR活動とSDGsのゴールを関連づけて報告するようになっています。

(出典:国際連合広報センター「SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン」より)
例えば、環境保護の活動は「目標13:気候変動に具体的な対策を」に、人権への配慮は「目標5:ジェンダー平等」や「目標8:働きがいも経済成長も」に対応します。CSRをSDGsの枠組みで捉えることで、社会的な意義や発信力が高まります。
コンプライアンス
コンプライアンスとは「法令遵守」を意味する用語であり、CSRを構成する要素の一つです。
CSRでは単に法律を守るだけでなく、企業としての倫理観や社会的常識も問われます。不正や隠蔽などの不祥事が企業にもたらす影響は甚大であり、コンプライアンス違反は企業への信頼を一気に失わせるリスクをはらんでいます。
だからこそ、社内規定の整備や研修の実施、内部通報制度の設置など、コンプライアンス体制を日常的に強化することが求められます。
ボランティア
ボランティアは、自発的に行う社会奉仕活動を指します。厚生労働省によるとボランティアの性格として、「自主性・主体性」「社会性(連帯性)」「無償性(無給性)」が挙げられています。
多くの企業がCSR活動の一環としてボランティアに取り組んでいます。例えば地域清掃活動や防災訓練、福祉施設への支援など、社員が自発的に参加できるプログラムを設けることで、社会貢献と同時に従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
CSRを推進するためのポイント
ここでは、CSRを効果的に推進するために意識すべき2つの重要な視点を紹介します。
中長期的なリターンの意識
CSRは短期的な利益につながるものではないことが多いため、「即効性がない」と敬遠されがちです。
しかし、環境対策や人権尊重、地域貢献といった取り組みは、時間をかけてブランド価値や社会的信用を築いていくものです。CSRの推進にあたっては、数値で測れる成果だけにとらわれず、5年後・10年後の企業の立ち位置や信頼性にどのような影響をもたらすかという視点を持つことが重要です。
CSRは企業にとって多くのリターンに期待できる取組みでもあります。経営層が中長期的な視点を持ち、経営戦略の一部としてCSRを位置づけることで、組織全体に意義が浸透しやすくなります。
部署の業務負担への配慮
CSR活動を推進するうえで忘れてはならないのが、現場のリソースに対する配慮です。
「CSRは重要だからやりなさい」と押しつけるだけでは、日常業務とのバランスが取れず、形骸化や反発を招く恐れもあります。
そこで重要になるのが、既存の業務フローにCSRをうまく組み込む工夫です。例えば、環境に配慮した購買ルールを経理部門と連携して整備する、社員研修に人権教育を自然に組み込む、など仕組み化することが重要です。
また、人的リソースを割くことが可能であれば専門の部署を作るのが良いでしょう。
CSRの推進役となる部署だけでなく、横断的な連携が進むような体制づくりも重要です。
まとめ:CSRは企業の信頼と持続的成長を支える考え方
CSRは、企業が社会から信頼され、選ばれ続けるための土台であり、持続可能な経営の根幹をなすものです。環境保護、人材育成、地域との共生、そして人権や法令の尊重——これら一つひとつの積み重ねが、企業のブランド価値や組織力を育てていきます。
経営戦略とCSRを切り離すのではなく、日々の事業活動に統合することが、企業の未来を切り拓く鍵となります。目の前の利益だけでなく、社会とともに成長する視点こそが、これからの企業に求められる姿勢でしょう。