『個々のバックグランドや強みを尊重する』
JFEスチール株式会社 人財企画部採用室 渡邊麻里さん【前編】
誰しも迷うキャリアの決断。管理職として活躍する女性はいつ、何に悩み、どう決断してきたのか。キャリアの分岐点と、決断できた理由を語っていただきます。
今回は、JFEスチール株式会社の人財戦略本部人財企画部採用室で主査を務める渡邊麻里さんにお話を伺いました。

渡邊 麻里(わたなべ まり)さん
JFEスチール株式会社 人財戦略本部人財企画部採用室 主査
2008年に大手百貨店に入社し、接客・販売促進、売場マネジメント、人事などを経験したのち、2023年10月にJFEスチールに入社。キャリア採用を担当している。
「地域や社会への貢献を軸に街や館の魅力を最大化するまちづくり」に共感してファーストキャリアを選択

- JEFスチールは、社会インフラとして不可欠な“鉄”を製造・提供する国内大手の鉄鋼メーカーです。原料の鉄鉱石から最終製品となる鋼材を作り出すところまで一貫して行う高炉メーカーとして、世界中の“住みやすい社会づくり”を支えています。
渡邊麻里さんは、「社会インフラを担う会社で働きたい」との思いから、2023年に中途で入社を決めました。以来、人財戦略本部でキャリア採用を担当し、4人のチームをまとめるリーダーポジションを任されています。
もともと、インフラ業界に関心があったものの、大学卒業後に就職したのは大手百貨店だったという渡邊さん。就職活動では、「長く働けて、多様な職種にチャレンジしていける環境」と「社会の役に立つ仕事」という2つの軸で、業界や企業を見ていました。 - 「大学では医療人類学を専攻し、病気や健康、医療などの幅広い社会テーマと向き合っていました。それだけに、卒業後も“仕事を通じて社会に貢献したい”という思いが強く、就活当初は、素材メーカーや鉄道会社、プラント会社など社会インフラを担う業界を志望していました。
ただ、当時はそうした業界はまだまだ女性社員が少なくて…。私自身は、さまざまなライフイベントを経験しながら定年まで勤め上げたいと考えていましたが、どの会社でも、長く働けるイメージを持てずにいました」
- 性別に関係なく、自己成長と社会貢献を叶えることができ、かつ長く働き続けられる環境はないだろうか。新たな軸で企業探しを始めた中で出会ったのが、前職の百貨店だったといいます。
- 「前職の百貨店は女性社員も多く、さらに、地域密着型のまちづくりをコンセプトに掲げ、地域に合った独自性のある品揃えやサービスを提供し地域貢献に力を入れていました。商業施設開発を通じて、地域にどう還元できるかを考え、商品・宣伝・催事などあらゆる場面で時代の先端をいく発信力や伝統・歴史・文化の継承を大切にする姿勢に魅力を感じ、入社を決めました」
コロナ禍がもたらした社会変容を機に、新たな挑戦を考え始めた

- 入社後は「さまざまな仕事にチャレンジしたい」と考えていた渡邊さん。その希望が叶い、店舗での接客・販売促進業務から、売場のマネジメントまで幅広く担当。15年半のキャリアの中で、営業系職種と、総務・人事系職種をおよそ半分ずつ経験する形となりました。
- 「店舗では、リビング雑貨や食器など作家さんが手掛けた作品も多く担当しました。お客様に商品を届ける際は、作り手の思いを丁寧に伝えることにこだわり、ささやかながら”文化の発信“の担い手でありたい、と思っていました。会社として大事にしている企業理念が現場にも行き届いていて、心地良い環境で好きな仕事ができている実感がありました」
- 転職を考え始めた一つのきっかけは、新型コロナウイルスの大流行でした。
世界中のあらゆる業界に深刻な打撃がもたらされ、小売業も多大な影響を受けました。業界全体の先行きが不透明になる中、「百貨店という特定のプラットフォームを利用してくださるお客様のみならず、多岐に渡る産業や消費者へ貢献するためにはどういう環境で働くのがよいのだろうか」と考えるようになりました。 - 「コロナ禍は私たちの生活習慣を大きく変え、購買志向にも影響を与えました。業界の再編や構造改革など会社全体が目まぐるしく動いていき、『私は今後どんなお客様に向き合っていきたいのだろう』と立ち止まって考える時間が増えていきました。
百貨店では、お客様と直接関わる仕事を通じて“人と向き合うことの大切さ”をたくさん学びました。接客は、その瞬間のやり取りだけではなく、“どうすれば相手に喜んでもらえるか”を考える積み重ねだと実感したのです。その経験は今でも私の原点になっています。
ただ、長く働くうちに「この経験を、もっと違う形で活かしてみたい」という気持ちが芽生えてきました。百貨店という枠の中だけでなく、もう少し広い視点でお客様や社会と関われる仕事に挑戦してみたいなと。
そこで、学生時代の『社会インフラに携わりたい』という思いに立ち返ってみようと思ったんです」
- 15年以上勤め、「一生ここで働き続けようと思っていた」というほど大好きな会社。そこから本当に転職するかどうか、数年間は迷っていたと話します。
- 「さんざん迷いましたが、やがて、『迷っているくらいならチャレンジするだけしたらいい。ダメだったらまた別の道を考えよう。現職に残って、改めて自分にできる新しい挑戦を考えていけばいいんだ』と思えるようになりました。そこから、新卒時代には叶わなかった社会インフラの領域に踏み出す決意を固めました」
→「後編記事」につづきます。
~あわせて読みたい記事~ |
写真:MIKAGE
取材・執筆:田中 瑠子