『周りに相談し発信することでチャンスは広がる』
森下仁丹 研究開発部 河野麻実子さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。管理職として活躍する女性はいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。キャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、森下仁丹株式会社で研究開発部副部長を務める河野麻実子さんにお話を伺いました。
※所属部署・肩書・制度は取材当時のものとなります。

河野 麻実子(こうの まみこ)さん
博士(応用生命科学)
事業統括本部 研究開発部 副部長 兼 研究グループ グループリーダー 兼 腸内環境研究チーム チームリーダー
大学出向のチャンスを生かして博士号を取得

- 1893年に創業し、口中清涼剤として長く親しまれる銀粒の「仁丹」を販売してきた森下仁丹株式会社。仁丹で培われた球体技術、素材研究力からシームレスカプセル製剤技術と機能性原料へと発展し、企業の製品開発支援サービスも提供しています。
河野麻実子さんは、研究開発部の副部長として6つのグループを見ているほか、腸内環境や機能性原料の研究を担う研究グループと、そのグループ内の1チームのリーダーも務めています。 - 「研究開発部内には、研究グループと商品開発グループ、シームレスカプセルの製剤開発グループ、医薬品の開発グループや評価分析グループ、薬事担当グループなど、領域ごとに6つのグループがあります。副部長のほかに私が兼務するのは、当社の主力製品である『ビフィーナ』や機能性原料である「ローズヒップエキス」などの研究をするグループで、なかでも、腸内環境を研究するチームでは、大腸まで届くカプセルの開発を進めることで、届けたい成分を狙った場所に届けられるような新製品を生み出したいと考えています」
- 2000年に新卒で森下仁丹に入った河野さん。大学院で微生物の研究に取り組み、「健康に関わる製品づくりで、多くの人の助けになるような仕事に就きたい」と入社を決めたといいます。
- 「微生物研究に惹かれたのは、私たちの健康を作る腸内環境に、微生物が密接に関わっているからです。研究室の先生の熱意に惹かれて大学院への進学を決めたのですが、その研究室と共同研究を行っていたのが森下仁丹でした。カプセルの中で微生物を培養する共同研究を進めているのを見て、『面白いことをする会社だな』、『私の微生物の研究が役立つこともあるかな…』と興味を持ちました。学術的な研究を突き詰めるよりも、民間企業での研究職を通じて製品づくりに携わったほうが、自分が学びで得た知見をお客様にダイレクトに還元できるのではないか、と就職の道を選択しました」
- 入社以来、研究開発部で基礎研究に携わってきた河野さん。大学に出向し共同研究を進めた期間も長く、入社10年目には出向先の研究機関で、応用生命科学の博士号を取得しました。
- 「上司が基礎研究を大事に考える方で、共同研究先の先生方も『せっかく目の前にチャンスがあるのだから』と取得を薦めてくださいました。『研究者としてさらにレベルアップしなければ』と改めて身が引き締まる思いでしたし、名刺に“博士”と書かせてもらうことで、研究に関するディスカッションに参加する機会も多くなりました」
効率性に向き合うきっかけは「子育てと仕事の両立」

- 研究活動に没頭した出向期間を終え、河野さんはキャリアの大きなターニングポイントを迎えます。それは、「出産・子育てと仕事との両立」でした。
- 「以前は自分のペースで思う存分、ときには夜遅くまで実験を重ねていました。無駄だと思うような実験も、分析の精度を上げるために念のためやっておこう…と時間をかけることがありました。でも、子どもが生まれるとそうはいかなくなります」
- 2012年末から約4か月間の産休・育休を取得し、時短勤務で復帰した河野さん。そこからは、「いかに効率よく研究開発を進めていくか」を強く意識するようになったといいます。
- 「言葉にすると当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、手を動かす前に研究開発のビジョンやゴールをしっかりと設定し、それに向けて段取りをつけながら研究を進めることを強く意識するようになりました。マイルストーンを置いて、開発の目標に向けた現在地を常に確認する。そんな風に、仕事の取り組み方も変わっていきました」
- 産休・育休から職場復帰し、しばらくした後に、もう一つの変化がありました。研究チームのチームリーダーになり、東京在住の身でありながら、研究開発拠点がある大阪テクノセンターのメンバーマネジメントを任されるようになったのです。
- 「夫の仕事の関係で、出産の2年ほど前に東京オフィスに異動させてもらっていました。そのため、初めてのマネジメント職ながら、遠隔でメンバーとコミュニケーションを取る必要があったんです。
子育てに関する制度は当時から充実していたのですが、研究開発部で復帰後に管理職になった女性の先輩はまだいませんでした。子育てとの両立で時短勤務をしながら、拠点間の距離を超えてメンバーマネジメントを任されるというのは、会社にとっても私にとっても、なかなかチャレンジングなことでした」
→「後編記事」につづきます
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写真:MIKAGE
取材・執筆:田中 瑠子